2002年生まれのアーティストLEX。
そんな彼にインタビューを敢行。アルバム制作の話から、コロナ禍での過ごし方や18歳を迎えて大きな心身の変化を感じている彼の近況を訊いた。
ーアルバム『LiFE』についてお伺いする前に、最近のLEXさんについてもお伺いしたいと思います。コロナ禍になって音楽活動にも不自由が生じているかと思いますが、いかがお過ごしですか?
ありがたいことに仕事はたくさんいただいているんですけど、去年と比べてライブがない分、何か足りないなって思うところはあったりします。
ーRolling Stone Japanで以前取材させていただいたときは、「LEXとして2、3年先のことまで考えてどういう風にこれからやっていくのか」というお話もしていただいたきました。コロナの影響でツアーも中止になったりと、当時は全く想像してなかった2020年がやってきたと思います。
今回のアルバム『LiFE』自体は去年から考えていましたし、こういう状況下でアルバムを出さない選択肢もあったけど、ここで戦えなかったら、コロナが収束してからも駄目かもしれないから。マーチャンダイズ、アパレルとかはいつもこっそり考えたりしてますね。コロナっていうのが大きな狂いの一つだけど、それに同調していったら駄目かなっていうのはずっとあったかな。
ーこの間も、JP THE WAVYくんが配信でライブをやっていてLEXさんも呼ばれてましたけど、自分だったらこうやってやりたいという配信ライブの形はありますか?
街中のステージで何か大きなセットを作ってもらったり、軽トラの中からでもめちゃくちゃ面白そうな配信ライブやってみたりしたいですね。街の中だったらフラッシュモブみたいな感じでバーッといきなり始まって、曲が流れて歩いてる人たちがダンスを始めて、結局おもしろそうな終わり方でそこで配信終了とか。そういうのもやってみたいです。
ーライブがやりづらい状況は依然としてありますよね。もちろんアーティストもそうだし、ライブを作ってくれる裏方さんの人たちも、何もできない状況だから大変ですよ。周りのラッパーや裏方、ライブ施設からの悲鳴とかも耳にしたりしますか?
しますね。周りでもレコーディングの回数が減ったとか。歌詞を書けなくなったっていう人もいます。音楽との向き合い方も変わってくるし、地元に帰る人もいて。あとは、人との関わりがどんどん薄くなってるなって僕を含め皆が感じているし、こういう時だからこそ部屋の中で1人自分と向き合ったり、逆に積極的に他人と繋がろうとしたりもしてます。
ーこういう状況になっても、自分の音楽への向き合い方は変わらなかったんですか?
そうですね。何か今まで以上に広く作ってやろうっていう積極的な気持ちが増えてますね。
ーでは、今作の『LiFE』で描こうとしてたことは、ずっと自分の頭の中にあったことなんですか?
『LiFE』は衝動というよりも、ちゃんと構築された感じがありますね。前のアルバムとは完全に違って、人生に起こる喜怒哀楽とか表現したいと思って。悲しいとき、楽しいときを全てギュウギュウに詰めたいと思っていたら、17曲になっちゃったんです。「Sexy!」が完成した時から、アルバムを作ろうっていうスイッチが入ったというか。「Sexy!」が自分的に今作の土台になった曲だから、何か意図してたものっていうよりは閃いた感じです。「Sexy!」じゃなくて別の曲があったら、全く別のアルバムになってるかもしれないですね。
ーアルバムを作ってる途中からコロナの影響が出始めたと思うんですが、制作プロセスの影響はありましたか?
こんなに大きなゲスト達を呼んだアルバムも今回が初めてだったけど、それもリモートでやりとりをして。実は前回のアルバムに参加していた方たちも皆リモートでデータのやりとりをしているし、僕は基本的に一緒にスタジオに入って曲を作るってことは少ないと思います。全部家でやっちゃうので、むしろちょっとやりやすかったかなってくらい。
ー普段、逆に客演で参加するときはスタジオに行ったりするんですか?
行くときもあるけどだいたい家ですね。
ープロセスもそんなに普段と変わらなかったと。
とりあえず音を作ることに集中していたんで。機材どうこうより、自分の表現の仕方とか歌詞の書き方だった。それはだいぶ変わってきたし、すごくクリーンになったと思います。今回のアルバムはすごくクリーンで、何か無駄なものが削ぎ落とされたような感じがします。多分それは自分の性格の変化だと思うんですけど。
ーその性格の変化っていうのは自然に起こったものなんですか? それともこのアルバムを作ろうって思ったから変化した?
自分の中でちょっと荒れてる時期とそうじゃない時期、プチ炎上したり、ヘイターが増える時期があって。先輩たちはそういうお年頃だからじゃない? とか言ってくれますけど、あんまり自分で理解できてなかったんです。でも、コロナの中で友達と会ってない時期があると、自分を理解できる時間が増えて。そこでちょっと変われたんじゃないかなと思います。僕はいま18歳なんですけど、友達とかもこの年頃はみんなちょっと変わりつつあるんじゃないかなって感じですね。
ー今LEXさんもクリーンって仰ってましたけど、今回のアルバムはすごいナチュラルというか。自然にそこに歌があるっていう感じがすごくあって。トラックの上にボーカルか乗っかってるっていう見え方じゃなくて、ちゃんとその曲として融合しているっていうイメージなんですよね。
そうですね。意図してたものそのまま言ってくれて嬉しいです(笑)。
ー歌詞の書き方もそうだし、やっぱり前作からの明白な変化をすごく感じるんです。どうやって普段は曲を作るんですか?
僕はメロディーを作ってから、そこに自分が入れたい言葉を入れていくって感じです。ずっとこの作り方でやってるから、説明してって言われるとどうやってんのかもわからないですけど(笑)。声を主として作り上げていくスタイルとか様々あると思うんですけども、僕は一体感っていうのが自分のスタイルだと思います。
ートラックより先にボーカルのメロディーラインがあるんですか?
トラックを直して、それに何パターンかメロディーをはめてみて、その中でいいなって思ったものを前に出しています。サビのメロディーを何パターンも作って、どれがサビに一番いいか考えて、他のメロディーはバースに持ってきてます。
ーメロディーの引き出しがすごく多そうですね。
全然深く考えてやってなくて、フリースタイルみたいな感じなんですよね。ずっと考えこむというより、メロディーをバーっと何個か出して見てる感じです。作り方は結構軽いかもしれないですね。リリックも、このトラックでこのメロディーなら、こういう風に言ったらいいよなって考えます。
ーもちろん人それぞれやり方はあるだろうけど、やっぱりHIPHOPってメッセージを伝える音楽だっていう見方もあって。LEXさんの曲ってそのメッセージ性もあると思うけど、音楽としてもちゃんとしっかり聴かせるように作られてるな、と思うんですよね。
メロディーとリリックのどっちを取るかですよね、メッセージを主として出す人もいるし、自分も小さい頃からそういう音楽を聴いてたから好きだけど、同じことやっても意味ないんじゃないかな? とも思ったりして。言葉を主幹とする人たちがメロディーラインを重視しなかったりすることもあるし、ボイスを主幹とする人たちの方がちょっとベターなんじゃないかなと思って。そういう曲も作ろうって思ってます。
ーさっきも仰っていたように自分がクリーンになってきて、メロディーの書き方との向き合い方も変わってきたと思うんですけど、改めて自分がメロディーを考える上で、このアーティストはやっぱすごいって思った人とかっていますか?
最近はKOHH君もそうなんですけど。BAD HOPのTiji Jojo君とかVingo君とか、日本語の使い方の面を聴いていてかっこいいなって思ったりします。日本語を新しい感じで音に嵌めてくるし、自分なりのそういう表現方法が見つかったらって思います。
ー『LiFE』収録の最終曲「あなたの幸せが1番」は、メッセージもしっかり入ってくるし、僕はこの曲を聴いていてブルースだと思っていて。LEXさんの過去作もそうだけど、エモっていう言葉がよくあるじゃないですか。この曲は、エモより魂の奥底にある痛みや切なさを振り絞って歌ってるブルースなんじゃないかなって思ったんですよね。リリックもすごく直接的に書いてるじゃないですか。
僕も全てを丸裸にして、正直な気持ちを歌いたいと思ったからタイトルも初めて日本語に挑戦したんです。でも、こういう年頃のせいか感情の変化もあって。人にかっこいいと思われなくても、別の方面で良いと思われてもいいのかなとも思うようになったんです。そういうものを持ってきて挑戦してみたんですけど、感情移入させすぎて不安定になりながらレコーディングしてることもあったくらいで。でも結果として、いい曲ができて良かったです。
ーまさにブルースマンですね。今作はゲストも多いじゃないですか。参加したアーティストは曲ができてから1人ずつ頼んだんですか?
1曲目の「Sexy!」の土台ができて。そこからこういう曲にしようっていうタイトルを決めてから、曲たちを作っていって。そこで乗ってもらいたい人に連絡させてもらってました。そういう風に全体を眺めて、ここから何か埋めるのかとか思ったりするの好きですね。
ー1人で自宅で楽曲制作するのが好きだと仰っていましたが、今回色々な客演を呼んだのは理由があったんですか?
1人で歌うのも楽しいなと思うんですけど、今回は『LIFE』っていうタイトルで作ってたから、1人では完成しきれないなと思って、客演を呼ばせてもらいました。こういう時代だから、繋がりが必要だっていう意味合いでもそうですね。
ー基本的にオンラインでやりとりして作ったんですか?
基本的にそうですけど、Fuji Taito君とかHEZRON、Only U君とかはうちのスタジオで録ったりしました。HEZRONは地元が一緒で普段も遊んでるし、Fuji Taito君とHEZRONで夜中に集まってレコーディングして朝に爆睡して、なんか食って帰るみたいな感じでした。
―色々な人に客演してもらって、また彩りがすごく豊かになって作品全体に深みが出ると思いました。今作はトラックも色々なスタイルがありますよね。
トラックは既存のものを買ったんですよね。トラックを結構垂れ流しにして、これいいなって思った曲を使ってるし、トラックはちゃんと意図して決めた。最近はBeatStarsっていうアプリもあって、トラックを購入するっていうのも普及してるんです。そこで扱っているトラックの幅も広くて、デュア・リパのタイプビートだったりもあるんですよ。
ーご自身ではトラックを作られないんですか?
今作だと「I HOPE I NEVER KNOW」は、初めて自分で作ったトラックを使ったかな。だいたい人にあげちゃうんですけど。最近はYouTubeとかでもMPCの打ち方の解説動画とかあったりするので。金もなかったしiPadで作ってました。自分で作ることはあんまりないんですけど、自分で作るトラックはブーム・バップが結構多いですね。
ー音楽制作の面に関して、前回のインタビューで自分の音楽バックグラウンドとしては、小さい頃に親御さんがライブハウスとかに連れてってくれた影響もあると仰っていました。LEXさんの音楽表現が多彩になってる下地の体験ってなんでしょう? 小さい頃から楽器を習っていたりしたんですか?
そうやって言えれば100点かもしれない(笑)。でも、3歳から小4くらいまでダンスしか習ってなかったですね。その後は、バスケをやっていたので。HIP HOPとか音楽はずっと聴いていて、小学2年生の頃からブラック・アイド・ピーズが好きだったけど、周りと話が合わなかったっていうのは昔からありましたね。
―今回のアルバムにも参加しているLeon FanourakisとかSANTAWORLDVIEWとか、自分と同世代のラッパーたち、アーティスト等も今たくさん活躍されていて。LEXさんにとってもそれは刺激になったりするんですか?
彼らの活躍はやっぱり嬉しいです。同じ街、横浜からみんながいい曲出してくれてるんで。それは全体的にしても言えるかな。競争心とかではなくて、どれだけシーンを盛り上げられるかだと思うし。
―今回はアルバムをリリースしましたが、今これから先の目標を考えていますか?
1曲でもいいから、日本語でも英語でも、もうちょっとシンプルにありのままを歌えたらなと思います。またアルバム作りたくなったら作ろうかなとも思ってるし。自分の生活がもっと曲に反映されるようにしたいですね。再現度を高くしていきたいです。そのためにも、最近はバックパック1個で1人旅をしたりしてます。この前は沖縄に1週間いて、大阪も行ったりとか。ジーパンに黒のロンTでバックパックを背負って、何者でもないときを楽しんでる感じもあります。こういう時期だからこそ、そうやってたくさん吸収しながら、1人の時間も楽しんだり、色々やってみたいなって思います。
Interviewed by Takuro Ueno(Rolling Stone Japan)
<作品情報>

LEX
アルバム『LiFE』
配信日:2020年8月26日(水)
配信リンク:https://lexzx.lnk.to/LiFE