1月17日、東京・渋谷Spotify O-EASTで観たDURDNのライブ。
ライブ後にDURDNは、この衝撃作「Hearth Place」と、同じくツアーで初披露された「idealistic」を配信リリースした。インタビューの前半では、作詞を担当するyaccoが「Hearth Place」やDURDNの音楽に託しているものについて深く潜らせてもらった。そして後半では、「idealistic」に込めているDURDNの「理想」をテーマに、国境を越えて音楽を届けている彼らが国内のメインストリームに対して抱いている違和感と希望について語ってくれた。
―新曲「Hearth Place」、ライブの最後に披露した時、ものすごいインパクトを残していたじゃないですか。きっと自分たちでも感じるものがあったと思うんです。
yacco:そうですね。あれは宇多田ヒカルさんのライブからインスピレーションをもらいました。

Photo by Ryotaro Kawashima
―DURDNのディスコグラフィの中でも異質な1曲であり、新たな一面を見せてライブを締めくくったとも言えると思うんですけど、そもそも曲自体はどういう発想から作り始めたんですか?
SHINTA:これは叩きができてから完成するまで、けっこう時間がかかった曲で。トラックを作り始めた時は、ちょっと切ない感じのR&Bテイストで書こうと思っていたんですけど、途中で、自分の得意ジャンルに持っていくためにメロディックなダブステップの音色とかを使って、切ないだけじゃなくて熱がある感じを表現したいなと思って。実は、もともとは1番までしかなかったんです。最初はあえて1分半くらいの曲にしようと思って、その形で一回完成していたんですけど、そこで宇多田ヒカルさんのライブを観て「これをもっと展開させて長編にしたら面白いんじゃない?」となって。そこから2番以降を作って、yaccoがメロディを書いて、という感じで作っていきました。
―あとから増やしたパートや、特に2サビ終わりの拍子が変わってオーケストラ的に壮大に音が広がっていく間奏は、DURDNにとってサウンド面での新たなチャレンジじゃないですか?
SHINTA:そうですね、チャレンジではありました。大好きなティグラン・ハマシアンをリファレンスにして作ってみました。
―あと、この曲の衝撃的な要素のひとつは、やっぱり歌詞ですよね。yaccoさんがDURDNで書く歌詞は「ポップスとしてフィクションを書こう」という筆致じゃなくて、自分のリアルを書いていると感じ取れるものが多いと思うんですけど、特にこの曲はその成分が強いですよね。
yacco:この曲は……大事な人がいなくなって、そこから時が止まってしまったというか。そういうことを書きたいなと思って書きました。リアルな話です。自分がリアルに感じた感情。
―そうですよね。暖炉を意味する「Hearth Place」というタイトルも、サビの”暖を取って 暖を取って”も、ハートウォーミングな温かさというより、孤独な中で生きていくために必要な温度を取っている、といった描写ですよね。
yacco:はい、まさにそうで。お腹が空かなくても生きていくために食べる「しかない」というか。生きることに希望はないけれども、暖を取らないと生きていけないから仕方なく取っている感じ。別にこの場所に気持ちが残っているわけでもない。そういうことを出せたらなと思ってました。
―そういった経験や、ここに書いている景色が、yaccoさんの記憶にある?
yacco:そうです、あります。
―それはきっと、yaccoさんの人生においてすごく大きな話で、ある意味「人生そのもの」を歌詞にしたのが「Hearth Place」だとも思うんです。シンガーソングライターとして活動していた時も、自分の人生を歌詞にしていたんですか?
yacco:その時は、過去というよりも、その瞬間について書くことが多かったです。自分を深掘りしたり、過去のことと向き合ったりすることはあまりなかったように思います。
―なぜDURDNでは、自分の過去や内面を深掘ったものを書こうと思った、もしくは書けるようになったのでしょう?
yacco:多分、自分が歌わないからだと思っていて。自分が歌うと、言葉がよりリアルになって、それが自分の声になるので。そこがシンガーソングライターのよさでもあると思うんですけど、いい意味でも悪い意味でも、重さみたいなものになる。Bakuに歌ってもらうと、いい意味で、リアル感が少し軽減されるというのが大きいかもしれないです。しかもポジティブに歌うのだったら自分の中で消化できるけれども、こういった気持ちを自分が歌うとなると、自分のメンタル的に耐えられる自信がないのもあって。それを今はBakuが歌ってくれている、というふうに思っていますね。

左から、Baku、yacco、SHINTA
―これまでの人生や過去のトラウマなどをDURDNで音楽に落とし込むのは、yaccoさんのこれからの人生においてどういうものになっていると言えますか? 「Hearth Place」を聴いても、きっとDURDNはyaccoさんの人生において欠かせないもので、自分の生き方や精神面においても大事なものになっているんだろうなと思って。
yacco:会社員として働いていた時は、愚痴として吐き出すことはできても消化することはできなくて。今はこうやって書くものがあって消化ができる。しかも同じ人が少なからずいることがわかって、「自分だけじゃないんだな」という救いがある感じがします。
―私の解釈が違ったら違うと言ってほしいんですけど……yaccoさんのこれまでの環境や人生が、いわゆる社会で「普通」とされるものとは違っていたという気持ちがあって、でもそれを音楽にして、しかも共感してくれる人と出会えることで、自分のこれまでの人生も肯定できるようになった、といった感覚ですか?
yacco:そうですね、はい。それに近いと思います。もしめっちゃ幸せになっていたら音楽をやってないかもしれない。自分が経験したからこそ書けるものがあるのかなとは思ったりします。それが原動力になって、こうやって音楽ができているという恵まれた状況は、自分の中で強みにしないといけないなと思います。
―社会で「普通」とされるレールや愛情からこぼれ落ちている人も、世の中にはたくさんいるわけで。音楽を通して、そういう人たちともつながって、わずかながらでも救えたら、という気持ちもありますか?
yacco:そうですね。自分がそうだからかもしれないけど、不器用にしか生きられない人は応援したくなります。誤解されやすい人とかも、本当は悪い人じゃなかったりするし。
―今のyaccoさんにとって、DURDNはどういう居場所になっていると言えますか?
yacco:過去のことも今のことも、自分の感情も、全部素直に出せる唯一の場所。そもそも私、自分の話をあんまり人にしないので。相談とかもしないし。自己開示するタイプではないんですよね。
―そんなyaccoさんの人生や心を唯一開示した歌詞を、Bakuさんはどういう意識で歌っているのかも気になります。
Baku:僕は、誰かに本を読み上げる感覚です。自分の話ではないから、人にストーリーを伝える感じ。ライブでは、感情を入れすぎると歌自体がちょっと崩れる気がして、あまり入り込まずに、加減を守って歌ってます。
SHINTA:yaccoが書いた歌詞をBakuが歌うことで、そもそもBakuの歌声が持ってるテイストは洋楽っぽいけど、でも日本語の歌詞だから完全に洋楽にはならなくて、「DURDN」というものになっているのかなと思います。

Photo by Ryotaro Kawashima
―SHINTAさんもSHINTAさんで、自分の音楽的欲求を爆発できているのがDURDNなのだということが、ツアーを観ても強烈に感じました。
SHINTA:嬉しいです、ありがとうございます。それが目標ではありますね。サウンド的なところでは、洋楽のメインストリームの人たちがアリーナ規模でやってるようなライブ感が理想なので。このあいだのツアーは、僕がやりたいことをたくさんやらせてもらいました。セットリストも、一応みんなで作りましたけど、「いや、ここはこうしたほうがいい」と言って、最終的に通った案はほとんど僕のものだったので。僕のわがままが強く入っているライブだったと思います。
―SHINTAさんのこだわりポイントはどういうところだったんですか?
SHINTA:全体的に踊れるようにしたいというテーマはあったんですけど、DURDNがこれから鍛えていきたいエンタメ性も重視して作りました。本当のことを言えば、最後の「idealistic」と「Hearth Place」を盛り上げるために全部を作ったところもありました。

Photo by Kanta Nakano(SMS)
―それだけこの2曲の新曲は、すごく大事にしたかったんですね。
SHINTA:そうですね。DURDNは毎回曲を作ると自画自賛タイムが始まるんですけど(笑)、「idealistic」と「Hearth Place」は個人的にもたくさん聴いているくらい好きですね。「idealistic」には「理想を叶えたい」みたいなニュアンスがあるんですけど、2曲ともすごく理想に近いものができたなと思います。
―「idealistic」はいつ頃作った曲ですか? EP『ON THE ISLAND』の「Tylaにハマってる時期」の延長を感じました。
SHINTA:まさに、がっつりそうです(笑)。それこそ『ON THE ISLAND』の曲たちができた直後くらいですかね。まだ『ON THE ISLAND』をリリースするかどうか決まってなかったくらいのタイミングだったので、ほぼ同時期くらいにできていた記憶があります。最近やってなかったバラード色をちょっと強めに書きたいと思っていたので、一応アフロビートではあるけど、フューチャーポップ・バラードみたいな、ミドルテンポの感じでトラックを作りました。だからベーシックはアフロビートなんですけど、曲全体で聴くと全然アフロビートじゃない、みたいな。「リズムはアフロビートだけど、やってることはめっちゃポップ」みたいなところが理想でした。
―そういう組み合わせの発想は、SHINTAさんの中でどういうところから湧いてくるものなんですか?
SHINTA:yaccoやBakuにリファレンスを出してもらう時もあるんですけど、リファレンス通りのものは絶対に書けないんですよ。そもそもリファレンスを超えることはできない。だから自分で新たな要素を掛け合わせる作業を毎回やってます。メロディだけ全然違えば上手くいったりすることもあると思うんですけど、「idealistic」に関しては、僕の欲求も入れつつ作った感じですね。
―「idealistic」の歌詞については、どんなことを書いたと言えますか?
yacco:DURDNとサポメンのみんなといる時に、MBTIの話になって。SHINTAもBakuもMBTIの話がすごく好きで。私がやってみたら「提唱者」という結果が出て、その中に「理想主義者です」と書かれていて、自分ではピンときてなかったんですけど、周りからも「理想主義者だよね」と言われて「あ、そうだったんだ」って気づいたんです。そこから歌詞を書いた覚えがあります。
SHINTA:僕もわりと、MBTI的にも夢見がちなタイプで。3人とも理想主義者だと思います。
Baku:理想主義者じゃないと音楽やんないもんね。
SHINTA:確かにそうかもしれない。
―この曲のBakuさんの歌でいうと、すごく細かいところではあるんですけど、サビ頭の”あの日”の「あ」の発声の仕方がすごくいいですよね。この日本語の歌い方の発想は、Bakuさんからしか生まれないものだなと思います。
SHINTA:「あ」をほとんど言わないんですよね。だから(音の)データを見ると面白いですよ。「あ」のところにほとんど波形がないんですよ。「の」にアクセントがほしいっていうのは僕から言ったかもしれないけど、普段から「ここはもっと息を入れたほうがいい」「ここはもっと滑舌はっきりやったほうがいい」とか言うだけで、基本的に表現方法はBakuが決めている部分が多いです。
―アクセントや滑舌のニュアンスもすごく大事な要素だから、本当に3人の目線が加わって、DURDNならではの歌ができているのだなと思います。前のインタビューでSHINTAさんが「『DURDNはメインストリームだ』と胸張れるようになりたい」と語ってくれていましたけど、現状「メインストリームの音楽」と「DURDNの音楽」にどういうギャップがあると思いますか? 言い方を変えると、どういう新しさをメインストリームに持ち込みたいと思っていますか?
SHINTA:日本だと特に、ハイトーンとか、歌い上げるものが流行りやすくて。それしか売れないのは違うんじゃないかな、っていうのがずっと思っていることですね。今メインストリームでないものがメインストリームに入る世の中に変われば、逆にそれまでメインストリームだったものがそうではなくなるわけじゃないですか。そういう循環が生まれていなくて、ずっと固まっているなというのが、ずっと感じていることで。洋楽のほうがまだ循環しているイメージがあるから、そこに憧れがあるんだと思います。
―ハイトーンとか歌い上げる系の音楽が嫌い、というわけではなく、「そればかりは面白くないよね」というマインドだということですよね。
SHINTA:そうです、別にハイトーンが嫌いなわけではなくて。なんなら僕はBzが好きなので。Bzなんてゴリゴリハイトーンじゃないですか(笑)。それ以外の音楽がメインストリームになれない状況は違うかなと思っているという感じです。
―そこを打破したいという、それこそがDURDNの「理想」ですよね。
SHINTA:打破したいし、打破できると思って、やってますね。
yacco:私は、日本語でも世界のメインストリームにいけるんじゃないかという気持ちで挑戦したいですね。海外の人が聴くとBakuの声は洋楽っぽく聴こえるので、Bakuがいるからこそ日本語でもいけるんじゃないかな。そういう希望を持っていたいなと思います。

『idealistic』
配信中
https://durdn.lnk.to/idealisticRS
収録曲(全2曲)
idealistic
Hearth Place