スタイリッシュな衣装に、バチッと決まったヘアメイク。
会場は代官山UNIT。といっても、ステージがつくられたのは客席フロアだ。様々な照明や電飾、オシャレな小物で飾り付けられ、ちょっとしたプライベート空間が生まれていた。
リハでは、iPhoneで撮った映像を見ながら、自分たちの映り方を確認したり、メンバーを捉えるカメラがどこにあるかを細かくチェック。そして、通しリハ、カメラリハと丁寧に最終確認を行っていく。メンバーもさぞ緊張しているかと思いきや、リハの間にふざけあったりしていて、気負った様子はないように見えた、このときは。
本番まで30分を切ると、いったん楽屋に戻った5人はわかりやすいぐらいに緊張していた。「あ~、緊張する!」と地団駄を踏み、薄笑いを浮かべる荒井藤子(Ba)、「リハのテンション、最高だったな」と自分に言い聞かすように独りごちるヤジマレイ(Gt&Vo)、ひと言も発しないルカ メランソン(Dr)、そして、じっと一点を見つめるAkari Dritschler[アカリ ドリチュラー](Vo)。そんな様子を見てこちらも何かせずにはいられなくなり、「リハの感じでできたら最強だと思ったよ!」とレイ キャスナー(Gt&Vo)に声をかけると、「今のひと言でだいぶラクになりました!」と彼は引きつった笑みを浮かべた。ああ、彼らは内なる自分と戦っているんだ。外部の人間にできることなんて何もないんだ。そう気付いてすぐに楽屋から退出し、スタッフが詰めているステージ裏へと移動した――。
なぜここまで「味」のある演奏ができるのか?
定刻から遅れてオープニングムービーが流れ始める。Akariによる英語のナレーションで、「今まで見たことのない世界へみんなを連れて行くよ」「人生で最も必要なものを探すのを手伝うよ」といった言葉が伝えられたあと、メンバーがステージに登場し、オープニングナンバーとして新曲「Headphones」を披露した。配信側の音は非常にクリア。リバーブが薄くしかかかっていないので、演奏がより生々しく聞こえる。言い換えると、演奏のミスや歌のヨレみたいなものが目立ってくるのだが、それはまったくない。それなりにキャリアを重ねてきてはいるが、FAITHはまだまだ若いバンド。

Photo by Kazushi Toyota

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ギターのヤジマはFAITHで一番元気のあるメンバー。余裕たっぷりにカメラにアピール。彼の場合、場馴れしているというよりも、人間的な魅力が溢れ出ている感じ。しかも演奏力の向上も著しい。レイとのコンビネーションも息ぴったりで、「Our State of Mind」~「CHAMP」では、彼らのぶっといギターフレーズが効果的なブリッジになっていた。

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Akariはフロントウーマンとして堂々たる姿勢を示した。カメラにぐるりと囲まれている特殊な状況にも物怖じすることはない。
「CHAMP」が終わると、モノクロの映像が挿入される。英語でAkariが友人と電話で話している。どうやら気になる男子に関する相談しているようだ。彼女は「前向きだよ」と口では言うものの、映像のトーンは暗く、レイが制作したサウンドエフェクトも重苦しい。

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そこからセカンドブロックへと移ると、衣装チェンジした5人が登場し、発表されたばかりの新曲「Ironyi」をプレイ。映像からライブへ移る流れが実にスムーズで、生配信に見えない。まるで映画のようである。ラテンのリズムを取り入れたこの曲はFAITHの新機軸。Akariは物憂げに歌い、舞う。

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「DONT FALL」前のセッションパートもよかった。ここまでサポート役に回っていた荒井がグッと前に出てきて存在感をアピール。このあたりからバンドのギアが一段上に上がった感覚があった。5人全員がしっかり向き合うセッションパートが彼らに安心感を与えたのかもしれない。Akariの歌に力がさらにこもったように見える。この曲が始まってから、現場スタッフがグッと演奏のグルーヴに引き込まれているのが見て取れた。みんな、大きく体を揺らし始めたからだ。
劇的なライブを終えたメンバーに直撃
荒井とルカによるセッションのあとは、場所を普段のステージ上へと移し、Akari、ヤジマ、レイの3人によるアコースティックコーナーへ。これがまたよかった。ギターも、歌も、ハモりも、全てがよかった。

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アコースティックセッションが終わると、「Yellow Road」のMVメイキング映像が流れる。約1年半前の5人の姿は完全に少年少女で、見ていて思わず頬が緩む。再び衣装チェンジをし、ついに迎えた最後のパートではまず「Yellow Road」を披露し、エンディングへと向かっていく。
「Pre-independence Diary ~”私”をみつけるために~」というコンセプトを体現した60分にわたる生配信ライブのラストを飾ったのは、未発表の新曲「Last Will」だった。この曲のテーマは生と死。終わりは始まりでもあるから、恐れずに今を自分らしく優雅に生きていく。いつ死ぬかわからないからこそ自分の思い描く人生を歩みたい、という思いが込められた、「Headphones」「Irony」に続く3部作の最後を飾る楽曲だ。「これからの生き方、これまでの生き方を考えるきっかけになればいいな」とAkariから視聴者へと伝えられたあと、FAITH史上最も壮大な楽曲が鳴らされたのだった。

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もしかすると、この日の60分は、この楽曲を最大限に美しく鳴らすための時間だったのかもしれない。それぐらい素晴らしいエンディングパートだった。

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―素晴らしいライブでした。まずは1人ずつライブの感想を聞かせてください。
ルカ:あっという間でしたね。もちろん、ずっと準備してきたことではあったんですけど、今日だからこその形でできたので、それがよかったと思います。楽しかったです。
荒井:めちゃめちゃ楽しかったです。1、2カ月前ぐらいから準備をしてきて、その時間もあっという間だったし、本番はもっとあっという間でした。でも、楽しかったのと同時に課題もたくさんあったから、それは今後につなげていきたいし、もっともっと自分たちらしいアイデアを出していきたいなと思いました。
―課題というのは?
荒井 現場では楽しくやってるんだけど、リハの時とか、画面を通して見るとちょっと動きがコンパクトに見えてるのかなって。そういうところをアーカイブを見てしっっかり確認したいです。
―ああ、配信だとライブハウスとは違う見せ方を意識しないといけないですよね。
荒井 そうですね。カメラマンや照明さんとの連携とか。あと、ヤジマとレイはカメラ目線が上手いんですよ(笑)。そういうところも見習っていきたいですね。演奏をバッチリにした上で演出の部分も意識していけるようにしたいです。
いろんな感情を昇華できたライブ
―Akariさんはどうですか。
Akari 今回は初めての試みがすごく多くて。自分たち主催の無観客配信ライブは初めてだったし、セットがあるなかで生配信をするのも初めてだったし、カメラワークを意識しながら自分の動きを考えるのも初めてで。でも、自分の100%を出せたし、いいライブになったと思います。
ヤジマ 2月にツアーが延期になって、そこから家にいる時間が増えたり、当たり前が当たり前じゃなくなって、楽しいこともあったし、苦しいこともあって、でも、前に進まなきゃと思いながら新曲をつくって発表してきて……。今日はターニングポイントになるんだろうなと思いながらライブに挑みました。
―ターニングポイントというのは?
ヤジマ これまでにも何度か配信ライブには参加しましたけど、今回は自分たち主催で、自分たちの力でイチから作ったライブだったので、それをみんなと共有できることが大きな一歩になるのかなって。
―コロナが始まってから溜まっていたいろんなモヤモヤを今日昇華できた部分もあったんでしょうね。
ヤジマ そうですね。「Last Will」をやってるときに、(目を閉じながら)「ファッ……!」ってなる時間がありました。今日までけっこう忙しくてドタバタしていたんですけど、「Last Will」が始まってからは気持ちがいい意味で落ち着いたというか。
荒井 めっちゃわかる……! 私は「Yellow Road」が始まるタイミングで、(両手を斜め下に広げながら)「スゥ……!」ってなってたの。感動で泣くっていうよりも、「ああ……!」って感じなんですよ。ごめんなさい、話に割り込んだクセにちゃんと話せなかった(笑)。
―いやいや、ちゃんと伝わりますよ(笑)。レイさんはどうですか。
レイ FAITHはみんな仲がいいから、スタジオに入ってもテンションがフワフワしちゃうことがよくあるんですけど、このライブをやることが決まってからはスタジオでの真剣さが増してきて。今までもちゃんと考えて取り組んでいたんですけど、自分たちでつくっていくという意識がより強くなったと思っていて。そのせいで空気がピリつくこともあったんですけど、それはみんなが真剣だったからこそだし、心と心のぶつかり合いも含めて、本当に頑張ってよかったと思うし、いろいろ掴めたし、課題も見つかったし、これからの配信ライブはもっと楽しくなると思います。今日は5人が向かい合って演奏したことで音で会話ができたから、めっちゃいいライブになった気がします。
映画を見ているかのような演出
―自粛期間の間、いろいろなことを考えたと思うんですよ。
ヤジマ 本当に考えたなあ……。でも、自分と向き合う時間が増えたし、そのなかで曲作りもけっこうやってたので、音楽との向き合い方もいい意味で変わったと思います。今までは「自分が自分が」ってなってたところがあったんですけど、今はもっと楽曲に意識がいくようになりました。例えば、これまでは1曲を通してずっとギターが鳴っててほしいって思ってたけど、今は1曲のなかでひとつキーになるポイントがギターで作れたらそれでいいと思うし、なんならギターが鳴ってなくても楽曲がよくなるならそれもいいなって思うようになりました。エゴがなくなったというか。
―今回のライブ「Pre-independence Diary」はどんなところから始まったんですか。
レイ まず、「Pre-independence Diary」というストーリーがあって、それに沿った演出を考えて。
荒井 物語になったらいいんじゃないかって。
レイ そう。配信ライブってお客さんとのコミュニケーションも大事ですけど、今回に関しては「Pre-independence Diary」の世界観を見せたかったので、MCも最低限にして、映画を見ているかのような演出をしようという話になって。あと、「Pre-independence Diary」は3部作なので、「Headphones」のセクション、「Irony」のセクションって分けていって、各セクションに合うテーマの曲をピックアップしていきました。
―その原案はAkariさんによるものなんですよね。
Akari そうです。ライブにストーリー性を持たせたいっていうのはずっと考えていたことなので、今回やっとそれを実現できました。
―配信ライブというよりもひとつの作品でしたよね。
Akari 生配信って思わせたくないぐらいの気持ちはありつつ、生っていうワクワク感も出せたらいいのかなと思って。
荒井 レイがめちゃめちゃ活躍したよね。セクションごとのSEをつくったり。
レイ 頑張りました!
―それって、Akariさんの頭の中にあるものをしっかり共有できてないと表現できないものですよね。
レイ そうですね。一番最初にストーリーをAkariが書いてくれて、そのイメージを共有してからセットリストについて考えたり、SEを入れるタイミングを考えていきました。
―個人的には「DONT FALL」以降がよかったです。
荒井 セッション、大丈夫でした!?
―よかったですよ。
荒井 あれも私的には初の試みで。FAITHでスタジオにいると、誰かがチャラーンって鳴らしたら、それに合わせてドラムを叩き出したりしてセッションが始まることがよくあるんですけど、私は自信がなくてそこに参加できなかったんですよ。正解がないと弾けないタイプで。だけどレイに「お前ならできる!」ってめちゃめちゃ励まされて、ルカに「じゃあ、やろっか」って言って、今回やってみました。
ルカ ちゃんとできた!
レイ 今日のライブを経たことで、今後の配信ライブ、配信じゃない普通のライブ、曲づくりにも影響していきそうな気がします。
個々の変化が生んだバンドの未来像
―今日のライブを観て、今みなさんの話を聞いていて感じたんですけど、年齢を重ねたこと以外にも5人のなかで何かが変わりましたよね?
Akari それぞれでいろんな変化はあったかなと思いますね。考え方を変えるきっかけがあったり。
ルカ それもコロナの影響かもしれないですね。
荒井 「Pre-independence Diary」への向き合い方みたいなところで、たしかにいろんなことを考えるようになったからね。Akariがめちゃめちゃ考える人だから、普段からAkariとしゃべってるうちに自分も自然と物事を考えるようになったし。
ヤジマ みんなお酒飲めるようになったしね。
レイ それ、めっちゃデカいかも。
荒井 それだ!
―酒が背中を押してくれることで、もうちょっと突っ込んだ話ができるようになったりしますよね。
ヤジマ そうですね。そんな感じでよりみんなが同じ方向を向けるようになったかもしれない。
―この先、FAITHはどうなっていくんでしょう。
レイ FAITHでやれることは確実に増えていて、今まで見えてなかったところにまで目が届くようになったと思います。枠をつくったら面白くないと思うので、ヤジマがギター弾かなくていいって言うならそういう曲をつくったりしてもいいし。
ヤジマ うん。
レイ ……あ、本当にそういう曲つくってもいいんだ?(笑)
ヤジマ うわぁ! ダメ! さっきのは例えばの話だから!
レイ (笑)あとはAkariがステージでピアノを弾く曲があってもいいと思うし、自分が担当する楽器にとらわれずに、いい曲をつくって、カッコいい見せ方ができたらいいなと思います。
―コロナの前から楽曲の幅を広げていきたいという話はしていましたけど、こういう状況になったことでいい具合にそれが加速しているように見えます。FAITHは今の一見ネガティブな状況を最もうまく乗りこなしてるバンドのひとつかもしれないですね。そんな自覚はないと思いますけど。
レイ うん、ないッス(笑)。
ヤジマ 毎日楽しく過ごしてるから、自然とそうなってるかもしれないですね!

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<SETLIST>
Headphones
Party All Night
Our State of Mind
CHAMP
Irony
19
DONT FALL
Memory of You (Acoustic ver.)
Caught Up in Time (Acoustic ver.)
Yellow Road
Last Will *未発表新曲
■アーカイブチケット情報
FAITH Special Online Show
”Pre-independence Diary” at 代官山UNIT
2020年10月16日(金) open 19:30 / start 20:00
※10月23日(金)23:59までアーカイブ配信あり
配信プラットフォーム:Streaming+
視聴券:¥2,000 (税込)
チケット購入:イープラス
■販売期間:~10月23日(金)23:00
購入URL:https://eplus.jp/faith-1016-stp/
問い合わせ:H.I.P. 03-3475-9999 / www.hipjpn.co.jp
ライブセットリストのプレイリスト公開中
★Spotify
https://open.spotify.com/user/ih9g816bez9zpliwjn3gl7971/playlist/3WcUZkywFazddxGT7k9mlQ?si=we2QOLlVQJeHkCjR86oG0A
★Apple Music
https://music.apple.com/jp/playlist/pre-independence-diary-at-daikanyama-unit-setlist/pl.cb400483dec042eda11fde2890024de6
<配信リリース情報>
Digital Single「Irony」2020.10.07 Release
https://lnk.to/FAITH_ina_
FAITH - Irony (Official Music Video)
Digital Single「Headphones」2020.09.02 Release
https://vap.lnk.to/Headphones
FAITH - Headohones (Official Music Video)
<その他ライブ情報>
『バズリズムLIVE 2020』
2020年11月8日(日) 横浜アリーナ
出演アーティスト(順不同):
山崎まさよし/スキマスイッチ/さかいゆう/FAITH/ Novelbright
出演:バカリズム/滝菜月(日本テレビアナウンサー)
バズリズムLIVE 2020公式サイト
https://www.ntv.co.jp/buzzrhythm/live2019/