人気シンガーがフィジカル商品限定のボーナストラックが収録されたニューアルバムをリリースする。それもひとつのサイトからのオンライン予約発売限定で、商品の発送は何週間もあとになる。果たして、このようなことがいままであっただろうか? 米現地時間7月23日に発売されたテイラー・スウィフトのニューアルバム『フォークロア』(デジタル配信のものは、貴重なボーナストラックを含まない16曲収録)のマーケティング戦略の巧みさは、まさにここにある。
アーティストがCDやアナログレコードといったフィジカル商品にボーナストラックをプラスするのは決して珍しいことではない。こうした戦略はアルバムそのものを所有する価値を高め、音楽ストリーミング時代においてさらなる消費を促す原動力となり得る。テイラー・スウィフトはいままで数回、過去のリリース作品にボーナストラックをプラスし、特別なデラックス盤を購入して”隠しトラック”をゲットしてねといった具合でファンたちの心をくすぐってきた。たいていの場合、ファンはこうしたレア曲を手に入れるために発売日にTarget、Walmart、Best Buyといった大型スーパー・量販店にダッシュすることは可能だ。それに対し、未公開のボーナストラック「the lakes」が収録されているテイラー・スウィフトのニューアルバム『フォークロア』のカセット、CD、アナログレコードはtaylorswift.comでしか予約販売を受け付けていないだけでなく、実際の商品が発送されるのは早くて2週間後になる。
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「the lakes」が収録されたスペシャルアルバムの販売をテイラー・スウィフトの公式サイトに限定するという判断に大きな影響を与えたのは、新型コロナウイルスのパンデミックだった。コロナショックにより、多くの小売業者がサプライチェーンあるいは閉店といった問題に直面した。
テイラー・スウィフトの公式サイトによると、CDは商品購入から2~3週間以内に出荷される。それに対し、カセットの発送までにかかる期間は8週間、アナログレコードはなんと16週間——11月末の感謝祭にやっと間に合うといったところだ。ここまで時間がかかるのは生産上の都合である可能性はあるものの、実際は意図的なものだろう。ボーナストラックが聴けるまでファンに2~16週間待たせるのは、アルバムの売上枚数が下降しはじめたあともアルバムにずっと興味をもってもらうのに最適な方法だ(本誌の質問に対し、スウィフトの広報担当とレーベルからのコメントはなかった)。
ここで11月に早送りしてみよう。待ちに待ったアナログ盤がようやく届き、あなたはさっそく聴いてみたいと思うはずだ。リリースから数カ月後にアルバムを聴き直すことで、もしかしたらストリーミングでリピートし続けたいと思うかもしれない。とりわけ、幻想的でフォークロリックな雰囲気に包まれた同作は、秋や冬の夜長のお供にぴったりだ。
超大物シンガーによるアルバムのサプライズ・リリースの発表。こうした戦法でメディアを大いに沸かせたおかげで、テイラー・スウィフトの新作はリリース週の大成功を約束されたようなものだ。
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