J-POPの世界で活躍してきた今市の華やかな存在感と80sのレトロフューチャーなサウンドが融合。アートワーク含めてコンセプチュアルな作品に仕上がっている。制作を終えた今市に話を聞いた。
【画像を見る】『CHAOS CITY』の制作秘話を語ってくれた今市隆二
ーちょうど1年前にお話を伺ったとき、「自粛期間中、考える時間はたくさんあったので、新しいアイデアもたくさん生まれた」と語ってくれました。今作はそれらのアイデアの成果が発揮できた作品だと思うんですが、手応えはどうですか?
今市:80sというテーマが世界的にトレンドになっていたのをキャッチして、自分としても80sの楽曲を前から掘っていたんです。ただ80sってキャッチーな部分もあるけど、行きすぎちゃうとダサくもなりがちなので、そこの線引きがすごく難しいところで。もともと歌謡曲は日本独自のものだと思っていたら、いろいろ掘ってみると意外にも海外からの流れがあったりするんですよね。自分とも相性悪くないんじゃないかなって感覚もあったし、実際に歌ってみて、ちゃんと形になったと思ってます。でもやってる側としては、今回イメージを一新することでどういうリアクションが来るんだろうって気持ちは正直ありました。「FUTURE LOVERS」を配信する前は、楽しみでもあったんですけど、ちょっとふわふわした感じっていうか。
ーでも、新しいことに挑戦してみて正解だったのでは?
今市:そうですね。前回インタビューしてもらったときから1年くらい経つと思うんですけど、時間が空いたこともあるし、イメージを一新したいって気持ちもあって。
ーYVES&ADAMSさんやChaki Zuluさんのようなお馴染みのクリエイターだけでなく、Matt Ermineさんのような新たなクリエイター、またリミキサーとして☆Taku TakahashiさんやNight Tempoさんが参加し、そして『CHAOS CITY』に大きなインスパイアを与えた空山基さんのアートの世界がありますよね。さまざまなクリエイターとのコラボレーションがしっかりハマってますが、音楽的なコンセプトはどのように定まっていったのでしょう?
今市:本当に少しずつ決まっていった感じです。最初に世界的にコロナ禍になって、日本で緊急事態宣言も出て、仕事もストップして、家にいる時間ができた。そのなかでもやれることをやらなきゃいけないな、と思って曲を作り始めて、リモートでセッションをしたり。そこでできたのが「Talkin bout love」なんです。その時点ではまだ『CHAOS CITY』のイメージは全くなかったんですけど、いろいろ曲を作っていくなかで、80sを今やりたいって気持ちがどんどん強くなっていったんですよね。もちろんトレンドだからという要素もあるんですけど、自分の上の世代の人にも懐かしいと感じてもらえるし、自分の下の世代には、新しい音楽として届く分、間口が広いと思ったんです。その流れで、80sリバイバルってものを伝えるためにはまだ曲が必要だなって思ってデモを集めて、そのときに出会えたのが「FUTURE LOVERS」だったんですよね。この曲はすごくインパクトもあるし、自分がやりたいイメージをより強く伝えられるなと思った曲です。
以前もDaniel Arshamの作品と、アートとコラボさせていただいてるので、今回もいいコラボレーションができないかなと思っていて。そんなときに「FUTURE LOVERS」を聴いて、空山(基)さんのセクシーロボットがイメージに合うなと閃いて、勝手にセクシーロボットのイメージの歌詞を書いたんです。
ー空山さんとのコラボによって、曲の世界観にもより重厚感が増したんじゃないですか。
今市:かなりコンセプチュアルになりましたし、『CHAOS CITY』のシンボルとして、エンタメ的な、すごくワクワクするような要素も取り入れられたと思いますね。
新たな可能性を広げた「FUTURE LOVERS」と「Highway to the moon」
ー今作のテーマでもある80sのスタート地点としてあった「Talkin bout love」は、これまでの今市さんのファンクネスな部分を継承している曲でもあると思っていて。逆に「FUTURE LOVERS」とか「Highway to the moon」とか、8ビートな感じの曲って今まであんまりなかったような気がするんですけど。
今市:「FUTURE LOVERS」と「Highway to the moon」の2曲に出会えたことは大きかったです。「Highway to the moon」に関しては、デモを聴いた瞬間に、あ、これはもう、やんなきゃダメっていう感覚になったというか。シティ・ポップもすごく興味があったので、80sで打ち込み系の疾走感のあるビートの曲もあれば、ちょっと生音っぽい曲があるとよりバリエーションも増えますし。それから2曲とも歌詞をつけた感じですね。
ー「FUTURE LOVERS」と「Highway to the moon」の作曲を担当しているMattさんと曲をつくるのははじめてですか?
今市:グループとしてやったことはあるんですけど、ソロとしてははじめてですね。
ーデモ集めとおっしゃっていましたが、80sってキーワードでリクエストして、あがってきた曲から選んだ感じですか?
今市:候補は他にもあったんですけど、結局はMattさんの2曲を選ばせてもらった感じでしたね。
ー選んだあとに今市さんが曲に対してあらためリクエストを出すことも?
今市:「Highway to the moon」に関しては、ラップパートのところかな。歌詞書いてくうちにドライブしているイメージになったので、トレンディな曲にしたくて。夜のドライブのデートに行く、じゃないですけど。中盤でラップがあったんで、ラジオのDJの感じになったら面白いかなって、そこはラジオDJっぽく加工したりしました。それぐらいですかね。あんまりメロいじったり、トラック変えたりはなかったですね。
ー「Highway to the moon」は80sっぽい雰囲気も相まって、今市さんのボーカルがラップも含めていい感じにハマった曲になってるかなと思うんですけど。ご自身のボーカルに関して、Mattさんがつくった2曲はどうでしたか?
今市:「FUTURE LOVERS」に関しては、ボーカルの処理にこだわった部分があって。トレンドもちゃんと意識して、アンドロイドが出てくる曲でもあったりするので、空間系をしっかり処理して。完成したものにはすごく満足してますね。「Highway to the moon」でいうと、コーラスワークの重ね方というか、コーラスの出来上がりもけっこう好きで。切れ味よくいい感じにできたかなってすごく思いますね。
ー2曲とも、日本語の響きにもこだわってつくったんじゃないかなと思うんですけど、作詞面で意識したことは?
今市:「FUTURE LOVERS」でいうと、セクシーロボットのイメージでつくって、ストーリーも自分の中で考えたんですね。アンドロイドと人間って、一緒になれないのが普通じゃないですか。そういう禁断の愛みたいなものを題材にしていて。現代の恋愛って、マッチングアプリのように、これはいい、これは悪いってやっちゃう時代になって、人をモノみたいに扱ってる。それってどうなんだろうなって思うところもあって……。もちろん、そういう流れでちゃんと結婚してる方もいると思うんですけど、そういう状況を踏まえて、本当の愛を感じてほしいとメッセージを込めて、歌詞も書きましたね。
「Highway to the moon」でいうと、とにかく「トレンディ」っていうテーマでつくっていて。で、「トレンディってなんだろうね、やっぱドライブだよね」ってところから始まって。トレンディさを感じるフレーズがいっぱいあるんですよね。”
月9”だったり、”Cant take my eyes off you”とかも入れたり。
ー”レインボーブリッジ”とか。
今市:はい。”レインボーブリッジ”もそうだし、あと”東京タワー 3,2,1吹き消したら”とか。実際自分がそういうのをリアルタイムで体験してたわけじゃないんですけど、いろいろ調べたりして。昔こういうことがあったんだよって伝えられることにもなるなと思って書きました。
ーリズム的にもテンポ的にもグルーヴ感を表現するのが難しそうな曲だなと思ったのですが。
今市:でも自分的には、そういう方がやりやすいというか。やっぱりR&Bが好きなので、どちらかと言うとオンでやるほうがちょっと苦手かもしれないです。だから「Highway to the moon」のように後ろに少しズレてるほうが、歌ってて気持ちいい感じはあるかもしれないですね。
歌謡曲をテーマにつくったバラード「オヤスミのくちづけ」
ー「オヤスミのくちづけ」は、全然タイプが違うというか、歌詞の世界観もまた違う曲ですよね。
今市:「オヤスミのくちづけ」は2年前の夏につくった曲で、歌謡曲をテーマにつくったバラードです。三代目の「Eeny,meeny,miny,moe!」をつくったチームと曲をつくる中で(※作曲には今市の他、T-SK、HIROMI、BIG-Fの名前がクレジットされている)。自分のソロライブに来てくれた時に、「今市くん、歌謡曲テイストのバラードって合うよね」って話をしてくれて、そこから歌謡曲ヴァイブスの曲つくろう、ではじまった曲なんですよね。
歌詞は完全に自分のイメージというか、自分で映画つくるみたいに物語をつくって書きましたね。だから実体験じゃないんですけど、そういうストーリーが自分の頭の中にあって。なんでそのストーリーが出てきたかわかんないんですけど、けっこう前から頭にあるイメージで、いつかこういう曲をつくれたらいいなって思っていました。それで『CHAOS CITY』をつくる流れの中で、歌謡って部分では80sに通ずる部分もあったので、今回入れさせてもらいました。やっぱりボーカリストなんでバラードも届けたいって気持ちがすごくあって。
ー作品全体でボーカリスト今市さんの懐の深さをちゃんと見せつつ、こういうテイストのバラードが『CHAOS CITY』の中に一曲入ってると、すごくいいアクセントになってるなって。
今市:そうですね。ありがとうございます。
ー今回「FUTURE LOVERS」と「Highway to the moon」のリミックス曲も入っていますよね。☆Taku TakahashiさんとNight Tempoさんが手がけてますが、人選はどのように決まったんでしょうか?
今市:シティ・ポップブームをつくった1人でもある、Night Tempoを最初に提案させてもらって。で、実際にできることになって、そうなったらもう「Highway to the moon」しかないなっていうか。ただ、今まで新譜の曲をリミックスされている人ではなかったので、やってくれるかが不安で。でもOKしてくれたので、シンプルにうれしかったです。で、Night Tempoさんがリミックスしてくれるってなったときに、じゃあ「FUTURE LOVERS」のリミックスどうしようかなって考えたら、☆Takuさん以外いないなって。もちろん音楽性もそうですけど、存在感としてもぴったりだなと思いましたね。それで連絡させてもらったんですけど、実は今回☆Takuさんとお仕事するのははじめてで。グループとしてもないんですよ。LDHとの関わりもたくさんあって、一緒にご飯食べたりしたことはあるんですけど。
で、リミックスしてもらうことが決まって、直接☆Takuさんから「今回ありがとね、どうしよっか」みたいな感じで連絡がきたんです。やりたい方向性のリファレンスは出してたんですけど、「なに伝えたい?」みたいな感じになって。で、「FUTURE LOVERS」の歌詞の、アンドロイドと人間の禁断の愛っていう世界観を改めて伝えました。「『FUTURE LOVERS』なんで絶望だけではないんですよ。ちゃんと希望感も出したくて」って補足も入れたり。それで☆Takuさんが「希望と絶望と明るさを入れました」と言葉つきで最初にリミックスをあげてくれて。「本当に絶望とか希望が入ってる!」って、あれだけ感情が揺れ動く体験がなかったので、☆Takuさんすごいなってすごく感じましたね。曲を聴いて感動することももちろんあるんですけど、リミックスであれだけ感動したことが今までなかったので、お願いできてすごくよかったです。

Photo by ティム・ギャロ
Chaki Zuluとアーティスト空山基
ーあとやっぱり、冒頭の「Introduction」ですよね。Chaki Zuluさんのトラックでぐっと引きこむインパクトと、空山さんのアートが合わさると、一気に『CHAOS CITY』の世界に引き込まれるなと思って。
今市:あのイントロも、できるまでに何工程かあって、やっと辿り着いた感じなんです。最初80s絡みの音ではあったんですけど全然違う感じで、なかなかうまくいかなくて。で、Chakiさんと話して、ちょっとナイトライダー感というか、Kavinsky的な感じの曲をやったらいいねってなって、Chakiさんがあげてくれたんです。やっぱChakiさん、さすがだなって思いましたね。短い秒数ですけども、この曲があることですごく『CHAOS CITY』の世界観を伝えられるなっていうか。今後、このイントロも踏まえた、もっと『CHAOS CITY』を匂わせるような楽曲もいろいろ出していけたらと考えているので。『CHAOS CITY』自体、アルバムタイトルなんですけども長期プロジェクトとしても捉えてほしいので、長きにわたって『CHAOS CITY』プロジェクトで、いろいろ仕掛けてこうと思ってます。
ーChakiさんとはこれまでもクリエイターとして携わってきたと思うんですけど、今回のように単独で作曲してもらったのは初ですか?
今市:最初にChakiさんと関わらせてもらったのが、「RILY」っていう自分のソロの楽曲のインストです。それからの出会いなので、今ではもう「RILY」もそうだし、「Trick World」って曲とか、あともう何曲かセッションしたりしているので。今後もしっかりとコミュニケーションとってつきあって行きたい人だなとすごく思います。
ー今や本当に、最先端をいくトラックメーカーというかクリエイターのひとりですよね。
今市:そうですね。なんでもできるって感じです。なにやってもすごい。
ーChakiさんと最近のトレンドのこととか、情報交換みたいなこともしたりするんですか?
今市:LINEして話したりしますね。でも一番音楽の話するのは、Chakiさんのスタジオに行ったとき。自分とChakiさんとDJ DARUMAさん。DARUMAさんがつなげてくれた縁でもあったので、3人で音楽の話をしますね。ふたりともやっぱめちゃくちゃ音楽詳しいので、勉強になります。、毎回すごく刺激を受けますね。もちろん音楽もそうなんですけど、カルチャーとかもあの2人はすごく詳しいので。昔の不良の話とか(笑)、そういういろんな話を聞かせてもらったりして。だからあの2人といる時間はすごく好きですね。もう1、2年前とかですけど、Tomorrowlandでトランスがメインで盛り上がりそうなんだよね、みたいな話とか。最近は「これ!っていうのないよね」って話しましたね。実際ないなと思いますし、だから逆に、これをやっておけば間違いないってものはないと思うので、本当に自分がフィールしたものをやるのがいいんじゃないかなと思います。
託されたEXILEのDNA
ーボーナストラックで「Im just a man」と「THROWBACK pt.2」の2曲が入ってて、「THROWBACK pt.2」でEXILEの過去の曲をサンプリングして使っているのが、EXILEの魂を継承するっていう点で、EXILE愛が強い今市さんにとってもうれしいというか、意味のある曲になってるのかなと思うんですけど。
今市:そうですね。EXILE20周年を盛り上げるという意味で、リスペクトを込めているんですけど、EXILEのデビュー曲である「Your eyes only ~曖昧なぼくの輪郭~」をサンプリングさせてもらって自分が歌えることがすごいことだなって思いましたね。そこにはリスペクトの気持ちを本当に強く持って、EXILEメンバー全員に確認をとらせてもらって、ATSUSHIさんとも連絡取ったり、HIROさんともしっかり話して、やらせてもらいました。作曲のstyさんもEXILEに対して思いが強くて。styさんが作家デビューした曲がEXILEの「最後の告白~STAYPart2~」っていう曲なので、EXILEに対してすごく思い入れがあるんですよね。
ーLDHの背景にはブラックカルチャーやストリートカルチャーがあるわけで、サンプリングの文化は大事な要素ですよね。
今市:そうですね。確かにEXILEはずっと初期から、リミックス的なことをけっこうやってましたからね。
ーRolling Stone Japanではじめて今市さんにインタビューした際、サンプリングをメインにした90年代のヒップホップのサウンドに惹かれていて、それを現代的に表現できないかってことを考えてるって話をしてくれて。そのときはNe-Yoの曲とかを引き合いに出しながら話してくれたんですけど、こういった形で今市さんが過去のEXILEの素晴らしい曲たちをサンプリングしたりリミックスしたりするのは、すごく素敵なことですよね。
今市:海外の人たちのサンプリング文化って、同じ国の人たちの名曲などから引用するじゃないですか。でも日本人同士でサンプリングってあまりないなって思っていて。日本の楽曲をサンプリングしたいなってことは、実はけっこう前から思っていたんです。それがこういう形でできたことは、すごく自分にとっては大きなことだと思いますね。
ー『CHAOS CITY』は長いスパンで考えているっておっしゃっていましたけど、ライブがどうなるのか楽しみです。
今市:従来やってきたライブの形ではとれないようなコンセプチュアルな世界なので、そこはかなり力を入れて挑もうかなと思っています。
ー『CHAOS CITY』っていうコンセプトで、いろんなことができそうですね。
今市:そうですね。今までやってこなかった角度から、いろいろ仕掛けられたらいいなと思ってます!

Photo by ティム・ギャロ
<INFORMATION>

『CHAOS CITY』
今市隆二
発売中
※Online SHOP リンク一覧
https://jsb.lnk.to/0721_CHAOS-CITY-CD
※配信リンクURL
https://RYUJIIMAICHI.lnk.to/HighwayToTheMoon
三代目 J SOUL BROTHERS のボーカリスト今市隆二、約1年半振りとなるソロ3作目のオリジナル・アルバム『CHAOS CITY』をリリース。80sをテーマに制作された全曲新曲の渾身作で、空山基・作のセクシーロボットをアイコンにした仮想都市「CHAOS CITY」を舞台に、楽曲の物語を展開。