しかも。この発表が行われる2日前=5月1日には、これまでmillennium paradeとしてリリースされてきた楽曲群のすべてが「ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄ」という名義に差し替えられ、さらにアートワーク(ジャケット)はもちろんYouTube上に表示されているMVのサムネイルに至るまで、あらゆるビジュアルが、長い歳月を経て――それこそ「千年の時」を経て風化したかのようなものへと変化を遂げている。millennium parade時代のアーティスト写真も、発掘された古文書に描かれている絵のようで、伝承を重ねるうちにメンバーが鬼として語り継がれるようになったかのような、あるいは、時の流れの中で人の姿が薄れ、その内にあった鬼の姿が前景化したような、そんな印象を与えるものに変化していて、とても興味深い。




変化したアーティスト写真とアートワークの一部
ターニングポイントを迎えるにあたってアーティストが名義を改めるという例は珍しくないものの、既発作品の名義を変更するという例は、おそらくほとんどないのではないだろうか。特に今回のミレパの場合、「millennium parade」から「ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄ」へと変更された作品は、音源自体に変更はないものの、すべて事実上の新規リリース(つまりリイシュー+過去作品の削除)という形になっている。再生回数というものが強い指標になる今の時代に、これまでに積んできた数字が一度リセットされる事態をもたらす選択をするのは極めて潔い行為であると言えるし、一つひとつのアートワークの制作含め、ここまで徹底したアクションに出たというのは、どうしたってそこに何かしらのメッセージが託されているのではないか?と考えたくなる。実際、今回のことには間違いなく彼らの強い意志が込められているだろう。何故なら彼らは、アートにおけるコンセプトというものの重要性をよくわかっている表現者集団だからだ。
というわけで、本稿では、その意図を勝手に考察してみようと思う。なお、筆者は割とコンスタントに彼らに取材をしている立場の人間ではあるけれど、今回の件に関してはメンバーに一切ヒアリングを行なっていないので、あくまでも筆者の仮説/推論であることを先にお伝えしておく。
2023年2~3月、ロサンゼルスとロンドンに滞在
まず、少し時系列を整理する。
そもそも2021年2月にアルバム『THE MILLENNIUM PARADE』をドロップし、同年10月、東京ガーデンシアター3デイズ&大阪フェスティバルホール2デイズという形で開催した「millennium parade Live 2021 ”THE MILLENNIUM PARADE”」を終えた後、常田はSNSに「ここから潜伏期間に入ります。また第二形態でお会いしましょ」とポストしていた。実際、そこから今に至るまでの約2年半の間、2022年5月に『攻殻機動隊SAC_2045』のOP&EDテーマとして「Secret Ceremony」と「No Time to Cast Anchor」、そして2023年4月に椎名林檎とのコラボレーションによる「W●RK」と「2○45」という計4曲をドロップしているものの、millennium paradeとしてのライブやメディア露出などの表立った活動は、一切していない。
その間に常田は、King Gnuとして数々のタイアップ楽曲からアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』までの制作をやり遂げ、2022年11月の初の東京ドーム2デイズ、2023年5~6月の初のスタジアムツアー、そして2024年1月からつい最近まで行われていた初の5大ドームツアーからの初のアジアツアー(こうして書き出してみると本当に怒涛である)と、極めて精力的に動き続けてきたので、「単純にKing Gnuが忙しかったから、millennium paradeは潜伏期間という名のお休みに入っていたんじゃないの?」と思う人もいるかもしれない。むしろ、彼がいかに大きな才を持っていようが身体はひとつなわけだから、そう思うほうが普通の感覚のような気もするけれど、実はまったくそんなことはない。ミレパのSNSアカウントに「Transforming...」という表示がなされたのは今年の1月に入ってからだったように記憶しているけれど、現実には、少なくとも2022年の夏前にはすでに、ミレパを第二形態へとトランスフォームさせるべく、水面化で具体的なアクションに入っていたと思われる。
その動きがドラスティックなものになったのは2023年。
「最初は向こうのアーティストに呼ばれたというか、コラボレーションしたいって言われて行くことになったんですけど。でもどうせ行くんだったらそれだけじゃなく、ちょっと長期で行って、いろんなアーティストとやってみたいなと思って。それで結果、1カ月くらいLAとロンドンで制作することになりましたね。現地ではそれこそ10アーティストくらいとセッションしたんだけど」
■まだ名前は明かせないけど、かなりバラエティ豊かな、かつ、錚々たるメンツと制作していましたよね。常田くんって、海外で制作すること自体も今回が初めてなんでしたっけ?
「そう。というか、そもそもこうやって人とセッションして作るってこと自体も初めてだから」
■そっか。いつもは自分でデモを作り上げて、そこからメンバーに展開してアレンジを詰めていくっていう形ですもんね。
「だからマジで初めての経験っていう感じでしたね。完全に新人のノリ。シュウとコータ(millennium paradeのメンバーでもある佐々木集と森洸大)も一緒に行って、みんなで共同生活をして、みたいな旅だったんですけど」
■事前準備として相当な数のデモを作った上で現地に向かった、と聞いたんですが。
「うん。人生で一番作ったかも」
■それくらい気合いが入っていたということ?
「もちろん。未経験の領域だったから、できる準備はして臨みたかったので。だけどそんな予想通りには何もかも全然進まなかったですね」
~中略~
「そもそも日本で作っているものとは、内容的にかなり違うものだから。むしろ20歳くらいの自分に近い感じ。要は、邦楽にそこまでハマる前の音楽的な価値観に特化して作ってる。そういう意味でも、また一から新人として臨んでるっていう感覚はあるかも。その中で、そういう自分がここがいいんだよねって思うポイントが、実際にしっかり向こうのアーティストにも伝わるという経験ができたことは、俺にとって大事なことだったかもしれないなと思いますね。それこそ、ここからの10年への道が見えた」
■つまり、日本のポップミュージックを意識して曲を作るのではなくて、そもそも自分が惹かれたアートとしての音楽、その実験性や革新性にちゃんと挑んでいく楽曲を作るんだという、その初心に戻るみたいなこと?
「そうだね、完全にそうだった」
(MUSICA2023年5月号・表紙巻頭特集より)
第四形態への進化
常田にとっての20歳の頃というのは、まさに彼がアーティストとして本格的に活動を始めた時期にあたる。もちろん中学・高校の頃からバンドを組んでオリジナル楽曲を制作したり、17歳の時にはリットーミュージック主催のベース・コンテストで準グランプリを受賞したり、東京藝術大学在籍時からの数年は小澤征爾が主宰する国際室内楽アカデミーにチェロ奏者として参加、北京や上海での公演などに参加したり等々、10代の頃からさまざまな音楽活動をしていたわけだけど、藝大を1年で辞めたのち、2013年7月にSrv.Vinci名義でYouTubeに公開した「abuku」(後にKing Gnuの「泡」としてリリースされる楽曲のプロトタイプでもある)が、今に至るキャリアの起点であったと言っていい。
同時期に立ち上げたPERIMETRONも、当初は自身の作品をリリースする音楽レーベルとして設定していたところから、佐々木集とOSRIN(映像作家)がジョインすることでクリエイティヴ・レーベルへと発展、東京のみならず日本のカルチャーに独自の一石を投じ、牽引する存在になっていったのはご存知の通りだ。一方でSrv.Vinciはやがて、自分達の創作的自由の基盤を獲得するべく日本のポップシーンの文脈で闘いつつ、彼のルーツでもあるオルタナティヴなロックバンド像を体現していくKing Gnuと、よりエクスペリメンタルな音楽的挑戦にフォーカスしていくDaiki Tsuneta Millennium Parade(DTMP)というふたつの形態へと分岐。
そう考えると、実は今回のmillennium paradeからMILLENNIUM PARADEへのトランスフォームは、第二形態への進化というよりも第四形態への進化と言ったほうが正しいという捉え方もできるわけだけど、DTMPからmillennium paradeへの進化の際にDMTP作品(2016年リリースのアルバム『http://』)がストリーミング上から削除されたのに対し、今回はꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄとして明確に「過去のもの」であることが示唆された上で作品自体はそのまま残されたというのは、きっと「millennium parade時代の表現はひとつの完成を見た上で、MILLENNIUM PARADEという新たなフェーズへと進んだ」ことを強く明示したかったからこそなのだろう。もしかしたら、前述した通り2021年10月に常田が「ここから潜伏期間に入ります。また第二形態でお会いしましょ」とポストしてから現実世界では2年半ほどしか経っていないものの、精神の時の部屋のように、彼の中では千年の時を経過したくらいの感覚でドラスティックな進化を果たしている、ということを暗に示しているのかもしれないなとも思う。
MILLENNIUM PARADEとしての今後の表現が具体的にどんなものになるのかは現段階では明らかになっていないし、第1弾シングルとなる「GOLDENWEEK」がどんなサウンドデザインを持つ楽曲なのか――それこそこの曲に海外のアーティストがフィーチャリングされているのかどうかもわからないけれど、ただ、この1年の間、常田のInstagramのストーリーズにはダニエル・シーザーやデンゼル・カリーなどの様々なアーティストが登場し、彼らと制作を共にしているであろうことが示唆されている。
本稿の最初に「グローバルでの活動を本格化させることが明らかになった」という書き方をしたけれど、このプロジェクトはmillennium parade時代から海外での活動を視野に入れて動いていることが明言されていたし、そもそも彼らが掲げる「トーキョー・カオティック」というコンセプト自体、ドメスティックなものであるという意味ではなく、「国内外の文化が混沌的に混ざり合う東京の姿と、そこから生まれる新しいアート/カルチャー」という意味合いで用いられているもの。ꉈꀧ꒒꒒ꁄꍈꍈꀧ꒦ꉈ ꉣꅔꎡꅔꁕꁄのアーティスト写真もそうだけど、これまでのミレパにおいて度々登場してきた「鬼」というモチーフが「分断を超えて多様な価値観を持つ者同士を結び、新しい時代を切り拓く存在」という意味合いで使われていたことも含め、ミレパは初期からそのマインドで動いてきたプロジェクトであることは間違いない。そういった様々なことを踏まえて考えると、今回のMILLENNIUM PARADEへのトランスフォームは、国境を超えてより多種多様なバックグラウンドを持つアーティスト達と自由に混ざり合いながら、さらにラディカルに、アグレッシヴに、新しい表現を追究していくものとして改めてキックオフを遂げたということなのだろう。
MILLENNIUM PARADEが今後、どのような未知なる景色を切り開いていくのか、楽しみでならない。

MILLENNIUM PARADE
1stシングル「GOLDENWEEK」
発売日:2024年5月10日
https://millenniumparade.lnk.to/GoldenWeek_Presave
Official Website:https://millenniumparade.com/
X:https://twitter.com/mllnnmprd
Instagram:https://www.instagram.com/mllnnmprd/?hl=ja
YouTube:https://www.youtube.com/@millenniumparadeofficial
TikTok:https://www.tiktok.com/@mllnnmprd_