事実、2013年に結成されたジャングルは、この10年のUKダンス・ミュージック界において、ディスクロージャーに次ぐビッグ・アクトだ。過去の3作はいずれも本国のアルバム・チャートでトップ10にランクイン。この8月にはロンドンで開催される音楽フェス〈All Points East〉でのヘッドライナーを控えている。なお、ジャングルと同日に出演するのはエリカ・バドゥやレイ、ブレスド・マドンナ、バッドバッドノットグッドなど錚々たるソウル~ダンス・ミュージックの面々。彼らをおしのけてのトリということで、ジャングルの人気っぷりが窺えるだろう。
それにしても、なぜジャングルはここまで本国のリスナーから支持を集めているのか。ジョシュ・ロイド・ワトソンへのインタビューでは、ブリティッシュ・ソウルの系譜に彼らを位置付けながら、その理由に迫ってみようとした。結果的に筆者の目論見は外れてしまうのだが、そのスベっていくやりとりから、不思議とジャングルの特異性(と成功した理由)が浮かび上がってきているとも思う。
—今回は新作『Volcano』についてのインタビューですが、ジャングル結成10周年のタイミングということもあり、あらためてあなたたちの音楽がどのように形成されていったのかについても教えてほしいです。そもそも、あなたがソウルやディスコといった音楽に夢中になったのはいつ頃なのでしょう?
ジョシュ:うーん、ソウルやディスコ自体は僕の好みの音楽ではないんだよな。ファンクは好きだけどね。
—そうでしたか。それでは、ジャングルの音楽にあるソウル・ミュージックの要素は、どこからきたものだとお考えですか?
ジョシュ:僕とトムは10歳くらいから遊び仲間で、いつしか2人でバンドをするようになったんだけど、僕自身は1人でヒップホップ的なビート・ミュージックも作り続けてたんだよね。その頃に影響を受けていたのは、ティーブスやJ・ディラといったヒップホップのプロデューサーだった。彼らはソウルのレコードを切り刻んでサンプリングしていて、そこにすごく魅力を感じた。そうした音楽からの影響がジャングルの初期のサウンドを形成したんじゃないかな。僕たちのサウンドにあるソウルやディスコといった要素は、あくまでもヒップホップのサンプリングの手法が与えたものだと思う。

ジャングル 左からトム・マクファーランド、ジョシュ・ロイド・ワトソン(Photo by Arthur Williams)
—なるほど。あなたの育った西ロンドンは、4ヒーローやバグズ・イン・ジ・アティックといったソウルフルかつジャジーなエレクトロニック・ミュージックのユニットを輩出してきました。街の音楽カルチャーのなかでも彼らの存在感は大きいですか?
ジョシュ:どちらも聞いたことがないな。バンドなの?
—バンドというか、ユニットですかね。
ジョシュ:その2組については知らないから何とも言えないけど、ロンドンにはいたるところにシーンというかカルチャーがあって、独自の音楽を作っている人たちがたくさんいるよね。僕たちが育ったシェファーズ・ブッシュは……厳密に言うとGoldhawk Road(ゴールドホーク・ロード)なんだけど、いろいろな人種のコミュニティが入り交じっているエリア。僕は家の3軒隣にあるタウンハウス・スタジオというスタジオでよくリハーサルしてたんだけど、ここは、ブラーが「Parklife」をレコーディングした……少なくとも最初のボトルを割る音をレコーディングしたスタジオらしいよ。ちょっとしたトリビアだね(笑)」
—あの印象的なパリーンという音ですね(笑)。70年代末から80年代初頭のブリット・ファンク、80年代後半から90年代前半のストリート・ソウルなど、UKには独自のソウルを育んできた歴史がありますよね。ここ数年のイギリスのソウル・シーンについてはどんな印象を持たれていますか? あなたたちにとっては旧知の仲であるインフローが近年ますます活躍していたり、エドブラックなど若手プロデューサーが登場していたりと、充実しているように見えるのですが。
ジョシュ:エドブラック? 知らないな。僕にどんなことについてコメントしてほしいの?
—そうですか。ここ数年のイギリスのソウル・シーン全体について、あなたの所感を教えてほしくて。
ジョシュ:特に何の印象も持っていないかな……。僕たちにはそうしたシーンの一部という自覚もない。実際よく知らないし、ちょっと難しい質問だね。
—わかりました。最近のものより、古い音楽を聴いている感じですか?
ジョシュ:いまはどんな音楽もあまり聴いていないなぁ。聴くよりもむしろ作りたいという感じだから(笑)。ただ最近はボサノヴァをよく聴いているよ。セルジオ・メンデス&ブラジル'66とかそのあたりだね。あとは、デヴィッド・アクセルロッドとか、そんなのを聴いている。サイケデリック・ソウルというか、そんな感じのサウンドが好きなんだ。
— サイケ・ソウルの感覚はジャングルにもありますよね。おそらく新作の「Don't Play」では昔のソウルをサンプリングしていますよね? あそこは何のレコードを使ったんですか?
ジョシュ:エンライトメント(Enlightment)の『Faith Is The Key』という1984年にリリースされたアルバムから使ったんだ。このレコードはコレクターズ・アイテムだったんだよね。一時は800ドルくらいまで値上がりしていたレアな作品なんだ。3年か4年くらい前に初めて聴いたんだけど、タイトル曲がすごく良くて、どうしても僕たちの曲に使いたいと思った。
―ライセンスがとれてよかったですね。ちなみに、あなた自身はジャングルのサウンドのどんなところにブリティッシュネスを感じられますか?
ジョシュ:どうだろう。自分ではあまり感じることがないというか、自分たちがブリティッシュであるということ以外はよくわからないかも……。子どものとき、よく集まってジャムセッションしていたんだけど、GTAなんかのゲームも同時にプレイしてたから、いつも後ろでゲームがつけっぱなしになっててさ。それがある種のビジュアル的な背景になっているというか、そのゲームのサウンドトラックを作るような感じで、曲を作ったりジャムったりしていたんだ。ゲームの舞台はロサンゼルスだったり、マイアミだったりしたから、海沿いのサンセットの情景に合うサウンドをめざした。つまり、ジャングルの音楽はエスケープ・ミュージックなんだ。ブリティッシュネスというより、むしろもっとワールドワイドなサウンドだと思う。
ニュー・アルバム『Volcano』について
—では、ニュー・アルバム『Volcano』の話にいきましょう。前作『Loving In Stereo』から2年足らずで本作が届いたことには、あなたたちのクリエイティビティ―が漲っていることを感じました。前作の手応えが大きかったことで、後押しされた面もあったのでしょうか?
ジョシュ:そう思うよ。
—エリック・ジ・アーキテクトやチャンネル・トレス、ルーツ・マヌーヴァら多くのゲスト・ボーカルをフィーチャーしていることもあり、今作は”自分たちがメインで歌わなくてもジャングルはジャングル”という自信が表れた作品だとも感じました。このアルバムを制作してみて、プロデューサーやトラックメイカーとしてより成熟した実感があるんじゃないですか?
ジョシュ:100パーセントそう感じているよ。もちろん僕たちはソングライターでありプロデューサーであって、ザ・ウィークエンドというよりはダフト・パンクに近いと思ってるし。始めた頃からそこは変わっていないけど、最初は自分たちでも歌っていたからね。
—チャンネル・トレスとコラボした「Ive Been in Love」は、英米のモダン・ファンク両雄が一堂に会したという感じで、非常にホットですね。
ジョシュ:彼と会ったときに、すごく気が合ったから一緒にやってみようということになったんだよね。それで2019年に一緒にトラックを作ったんだけど、それからなんの音沙汰もなくて(笑)。2022年にふと、いろいろな歌や音、サンプルやらが足されて戻ってきたんだ。そのとき、僕はすでに「Ive Been in Love」という曲を書いていて、サビの部分も自分で歌って録音してあったんだよね。でも、なんかどこかで聴いたことのあるような曲になっている気がして。それで、この2曲をくっつけたらどうだろうと思いついたんだよ。曲のちょうど真ん中ぐらいの”Dyin just to be in your arms”っていう部分で、僕の仮歌と彼が歌ったものを重ねたんだ。彼は完成したものを聴いて、「すごくクールだ!」って喜んでいたよ。この曲の顛末はおもしろかったね(笑)。
—「You Aint No Celebrity」にフィーチャーされたUKのレジェンダリーなラッパー、ルーツ・マヌーヴァについても教えてください。2000年代前半に彼がBig Dadaからリリースしていた作品はやはり愛聴していたんですか?
ジョシュ:そうだね。当時はUKヒップホップにハマっていたから、彼の作品も聴いていた。ルーツ・マヌーヴァは、きっと「Witness the Fitness」が最大のヒットだと思うけど、他の曲も聴いていたよ。「You Aint No Celebrity」には、僕が抱えていた不安というか、怒りというか、エネルギーというか、そんなものが込められている……。言葉で表現するのは難しい、入り交じった感情のようなものだね。そこに、この曲と近いテンションを持つルーツ・マヌーヴァのラップをマッシュアップしたことで、誰もが同じように感じることのできるヴァイヴを生みだすことができた。”君はセレブリティなんかじゃないから、まるでプリンセスのように振る舞うのはやめてくれ”っていう、ワガママで周りに気遣いを強要するような、自分のことをまるでわかっていない人たちに向けられた感情というかね。
—今回は、前作以上にリディア・キットーの貢献も大きかったようですね。すべての曲で共作者としてクレジットされていますし、彼女がメイン・ボーカルをとっている楽曲も多いです。
ジョシュ:彼女はジャズ出身のミュージシャンなんだけど、前作からとても良い関係を築いていて、かなり密に一緒に曲作りをしているよ。彼女と作ったサウンドはすでに僕たちの一部となっているから、今作でも彼女に参加してもらわないわけにはいかなかったというか。彼女はシンガーとしてもプロデューサーとしても、ミュージシャンとしてもソングライターとしても、とても才能が豊かな人で、ニュー・アルバムにも生命の息吹を吹き込んでくれるような存在だった。彼女の歌の比重が多いのは、さっきも言ったこのアルバムの作り方が関係しているんだと思うな。人によっては「より売れるように有名なゲスト・ボーカルをフィーチャーしよう」と考えることもあるんだろうけど、このアルバムはそうじゃない。とにかく短い時間で集中して作ったものだし、どの曲も1時間、長くても1時間半しかかけずに作った。それが功を奏したんじゃないかと思う。その結果、僕たち自身もいまの時点でのジャングルの最高傑作だという自負があるんだ。

Photo by Lydia Kitto
—これまであなたたちはあまり他のアーティストをプロデュースしていないですよね? 特に今回の作品を聴くと、シンガーとのコラボで素晴らしい作品が出来るのでは、と想像していますが、そういった野望はありますか?
ジョシュ:確かに、これまで大々的にアルバムをプロデュースするようなことはしていないね。そうだな……フランク・オーシャンとかやってみたいね。彼は本当にすごいアーティストだと思う。過去のアーティストだと……たとえば自分が聴いて育ったザ・ストロークスとかかな。それに、すごく古いものだと『Pet Sound』以降のビーチ・ボーイズは興味深いね。彼らのことは大好きだし。
—ジャングルのプロデュースしたザ・ストロークスはぜひ聴いてみたいです(笑)。さて、現在は8月末に開催される〈All Points East〉でのヘッドライナー出演を控えているところかと思います。エリカ・バドゥやバッドバッドノットグッドなどソウル色の強いラインナップですが、どんなライブにしたいと考えていますか?
ジョシュ:どんなライブに? 音楽をプレイするものにしたいかな(笑)。その質問はおもしろいね。まあ、いままでとは全然違ったことをやるつもりはないよ。いきなりバレエダンサーが出てきたりはしないよ(笑)。これまでのように、みんなが楽しめる夜にしたいね。

ジャングル
『Volcano』
2023年8月11日リリース
数量限定トートバッグセット、日本語帯付きLPも同時発売
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13338
