Ken Yokoyamaが8枚目となるフルアルバム『Indian Burn』を完成させた。8枚目の作品、Ken Yokoyamaとして活動をはじめて20年を経過してもなお、こんなに新たな色を出せるのかと感服する出色の出来栄えだ。


【写真を見る】横山健が語る「革ジャン」の哲学

11月にリリースされたシングル『These Magic Words』に続くインタビューとなった今回は、横山健とJun-Gray(Ba)にご登場願った。前回のインタビューから引き続き、バンドという集合体についての話から新作の話へと移っていくのだが、『Indian Burn』にはこちらが想像していなかった苦悩や工夫が込められていたことを知る。最後に横山から打ち明けられた制作秘話には、筆者だけでなくバンドメンバーのJun-Grayまでもが大きく驚くこととなった。

―前回のインタビューは読んでくれました?

KEN もちろん!

―なんか、内容よかったですよね。

KEN よかったね(笑)。

ー最近、インタビューの原稿チェックは横山さんもちゃんとしてるんですか?

KEN 前はあんまり気にしなかったけど、最近はちょこちょこ自分で修正したりすることは多いなあ。
やっぱり、文字になったときに「もうちょっと伝えたい」っていう欲があるのかな。

ーそれでも少ないですけどね。Ken Yokoyamaをはじめた最初の頃はけっこう修正してた気がします。

KEN え、そうだった? へぇ~。

ーだけど、年々少なくなっていって、最終的には「チェックは別にいいよー」くらいなノリになって。それってなんでなんですかね?

KEN うーん、ちょっと母ちゃんに電話して聞いてみようか?

ーあはは!

KEN いや、きっとモードはあるよ。
具体的に伝えたいことがある時期とフィーリング重視の時期とさ。フィーリング重視とは言っても、一度口にした以上は別にいいやって思うところもあるし、「ここの話題は全カット」みたいなことはしないね。

ーまあ、インタビューの場で自分で話したことですしね。

KEN そうそう。そもそも文字になったことを想定して話をするからさ。最近はちゃんと伝えたい時期だから、あとから一文を足したり、文章の主語をはっきりさせたり、細かい修正をすることがある。


ーJunさんは前回のインタビューは読んでくれてますか?

Jun-Gray Minamiちゃんとやったやつでしょ? さーっとは読んでる。

ーそこでバンドの共通言語の話をしたんですよ。横山さんは「バンドは人生を分け合う行為だ」という話をしていて、Junさんはどう思ってるのかなと。

Jun-Gray そのとおりじゃない? だって、生活のほぼほぼ大半がバンドを中心に動いてるわけだから。でも、そう思うようになったのは昔やってたバンドでメジャーデビューしてからとかじゃないかな。

ーいろんな人がバンドに関わってくる以上は、みたいな感覚?

Jun-Gray そうそう、自分らだけじゃなくてレコード会社の社員の人だったり、そういう人たちのためにも動いている。


KEN でも、実際はそうなんだけど、若い頃の俺は明確にそうは思ってなかったな。自覚してなかった。で、34、5でこのバンドを作って、JunちゃんとMinamiちゃんが入った辺りからその思考を明確に言語化できるようになった。バンドっていうのは人生をシェアするもので、それぞれの性格や生活とかをよく理解していないと成り立たないって。

ーそれは加入したのがJunさんとMinamiさんだったからっていうところもありますか?

KEN やっぱり、人と人って距離感だからそれはあるかもしれないよね。俺にそう思わせてくれたのはJunちゃんとMinamiちゃんかもしれない。
結婚したり、子供ができたり、歳取っていったり、人生のステージが変わっていくにつれてそういう感覚を持ってないとバンドは続かなくなるんじゃないのかな。

横山健とKen Yokoyama、20年の流れを振り返る

ーなるほど。Ken Yokoyamaがスタートしてもうすぐ20年が経ちますけど、自分のスケジュール帳を見たら20年前のちょうど今日(取材日)から1stアルバム『The Cost of My Freedom』の取材が始まってました。

KEN 本当? そうか……。

ーレコーディング自体は2013年10月には終わっていて。

KEN そっかそっか、その年の1月と10月にレコーディングするっていうけっこういびつなスケジュールだったんだよね。
アコギの曲を先に録って、10月にバンドとつくった曲を録って。

ーあの頃はこの先どうなるかわからないと思ってましたけど、今やKen YokoyamaとしてSNUFFと同じくらいの数の作品を出して、Hi-STANDARDと並ぶくらいの活動歴になっていて。この20年の流れについてどう感じますか?

KEN うーん、そうだなあ……。

ーKen Yokoyamaって特殊じゃないですか。バンドメンバーはよく変わるけど、そこに横山さんがいる限り解散というものはないわけで。

KEN それはわからないよ? もし俺が辞めるって言ってもほかの3人でKen Yokoyamaを続ける選択肢はあるわけで。

Jun-Gray 1カ月前ぐらいにその話はしたんだよ。健が「俺がいなくなったらどうなると思う?」って。うちら3人とも「終わりだよ!」って言ったんだけど。

ーそんな話をしたんですか(笑)。

KEN 俺ひとりがこのバンドを辞めて3人がKen Yokoyamaって名乗って続けていくとしても俺に止める権利はないね(笑)。まあ、そのときは軽い冗談で話したけど、本当にそういう気持ちだな。Ken Yokoyamaっていうのは俺個人の名前じゃなくてバンドの名前なんだっていう。街歩いてるとお客さんから声かけられるじゃない? そこで「Ken Yokoyamaさんですか?」って言われたら食い気味に「横山健だけど?」って言うからね(笑)。

ーあっはっは!

KEN 「Ken Yokoyamaっていうのはバンドの名前なんだよ」って……まあ、さっきの質問に戻るけど、この20年がどうだったかって、単純に「こうだった」って回答はできないな。

ーなぜできないんでしょうね。

KEN いろんな気持ちがあるからだろうね。パッと思いつくだけで3つくらいの気持ちがあるんだけど……1つ目としては、すごく充実してた。ずっと作品を出し続けてるし、ライブも続けてるし、すごく楽しい20年間だったな。自分に嘘をつかない活動ができてる。2つ目は、もうちょっとデカくなってたかったなって思う。なんでかっていうと、別に人気がどうとか、金がどうとかっていう問題じゃなくて、俺たち……ってか、俺がいろいろ悩んでさ。

ーそれはどういう悩みですか?

KEN 今の音楽の聴かれ方……アルバムの価値が昔ほどじゃなくなったと思っていろいろ悩んでしまったり。今の自分たちの立ち位置を客観的に見ると悩まざるを得ないポジションでさ。これがもっとでかいバンドだったら別にそんなことどうだっていいんだよね。

ーああ、たしかに。

KEN 具体的にどのバンドぐらいとは言えないけど、でかいバンドだったら「みんな、好きなように聴くっしょ」って余裕で構えてられるし、そもそも「前線に留まるためには」って考えること自体がすでに自分たちの今置かれてる立場を表してしまってるわけよ。だから、もうちょっとバンドがデカくなってて、こんなことでいちいち悩んでいたくなかったなっていうのはある。でも、そこを見て見ぬふりをすると落ちていくだけだから。

ーそれはそうですね。3つ目は?

KEN もうひとつ考えられるのはハイスタとの戦い。人からは比べられるし、やってる側としては意識するし。

ーハイスタはデカいですね。

KEN そう、さっき話したけど、ハイスタぐらいの大きさになると自分たちの音楽がどうやって聴かれてるかなんて考えないんだよ。

ーそう考える自分も横山さんの中にいるんですね。

KEN これはにわかに信じてもらえないんだけど、自分の中にHi-STANDARDの横山健とKen Yokoyamaの横山健がいて、ハイスタの横山健っていうのはすごく泰然としてるんだよね。で、Ken Yokoyamaの横山健はそいつのことを羨ましがってんの。同じ人間でありながらライバル視してるというかさ。

ーKen Yokoyamaはスタートも特殊だったし、2011年にハイスタが再始動したことでまた思いもしなかった形で特殊な状態になっていって。

KEN それってつまり、横山健は特殊な人間ってことなんだよね……。

ーまあ、横山さんは元から特殊ですよ、よくも悪くも。

KEN よくも悪くも!(笑)まあね。

Jun-Grayが過ごした15年

ー一方、JunさんもKen Yokoyama加入から15年が経ちます。この15年はどうでしたか?

Jun-Gray 俺も15年経ったんだよね。自分では10年くらいの感覚なんだけど。

KEN 変わんないよ!(笑)

Jun-Gray いや、10年と15年、全然違うじゃん! 自分では10年くらいの感覚でも、人から「いや、もう15年だよ」って言われると「そんな経った!?」って思う。これまでいろんなバンドをやってきたけど、このバンドがキャリアハイというか、これまでで一番デカいバンドで、この15年の間にいろんな経験をさせてもらったし、今もさせてもらってる。たしかにKENが今言ったようなハイスタとの関わりはKen Yokoyamaとして絶対に無視できなくて、Hi-STANDARDはライバルだし、勝ちてぇって思いもあるけど、なかなか超えられない壁があって。でも、Hi-STANDARDがあるからこそKen Yokoyamaが成立してるのかなって思うところもあったりする。たとえば、海外で言うと、オアシスのリアムとかノエルも各々のソロ活動で成功してるじゃん? だけど、2人ともオアシスを超えてるかって言ったらそうではないから、俺たちも同じような境遇というか、母体となるでっかいものがあることで成り立ってるところもあって。でも、「それでも超えたい」っていうジレンマは常にあるよね。それはMinami(Gt)ちゃんとEKKUN(Dr)も同じだと思うけど。

KEN 今、オアシスのリアムとノエルのたとえが出たけど、最近考えなくなったけど、俺が案外近いのかなってよく感じてたのはニルヴァーナとフー・ファイターズの関係で。

ーそれはどういうところですか?

KEN ニルヴァーナって時代を捉えてしまったじゃない? Hi-STANDARDも時代を捉えたのよ。そこはどうしても敵わない部分はある。でも、デイヴ・グロールはニルヴァーナに対抗しようとは思ってないかもしれない。そもそも、カート・コバーンはいないわけでさ。ハイスタもツネは亡くなってしまったけどそれは最近のことで、最近まで3人で集まろうと思えば集まれたわけじゃない? そういう意味ではちょっと違うんだけど、今、俺らだってヘッドライナーができるぐらいの大きさではあるけど、Hi-STANDARDの鮮烈さにはまるで敵わないというかさ。まあ、アメリカにおけるフー・ファイターズと日本におけるKen Yokoyamaだと大きさは違うかもしれないけど、そういうことはよく考えたかな。

ー諦められるならいいんでしょうけど、そうではないですしね。

KEN そうなんだよ。そこが唯一ニルヴァーナとの違いで、ハイスタは現存するからさ、だから悔しいよね。

Jun-Gray でも、俺は持ちつつもたれずやっていければいいんじゃないかと思ってるよ。

ーJunさんはKen Yokoyamaとの向き合い方って変わってきてたりしますか。

Jun-Gray 俺が入ったときはまだKENは今ほどバンドとして打ち出してなかったから、言い方は悪いけど、どっちかと言うと横山健のソロプロジェクトの一員ぐらいの気持ちだったところはあって。でも、『Best Wishes』(2012年発表)を出した後ぐらいからKENから「もっとバンドっぽくしたい」っていうリクエストがあって、その頃から自分の意識もプレイももっと出していくべきなんだろうなって思って今もやってる。でも、心のどこかで「このバンドは横山健がいないと成立しない」とも思っている。

ーだからこそ、横山さんが抜けたらKen Yokoyamaを名乗るつもりはないってことですよね。

KEN あはははは!

Jun-Gray まあ、うん、そうだね。

KEN 若干力が抜けるような会話だね(笑)。

ー(笑)横山さんから見てJunさんのバンド内での在り方ってどうですか。

KEN 俺はKen Yokoyamaというバンドの曲をつくって運営する立場で、それがこのバンドにおける俺の「1/4」の役割だと考えてるんだけど、そういう立場からするとやりやすい……って言ったら言葉はよくないけど、そういう環境をくれる人だなとは思う。多分、Junちゃんにはサイドマンとしての資質が元から備わってて。

Jun-Gray 本当にキレイな4等分だったり、3ピースなら3等分で成り立ってるとしたら、メンバー全員が前に出ていくっていうバンドもあると思うんだよね。だけど、俺も自分の「1/4」を担わなきゃっていう思いはあるんだけど、その思いはKENがいないと成立しないから、たとえばライブではKENがやりやすいようにこっちから動いてあげなきゃいけないと思ってるところはある。

KEN あはははは!

Jun-Gray だって、そうしないとライブが成立しないんだもん。たとえ他のメンバーが「今日のライブは自分的に120点!」って思ってても、KENが「今日は70点くらい」って思ってたらそれは70点なんだよね。1人の出来がすごくよかろうが、KENが常に120点って思えるようにしてやんなきゃ。まあ、俺がそれを毎回できてるとは思わないけどね。KENが急に怒ったりして30点のライブをやることもあるし。

ーメンバーの満足感ってライブごとにけっこうバラバラになるものなんですか?

KEN やっぱ違うと思うよ。Minamiちゃんは比較的安定してると思うけど、ライブ後に俺が「すごくいいライブだった」って楽屋で言ったとして、Minamiちゃんはそれを否定こそしないものの「そうは思ってねえんだろうな」って感じる日はあるよ。

ーへぇ~。

Jun-Gray そういうのはあるね。でも、そういう思いもいちプレイヤーとしては大事なことだと思う。自分のパフォーマンスもよくなきゃいけないから。

KEN あと、あの人はリズムにすごくこだわるから、俺がいいライブだと思ったライブの直後に楽屋でEKKUNと口論してたりするからね(笑)。

Jun-Gray でもそれってお客さんにはほぼわからないようなことだし、KENがよかったって思ってるライブはお客さんもよかったって思ってるんだよ。

ー横山さんとJunさんには、MinamiさんとEKKUNの口論は不思議に映るんですか?

KEN そう、一瞬キョトンとするけど美しいなと思う。バンドだなって思う。でも着地点がないから、「ライブの直後にそんな話することないじゃん」って止めたりもする。

ーそういうこともあるんですね。

KEN EKKUNが入ったのが2019年の頭で、その年のライブではよくあったんだよ。MinamiちゃんはMinamiちゃんでKen Yokoyamaというバンドはこうあるべきっていう思いがすごくある人だから、そうやって怒ることでEKKUNにそのことを教えてたんだと思うんだよね。

Jun-Gray 「ちょっとでもよくしよう」っていう思いがあるからそういうことになるわけで、細かいことだしお客さんにはなかなか伝わらないかもしれないけど、話し合ったほうがいいことだよなとは思う。

KEN 話をまとめちゃうと、今ね、Ken Yokoyamaはめっちゃバンドよ。

ーそうですよね。俺もKen Yokoyamaの20年の歴史の中で今が一番バンドとしていいなって思うんですよね。何より演奏がカッコいいし、安定感があるし。それは横山さんも感じてるところなんですね。

KEN うん、すごくいい感じだと思う。

横山健とJun-Grayが語る、「Ken Yokoyamaはめっちゃバンド」の真意

Photo by Kazushi Toyota

自分を追い込んだ理由

ー今、「めっちゃバンド」と言ってましたけど、もう少し詳しく説明してもらえますか?

KEN 誤解を恐れずに言うなら、2ndアルバム(『Nothin But Sausege』)はサージ(KEN BANDの元ベーシスト)の協力がすごくあったし、KEN BANDでつくったアルバムだけど、それ以上に俺ひとりの思いとか発想でできたものなのね。1stアルバム(『The Cost of My Freedom』)なんて特にそうだよね。言い方を変えると、あの頃は俺ひとりでもできた。でも、今はこの4人じゃないとできない。つまり、めっちゃバンドっていうこと。これってすごく当たり前のようでいて当たり前じゃないんだよね。

ーそれはどういうことですか。

KEN 別に他のバンドを引き合いに出す必要はないかもしれないけど、バンドを名乗ってても蓋を開けてみたらメンバーの一部しか作品づくりに関わってないっていう例は多々ある。

ーどのバンドもみんながみんな「今、めっちゃバンド」と言い切れるわけじゃないと。

KEN うん、そう。

Jun-Gray 仮に4人組のバンドだとして、4人全員を媒体とかで押し出してるとすごく4人でやってるバンドに見えるじゃない? だけど、実は作詞作曲をやってるメンバーがひとりいれば他はどうでもいいっていうこともあると思う。その反対に、うちらはKENのソロとして打ち出しちゃったからその印象がいまだに拭えなくて、本当はバンドなのにうちらのことをよく知らない人からは「横山健のソロプロジェクトでしょ?」って言われちゃう。

KEN ……今、スーパーソリューションを思いついた! 「Ken Yokoyama」って名前でやってるからJunちゃんが今言ったみたいに思われるわけでしょ? だったら、「Ken Yokoyamas」にしない?

ーケン・ヨコヤマズ!(笑)

Jun-Gray それってラモーンズみたいなこと?

KEN そうそうそう。だから、JunちゃんはJun-Gray Ken Yokoyama。

Jun-Gray 長えなあ!(笑)面倒くせえから却下。

KEN 「s」付けるだけだし、劇的に変えなくていいんだよ?

ーたしかに。

Jun-Gray いやいや、「たしかに」じゃなくて。

KEN あははは!

Jun-Gray お客さんも「面倒くせえ」って思う。

KEN まあ、たしかにね。そういった意味で屋号って本当に難しいもんだよね。

ーそうですね。で、これだけの歴史を経た上で制作された今回のアルバム『Indian Burn』は、サウンドは割と陽気なんですけどこれまでとは別の重みを感じます。いい作品だなってしみじみ感じました。

KEN うん、いいアルバムつくったよ、本当に。

ーでも、アルバムタイトルの意味は「ひねり出した」なんですよね?

KEN そうなんだよ。今回は制作が大変でさ、制作途中でアルバムの価値観を見失ったっていうこともあって、「曲つくってもみんなに聴いてもらえるのかな……」っていうところから始まってさ。あと、今回で8枚目のアルバムになるわけで、Hi-STANDARDのときから音楽的な言語ってそんなに変わってないから「このアレンジって前にもあったよな……」っていうのが出てきちゃうわけ。その中でこれまでにやったことないアレンジ、やったことのない雰囲気を探すのがすごく大変でさ。でも、漫然とはつくりたくはなかったのよ。だから今回はすごく「ひねり出した」感じがあった。ボロ雑巾を絞って、「あ、まだ一滴出た!」みたいな。それが『Indian Burn』。

ー曲づくりに関してはシングルシリーズがなかったらもっとラクでしたよね? シングルシリーズのカップリング曲は今作にひとつも入ってないし、けっこう追い込んだなと思いました。

KEN 本当に曲はたくさんつくったよ。

ーボツになった曲もある?

KEN あるある。

Jun-Gray 『4Wheels 9Lives』をリリースして曲づくりをはじめたときはまだシングルシリーズなんて言い出してなくて、「またアルバムに向かって行こうぜ!」って感じだったんだけど、12曲入りのアルバムが見えてきたかなっていう頃にそのシングルの話が出てきたから、バンドとしてはそこから自らを追い込んだっていう。

KEN もちろん、人から提案されてはじめたことじゃなくてさ、さっき話したみたいに、アルバムの価値観を見失って家でひとりでズドーンときてたときに思いついたんだよね。そりゃあね、世の中には報われない仕事なんていっぱいあるよ? そういう一般論は人と話せば出てくるけどさ、家でひとりで悶々としてると自分のことしか考えないし、「俺がこんなに必死になって曲をつくっても、アルバムの一曲に収まってしまったんじゃ誰も聴いてくれないよ……」っていう思考にもなるわけ。とても「世の中そんなもんだよ」とは思えない。そういった違和感をちゃんとメンバーと共有して、こういうことをしたい、シングルシリーズをやりたいっていうふうに自分を追い込んでいったんだよね。それをしないと、「なんか、こんな状況になっちゃったねー」って指をくわえて見てるのと変わんないよなって。

Jun-Gray もしシングルがなくてアルバムだけつくってたとしたら去年の春とか遅くても夏までにはリリースしてたと思うんだけど、これは極端な言い方になるけど、多分、クオリティ的には今回の内容より落ちてたんじゃないかな。

ーおお、逆に。

KEN シングルシリーズをやったことで、むしろアルバムに収録する曲の焦点が絞れたってところはあるね。バンドとしてチャレンジした曲をシングルのカップリングに散りばめられたからさ。たとえば、「Watcha Gonna Do」は面白い曲だよ? でも、シングルに入れるぐらいがちょうどいい曲じゃない? あれが今回のアルバムに入ってたら相当雰囲気が違ったと思うんだよね。

アルバムの制作プロセスと収録曲について

ー今の話を聞いてて気になったんですけど、今作の曲づくりをしている段階で、候補段階とはいえすでにシングルの表題曲もカップリング曲も存在してたわけですよね? それらをどうやって各作品に振り分けていったんですか。

KEN 俺には「手書きエクセル」ってものがあってね(笑)。

ーなんですか、それは(笑)。

KEN 手書きで振り分け表を作ってそれを貼ってたの。で、曲づくりが終わるたびにそれを書き変えてまた貼り直して、曲が全部揃ってない時期から「この曲とこの曲を入れ替えよう」ってやってたの。アルバムは一応、10から12曲ぐらいを目標にしてさ、まだできてない曲はブランクにしておいたりして。横山ってすごいストイックな男なんだよね……!

ー……はい(笑)。たくさん曲をつくっていると徐々にクオリティが落ちてしまいがちだと思うんですけど、そうやって振り分けることによって楽曲の方向性が絞られていって、結果として曲の純度が高くなったんですね。

KEN そうなのよ。手書きエクセルのおかげです!

ーそれ、手書きの表っていうんですよ。

KEN うははは!

ー今回、これまでの作品と大きな違いがひとつあって、『Indian Burn』は初めてカバー曲が収録されていないアルバムになります。なんで「Tomorrow」(『My One Wish』収録)をシングルに振り分けたんですか?

KEN これはまた話が変わってくるんだけど、本当はあれ1曲でシングルとして出したいぐらいの気持ちだったのね。だけどあの曲をリードトラックにしちゃうと、こういった取材とかで(同曲でコラボした木村)カエラの稼働が増えちゃうなと。そこから「これって今、あの人がやりたいことなのかな……?」って俺がちょっと気を使い始めたの。一緒に曲をやることは決めてたけど、そこまでドカーンとやるところまで合意はしてなかったから。でも、カエラもいい人だから「嫌なことは嫌って言います」って言いながらも、多分いざとなったらやってくれたと思うんだよね。だからそれはまずいと思ってシングルの中の一曲にしたの。あと、1枚目のシングルは2曲入りで、自社通販を使って販売した、プロダクションとしては小さなものだった。3枚目のシングルはアルバムの先行シングル。だけど、2枚目はほかのシングルに比べてトピックがなかったのね。

ーたしかに。

KEN だから、そこでカエラの力を借りたかったっていうところもある。もっと言うとさ、俺はあのバージョンの「Tomorrow」がすごく好きなの。カエラとの現場もすごく楽しくてさ、きっとあの人も楽しんでくれてたと思うの。だから、本当は5人でひとつのバンドとしてミニアルバムをつくってもいいんじゃないか、ぐらい思ってたんだよ。最初はそれぐらい俺の気持ちは盛り上がってたんだけどさ、さっき話したみたいに日が経つにつれて現実が見えてきてさ。本人にそれを言ったら「ネガティブすぎて笑う」って感じだったんだけど、実際そうなっていっちゃって。で、元々はアルバムのクロージングナンバーとしてもいいなとか思ってたんだけど、最終的にはあのシングルのために力を貸してもらうことにしたんだよね。でも、結果としてあれが入ったことですごく華やかな3曲入りのシングルになったと思う。

ーそうやって収録曲を入れ替えていく中で、アルバムの色はどういうものにしたいと思っていたんですか。

KEN うーんとね……最終的には明るさの中に少しエモさがあるところを目指したかな。曲の仕上がりを見ていく中でエモさは拭えないと思ってて。たとえば、俺が持つすごくバカな部分とか突拍子もない部分ってあるでしょう? 「なんでここでそれを言う?」みたいな。

ーはいはい(笑)。

KEN そういった部分もちゃんと入れ込みたいなと。だから、明るくて、音楽的に豊かなものにしたかったかな。

ーJunさんは今回の12曲についてどう感じてますか?

KEN (Jun-Grayのモノマネをしながら)俺はKENがつくったベースラインをなぞるだけだから。

Jun-Gray (KENを無視して)KEN BANDに限らず、今までいろんなバンドをやってきたけど、新しいアルバムをつくるときって前回のアルバムを超えられるかどうかがバンドにとって大きなテーマになるじゃない? KEN BANDで言うと、『4Wheels 9Lives』を出したときにすごく満足感があったのね。コロナ禍でこれだけのものをつくれたって。で、あれを出した直後に次のアルバムに向かって新曲をつくり始めたんだけど、「やれるのかなあ……?」っていう思いが自分的にはなんとなくあったのね。でも、シングルシリーズがあったりいろいろ大変だったけど、今回も「前回を超えたね」って思えるものをつくることができたと思うし、楽曲のバリエーションに関しても、『4Wheels 9Lives』もけっこういろんな楽曲をやったんだけど、今回もいろいろとチャレンジした部分があってすごく満足感があるかな。

ー敢えて聞きますけど、今回Junさんが一番気に入ってる曲ってなんですか。

Jun-Gray 気に入ってる曲!? そもそも気に入ってないのがないから難しいんだけど……一番かどうかはわかんないけど、「A Little Bit Of Your Love」は、かなり好き。Ken Yokoyamaが好きな人って、2ビートで速い曲好きな人多いでしょ? でも、今回のアルバムで言うと俺はこの曲がかなり好き。もちろん、ちょっ速の「Parasites」とか「Heart Beat Song」もうちらっぽくていいとは思うんだけど。一番がいっぱい詰まってるアルバムだな。

ー「A Little Bit Of Your Love」は間奏がとてもカッコよくて大好きです。

KEN いいでしょ?

Jun-Gray これ、一番最後にできた曲。

ーへー!

KEN この曲はね、キーがころころ変わるのね。それをさらっと聴かせるためにものすごく苦労した曲でさ。でも、最終的には横山の中のビートルズが「イエス」って言っちゃったんだよね。

ーあっはっは!

KEN や、でも本当にそういうときに中~後期のビートルズを聴くと、無茶苦茶な展開をする中でしっかり聴かせるためのヒントがいっぱい見つかったりしてしてさ。

Jun-Gray 音楽的なことで言うと「Parasites」もすごいよ。この曲は一番と二番があってとか、サビがまた来てとか、そういうのじゃないからね。ずっと展開していっちゃう。

KEN そう、同じところに二度と戻らない。

Jun-Gray 面白い曲なんだよね。

ーあと、インスト曲「Indian Burn」ですが、合間合間で「ちっぱい!」って言ってます?

KEN あはは! ちゃんと当てたのは大志が初めてだよ。みんな、「何て言ってるんですか?」とか案外わかってなかった。俺たちははっきり「ちっぱい」って言ってるね。

ーなんで「ちっぱい」になったんですか。

KEN もともと、「ここに掛け声を入れたい」っていう構想が俺の中にあって。この曲ってサーフロックのインストっぽい感じじゃない? ベンチャーズとスカとオールディーズをミックスしたような。だから最初はサーフ用語を探したの。たとえば、「ワイプアウト!」とか「パイプライン!」とか。でも、音楽的には使い古されてる言葉だし、それをタイトルにしたら誰かのカバーだと思われるじゃない? それで「じゃあ、語感のいいものを探そう」ってことで「ちっぱい」がいいなって(笑)。破裂音がよくてさ。本当は「ゴーサーフ」とかMinamiちゃんと決めたものもあったんだけど。

Jun-Gray でも、「ちっぱい」が出てきてからは「ちっぱい、いいね」ってなって、そのあとに違う言葉が出てきても「いや~、下ネタがいいなあ」みたいな話になって(笑)、結局「ちっぱい」に戻っていくって感じだった。

ー「ちっぱい、いいね」ってだいぶ語弊がありますけどね。

KEN で、曲のタイトルもずっと「ちっぱい」だったの。マスタリングが終わっても「ちっぱい」。だからメンバー全員がそのまま「ちっぱい」になると思ってたんだけど、「ちっぱいってことはねえよなあ」って(笑)。

ーやっと(笑)。

KEN そう(笑)、そこでやっとみんな問題に向き合い始めたわけ。

Jun-Gray Minamiちゃんなんて「Chip Pieってありますからね」とか言い出して(笑)。

KEN ジャガイモとかの残り物で作るパイをChip Pieっていうことを発見して、「じゃあ、それでいいじゃん。ライブでは『ちっぱい!』って言うことにしてさ」って。貧乳賛歌のつもりで。でも、結局「なんで『ちっぱい』なわけ?」ってなった(笑)。

ー危なかったですね(笑)。

KEN で、その頃、ちょうどアルバムタイトルに「Indian Burn」っていういい言葉が見つかって、「じゃあ、この曲を『Indian Burn』っていうタイトルにしよう」ってことになったんだよね。後付けだけどさ、なんとなく「Indian Burn」って言葉にウェスタンギターみたいなイメージが俺の中にあって。デュアン・エディさんとかグレッチの昔のプレイヤーたちが持つ世界観みたいな。それとサーフロックってそんなに遠くはないのね。それで、インディアンから連想するマカロニウェスタン的な感じをこの曲に強引に結びつけたというか。

「Show Must Go On」に込めた想い

ー歌詞の話もしたくて、「Parasites」「Heart Beat Song」「Show Must Go On」といったところが特にいいんですけど、話を全部聞くには取材時間が足りないみたいで。

KEN 話そうぜ。

ーじゃあ、1曲だけ。まだほかの媒体で話してない曲ってあります?

KEN 今のところ「Show Must Go On」は話してないね。

ーじゃあ、お願いします。

KEN これはツネのことを歌詞にしました。

ーはい。

KEN 以上(笑)。

ーあはは! このタイトルは「最後までやり遂げないといけない」という意味ですけど、横山さんから遂にこういうタイトルの曲が出てきたかと覚悟みたいなものを感じたし、個人的にはQueenの「The Show Must Go On」を連想したことでよりグッときました。

KEN やっぱり、ミュージシャンの生き様ってすごいじゃない? 直接知り合いじゃないけど、フレディー・マーキュリーにはすごいものを見せてもらったなと思うし、そういうことを俺はツネに対しても思うんだよね。まあ、ツネとは会ってない時期もあったから全部を知ってるかって言われたらそうじゃないかもしれないけど、少なくとも同じ時代を一緒に駆け抜けたヤツの、あんま言いたくはないけど……散り際みたいなものを見て、感情的に悲しいとか寂しいとかいうのと同時に……うまく言えないけど、すごいものを見せてもらったなっていう感覚にもなって。

Jun-Gray ショーじゃないけど、実際ツネちゃんが亡くなったときって俺たちはレコーディングしてたわけじゃない? でも止めるわけにはいかないし、そのまま作業を続けていってさ。こっちはこっちでやっていくしかないんだよって。

KEN 昨日も俺たちはスタジオで練習してたんだけど、俺はその前にチバ(ユウスケ)くんの訃報を聞いたのね。それでスタジオに行ってからメンバーに話したらみんな呆然とするわけ。病気だっていうのは知ってたけどこの間何の情報も入ってこなかったから、本当に突然逝かれたようなもんでさ、全員落ち込んだ。そのあとスタジオで「Brand New Cadillac」を演奏したよ。そのときにJunちゃんが「俺たちは俺たちのやるべきことをやっていかないとしょうがねえ」って言ってさ。

ーそういった想いがカラッとしたサウンドに乗せて歌われているという。

KEN これは多少狙いがあって、あんまりエモくしたくなかったのね。逆に、こういう曲だったからこそここまで歌詞が書けたってところもある。俺たち、歌詞を書くのは曲ができた後だからさ。

ーツネさんへのストレートな想いをエモいサウンドに乗せてしまうとやり過ぎになってしまう。

KEN そうそう。曲そのものがエモいとちょっとトゥーマッチだと思うんだよね。あと、もうひとつ話があって、これはJunちゃんには言ってないんだけど、この曲ね……実はハイスタ3人でつくったの。

ーえっ!?

Jun-Gray そうなの?

KEN 最初はね。たしか「I'M A RAT」のセッションをしてるときだったと思うんだけど、ナンちゃん(難波章浩)が「新曲をちょっと思いついたから、1フレーズ合わせたい」って言うから3人で合わせてみたの。で、俺はアレンジャー気質だからさ、その1フレーズを聴いて「ああしようこうしよう!」「ギターの音もこうしてさ!」ってぐわーっと組み立ててみたのね。でも、俺は興奮したけどナンちゃんとツネちゃんはあんまピンときてなかったのよ。

Jun-Gray それはさ、ナンちゃんの名前はクレジットしなくてもいいぐらいの感じなの?

KEN うん。だって、「Show Must Go On」のフレーズや雰囲気は全部俺が思いついたパートだから(笑)。

Jun-Gray 本当の元ネタがナンちゃんだったってこと?

KEN そうそう。で、結局ボツになっちゃったの。それでさ、ナンちゃんとツネちゃんに連絡して、「あの曲、KEN BANDでやっていい?」って聞いたら「いいよ」って。それでやってみたんだよね。だから、音像にも俺は興奮してたけど、そういった経緯もあって「これはツネの歌詞を乗っけたい」って。それを俺はメンバーに敢えて話さなかった。というのも……。

Jun-Gray 引っ張られちゃうから。

KEN そう、引っ張られちゃうから。

ーこの曲も含めて、今回横山さんがより腹をくくったような印象を受けたんですよね。

KEN それはわかんないな、俺はいつでも腹をくくってるから。

ー歳を重ねるごとに人生のステージってどんどん変わっていくじゃないですか。横山さんとの話にはよく出てきますけど、人生の最終コーナーに差し掛かった横山さんの覚悟を今回改めて感じたんですよね。

KEN ああ、その感じはわかる。「腹をくくる」っていう表現ではないけど、今までにない感情が芽生えてはいる。曲をクソにたとえるなら、自分がしたクソの色を見て、「ああ、今までとは違うな」っていうか……きったねえ表現だなあ!(笑)

ーあはは!

KEN でも、そういう感じ。絞った雑巾から垂れた汚水の色を見て、前は言えなかったことが今、俺のハートの中にはあるかも、とか。

ーでも、今俺が言ったような「腹をくくった」とは違うってことですね。

KEN そうだね。そこまで明確に「ここからは……!」って思ったわけではないけど、クソの色の違いは自覚してるよ(笑)。

横山健とJun-Grayが語る、「Ken Yokoyamaはめっちゃバンド」の真意

Photo by Kazushi Toyota

<INFORMATION>

横山健とJun-Grayが語る、「Ken Yokoyamaはめっちゃバンド」の真意

8th Full Album『Indian Burn』
Ken Yokoyama
PIZZA OF DEATH RECORDS
発売中

1.Parasites
2.My One Wish
3.A Pile Of Shit
4.The Show Must Go On
5.These Magic Words
6.New Love
7.Better Left Unsaid
8.Indian Burn
9.Deep Red Morning Light
10.Long Hot Summer Day
11.A Little Bit Of Your Love
12.Heartbeat Song

【初回盤 DVD】「Ken Yokoyama -不滅楽団編-」
収録時間:80分以上

CD購入リンク:
https://kenyokoyama.lnk.to/IndianBurn