7月30日、100万人以上のフォロワーを抱えるモデル兼インフルエンサーのヘレン・オーウェンさんは、いつもとは趣向の異なる投稿をInstagramにアップした。

メキシコのビーチサイドでのディナー動画やセクシーな髪形でビキニ姿を披露する画像ではなく、人身取引反対世界デーにちなんで、ボーイフレンドと口元を塞いで「声なき者のために声をあげよう」と書かれた看板を掲げた写真を投稿したのだ。
そして最後に、児童人身売買に関連する統計データをいくつも列挙した後、「#SaveTheChildren」というハッシュタグで締めくくった。

この投稿をInstagramで見るHelen Owen(@helenowen)がシェアした投稿 - 2020年 7月月30日午後7時58分PDT

彼女の投稿は明らかに純粋な気持ちによるものだ。児童人身売買が現実のもので、深刻な問題であることは疑う余地もない。国連児童基金によると、全世界の人身売買の被害者のうち、1/4は子どもで、ほとんどが労働目的で売買されている。だが、ハッシュタグ自体も薄暗い闇を抱えている。

この数週間、各方面の陰謀論者が「#SaveTheChildren」というハッシュタグを取り込んで、エリート層の小児性愛者からなる国際的秘密結社がひそかに子どもを人身売買している、という説を広めている。さら7月から今月初めには、ロサンゼルスやジョージア州サヴァンナ、オハイオ州コロンバスなどで「#SaveTheChildren」なる世界的抗議活動にも発展した。ハッシュタグに群がる陰謀論者があまりにも多いため、Facebookは一時的にハッシュタグをブロック。ソーシャルメディアに君臨する陰謀論者、Qアノン支持者から怒りを買った。「弊社は、低俗なコンテンツであると判断し、このハッシュタグを一時的にブロックしました」。Facebookの広報担当者ダミ・オイエフェソ氏はローリングストーン誌にこう語った。「その後ハッシュタグは復旧しています。
弊社では今後も、コミュニティ規約に違反するコンテンツの監視を継続してゆきます」

クレムゾン大学で偽情報を研究するダレン・リンヴィル准教授によると、ハッシュタグが一時的に規制されたことで「#SaveTheChildren」をつけたツイートは24時間で24万件に上り、現地時間10日朝にはTwitterのトレンドワードになったという。人身売買と陰謀論者のお気に入り(ヒラリー・クリントンやクリッシー・テイゲンなど)が裏でつながっているという投稿があまりにもソーシャルメディアに蔓延したため、実在する子ども支援専門の国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」はTwitterに声明を発表し、こうした活動とは無関係だと示さねばならなくなった。

【画像】「セーブ・ザ・チルドレン」の声明(和訳:私たちはこうした活動とは一切関係はありません)

陰謀論ハッシュタグの変遷

「#SaveTheChildren」(亜種として「#SaveOurChildren」というのもある)は、ずいぶん前から各方面の陰謀論者が活用してきた。ハーバード・ケネディスクール付属ショーレンスタイン・センターの技術社会変化プロジェクトの上級研究員、ブライアン・フリードバーグ氏によると、エリート層の小児性愛者による世界的秘密組織を白日の下にさらさねばならない、という考えの萌芽は、2013年初期ごろから4chanの/pol/や/conspiracy/といった掲示板に巣食っていたという。

2017年に入ると「#pizzagate」(民主党の有力者がワシントンDCのピザレストランを隠れ蓑に児童売春組織を運営していたとする陰謀論)とセットで使われるようになり、2018年ごろからは「#WWG1WWGA」(Qアノンのキャッチフレーズ「我ら一丸となってともに進まん(where we go one, we go all)」)とも結びついた。8chan(現在の8kun)のQアノンの掲示板のスレッドでは、「家族と引き離された子供の(メディアの)言い分に異を唱え、#SaveTheChildrenを使って行方不明者や搾取された子供たちに光を当てる」という活動の一環だと説明されている。

フリードバーグ氏によると、この春「#SaveTheChildren」は一時息を吹き返した。ニューヨークのセントラルパークに設営されたCOVID-19患者用の野営病院は、実は人身売買された子どもを運ぶトンネルだ、と陰謀論者が言い出したためだ。だがFacebookやTwitter、Instagramなど各種プラットフォームで火が付き始めたのは7月も終わりのころ。国連の人身取引反対世界デーと同じ7月31日、ハリウッドで予定されていた抗議デモの大々的な宣伝キャンペーンのおかげといっていいだろう。陰謀論を展開する自称独立系ニュース番組Real Deal Mediaが立ち上げたとみられるChild Lives Matterと銘打ったこのデモのちらしには、「#SaveTheChildren」というハッシュタグが使われていた。一部のインフルエンサーは純粋に児童人身売買を知ってもらおうとデモを広めたていたが、悪意を持っていた人がいたのも明らかで、Pizzagateや反ワクチンのスローガンが書かれた看板を掲げる参加者の姿も大勢見られた。


ロンドンにある極右研究センターの博士課程研究員、アレクサンダー・リード・ロス氏によれば、こうしたデモはブラック・ライヴズ・マター運動のフレーズを勝手に拝借しようとする極右勢力の共同戦線だとみられる。ソーシャルメディア上には「#ChildLivesMatter」や「#BabiesLivesMatter」といったハッシュタグも出てきている、と同氏は指摘する。「状況を逆手にとって、ヒラリー・クリントン率いるリベラル派のディープステート結社に子どもたちが虐待されている、と抗議するのが彼らの目論見です」

「#SaveTheChildren」のタグ使用は戦略的な動き

極右陰謀論者にとって「#SaveTheChildren」は、ある種の転機ないし再構築のきっかけだとロス氏は考えている。彼らの多くはこれまでの経験から、自分たちの潜在的なオーディエンスの大半が、赤ん坊の肉を食らうとか、アドレノクロムを貪り食う若者とか、『フォレスト・ガンプ』主演スターが児童売春組織を運営しているとかいう話題には及び腰であることを十分理解している。「彼らは自分たちの主義主張をある程度反映したパブリックイメージを打ち出そうとしています」と同氏は言う。「自分たちは西洋社会のために戦いを挑んでいる、という誇りが彼らにはあります――それが彼らの表向きのメッセージであり、世間にもそうアピールしたいと思っているのです」。故ジェフリー・エプスタイン被告やギレーヌ・マックスウェル被告が逮捕されたことで、セックス狂の支配者が闇で秘密結社を運営している、という彼らの世界観は真実味を増し、信憑性が高まるばかりだ。

【画像】ジョンベネちゃん殺害事件と性的虐待のエプスタイン元被告、陰謀論が生んだ接点

「#SaveTheChildren」といったハッシュタグの乗っ取りは、明らかにソーシャルメディア・プラットフォームの監視を避ける手段でもある。たとえばTwitterは、Qアノン関係者や関連ハッシュタグへの取り締まりを強化している。「プラットフォームからの追放にどう対処すべきか、著名なインフルエンサーが追放された場合にコミュニティとしてどう対応するべきか、インフルエンサーは以前から話し合っています」とフリードバーク氏。「#SaveTheChildrenの投入は戦略的な動きなんですよ」

結果として、過激な陰謀論にはまったく興味がない人が「#SaveTheChildren」の活動に引き寄せられ、ハッシュタグが爆発的人気を誇ることとなった。Qアノンがメインストリーム化するにつれ、議会選挙の主要候補者が陰謀論を支持したり、数百万人が陰謀論のFacebookグループに参加するようになったが、これが大問題に発展する可能性もある。
「ハッシュタグを乗っ取る根本的な理由のひとつは、幅広い人々から関心を集めるためです。意図的であるか――K-POPファンが人種差別的なハッシュタグ#WhiteLivesMatterを乗っ取った件のように――あるいは今回のように自然発生的であるかにかかわらず」と、リンヴィル准教授は説明する。「ですが自然発生的な場合でも、意図的に行ったのと効果は変わりません。橋渡しが非常に困難なコミュニティ間で、垣根を乗り越えることが可能になるのです」

from Rolling Stone US

国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の声明

We have been protecting children around the world for over 100 years.

While many people may choose to use our organizations name as a hashtag to make their point on different issues, we are not affiliated or associated with any of these campaigns. https://t.co/QDDGLvjDw9— Save the Children US (@SavetheChildren) August 9, 2020

(訳)
セーブ・ザ・チルドレン US@SavetheChildren

私たちは100年以上も世界中の子どもたちを守り続けています。
私たちの名前をハッシュタグに使って、様々な問題を提起する人が大勢いるようですが、私たちはこうした活動とは一切関係はなく、何の関連もありません。
セーブ・ザ・チルドレンの名称が、無関係の活動で使用されている件についての声明
2020年8月10日 3:30AM
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