【動画を見る】パスタについて話す鳥羽シェフ
―今回、なぜパスタにフォーカスした本を出版されたのでしょうか。
鳥羽:レシピとしてパスタが一番いいと思っているのは、プロっぽいものも再現性が高いからです。たとえば、プロがやっているカルボナーラも再現できる。フランス料理は無理じゃないですか。和食も出汁を取らなきゃいけないハードルなどがある。パスタは、時間をかけずにプロっぽいものが作れるし、料理好きの人にとっても手軽にこだわったものが作れるという意味で、最強だと思っています。今回の本は相当やばいですよ。ワンパンパスタから定番、レストランのレシピまで全部入っていますからね。
―レストランのレシピを企業秘密として隠さずに、惜しみなく世の中に公開するのはどうしてですか。
鳥羽:自分のレシピに興味がないんですよね。
―SNSを再開されてから、また次々とバズるレシピやコツなどを発信されていますが、普段どういうふうにトレンドを読んだりインプットをされたりしていますか。いつも着眼点がすごいなと思っています。
鳥羽:コンビニをパトロールしているだけですよ(笑)。1日2回とか行ってますからね。コンビニに行って新商品をチェックして何かを考えたり、そういうことばっかりやってます。TikTokもめちゃくちゃ見ています。「こういう考え方もあるんだ」という発見がありますね。
―睡眠3時間! 今はさらに忙しい時期ですか?
鳥羽:忙しいですね。いや、忙しぶっちゃいけないけど。前はすごく忙しくて、ちょっとゆっくりできたなと思ったら、今はまた前と同じくらいになっちゃってます。でもいつも忙しくしていたい人なんだと思います。「休みたい」って言ってるけど、本当は休みがあったらやばいタイプ。休みがあっても何をしていいかわからなくて、何かやっちゃうんですよね。ご飯を食べてたら「これいいな」とか、全部が紐付いちゃうから、レシピのことを忘れることはありません。
―本のタイトルは「帰ってきたら すぐに作れる、食べられる」ですが、鳥羽さんは仕事から帰って家で料理を作ることはあるんですか。
鳥羽:いやあ……自分は本当に、食べることに興味がないんですよ。
―へえ! 意外です。
鳥羽:全然作らないです。人に作ること以外、興味がないんですよ。人に作る時は家でも土鍋でご飯とか炊きますけどね。「サトウのごはん」はチンしてから蓋開けて1分くらい待ってから食べると、表面が乾いてめっちゃ美味しくなりますよ。

左から鳥羽周作、もんきち、矢島由佳子(Photo by Takuya Maeda)
「料理」とVaundyとの親和性
―そこにも鳥羽さんなりのコツが(笑)。自分は家で作らないし食べないのに、家庭でできる料理について発信することが好きなのはどうしてですか。
鳥羽:喜ばせることが好きなんじゃないですかね。「誰かのため」の手段として「料理」が好きなんだと思います。失礼かもしれないですけど、Vaundyさんは自分と似てるタイプだと思っています。
―ミュージシャンのVaundyですか?
鳥羽:彼って、ヒットメーカーじゃないですか。どのジャンルでもみんなが気持ちいいと思う曲を作る天才。みんなが喜ぶポイントをわかった上で、編集がすごく上手なんだと思うんです。たとえば「同じカルボナーラでも何かがちょっと違う」みたいな編集能力がすごく大事だと思っていて、そこに親和性を感じます。
―レシピの編集と音楽の編集を並べて語る視点は面白いです。
鳥羽:彼も、音楽を手段として人を喜ばせることに目標を置いて、何をやっても絶対にいい曲を作るタイプだと思います。僕も安定して美味しいものを作るタイプで、それはアーティストじゃなくてクリエイターだからだと思うんです。Vaundyさんもアーティストっぽく見えて、クリエイターなんだと思います。アーティストは自分の強烈な感性でやるけど、クリエイターには編集の感性がある。あと、これからはファンを「広げる」よりも「深く育てる」時代になる気がしているんです。
―ああ、それはミュージシャンをインタビューしたりインフルエンサーと接する中でも時代の空気として感じます。
鳥羽:「こういうふうにやったら喜ばれるな」ということもすごく大事なんですけど、たとえば「『家族のための男飯 もんきち』はこれが好き」「これがもんきちである」ということを全面に出して、そのスタンスが好きな人に向けてやっていくのがいいと思います。
―全員に好かれようとすると、誰にも当たらないんですよね。
鳥羽:しかも「薄く当たっても……」という感じじゃないですか。たとえばフォロワーが100万人いるよりも、濃い20万人いる方が、幸せなんじゃないかなと僕は思います。レストランも「こういう人にも、ああいう人にも来てほしい」ってなるとキリがない。今、レストランの照明を暗くしているんです。「インスタ映えする写真が撮れない」という意見もあるんですけど、自分たちはこれが好きでやってるし、インスタ映えする写真が撮れるレストランはいっぱいあるから、それを求める人は自分の好きなところに行けばいい。選択肢が少ない時代だったらそういうふうに言うのはわかるんですけど、今は多様化していっぱいありますから。しかも自分が46歳になって残りの人生を考えた時に……お客さんに来てもらうためにやりたくないものまでやるのは、人生の時間の使い方として正しいのかどうかを考えちゃうんですよね。
―そういった想いから、sio含め、全店舗お子様連れOKにされたんですか?
鳥羽:それは、その日に打ち合わせがあって、「sioに行きたいんですけど子どもは無理ですよね?」って言われて、もういいかなと思っちゃったんですよね。もともとsio以外全部OKにしていたので、急に思い立ったとかでもなくて。「高級なお店でデートがしたいのに、子どもがいたら雰囲気が壊れるよね」と言う人も出ると思うんです。
なんかレストランに赤ちゃんダメですよねって聞かれて
ダメじゃないって普通に思うけどそうじゃないお店ももちろんあると思うし
そこはそれぞれだけど
なんか今更だけど
うちのグループ全店舗は赤ちゃん子供
オッケーにすることにします
賛否あると思うけど…— 鳥羽 周作 (@pirlo05050505) July 9, 2024
―消費者にとっても、自分に合ったものや好むものを選ぶことができる時代ですからね。
鳥羽:大事なのは、それぞれの立場での配慮や思いやり、想像力ですよね。子どもが暴れてる時に親がほったらかしにするのは違うと思うけど、食べに来る人には「子どもが泣いちゃってもしょうがないよね」という思いやりが欲しいし、僕らは子どもが飽きない仕組みを用意したい。みんながハッピーになるために、それぞれできることをやればいいだけの話で、そういった最低限の配慮や想像力を持っていたらもっといいレストランになるんじゃないかと思ったんです。別に子どもを受け入れることだけが正解とも言ってなくて、自分の「スタンス」の話ですよね。納豆にソースをかける人がいたって、それはその人の勝手だからよくて、自分は醤油をかければいい。それぞれに対して「無関心」ではなく「尊重」が大事になっていくからこそ、自分のスタンスをちゃんと表明したほうがいい時代だと僕は思っています。
―それはレストランに限らず、いろんなクリエイティブやビジネスに通ずる、これからの時代に大事な考え方ですね。
鳥羽:尖る必要があるわけではなくて、「自分らしさ」というものを表現していくべき時代によりなってくるんじゃないかと思いますよね。その中でフィットしてお客さんになってくれる人が、明確に分かれる時代になるんじゃないかと思います。
―そうやって自分の考えをSNSで発信していると、アンチコメントもくるじゃないですか。それにも優しく返信されるのはどうしてですか。
鳥羽:答えてほしそうだなと思って(笑)。いいか悪いかはさておき、その人たちも熱量があってやっていることだと思うので、「それはそれで受け取りましたよ」っていう。それを選択するかどうかは僕の勝手ですけど、意見として受け止めたことを、たまには伝えてもいいのかなと。スルーしてもいいんですけどね。

左からもんきち、矢島由佳子(Photo by Takuya Maeda)
「お客さんのために」ということだけ
―鳥羽さんは自分のスタンスを貫く強さを持っていらっしゃるし、「鋼のメンタル」みたいにメディアで書かれることもあると思うんですけど、とても繊細な方なのではというふうに私には見えていて。
鳥羽:いや、めちゃくちゃ繊細……って、自分で言うのもあれですけど。どこが「鋼」なのかというと、「お客さんのために」ということだけなんですよね。それが常に一番のプライオリティで、「お客さんが喜べば何でもいい」と思っているからこそ、時代に合わせて変化が必要だと思っています。お客さんが求めているものを分かった上で、自分のフィルターを通して「これだ」ということをやる、そういう信念があるだけです。むしろ時代のことを繊細に見ているからこそ貫けることもあると思いますね。もちろん嫌なことを言われたら傷付くし、嫌だなって思うし、自分はそういうことは言わないようにしたいなって思って生きてますよ。……お前が言うなって言われちゃうこともあるけど、わかる人にはわかってもらえると思ってます。そういう意味では、今回の本もすごく「想像」していますよ。
―鳥羽さん自身は家に帰ってもご飯を作らないけど、仕事や用事から帰ってきて作る人のことを最大限想像したと。
鳥羽:もんきちもそうだと思いますけど、家にあるもので再現性が高いことを大事に作りました。(鳥羽が帯コメントを書いたもんきちのレシピ本『安食材なのに涙が出るほどおいしいごはん』を手に取りながら)もんきち夫婦は、いつも仲良しなんですか? 喧嘩しないんですか?
―ほとんどしないですね。ネガティブなことはあまり家に持ち込まないようにしています。家で愚痴とか言いますか?
鳥羽:いや、一人なので言わないです(笑)。
―(笑)。
鳥羽:一人ぼっちなので、何も言うことはないですね。よくよく考えたら、俺、一人が好きなんだと思います。仕事の移動も絶対に一人がよくて。1時間の移動とか、隣にいられるのが無理なんですよ。一人でNetflixを見てる時が一番好きですね。
―では最後に、鳥羽さんにとって「料理」とは?
鳥羽:誰かを喜ばせるための、自分にとって一番自信のある手段ですね。美味しいものを作ることが目的というよりは、料理を通して誰かを喜ばせることが自分のやりたいこと。人を喜ばせられるもので一番自信のあることが料理、という感じですかね。

鳥羽周作(Photo by Takuya Maeda)
<INFORMATION>

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『安食材なのに涙が出るほどおいしいごはん』
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