89年の歴史で初めての休業を余儀なくされたアビー・ロード。その後、ソーシャルディスタンシング時代に対応した新たな対策に取り組み、ロンドンの名門スタジオは活況を取り戻しつつある。


今年3月、COVID-19関連の規制で約3カ月の閉鎖を余儀なくされたとき、アビー・ロード・スタジオはすでに心構えができていた。多くのアーティストやオーケストラがすでに予約をキャンセルしており、スタッフも運営対策を練り始めていた。そうはいえども、やはり戸惑いはあった。「アビー・ロードは今まで一度も休業したことがないんです」 スタジオのブランド戦略および広報部門主任のマーク・ロバートソン氏はローリングストーン誌にこう語った。「来年は90周年を迎えますが、営業を止めたのは今回が初めてです。まさに大事件でした」

この日、ロバートソン氏とマネージャーのフィオナ・ジロット氏は、非接触型の来館チェックシステムが設置された入り口から第3スタジオへ向かった。異様なほど館内はがらんとしている。6月4日から営業を再開したが、収容人数は減らした。2メートルの間隔をあけてください、という張り紙がそこかしこに見える。Zoom経由でローリングストーン誌の取材に応じた両氏は、スタジオの中で互いに安全な距離を確保するまでマスクを着用したままだった。

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第3スタジオはピンク・フロイド『狂気』をレコーディングした場所だ。エイミー・ワインハウスやポール・マッカートニー、The 1975、その他大勢のアーティストの収録もここで行われた。
通常なら30人の合唱隊や7人編成のバンドを収容できるのだが、現在はレコーディングルームには最大4人まで、ミキサーブースには1人までしか入れない。最近カフェと外のエリアの営業を再開したばかりで、建物内ではミュージシャンやエンジニアが忙しく作業しているが、Zoom取材の間、画面から確認できたのは、ガラス扉ごしにホールを掃除する清掃員だけだ。

「ミュージシャンだろうと誰だろうと、スタジオの入れ替えごとに徹底した清掃の時間を確保しなくてはなりません」とジロット氏。「大人数のオーケストラの収録後は、5人がかりで3時間かかることもあります……前より多少時間はかかりますが、(収録の)要望はものすごいですよ」。中でも比較的大きなスタジオは「2021年までほとんど予約でいっぱい」だとロバートソン氏は付け加えた。

ライブ配信の新たなメッカに

休業中、ジロット氏と彼女のチームはイギリス国内の各種音楽団体や音楽家組合、AIRスタジオをはじめとするライバル他社と連携して、再開の道を模索した。その一方、エンジニアたちは自宅録音のコンテストを開催し、審査員としてアドバイスを提供した。録音スタジオはもともと実入りの少ないビジネスゆえ、例年よりも収益は減少したとロバートソン氏も認めている。だがアビー・ロードの場合、親会社のユニバーサルから多額の支援を受けられた。

はじめはマスタリング、次はミキシング、というように段階的に少しずつ業務を再開し、新たな対策をいくつも取り入れて、レコーディング業務を再開した。オーケストラの収録では少人数に分け、安全な距離を保っている――時には複数のスタジオを回線でつなぎ、複数ミュージシャンが別々のスタジオにいても同時にセッションできるようにした。それに加えて、特別なプロジェクトのために撮影を希望するミュージシャンからリクエストが相次いだ。


ライブパフォーマンスの場がなくなったことで、バンドやアーティストはTV番組の収録パートの撮影や、ファンのためのライブストリーミングをやらせてもらえないか、とアビー・ロードに打診した。ここ数カ月の間に、ここで撮影したアーティストはバスティル、カイザー・チーフス、セレステ、エミリー・バーンズなど他多数。ごく最近では、激しいギターとエネルギッシュなヴォーカルが売りのポストパンク・グループ、アイドルズ(IDLES)が第2スタジオから特別ライブストリーミングを行った。年間190日ライブをこなす彼らも、今年は最新アルバム『Ultra Mono』のプロモーションライブにファンを集めることができない。アビー・ロードでのライブコンサートなら特別なものになるだろう、と考えたのだ。

「コンサートでは味わえないけれど、ライブストリーミングで味わえるものはなんだろう?と考えたんだ」 アイドルズのギタリスト、マーク・ボーウェンはこう語る。「しかもそれを録音して、かつ世界最高のスタジオで実現できるなら、やってみてもいいんじゃないかってね。ライブハウスでやろうかとも思ったよ。(でも)明らかに観客はいないし、録音もできない。よし、それならイギリス最高峰の一番有名なスタジオに行って、クールで特別なことをしよう、アイドルズの違う一面を見せてやろうってことになったんだ」

8月末、アイドルズはアビー・ロードで3回のスペシャルなライブを行った。「TVやラジオの収録と違うのは、細かいところまですべて自分たちがコントロールできるところ」とボーウェンは言う。「真っ先にアビー・ロードが候補に挙がった。
数年前にカニエ・ウェストのレコーディングで行ったことがあってね。あそこはライブハウスじゃないけど――レコーディングスタジオだからね――足を踏み入れると、独特の雰囲気を感じる。何か面白いことができそうだ、という期待感があるんだ」

「この不穏な時期――パンデミックで誰もがてんやわんやしている時期――に得られた数少ない喜びのひとつは、新しい関係性を築くことができたこと。それから創意工夫を凝らして新しいやり方を身に着けたことだ」とロバートソン氏も言う。「クリエイティブな世界では特にそうだと思うよ」

Zoom経由で遠隔レコーディング

ライブストリーミング以外にも、新たな方法でアビー・ロードを利用するアーティストは他にもいる。ビートルズファンなら「愛こそはすべて」のミュージックビデオでおなじみの第1スタジオには、広い空間をパーカッションが埋め尽くし、ハープとの間にはCOVID-19対策として仕切りがおかれている。現在ここでは、『アナと雪の女王』や『ハングオーバー!』シリーズのサントラを手掛けた作曲家クロストフ・ベックが、カート・ラッセルがサンタを演じるNetflixの新作映画『クリスマス・クロニクル2』のサントラのオーケストラパートを収録中だ。ミュージシャンがアビー・ロードで演奏し、ベックはサンタモニカの自宅から一部始終をチェックしている。

コロナ禍でも大盛況、「伝説のスタジオ」アビー・ロードが実践する新たな取り組み

6月、オーケストラの収録用にレイアウトされたアビー・ロード・スタジオの第1スタジオ(Photo by Carsten Windhorst/Abbey Road Studios)

「パンデミックやソーシャルディスタンス・ルールの対応策のひとつとして、アビー・ロードで一度に収録できる演奏家の数を制限しなくてはならなかった」とベック。「たしか今は40人までだったかな、基本的に1度に1セクションしか収録できないんだ。まず弦楽器のパートから録音する。サントラのどの曲でも一番出番が多いのは弦楽器だからね。
今回のような状況だと、演奏家は後ろから鳴り響くトランペットを聞くことができない。だから事前にプランを練って、『譜面を見るとここはトランペットが鳴り響くところだから、それを頭において、負けないように少しばかりアグレッシブに演奏してくれ』と演奏家に伝えなくてはならない。そういったところが、これまでの仕事のやり方とは少しばかり勝手が違う点だね」

サントラ収録には9日間しかかけられないため、ベックのチームは時間を有効に使って、始めに弦楽器を収録し、次に管楽器、そして微調整が必要な時に備えて再び弦楽器を収録している。ミュージシャンや指揮者との会話はZoom経由でほぼ同時進行で行えるので、職場環境もばっちりだ。いつもの収録だとオーケストラの各ポジションから各楽器の音が聞こえてくるが、すべての楽器が一箇所から聞こえてくる点も気に入ったようで、今後こうしたやり方を続けてゆくことになるかもしれない。それでもやはり現地に赴いて、演奏家と言葉を交わしたり、カフェで食事できたら、と思う。「アビー・ロードのような、数々の逸話が残る歴史的場所に立った時の感動が恋しいよ」

「再び仕事に戻り、愛する場所、憧れの場所で音楽ができるようになっただけで、みんなありがたいと思っています」とジロット氏も言う。「世界で音楽の鼓動が再び響くようになり、あらためて音楽は私たちの生活に重要な存在なんだと実感しました。音楽がない生活は、予想以上に静かです」

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From Rolling Stone US.

この投稿をInstagramで見るFifty years ago today, Sir @PaulMcCartney announced that he was no longer working with @TheBeatles. Although speculation had been rife for the previous six months, confirmation that the group was no more came as a shock to many. ⁣ ⁣ The Fab Fours prolific success will never be forgotten, celebrating an incredible period of creativity with thirteen official albums in seven years, and their legacy remaining deeply attached to Abbey Road Studios where they recorded the majority of their work. Abbey Road Studios(@abbeyroadstudios)がシェアした投稿 - 2020年 4月月10日午前4時21分PDT
この投稿をInstagramで見る"There are so many great memories at Abbey Road. Its very hard to choose one, but just to pick out of the bunch, I think it was recording the orchestra on A Day In The Life." – @PaulMcCartney ⁣ ⁣ On this day in 1967, @TheBeatles Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band, the bands eighth album, was released. Instantly recognised as a major leap forward for modern music, The Beatles encouraged the late Sir George Martin to achieve "the impossible" and in turn, George and the engineers would find innovative ways of realising this despite still using only four-track equipment.⁣ ⁣ Read Pauls most recent website Q&A where he reveals how the A Day In The Life orchestral session was a defining moment for him in the studio. Link in bio. Abbey Road Studios(@abbeyroadstudios)がシェアした投稿 - 2020年 6月月1日午前4時06分PDT
この投稿をInstagramで見る”They say its your birthday…” On this day in 1942, the legendary @PaulMcCartney was born. Happy Birthday, Sir Paul! ⁣ ⁣ Paul pictured in Studio Two on set for the music video of Queenie Eye, 2013. Watch the full video with the link in our bio. Abbey Road Studios(@abbeyroadstudios)がシェアした投稿 - 2020年 6月月18日午前4時19分PDT
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