ー新作の『LIVE : live』の制作はいつ頃から始まっていきましたか。
半年くらい前からちょこちょこ作り始めて、本格的にやりだしたのは2月にツアーを終えてからですね。ちょうどコロナ禍に制作していました。
ー『LIVE : live』にはご自身の本質である「LIVE(ライブ)」と、人生を表す「live(リブ)」というテーマがあるとのことですが、そうした作品の核となるテーマはどういった意識から浮かんできたものですか。
本質が問われる時代になったと感じていて、今は飯屋だろうとアーテストだろうと、本質が伴わないものはどんどん淘汰されていく。それを日々目の当たりにしていく中で、じゃあ俺の本質って何だろう? って考えた時に出てきたのが「ライブ」だったし、俺は自分の生き様からしか歌を書かないので。それはやっぱり「リブ」、つまり「生きる」ってことだなって。自分の中で腑に落ちたんですよね。
ーなるほど。
こういう状況(コロナ禍)になりましたけど、だったら俺はやることを変える必要もなければ、その表現を続けるだけだなと思ってこのアルバムを作りました。
ーつまりご自身の内面や人生を改めて見つめる作業があったと思うんですが、そこでAKさんは自身の歌とはどんなものだと思いましたか。
自分が通ってきた道って、みんなが無理だと言って笑ったこと。そういう笑われるようなことを目標に掲げて突進して、その中で生まれるものがAK-69の歌であり、代表曲になってる曲はそういうアティテュードを歌ったものが多いんですよね。それって本当に、そういう状況の中にいる時にしか書けないものなんです。
ーつまり狙って書くものではないと。
そう。ヒットした曲を複製できるものではないというか、言霊に乗らないと書けないものだから。ポーズでは書けないんですよね。
ーだとしたら、今掲げているデカい目標はなんですか。
去年夏フェスの「ROCKINON JAPAN」に、自分はメインステージではないところに出させてもらったんですけど、UVERworldのフィーチャリングでメインステージにも入って。
ー諦めてたっていうのは?
たとえばその後彼らは東京ドーム2daysもやっているけど、俺はドームでやることを口にしてこなかったんですよ。「ドームはさすがに無理だな」って思ってたから。でも、目標に掲げようとしなかった自分を、そこでも恥ずかしいと思いました。
ーその思いが今作に通底していると。
今の時点で(ドームを)やると言ってもイベントの制作会社はOK出してくれないだろうけど、それでも目標を掲げることが大事だと思うから、ツアーの終盤に「ドームに向かう」と公言したんです。そのビジョンをみんなに共有して、そこで生まれたアティテュードが今回のアルバムに詰まっているんじゃないかと思います。聴く人が聴くと、俺の存在が全国に蔓延し始めた『THE RED MAGIC』の頃の勢いを感じるような作品になっているんじゃないかな。実際、iTunesでの試聴が始まってからは、お客さんからもそういう声を聞くんです。そうやって往年の俺が帰ってきたって思ってもらえるのは、みんなが笑うような目標をこの時期に掲げたってことが関係しているんだろうなって思います。
ー「ROCKINON JAPAN」でのお話が象徴的だと思いますが、たとえばアメリカでは遥かにヒップホップを聴いているキッズが多い中、この国では受け入れられ方に大きな違いがあるのが事実で。
フェスにしろ、普段のライブの規模感にしろ、実際それは凄く感じますね。この国ではロックがポップスで、ヒップホップはニッチなものになっている。世界では一番ポップな音楽がヒップホップになっているのに、日本だけがガラパゴス状態だなって凄く思います。でも、それを変えていくのも最前線に立っている人間の役目だと思うんですよね。それって若いラッパーに人気が出てきたら変わっていくかって言ったら、そうではないと思うんです。
ーというのは?
今は舐達麻のような、どっちかって言ったらアンダーグラウンドっぽい切り口の奴が普通に流行っていて。若い子達が彼らの音楽を聴いているっていうのは変わり始めた兆しだと思うので、凄く良いことだと思います。でも、大きな仕組みを変えることは若い子達にはできないわけで、それは繋がりや地位があることを最大限利用して、根回しも含めてヒップホップが市民権を得られるような仕組みを作って訴えかけていかないといけない。それが俺の役目だってことを、そうした場面に遭遇する度に思いますね。
ー次に掲げたドームという目標は、じゃあそうしたシーンの中でも意義のあることだと言えそうですね。
そうですね。
ー素晴らしい作品を作るのはもちろん、自身がシーンの中心で積極的に動いていく必要があると。
現役落ちしてから「シーンのために…」とか言っても上手くいかないと思うんですよ。自分が最前線に立っているうちにこの経験やバトンを渡していきたい。たとえば、BAD HOPが武道館に立つよりも全然前に、俺の武道館ライブにフィーチャリングゲストで呼んでいたこともありますし、そこで見えたことって絶対あると思うので。そういう良い影響、良いバトンをみんなに渡していきたいし、それは自分が現役だからこそできることなので。自分のプロジェクトを最大限カッコよくやるってことで、ひいてはみんなのためになればいいなと思います。
ー今影響を受けているアーティストはいますか?
海外のお手本になるアーティストの、活動面ではありますね。トラヴィス・スコットだったり、ドレイクだったり、あっちのシーンのメジャー感のあるアーティストのやっていることは参考にはしています。
ーはい。
でも俺は今ロールス・ロイスからPRを頼まれていたり、スイスの名だたる高級時計ブランド達から仕事をもらったり、ベントレーの100周年イベントで初めてライブ披露するアーティストに抜擢されたのが俺だったり、そういう高級ブランドから依頼が来るのって、社会的信用があるからじゃないですか。
ーまさに。
ハイブランドになればなるほど信頼がないと成立しないものなんですよね。そういう意味でも俺は、「この人がやることだったらできるかもしれない」って企業さんに思ってもらえる立ち位置にいるので。しかもそれって媚びてるわけでじゃなくて、自分がやってきたことがそのまま通じているってことだから、そういう意味では希望もあると思います... だからみんな頼むから罪を犯さんでくれと思います(笑)。
ー(笑)。あくまでメジャーな場所でやることの意義を強く感じているってことですよね。
ラッパーって大体そうなんですよね。ラップで注目されて女にモテて、金持ちになりたいっていうその絵面に憧れたんで。ヤベーなこの音楽っていう。悪い奴らが荒んだ環境の中で培ったメッセージを歌って、人に賞賛されて、綺麗なお姉ちゃんをはべらかして、豪華なジュエリー着けて、高級車に乗ってイエーイ! って言っているのがヤベーっていう。俺もそういう風になりてえって思ったところから始まっているから。
ーすごく自然なことだと。
だから俺は後輩達が「ウケる」って言うくらい私生活でもラッパーなんですよ。別に無理しているわけではなくて、それが染みついてる。自分の車も高級車しかない。時計やジュエリーもみんなが買えないようなものを買って、買い物しに行ったらスタイリストやメイクがきて、カメラ撮りながら2、300万の会計するとか別に普通なんです。でも、それってお金があるってことじゃなくて、そのお金を稼げるくらいの規模感になることを、ガキの頃からずーっとイメージしてきたってことなんです。
ーなるほど。
だからそれを目指すことは悪じゃないというか、みんなそれになりたいんでしょ? っていう。「お金じゃない」っていうんなら、今すぐ音楽売るのやめろって思うんですよね。これは昔、曲でも歌っているんですけど、本当にそう思うなら全部タダでやれよ、売っている時点で綺麗事言ってんじゃねえって思うことはありますね。ただ、お金を求めてやっているわけじゃないってことも言いたいですね。人を感動させたり、人に何かを与えた暁に、人から何か返していただけるっていうこと。俺はその基本を崩していないんで、エンターテイナーとしての役割を果たせたら結果がついてくるっていうだけなんじゃないかなって思います。
ー作品の中で「If I Die」という曲がありますが、「死」について歌った曲は初めてとのことですね。これまでそうした曲がなかったのは、何が理由だと思いますか。
意識したことはもちろんあったんですけど、その時の自分が書くほど積み上げたわけでもねえしなって。あと、こういうテーマを扱ってきた世界のレジェンド達って、結構死んでるじゃないですか? そういう怖さもちょっとあって、書きたいと思いつつ先送りしていたテーマだったんです。でも、自分も人生残り半分を折り返した歳にもなってきて、コロナでニューヨークの友達のラッパーが亡くなってしまったり、何があるかわからねえなって改めて考えさせられた時期でもあったから。
ー「死」を見つめざるをえなかったと。
そうですね。俺もいつ死ぬかわからないけど、死んだ時には財産よりも、「俺という人間はこういうふうに生きていたんだ」ってメッセージやアティテュードを知ってもらいたい、それが一番残したいことだなってところもあってこの曲を書きました。
ーこれからやるべき事のビジョンがある中、コロナ禍がどこまで続くかわからないという状況です。最後に可能な範囲で今後の活動についても伺えますか。
そうだな... それは誰にもわからないですよね(笑)。ただ、今回のライブ(超配信ライブ「LIVE:live from Nagoya」)もそうなんですけど、普通は命懸けでやっていくライブってなかなかないと思うんですよ。でも、俺達は武道館のライブの時も本来なら絶対にGOしないような予算でやっちゃったりしていて、これはポーズで言ってるんじゃなくて、マジで赤字なんですよ。チケット売り切って物販売って、スポンサーにお金出してもらっても赤字になるくらいの赤字なんです。
ーそれくらいのライブをずっとやってきていて、その姿勢は配信のライブでも変わらないと。
毎回、社員達には「これ失敗したら会社潰れるけどいい?」って言って。本当に覚悟しろよって言っていつも始まっていくんです。そういう意味でも、AK-69って言ったらライブだってことなんですよね。俺がライブが得意だとかライブが好きだとか、それだけで言っているわけではないっていう。今回コロナ禍によって直接的に収益を逃したわけではないですけど、9月からの47都道府県ツアーが実質飛ぶわけで、会社としては売上がなくなって物凄くヤバいんですよね。だから配信ライブ一発目は回収しにいきたかったし、実際他のアーティストは皆そうしてるじゃないですか。
ーもちろん、そうですよね。
それは何も悪くないし、当たり前なんですけど。俺はまたやっちゃうんですよね(笑)。今回のライブって、「俺史上」とか「アーティスト史上」とかじゃなくて、全国の城史上一番カッコよく城を背負ったパターンだと思うんですよ。客演に来たZORNも、「よくこんなことしますね」って笑っちゃってましたから。「AK-69って本当にウケますね(笑)」っていう。そういうみんなが脱帽するようなライブ配信を録っていて、実際この前某メジャーグループもライブウィークみたいにやっていましたけど、絶対俺のライブには勝てないすからね。それは見たらわかると思います。「ヤベー!ヒップホップ、ヤベー!AK」ってなるライブになっていて...で、それは絶対赤字なんです(笑)。
ー(笑)。
だから会社的にはマジで勘弁してくれよっていう状況になっているんですけど、これが俺のやるべきことなのかなって。ここで回収しにいくんじゃなくて、エンターテイナーとしてみんなに感動を与えたり、ヤベー! って思ってもらえることに尽力することが鍵なのかなって思います。こういう時だからこそ攻め切ることが、結果返ってくることなんじゃないかなって信じて計画を立てています。
ーなぜそこまでエンターテイナーとしてのアイデンティティがご自身の中で大きなものになっているんでしょうか。
なんでなんでしょうね(笑)? 自分でも不思議に思えてくる時があります。でも、調子が悪かったり、停滞を感じている時ほど、お金のことを気にしているんですよ。「ここで売り上げないと」とか思って、ツアーでも文脈がないのに収益性が高いからZeppを入れてたりして。で、そういうことを考えている時ほどスベるんですよ。
ーああ、それはわかる気がします。
お金のことも気にしなきゃいけないのに自然と気にしてないというか、素で「これをやりたい」って気持ちでやってるんです。だから数字を見ると結構震えるんですけど(笑)、俺の中で調子が良い時とか結果を残せる時って、本当に(お金が)気にならないんですよね。前の会社で「こんだけ予算かけてちゃ絶対ダメだ」って社長がストップかけている時も、俺が行くって決めて失敗したことないんです。俺はチャレンジホリックというか、逆境の中にいないと本領発揮できないんだなって今回作ってみて思いましたね。今はエンターテイナーとして見せたいものを見せたいっていう気持ちでワクワクしてる。自分の使命感を物凄くポジティブに感じています。
<リリース情報>

AK-69
『LIVE : live』
配信日:2020年8月2日(日)
CD発売:2020年8月5日(水)
【通常盤】(CD)2800円(税抜)
【初回盤】(CD+DVD)3800(税抜)
=収録内容=
1. LIVE : live
2. No Limit ~この映画のあらすじなら知ってる~
3. Bussin feat. ¥ellow Bucks
4. Speedin feat. MC TYSON, SWAY, R-指定
5. B-Boy Stance feat. IO
6. Guest List
7. Skit -Toast To That-
8. もしよければ
9. Ha?
10. Hard To Remember -Season 0.5-
11. See You Again -Season 1-
12. I Dont Wanna Know -Season 2-
13. ハレルヤ -The Final Season-
14. Skit -Procession-
15. If I Die feat. ZORN
16. Hard To Remember -Season0.5- Remix feat. Eric Bellinger ※BONUS TRACK
・DVD内容
No Limit ~この映画のあらすじなら知ってる~
Bussin feat. ¥ellow Bucks
Speedin feat. MC TYSON, SWAY, R-指定
Guest List
Hard To Remember -Season0.5-
See You Again -Season 1-
I Dont Wanna Know -Season 2-
ハレルヤ -The Final Season-
If I Die feat. ZORN
Lonely Lion feat. 清水翔太
You Mine feat. t-Ace
Making Movie
Official HP:https://ak-69.jp/