シンガーソングライターの甲田まひるが、2ndデジタルEP『夢うらら』をリリースした。表題曲はエキゾチックなダンスポップで、曲中のドロップパートはヴォーギング(マドンナの「Vogue」のMVで世界的に知られるようになったダンサーの腕の動きが特徴的なダンススタイル)をイメージ。
アレンジには前作EPの表題曲「California」に続き、Giorgio Blaise Givvnと、新たに成田ハネダも参加。ジャズピアニストからシンガーソングライターへ。アーティスト=甲田まひるの個性が前作以上に全面に出たEPとなった。カップリング曲「ごめんなさい」の話を含め、本作にまつわるインタビューを実施した。

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—1st Digital EP『California』のときは、作品を出そうと決めてからじっくり時間をかけて制作したとのことでしたが、今回はそこまで時間をかけずにリリースされましたよね。

甲田:一番最初に出す曲だったので、デモから理想の形にするまで慎重でしたね。
でも今回は『California』を出した直後から、すぐに次の曲のイメージを立てて作りはじめたんです。デモの完成が早く、そのときに描いてた通りの世界観で固まっていたので、こういう時期に出せてよかったと思います。

—オフィシャルインタビューには、とにかく元気な曲を出したいって書かれていたんですけど、そういうモードになったのは自然な流れなんですか?

甲田:そうですね。「California」はダークなイメージで作っていたこともあって、次は絶対ポップで元気な曲を書きたいってずっと思ってました。

—たしかに今回はパワフルですよね。

甲田:テーマも明るいだけじゃなくて、力強さのあるエールソングにしたかったので、その辺は意識しました。


—明るさや暗さの変化のニュアンスとか、そういうものを自分の声で表現することに関しては、掴めてきた感じってしますか?

甲田:レコーディング前は、どううまく聞こえるかを意識して練習してたんですけど、今回ご一緒した成田さんに「もうちょっと自然な感じで、喋ってるときの声を意識した方がいい」って言われたんです。うまく歌おうとするんじゃなくて、みんな私の”声”が聞きたいはずだから、って。そこで今まで準備してきたことを忘れて歌ったら、それがいいねってなって、全部その感じで歌ったんです。勉強になりました。

—レコーディングは緻密に準備していったんですか?

甲田:そうですね。練習できる期間がすごく長かったので、歌うことに対応できる体力だったり、歌唱もすごい練習して、ニュアンスとか声の出し方も音源とはかなり違います。
なのでライブではそっちも試したいなと。

—自然体で歌うことによって、曲が持っていた力強さやポジティブさがより分かりやすく表現されてるなと思いました。

甲田:自分で聞いていても、そのままの声だからこそ伝わることもあるんだなって思いました。

—等身大の声だからこそ、ラップとの対比がまた生きてくる。

甲田:はい。ラップは自分の中ですごく重要なパーツなので、人格を変えるくらいの気持でいつもやってます。


—ラップをもっと聞きたいって気持ちにもさせられるというか。

甲田:ほんとですか。うれしいです。

ソロワークスの理想と共同作業の面白さ

—ラップに関して、今回チャレンジしたことは何かありました?

甲田:曲中にラップが入る場所が、今までにないケースで。普段だとA→B→サビの次の2Aの部分でラップが入ってくることが多いんですけど、今回は作ってる流れでラップをしたくなったのが、2Bの直後でした。ちょっと特殊な順番なんです。
ラップそのもののセクションの入り方とか場所にこだわりを持って、その上で今回はちょっと異質な感じにしたかったので、歌い方とかもやりすぎず、でもちょっとクセのあるところを狙って録りました。

—ラップのリリックはトラックを聴いてから考える?

甲田:トラックができてからフローを入れていくんですけど、その段階では歌詞は適当に入れていって、活かせる部分は活かしながら最後に細かい歌詞をはめていく感じですね。

—じゃあラップも含めて「夢うらら」全体のテーマっていうのは、作りながら決まっていった感じですか?

甲田:割とそうですね。この曲は最初にトラックとメロディができて、そこから自分の夢とか目標をテーマに、明るい曲にしたかったので、なんとなく自分を応援できるような、人に聞いてもらったときに励まされるような曲にしていこうと描いていきました。作った時期が冬から春だったので、新生活に向けた曲にしようってところから、春うららっていう言葉と結びつけた感じです。

—「California」のときはアレンジャーに成田ハネダさんを迎えての共同作業ですよね。


甲田:自分じゃ思いつかないアイデアを出してくれるので、すごくかっこよくなったと思います。最初は自分の中で明るさ一辺倒でラップ部分だけ落ちる感じだった曲が、ラップ部分のサウンドをメインにアレンジしたデモを送ってくださって、それを自分の方で切り貼りさせてもらったり。曲がキャッチーになる要素を提案してもらえたので、1人だったらこういう曲にはなってないと思います。

—周りの意見を聞きながらやるなかで、いろんな刺激がありました?

甲田:刺激はあります。でも自分で完結させたいって気持ちはどうしてもあって、1から一緒に何かを作り上げるのはすごく楽しいと思うんですけど、自分の中にあるアイデアを共有するのは難しいと思っていて。どういうやり方が向いてるかは、自分でもまだわからないんですけど、これから探り探りやっていけたらと思います。

—カップリングの「ごめんなさい」はラテンの曲ですけど、これも新境地ですよね。どんなイメージで作ったんですか?

甲田:自分のデモにもいくつかあるんですけど、そもそもラテンの曲がすごく好きなので、それをちゃんと仕上げたいと思って作りはじめました。自分の中でラテンを作るって決めていたので、メロとかも書きやすかったんですよ。そこからテーマを決める上で、相手に気を遣って謝っちゃうときの本心じゃない「ごめんね」って言葉、いろんなシチュエーションで無意識のうちに使うことがあるんじゃないかなって思って。それを恋愛に置き換えたときに、自分を大切にできてるのかみたいなところに繋がってくるのかなと思って、そういう女の子の悩みを曲にしようと思いました。

—当初描いてたイメージのものより、いいものができた実感はありますか?

甲田:アレンジしていくにあたっていろいろ変わっていくので、制作中は違う方向に行ってるんじゃないかなって不安に思うこともあるんですけど、その都度持ち帰るようにして、これでいいのかって確認してました。でも結果、デモと聞き比べたら全然いいものになってるなって実感はあります。

今回のインスピレーションの源はダンス

—甲田さんは楽器のプレイヤーでもあるわけだから、ミュージシャンシップが高いからこそ、迷いはじめると答えが出ない部分もありそうですよね。

甲田:ほんとにもう、こだわっちゃうと終わらないんですよ。

—そこはどっかでラインを引かないと。

甲田:そうですね。これだったら大丈夫だなってところまではもちろんやるようにはしてるんですけど、判断力もつけないとダメだなって思います。そこはもっとたくさん経験していかないとわからないかなと思って、悩みまくってますね(笑)。

—でも前作に比べて、手応えはあるんじゃないですか?

甲田:そうですね。特に「ごめんなさい」は理想のサウンドになってて。自分の中では手応えを感じてます。

—オフィシャルインタビューによると、ダンスレッスンにも力を入れていたそうですね。以前はピアノだけだったのが歌やダンスも加わって、アウトプットがたくさんあることが自分のクリエイティブに影響していると思いますか?

甲田:歌うなら絶対ダンスボーカルって決めていたので、「California」のときからダンスも練習しています。「夢うらら」の”Vogue”のパートが生まれるきっかけはもダンスのレッスンでヴォーギングを教わったことだったので、インプットできる場が増えてるなって感じます。今回は踊りたいジャンルの曲を書いたことから始まったので、それは確かに表現する幅が広がったからだなってすごく感じてます。

—もともとピアノでリズムを捉えるトレーニングもしてきたから、身体で表現することにも活かせてるんじゃないですか?

甲田:習ってはいなかったんですけど、幼稚園のときもラブアンドベリーを真似して踊ったり、お遊戯会でもダンスは大好きでした。あとは運動会でソーラン節を踊ったときに、「自分、ソーラン節うまいな」ってなって、ダンスやりたいなってずっと思ってて(笑)。難しいですけど、確かに音楽やってたからっていうのは多少あると思います。

—「裏で刻んで」とか「三連で」とか言われても、音楽をやっていないと、なかなかその感覚を掴むのは難しいじゃないですか。

甲田:そうなんですよ! 最初は無理ですよね。よかった、やってて。

—「夢うらら」のミュージックビデオでも、レッスンの成果が出せたんじゃないですか。

甲田:本当ですか? ありがとうございます!

—一般的に「夢」っていうと、幻想的でカラフルな感じをイメージしがちだけど、ああいう白と黒を基調とした世界観もかっこいいですよね。

甲田:うれしいです。確かにちょっとイメージとギャップがあるかも。ファンタジーというよりはメッセージ性のある曲だと思ってるので、画がある意味シンプルなことで、そこがより伝わったらいいなと思ってます。

—”Vogue”のパートも、映像で見ることで伝わってくる部分はありますよね。

甲田:そうですよね。あそこは特に歌がないので。映像が同時に入ってこないとイメージしづらいと思います。MVが出て、やっと出せたって感じはありますね。そのためにファッションとかヘアメイクもこだわってるので、ぜひそこを見てほしいです。

歌って踊ることが一番

—「夢うらら」では、ネガティブな感情が原動力になったとオフィシャルインタビューに書いてありましたけど、ポジティブさの裏にあるネガティブさとか、喜びの裏にある悲しみとか、甲田さん自身は明るい面だけじゃなく、影の部分も持ち合わせていると思いますか?

甲田:自分の元々のベースがネガティブなので。起きてないことを心配するなって、よく周りに言われるんですけど、その出来事の最悪のケースを先に考えてしまうんです。そういう性格ってやっぱり治らなくて(笑)。自分でも嫌だなって思うんですけど。それでも届けたいとか、何かを伝えたいとか、その時点で矛盾があるなとは思ってるんですけど、だからこそ明るい未来を想像できるのかなとも思います。それでもやっぱり端々にネガティブな言葉が出てきちゃうのは、多分、本音というか、性格の部分なんだと思います。

—そういう本音の部分って、甲田さんと同世代の人たちの話を聞いたりするなかでも感じたりしますか? 

甲田:同世代と腹を割って話す機会はほとんどないので、日頃そう感じることはあまりないんですけど、Instagramでのファンとのやりとりとかで、悩んでる子が多いなって気づくことはあります。意外と自分がこの歳で悩んでることが、みんなが思ってることとイコールでおかしくないんだなってことは最近気づきました。だからこそ素直に書いた方が届くのかな、と思いますね。

—なるほど。ローリングストーンの記事で、心の痛みや叫びをリリックにする”エモラップ”についての記事があって、サブスクを通してそういう感情を皆で共有できるから、人気があると。

甲田:言葉ではうまく説明できないですけど、若い子ってみんなそういう感じがします。ネガティブな部分もあるところが当たり前になっていて。

—でも別に隠キャなのかって言われると、そうでもないし。

甲田:そうなんですよね。

—普通に明るい感じなんだけど。

甲田:そうそう。それが音楽になると、頭で考えないところでの繋がりみたいなものを感じられるんでしょうね。自分だけじゃないんだみたいな。

—そういう意味で言うと、さっきの「夢うらら」のアレンジの話で、そのままの声でいいよって言ってくれたのは、励みになりますよね。

甲田:ほんとですね。自分じゃそういうのって気づかないので、うまく歌おうとか考えるじゃないですか。そういうところも勉強になったなと思います。

—2nd EPをこうやっていい形で作品にしましたが、今後に向けて考えてることはありますか?

甲田:年内には次の作品を出したいなと思ってます。ライブも経験してないですし、歌ってみるとボーカルの反省点も新たに見つかると思うので、それはまず経験したいです。ライブとリリースを次に期待していただけたらなと思ってます。

—歌もダンスも楽器もできるわけだから、いろんなステージングが考えられますよね。

甲田:そうですね。でも自分はやっぱり歌って踊ることが一番やりたいことなので、とにかくヘアメイクとファッションを可愛くして、楽しんでもらうことを実現したいです。

—最後に、最近甲田さんが聴いてる音楽って何かあります?

甲田:レゲエが好きなんです。王道なものも、レゲトンも好きでよく聴きます。最近はバッド・バニーとか好きですね。ああいう曲を作りたいです(笑)。レゲトンっぽくて、ちょっとラップも入ってるみたいな曲がすごくかっこいい。

—意外な答え。でもそういうギャップがいいと思います!

甲田:レゲエダンスのクラスも受けてみたりしてるんですよ。その影響かもしれないですね。やっぱり踊ってるといろんな出会いがあります。

甲田まひるが語る、矛盾のなかから湧き上がる創造性

Photo by Kentaro Kambe

<INFORMATION>

甲田まひるが語る、矛盾のなかから湧き上がる創造性

『夢うらら』
甲田まひる
ワーナーミュージック・ジャパン
配信中

1. 夢うらら
2. ごめんなさい
3. 夢うらら(Instrumental)
4. Yume ooh la la.pf

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