ピアノの前に座った野田が鍵盤を優しくタッチしながら再びオーディエンスに語りかける。新型コロナウイルスによって一変した世界、失われた自身のワールドツアー、魑魅魍魎が跋扈するように言葉の暴力が飛び交うインターネット社会への違和感、自ら命を絶ってしまう人たちへの思いを口にし、最後にこう付け加えた。
「人の言葉のイチを10にも30にも受け取ってしまうような優しい心がどうか、どうか、生き続けられるような世界であってほしいと心から願ってます。僕は15年前から世界は優しい人でできてると思ってます。そして、今を生きる人たちがそういう空気を、世界を作っていけると思います。優しい魂であふれることを、きれいごとと言われようが僕は信じてるし、みなさんと作っていきたいです。そんな、できそこないかもしれない僕ら人間の歌を歌わせてください」
鳴らされたのは、「棒人間」。冒頭から〈僕は人間じゃないんです ほんとにごめんなさい〉と歌われる、しかしそれでも真人間になることをあきらめない存在を活写するワルツだ。そこから「螢」、「告白」とバラードを繋ぎ、本編ラストへ向かっていった。