2022年9月7日にリリースした1stシングル「Overdose」が、2023年Spotify年間ランキングで「国内で最も再生された楽曲」6位、「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」13位にランクイン。2023年は計6曲の新曲を発表し、Spotifyの年間再生回数は累計1.5億超えを記録。
さらに12月20日には、なとりというアーティストの可能性を決定付ける1stアルバム『劇場』をリリースした。なとりの音楽が、国内及びアジアをはじめとする海外リスナーをこれほどまでに魅了しているのはなぜか。楽曲に込める痛みと救い、音楽的な手法、トレンドへの感度など、あらゆる要因を本人インタビューから紐解く。数字で見える驚異的な功績の裏では葛藤や不安も抱えている、なとりの実態もまた魅力的である。

なとりの価値観とルーツ

ー顔出しせず、これまでインタビューもほとんど受けずに活動されていますが、それはどういった想いからですか。

なとり:顔を出してない理由は音楽を聴かれたいからで。
音楽に集中してもらうために、顔は情報として必要がないなと思って出してないですね。

ー人間にとって視覚から得る印象は強烈だから「こういう人がこんな音楽を作っているんだ」って、どうしたってビジュアルから何かしらのイメージを持ってしまいますよね。

なとり:それは音楽をする上で余計な情報かなって。無駄な情報はなるべく省きたいなと思って。インタビューに関しては、しゃべるのが苦手なので「やめてください」って(スタッフに)お願いしてました(笑)。

ー今回はなとりさんの深みがしっかり読者に伝わる記事にできればと思っています。
なとりさんにとって2023年は、ある種、実力が試されるような期間でもあったのかなと思います。1曲は運よくバズらせることができても、それ以降も聴かれる曲を作り続けられる人は本当に一握りで、「なとり」というアーティストはそれができるのかどうか、という位置に立たされていたんじゃないかなと。でもそこでいい曲を作り続けられる実力を持っていることを証明した1年でもあったと思います。

なとり:ありがとうございます。いやあ、嬉しいな。最初はめちゃくちゃ不安だったんですけど、自分の出したい曲を出した方がなとりとして生きていく上で楽になるなと思ってから、本当に出したい曲を出させてもらったら運よくここまで来ることができました。


ー自分の出したい音楽とは、どういうものを想像していたんですか。

なとり:僕はポップスを作りたいというイメージがあって。ポップスといっても、最近の「エレピが入って……」みたいな曲じゃなくて、昔の曲のような上質なポップスを作りたいと思っています。

ーそれは、今のトレンドとかけ離れているという感覚がありますか。

なとり:かけ離れていると思うんですけど、多分みんなそこに帰ってくるだろうなと思っているので。というか、そこに帰ってきてくれ、という意味合いでもそういった曲を作っているのかもしれないです。


ー人生で初めて作った曲が、アルバム『劇場』に収録されている「金木犀」ですよね。自分で音楽を作ってみようと思ったきっかけは何だったんですか。

なとり:キタニタツヤさんがめっちゃ好きで。YouTube LiveでDTMの画面を映しながら曲を作るということをやっていて、そのときに「すごい、なんだこれ」みたいになって。スマホでもそれができることを知って作ってみたのが「金木犀」でした。

ー1曲目からなとりさんの芯が曲全体に出ている気がしていて。
これは、どういう自分を出した曲だといえますか。

なとり:初めて作った曲なので、それまで聴いてきた曲のリファレンスの蓄積がめちゃくちゃ濃かったんですよね。パートごとに「あの曲のあそこをリスペクトしているんだろうな」って、デモを聴いているとより思います。いろんな人のハイブリッドな曲なのかなと思ってますね。

ーなとりさんが聴いてこられた音楽とは、どういうものがあるのでしょう。

なとり:時期によって変わるんですけど、最初に音楽に触れたきっかけはORANGE RANGEなんですよね。
一回り上の姉貴がORANGE RANGEをめちゃくちゃ聴いていて、家の中でもずっとかかっていて。母親はママさんアカペラグループをやっていて、ゴスペラーズがずっと流れていたのでそれも聴いてました。その2つが人生の第1章を作ってきた方たちで、それ以降は「歌ってみた」からネット音楽、ボカロ、ロックとかに傾倒していきました。米津玄師さんがシンガーソングライターとして台頭してきた頃に「うわ、かっこええ」ってなって、そこからボカロとまたポップスを追うようになって、みたいな感じです。

ーブラックミュージックの要素も色濃くありますよね。

なとり:サブスクで全部の曲をリファレンスにできるので、全ジャンルを一通り聴いて、そこから吸収できるものが出ているのかなと思いますね。コード感も普通の感じじゃなくて、ブラックミュージックとかR&Bのテンション感が組み込まれているのかなと思います。

ー歌のニュアンスも特徴的だと思うんですけど、それはどういうふうに習得したものですか。

なとり:それこそ歌い手とか好きなアーティストからめちゃくちゃ取っているとは思うんですけど。特徴的って感じるのは、僕の音域が、多分今のポップス界にはいなくて。めちゃくちゃ低いんですよ。声が高い人のエッセンスと、僕の好きなアーティストのエッセンスと、僕の音域が混ざっているので、聴いたことのない声なのかなとは勝手に思っています。

弱いやつの味方になる曲を作りたい

ー「金木犀」の歌詞にもなとりさんの芯が表れていると思っていて。特に”寄る方なく、痛みは寄り添っている”という一行。「痛みに寄り添う」というのはなとりさんの音楽全体に通ずるものだと思うんですけど、そういった表現が出てくる背景にはなにがあるのだと思いますか。

なとり:多分、ボカロの世界観。僕もボカロを聴いていた時期は、自分をわざと苦しめたりあえて窮屈に生きて感傷に浸ったりすることが、めちゃくちゃ好きだったんですよ。だから多分、自分の曲で感傷に浸りたい、みたいなことを思いながら作っているんですけど。学生時代は陰キャというかものすごく根暗なやつだったので、根暗なやつらにかっこつけてもらえる曲や根暗なやつの味方になれる曲を作りたくて。それこそ、自分の曲を聴いて感傷に浸ってほしいなと思いながら作っていると思います。僕がそれに救われてきたので、救ってくれた人みたいになりたいという気持ちがありますね。

ーなとりさんにとってのそういう音楽がキタニタツヤさんだった?

なとり:ああ、マジでそうですね。今でも感傷に浸って聴くときがあるので。やっぱりあの人の影響はすごいなと思います。

ーもう一歩だけ掘って聞いちゃうと、根暗な性格や自己嫌悪の背景にはなにがあったのか、自己分析できていたりしますか。

なとり:多分、根暗な部分を形作っているのは母親とか父親の影響で。普通の家庭に比べてものすごく制限が多かったんですよ。些細な部分で人と違って、変に自信をなくした時期があって。でもそれ抜きにしても、もともとあまり自信を持てない性格だったので。あとはなんだろうな……ボカロにその弱みにつけ込まれちゃったので、そう生きるしかなかったなって(笑)。

ーでもその経験と心があるからこそ、こういった空気感の音楽を作れるということですよね。同じような人たちっていっぱいいるから。普段は明るい顔をしていても、実際は痛みを抱えていたり自信がなかったり。

なとり:めちゃくちゃいると思います。今の時代、特に。そういう人のための曲を今後も作っていきたいなと思います。

ー「時代感」みたいなものを、なとりさんはどう感じ取っているんですか。

なとり:SNSの面白いものや数字がついているものって、絶対に否定的なものがあると思っていて。そこで「なにやっても否定されるじゃん」っていう感じが染みついちゃってるのかなと思って。

ーアーティストに限らず一般人のポストとかでも、「なにやっても否定される感」はありますよね。しかも否定的な反応が多かったり、そもそもなにかを否定していたりするコンテンツが、どんどん盛り上がってアルゴリズムに乗って回っていく。

なとり:めっちゃありますね。とにかく、弱いやつの味方な曲になれればいいなと思ってます。

ー弱いやつの味方なんだけど、曲全体の装いはそうじゃないんですよね。それがなとりさんの音楽の新しさなんじゃないかと思いました。

なとり:ああ、僕の出方でおしゃれな曲を作ってる人があまりいない、みたいなことはいろんな人によく言ってもらえますね。そこは新しいジャンルを切り開いたのかなって。結果論ですけど、そう思います。でも僕って、全部がおしゃれではないんですよね。だから陰キャの入口としてもいいものを作れたのかなと思います。

「Overdose」ヒットの裏側

ー2021年5月に初めてTikTokに投稿して、そこから1年間、結構な本数を上げてから「Overdose」がバズった、という流れですよね。「ぱっと出したら反響があった」ではなく、積み重ねてきてのヒットだった。2021年5月から「Overdose」を出すまでの1年間は、どんなことを考えながら過ごしていたんですか。

なとり:当時は仕事をしていて、そのときの上司がめちゃくちゃ嫌いだったんですよ。今思えば、仕事ができない僕にちゃんと教えてくれたり怒ってくれたりしてくれていたのかなって思うんですけど。その人への悪口とかを曲に投影したり、とにかくいろんなことが上手くいかなかったので、聴いてくれているみんなにはバレないように、恨み辛みを音や歌詞で表現したりしていて。とにかくしんどかったですね。しんどかったけど、曲を作るのはすごく楽しくて。その期間にいろんな曲も作れたし、なとりのファンの母数が増えていっていたので、頑張ってよかったなと思う1年でした。とにかくその人が嫌いで、曲を作って早く売れようという気持ちはありました。

ーその1年間で曲作りとファンの基盤を少しずつ築いていたからこそ、「Overdose」のヒットがあったし、バズのあともこうして活動を続けられていることを実感していると。当時は、早く売れたいという気持ちだったんですね。

なとり:最初は「何年かやっていくうちに、ちゃんと音楽でやれればいいな」と思ってやっていたんですけど、ずっと仕事してる中で「やっぱり音楽をしたいな」という気持ちが増えていって、音楽をするためには売れなきゃいけないっていう。それで「売れたいなあ」と思ってました。

ーいただいた資料のセルフライナーノーツに、「Overdose」は「想像以上の反響があって、逆に自信を失くしたくらいだった」って書いてありますよね。当時はどういう心境だったんですか。

なとり:めっちゃ自信なくしましたね、本当に。もうマジでやばかったですね。ちょうどTikTokの再生数とかが落ちてきたときだったんですよ。それでTikTokを一番使っている層に使ってもらえる曲を作ろうと思って「Overdose」を作ったんです。それが思いのほか、反響がでかくて。それこそ僕が音楽とか関係なしに「こいつかっこいいな」「この子かわいいな」と思って見ていた人たちが踊ってくれていたので、最初はめちゃくちゃ怖かったし、いざリリースしてからも、何百万という数字が重なっていく瞬間がめちゃくちゃ怖かったです。

ー「嬉しい」とかより、一番大きい感情は「怖い」なんですね。

なとり:めっちゃ怖かったです。下積みも短いので僕の好きなアーティストは僕のことをどう思ってるんだろうとか思ったし、もしかしたら顔バレしてるんじゃないのかなとか思って歩くのが怖かった時期もありました。

ー「Overdose」の再生回数が回っていく中で、そこに実力がともなっているのか、いってしまえばただのラッキーパンチだったのか、自分でもわかってない感覚があった?

なとり:そうですね。正直、今もわかってないんですけど。ラッキーパンチだったなとは思っているんですけど、そのラッキーパンチで掴んだ人たちを囲って逃がさないためになにができるのかを今もずっと悩んでいるかもしれないです。

ー「Overdose」はトップインフルエンサーたちが使いたくなる曲について考え、狙って作ったところが大きかったんですね。

なとり:めちゃくちゃ狙ってました。当時のトレンドを自分なりに分析して、とにかく全部ノセみたいなことを意識して作りましたね。

なとりロングインタビュー 海外も魅了する若きヒットメーカーの素顔

※Spotify Blend:ユーザー間(最大10名まで)でそれぞれのリスニング傾向をかけあわせ、パーソナライズされたプレイリストを作成する機能。データは2023年12月中旬時点のもの

ートレンド分析はどのようにやっていたんですか。

なとり:TikTokのサブアカを作るんですよ。見るだけのアカウントで、検索履歴とかアルゴリズムに縛られないような見方をして。そこで「やっぱりこういう曲が流行ってるんだ」って調べたり。「なとり」のアカウントでは音楽の人をめっちゃ見るんですけど、動画を実写にチェンジした瞬間に伸びた人がいたので自分も変えてみたり。「Overdose」を出す一個前に初めて実写を出したんですけどそれはちょっと暗くて、明るい時間帯に撮ってみたのが「Overdose」だったので、「これがいけるんだ」みたいなことを思いました。

ー音楽のトレンドもそうだけど、TikTokの中の音楽系動画のトレンドも変わりますよね。今も自分で撮影・編集してるんですか?

なとり:はい、しょぼい編集ですけど(笑)。

ーいやいや。「ミュージシャンが動画の撮影・編集センスも必要な時代なのか」と思うこともあるけど、それはトレンドやアート全般へのアンテナが長けているからこそできることだなと思います。これも資料に書いてあることですけど、「トレンドと、なとりのエッセンスをぶつけ合わせるとどうなるのか」を考えたと。「Overdose」に入れた自分のエッセンスとは、具体的にどういうことを考えていたのでしょう。

なとり:さっきも言った(歌声の)音域がひとつあるのと、これはあとから知ったことですけど、ベースラインとかも音楽理論的には破綻していることをやってると人から言われたりして。あとは僕、音楽で一番大事だと思っているのが裏拍、ゴーストノートで。それと、メロディの中でもったいない部分を作らないこと。全部メロディで埋めたいんですよ。白玉で「テー」って伸ばすじゃなくて、「テッテッテッテテテレ」みたいにいきたくて。無駄なものを作らないことはめちゃくちゃ意識していて、それがなとりのエッセンスなのかなと思っています。

ー今、いろんな人がなとりさんに「どうやったらバズりますか」って聞きたいところだと思うんですけど、そう聞かれたらどう答えますか。

なとり:ええ!?(笑)。「いい曲を作る」ですかね。これは僕にも跳ね返ってくることなんですけど。なんなら僕も「どうやったらバズりますか」って聞きたいくらいなので。「いろんな曲を聴いて、いい曲を作る」ということしかないですね。

SNSに対する感謝と困惑

ー「Overdose」がバイラルしている最中に書いたのが、SNSをテーマにした「食卓」?

なとり:いや、これは「Overdose」のちょっと前で。「猿芝居」のデモを投稿したときにたくさん反響があったんですけど、コメントが全部悪口だったんですよ。「パクリ」とか「聴いたことある」みたいなこと言われてイライラしたんですよね。「悲しい」よりも「なにを言ってんだこいつら」みたいに思って。ちょうどTikTokの曲が悪い意味で揶揄されている瞬間とかもあって、「こいつら全員ぶっ殺す」みたいなテンションで1曲作ろうと思ってできたのが「食卓」。バカにしてるやつらを食い殺すみたいなイメージで作りました。TikTokを見ていると、スワイプしてる瞬間がご飯食べる円卓を回しているように見えて、それで作りましたね。

ー”「生命」の食卓の上を”という表現がいいですよね。

なとり:ああ、ありがとうございます。批判をしてくる人ってSNSに生命があると思っていて。それを食ったら、こいつらめちゃくちゃしんどいだろうなと思って。でも食べますよっていう。とにかくヴィランになったつもりで書きました。”「生命」の食卓”にはいろんな意味がありますね。結局、食卓に並ぶものも生命じゃないですか。いろんなことを表現できる一節だったので、その言葉を選びました。

ーなとりさんの楽曲は2023年に2023年にSpotifyの再生回数が1.5億超えで、「Overdose」は「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」13位にランクインしている。このチャートを見ると、たとえ大型アニメのタイアップがついていたとしても「SNSをどう使うか?」を考えることは欠かせない状況になっていることがわかって、「Overdose」もその功績の中に入っているわけですけど、SNSの使い方の良し悪しについてなとりさんはどう考えていますか。

なとり:SNSはなくなればいいのにと思っているんですけど、でもSNSがないと僕は絶対に売れてないので感謝していますし、今後もSNSがないと聴いてもらう入口がなくなってしまう。だから「あってほしいし、なくなってほしい」と思っているんですけど……僕も含めて思うんですけど、若い人たちが使っちゃいけないのかな。ある程度、考え方とかも大人になってきたら使うべきものなのかなと思う。10歳が「死ね」とか言ってるの、普通にやばいじゃないですか。いろんな制約があるSNSとかができればいいなとか思ったりします。

ー子どもたちがSNSのちょっとした出来事で人生を踏み外してしまうのも危険だし、「死ね」とか書き込んじゃう行為を続けた上でどういう人間性になっていくのか、というところですよね。

なとり:マジで。それこそ僕もなんですけど、将来が不安なんですよ。SNSで育った人たちが今後どう生きていくのかなって。無法地帯になったら超怖いなと思うので、僕らの代がもうちょっと大人にならないとなとは勝手に思っているんですけど。

ー将来や次世代のことを考えると、その責任が自分たちの代にあるんじゃないかと。

なとり:そうですね。それは音楽でもものすごく感じていて。上質なポップスをリバイバルさせないと思っているのもそう。たとえばその辺にいる小学生がアカペラで作った曲が世を席巻する未来とかも、もしかしたらあるかもしれないから。だからちゃんといいポップスを作らなきゃと思ったりします。

数字や反響へのリアルな本音

ー自分の音楽がアジアでも聴かれていることに関しては、どのように分析されていますか?

なとり:TikTokが入り口ですけど、最近はJ-POPが許容される時代になっていると思うというか。藤井 風さんがポップスの輪を広げてくれたのかなと思ってます。「死ぬのがいいわ」は日本語の曲だけど、あの人が聴いてきた英語圏やアジア圏の曲がうまくミックスされていて、それがいろんな国からの入り口になっている。藤井 風さんからいろんな輪が広がっていってるのかなとはすごく思ってますね。

ー自分の曲が韓国・ベトナム・マレーシア・タイ・シンガポールのSpotifyバイラルチャート1位を取るほど聴かれていることは、率直にどう感じますか?

なとり:嬉しいですね。今、SNSのフォロワーの半分くらいが日本以外の国の人で。ちょっと困惑はするし、知らない言語でDMとかが送られてくるので怖いですけど、やっぱり「聴いてくれてありがとう」と思ってます。でももう来年が怖いです(笑)。新しい人たちがバンバン生まれてくるんだと思ったら、怖いですね。
ーご自身のメンタルとしては、安心する余裕もなく、という感じなんですね。

なとり:ないですね。今も泣きそうになりながら曲作ってます(笑)。

ーめちゃくちゃリアルだ。数字だけ見ると「1.5億再生」とかとんでもない領域に達しているように見えるけど、実感としては「明日なき戦い」みたいだということですよね。

なとり:いやあ、そうですね。早く安息が欲しいです。

ーどういう状態になったら安心、安息を得られるんだと思いますか?

なとり:なんだろうな。それこそVaundyさんくらいヒット曲があったら、すぐにやめたいですね。その栄光があるまま終わりたい(笑)。もっとヒット曲が欲しいなと。まだ全曲知られているわけでもないので、そうなりたいなと思いながら日々頑張ってます。

ーなとりさんのアルバムを聴いて思ったことでいうと――多くの人が器用に音楽も動画も作れちゃう時代にこうやって残り続けられるアーティストとはなにかを考えると、作ってる人の心の扉が閉まってないか、心を見せることに恥じらいがないか、それを上手く表現できているか、人々が生きる上で必要とされるものかどうか、というところな気がしていて。なとりさんの場合、痛みや影まで見せていて、その思想がちゃんと誰かの心に伝わっているからこそ、1曲のバズで終わらないアーティストとして確立しているんだなと思います。

なとり:嬉しいな。いやあ、めっちゃ嬉しいです。本当に。

ー「ラブソング」のライナーノーツに書いていた「美しいってものすごくグロいもの」という美学も、なとりさんの音楽全般に表れているものですよね。100%美しい装いのものって、なんか嘘くさいじゃないですか。

なとり:それはめちゃくちゃ大事にしてます。『魔法少女まどか☆マギカ』とかって、グロいけど結局美しいんですよね。それを逆に捉えたら、美しいものってグロさがあるんじゃないかなと思って。「ラブソング」はグロい音が何個かあるんですよ。でもそれがちゃんと美しくポップスとして昇華されているので、そういう思想のもとで作ったかもしれないです。

ー最後に改めて。今後はなにを大事にして曲を作っていきたいと思いますか。

なとり:アルバムでいうと、前半には今までなとりが一番デカい層に向けて作った曲を置いていて、後半がこれから自分の作りたいものを意識して作った曲で。さっきも言ったように、昔の人たちが作ってきたような上質なポップスをリバイバルさせることが一番念頭にあります。でもだからといって最新のポップスを捨てるわけでもなく、ちょうど融合できる曲を作りたいなと思います。

なとりロングインタビュー 海外も魅了する若きヒットメーカーの素顔

なとり
『劇場』
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『劇場』特設サイト:https://natori-theater.com

なとり 1st ONE-MAN LIVE「劇場」
2024年3月29日(金)東京・Zepp Haneda(TOKYO)
2024年4月5日(金)大阪・Zepp Osaka Bayside
チケット申し込み:https://stagecrowd.live/natori_theater/