多くのミックスと同じように、ティエラ・ウミ・ウィルソンも2つの文化的背景を持って生まれてきた。ミドルネームのウミ(日本語の「海」に由来)をアーティストネームとして活躍する1999年生まれの彼女は、ブラックの父親と日本人の母親のもとにシアトルで生まれ、自らが背負っている文化の交錯について問いかけ続けてきた。2020年にリリースしたEP『Introspection』で彼女は、人種、セクシュアルアイデンティティについて、自身に課してきた問いを音楽に託した。
同EPは彼女の内面を歌ったものだったが、昨年発表のデビューアルバム『Forest in the City』からは、彼女の関心の変化が感じられるだろう。テーマはより普遍的なものになり、太陽を浴びているかのような、心地の良いエレクトロR&Bサウンドの「whatever u like」から、ムーディーなスロウ・ジャム「moonlit room」まで、ダイナミックなサウンドが披露されている。この変化は彼女が育ってきたコミュニティに対して、彼女自身が新たな価値を見出し始めたかのようだ。
「私は日本人でもないしブラックでもないと思って育ってきた。自分が何者かわからなかった」と彼女は話す。「歳を重ねて気づいたのは、自分が思うように生きれば良いっていうこと。
UMIはシアトルからロサンゼルスに引っ越した環境の影響、音楽に対するアプローチの変化などについて語ってくれた。
ーあなたの音楽には、「平和(Peace)」についての考え方が中心にあるそうですね。どのような経緯で「平和」をアルバムのテーマとして捉えることになったのでしょうか?
UMI:近年は多くの人々が、「消費」が自分たちの生活に与える影響について、真剣に意識し始めたと思う。自分自身を振り返ったときに、食べ物や時間を共にする相手だけじゃなく、どんな音楽を聴いているかというのも、実は生活に影響を与えているんじゃないかと思った。今回のアルバム制作を終えて、私の音楽には新しい空気、小さな森、平和が含まれていて、重要な目的があることに気づいたの。
ーシアトルからロサンゼルスへ引っ越したことは、アルバムにも影響を与えていますか?
UMI:(LAの)グリフィスパークにいた時に、アルバムのタイトルが思い浮かんだ。ただじっと座って、鳥のさえずりやサイレン、車のクラクションを聴きながら、「これは人類の進化を象徴するような場所だ」と感じたの。
「私は都会のなかの森にいる」っていうアイデアが強く残って、みんなにもこの感覚を感じてほしいと思った。たとえLAの街を運転中でも、ニューヨークの地下鉄、もしくは飛行機の中にいるとしても。そういった場所で自然なんて感じられないと思うだろうけど、私の音楽を通して、公園にいるときに感じる感覚、街と自然の見えない繋がりを見せたかった。
ー制作意図についてもう少し伺えますか? あなたのアプローチにはスピリチュアルともいえる、深い考えがあるように思います。
UMI:音楽を作るのは純粋に楽しいけれど、私にとって、どこか神聖な意味合いもあると思うの。
ーそのような外側へのフォーカスは、数年前にリリースされた「Introspection」の頃から変化があったように思われます。内面から外側へのフォーカスの変化はどのようなものだったのでしょうか?
UMI:「Introspection」は世界中の人たちが内側へと閉じていた時期を反映している。私を含め、みんな自分自身を深く知ろうとしていた。この作品は、私自身について知ったことのすべてなの。でも、作り終えた後に、実はたくさんの時間を人と過ごしていたって気づいた。「これは普遍的で、私だけに起こったことじゃない」って。
『Forest in the City』はその考えから来ているわ。「私の経験を他人と関連づけることは、はたしてできるんだろうか?」って考え続けていた。
ー世界的規模でのセルフ・リフレクションの時期を経て、コミュニティの在り方も変化し、多くの人が、近所の人たちと協力するようになったように感じます。あなたにとってのコミュニティの定義に変化はあったのでしょうか?
UMI:コミュニティは人生そのものだと思う。『Introspection』を制作しているとき、私は何でもできるような気持ちになっていた。まるで一匹狼のように、自分でビデオを作ったり、誰にも頼らずに制作ができるって。だけど、『Forest in the City』では頼れる仲間たちと一緒に制作したいと思った。その変化がアルバムに反映されている。チームの仲間たちとビデオを一緒に作って、曲を聴いてもらいながら制作した。ツアーでも、観に来てくれたファンに向けてパフォーマンスしている。以前とうってかわって、コミュニティはいまの私の人生の軸になっているから。
2つのルーツを行き来するような感覚
ーよりパーソナルなコミュニティについて伺いたいのですが、あなたはブラックもしくは日本人に属していると感じたことはありますか?
UMI:いつも、その狭間を行ったり来たりしているような感覚がある。それはミックスとして生まれたからこその経験なのかもしれない。
ーどこにも属さずに、自分の場所を確立するというバランスを見つけたことは、作品にも影響していると思いますか?
UMI:このアルバムを聴いたらわかるように、どのジャンルとも言い表せないと思う。一方で、私自身はブラックの血を引いて、ブラックコミュニティで演奏して育った影響が音楽にありありと見えるの。ゴスペルから参照したメロディを音楽に使っているとき、ブラックとしての私がいると感じる。かたや、ディティールへのこだわりに対しては、日本人のコミュニティで育ち、日本の芸術に触れてきたことが反映されている。そのことは私のR&Bへのアプローチをとてもユニークなものにしていると思う。最近、「ここには日本人の私がいる」って感じることがあって、その感覚って光栄なことだよね。
UMI初来日ライブの様子
宇多田ヒカル「First Love」のカバー
ーあなたのインスピレーションの起源を、ライブで体感することはできますか?
UMI:ライブは演劇のスタイルで、過去から今に至る私の旅路を描いている。あるとき気づいたのは、一定の時間が経つと、みんなスマホに集中してショーを観なくなるっていうこと。それはきっと、みんな似たようなタイプのショーをしているからだと思う。その話でいうと、FKAツイッグスのパフォーマンスには大きな刺激を受けた。ただマイクを握って歌うだけじゃなくて、もっと他にできることがあるんだなって。
ショーに来てくれたみんなに、何かを感じ取ってもらいたいという深い願いもあって。私たちは自然の一部であり、深くつながり合うことができると思い出してもらうことに、私はとてつもない情熱を注いでいる。
From Rolling Stone US.

Photo by Ryusei Sabi
UMI
「happy im」
配信リンク:https://UMI.lnk.to/happyimJP
SUMMER SONIC EXTRA(単独公演)
8月17日(木)東京・代官山SPACE ODD *SOLD OUT
詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/umi-ssextra/
SUMMER SONIC 2023
2023年8月19日(土)、20日(日)
千葉 ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ / 大阪 舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
※UMIは8月19日(土)東京会場、20日(日)大阪会場に出演
公式サイト:https://www.summersonic.com/