【写真をまとめて見る】ライブの様子
Novel Coreは自分にとっての夢である初の日本武道館公演を、新曲でスタートさせて、新曲で終わらせた。通常のライブの作り方でいえば、みんなが知っていて会場のボルテージが一気に上がるような曲を1曲目に置く。そうしなかったことこそ、「一般的には」と言われることを飛び越えた選択を重ねてきたNovel Coreの生き様の表れであり、ここが到着点ではなくまだまだ描きたいものがあるということの明確な提示でもあった。彼はこの先、音楽界における唯一無二のスターに、革命家と呼ばれるような存在に、自身を押し上げていくつもりだ。その道中では、ここまでの歩みを知らない人がNovel Coreと出会う機会もたくさんあるだろう。だから今ここに、「Novel Coreが初の武道館公演で描いた22年間のストーリーとは何だったのか?」を記しておこうと思う。これからNovel Coreと出会う人が、Novel Coreのこれまでを知ることができるように。
『ONEMAN LIVE -I AM THE- at BUDOKAN』とタイトルが発表されていた本公演は、大きく分けると「これまで」と「これから」を表現する2つのパートが、細かく見ると4つのパートが、それぞれ連なるように流れていった。

Photo by Satoshi Hata

Photo by Satoshi Hata
批判が集まったのは、一言で言えば、ラップ/ヒップホップ業界においてNovel Coreのスタイルはそれまでにないものだったからだ。でも彼はその批判を、孤独を、アーティストストーリーの脚本の一部として扱うことに決めた。1stアルバム『A GREAT FOOL』では普通からはみ出して賢く生きられない「大馬鹿者」を主役にし、2ndアルバム『No Pressure』で業界や他人から嘲笑われても忖度も迎合もしない自身とその心意気を「TROUBLE」「JUST NOISE」と表して、次作のEP『iCoN』ではエラーとされた存在が新世代の象徴になっていく様を体現した。
「異端児」からの「王道」を目指して
音楽に限らずどの分野においても、新しい熱狂は「異端児」と呼ばれる人たちが作ってきた。誰にも理解されなくても、たった一人の人間が狂気を持ち続けた先で多くの人が巻き込まれて、普遍的な利便性や喜びなどを超えた「熱狂」が、もしくは「革命的」と呼ばれるものが、この世に誕生する。Novel Coreはその道筋を信じてここまで歩んできたのだ。その過程において、ずっと強く逞しく美しく在られたわけでは決してない。メジャーデビュー直後に抱えきれなくなって休みを取ったこともある。1stアルバムではまだ、不貞腐れたような感覚で歌詞を書いているところがあったとインタビューでも語ってくれた。そうして人間くさい弱さを抱えながらも、一つひとつ努力を積み重ねてここにたどり着いた事実が、武道館のステージの前に集まった人たちの背中を押していた。
「生きていると、何かやろうとすると、いろんな人からやっかみとか嫌味を言われたりすると思うんだけど、俺のことを応援してくれるみんなには気にしないでほしいです(中略)これだけは絶対に誰にも負けないって言い切れる武器を、ひとつでも見つけるためだけに一生を使ってください。少なくとも俺はそういう生き方をしていきます。そんな俺の武器は何だと思う? ラップ? ファッション? 歌? 最近始めたダンスですか? 全部違うね。俺の武器はたったひとつ。どんなに不可能といわれるような物事に直面したときでも、ほくそ笑みながら直進していく、この大馬鹿っぷりだよ」

Photo by Satoshi Hata

Photo by Satoshi Hata
中盤の「BYE BYE」からは、そんな彼がこの先で唯一無二の音楽スターになっていくことを音そのものでガツンと証明していった。
終盤に差し掛かるところで、メジャーデビュー曲「SOBER ROCK」を歌い終えて、ファンへの想いを語ったあと、Novel Coreにとってのヒーローに向けた言葉が伝えられた。そう、SKY-HIだ。厳しい状況に立たされていた2017年を振り返って、Novel Coreはこう語った。
「当時の俺の救いだったのは、先輩アーティストの存在でもあった。SKY-HIというアーティストがいるんです。日高さん(SKY-HI)との出会いが俺を変えてくれました。理解者とか、味方してくれる人とか、俺のことを大切に思ってくれる人の数が、本当に少なかったのね。俺のことなんかみんなどうでもいいんだって思ってた。でも日高さんはきっと自分もいろんなことを言われて、それでもめげずに続けてきて今があるから、俺を見たときに何かを感じてくれたんだと思う。声をかけてくれて、仲良くしてくれました。そして2017年。
そうして、当時のNovel Coreを救った大切な曲である、SKY-HIの「Over the Moon」を歌唱した。しかも、2017年のSKY-HI武道館公演『SKY-HI Tour 2017 Final "WELIVE" in BUDOKAN』での「Over the Moon」の演出を丁寧にオマージュし、海外の街並み、レンガの壁、月と星が浮かぶ夜空を映像に映し出す形で(今回Novel Coreのチームにライブ演出担当として加わったKensukeは、当時のSKY-HIの公演でダンサーとしてステージに立っている)。この曲をやることを、チーム一丸となってSKY-HIには内緒にしていたという。私の座席の後ろにはSKY-HIが立っていて、そんなサプライズ演出や、Novel Coreの言葉と満員のファンに囲まれながら逞しくステージに立つ姿に、両手で顔を覆うほど涙を流していた。SKY-HIはNovel Coreと出会ったとき、「当時の自分を見ているよう」だと思ったという。Novel Coreに手を差し伸べてきたSKY-HIにとって2024年1月17日は、SKY-HI自身の人生も肯定された日になったのではないかと思う。
Novel Coreが提示し続ける「新たな正解」
そこからピアノの伴奏に乗せて母親への手紙を歌い上げ「EVE」へとつなげて、これまでたくさんの心配も迷惑もかけた母親への愛と感謝を届けた。そうして自身が幸せになることができた姿をSKY-HIと家族に見せてから、最後のパートへ。
最後は、武道館に立っていたSKY-HIが自分のヒーローであったように、次は自分が誰かのヒーローになるという意志が表現された。「THANKS, ALL MY TEARS」「ジェンガ」には、アーティストを目指す次世代の人たちが映像で合唱に参加(本来はこのステージに上がってもらうことをNovel Coreは思い描いていたが、武道館の厳格なルールなどによってそれは叶えられず、映像での参加となった)。
ラストの29曲目が歌われる前、Novel Coreはマイクを両手で握りしめて涙を流しながら力強く言葉を紡いだ。それは、この世に味方はいないと思っている人、自分が死んでも世界は変わらず回り続けると思い込んでいる人、ヒーローを探している人に向けたものでありながら、あの頃の自分に語りかけているようでもあった。
「俺がこれだけはどうしても伝えたいってことだけ伝えさせてもらっていい? しんどくなったら人を頼ってください。1人で生きていこうとしないでください。大丈夫だよ。俺は1人でいけるよ。仲間なんかいなくたっていいよ。孤独だって、一匹狼でもいいよ。そうやってひねくれないでください。どんなときでも絶対に理解しようとしてくれてる人はいます。探してください。

Photo by Satoshi Hata

Photo by Satoshi Hata
最後に、この日の公演のタイトルが『ONEMAN LIVE -I AM THE HERO- at BUDOKAN』であったことが告げられた。武道館の入り口に掲げられた看板も、終演後にはそのタイトル通りに変更されていた。さらに、翌日にニューアルバム『HERO』がサプライズリリースされた。Novel Coreはこの舞台を踏んで、正真正銘、「ヒーローに憧れていた自分」から「誰かを救うヒーロー」になったのだ。その「誰か」には自分自身も含まれる。派手に転んだ過去を終わりではなく物語の序章にして、幸せなシーンまで走り抜けてきた自分自身。最後に歌われたのは、ニューアルバムのタイトル曲でもある「HERO」。この曲の冒頭では、”本当のことは僕しか知らない”と歌われる。私がここに長々と書いたNovel Coreのストーリーも、彼が表に出したものでしかないし、それを私が解釈して文字にしたものでしかない。彼の本当のストーリーも、心の底にある複雑な感情も、彼自身しか知らない。ただ、そんな中でも私の目線から確かに言えることがひとつだけある。それは、Novel Coreはこの先、ポップシーンにおいて「新たな正解」を生み出しながらさらなる大勢を認めさせるスターへの道を直進していくこと、そしてそのためのセンスや技術だけでなく覚悟と努力ができる才能を十分に鍛え上げてきたということだ。
【関連記事】Novel Coreが語る、期待と後悔を経て手にした「本当の自分」と武道館ライブ、『HERO』の真意
Major 3rd Album
『HERO』
Novel Core
配信中
https://NovelCore.lnk.to/20240118_3rdAL_HERO
LIVE DVD & Blu-ray
『ONEMAN LIVE -I AM THE HERO- at BUDOKAN』
Novel Core
2024年3月27日(水) 発売
https://NovelCore.lnk.to/at_BUDOKAN_LIVEBOX