現実から解放され、夢のような時間がやってくる──ジャックス・マネキンの復活だ。ボーカルのアンドリュー・マクマホンが、バンドにとって10年ぶりとなるツアーの計画を発表した。2005年のデビューアルバムに収録された楽曲名を冠したMFEOツアー(「Made for Each Other」=お互いに巡り合う運命だった)は、6月4日に米国メイン州ポートランドを皮切りにスタートし、夏から秋にかけて全米の約30都市を巡る。バンドはそのほか、When We Were Young、Bonnaroo、SXSWといったフェスティバルにもラインナップされている。
今回のツアーは、ジャックス・マネキンの20周年を記念したイベントでもある。ジャックス・マネキンはもともと、マクマホンが所属したバンド、サムシング・コーポレイトの活動休止後に、彼自身のソロ・プロジェクトとしてスタートした。プロジェクトにはその後、ジェイ・マクミラン(Dr)、ボビー・アンダーソン(Gt)、マイキー・ワグナー(Ba)が加わり、バンドとして活動を始めた。MFEOツアーでは、ジャックス・マネキンのデビュー作『Everything in Transit』を含む全3枚のスタジオ・アルバムを網羅する。デビュー・アルバムを制作・リリースした2005年にマクマホンは急性リンパ性白血病と診断されたものの、その後病気を克服した。今回のツアー・チケット1枚あたり1ドルが、マクマホンの立ち上げたディア・ジャック基金に寄付される。
マクマホンは「アンドリュー・マクマホン・イン・ザ・ウィルダネス」名義のコンサートでジャックス・マネキンの作品も取り上げているものの、ジャックス・マネキンの楽曲のみで構成するステージは10年ぶりとなる。また2024年には、20年ぶりにサムシング・コーポレイトの活動も再開させている。
42歳になるマクマホンはローリングストーン誌の独占インタビューで、自らの輝かしい過去を辿る旅について語った。また、Warped Tourへの参加やテレビ番組『ワン・トゥリー・ヒル』への楽曲提供といったジャックス・マネキンの全盛期に再び戻りたいか、といった質問にも答えている。「自分が辿ってきた音楽の道をのんびりと振り返り、その先に何があるのか見てみたい」とマクマホンは言う。「今なら、当時見えなかったものを見つけられる気がするんだ」。
―ジャックス・マネキンとしてツアーに復帰しようと思ったきっかけは何ですか? 20周年という区切りだからでしょうか。あるいは、昨年のサムシング・コーポレイト再結成が好調だったからでしょうか。
アンドリュー・マクマホン(以下、AM):正直なところ、サムシング・コーポレイトのライブを続けようと決めた流れで、といった感じだった。それぞれのプロジェクトに取り組んでいる時は、それがどれほど特別なものかなんて自分では冷静に評価しないよね? ウィルダネス名義のプロジェクトでは、成功を実感できた。だから精神的にも肉体的にもより健康な状態で、あの頃をもう一度振り返ってみたいと強く思うようになったんだ。メンバーと一緒に20周年を記念するツアーに出て、ひとりひとりが当時の曲を振り返るよい機会になると思う。
―ステージではジャックス・マネキンの楽曲をずっと続けていますが、今回のプロジェクトで特に楽しみにしている作品はありますか?
AM:デビュー・アルバム『Everything in Transit』リリース10周年記念ライブや、ドライブイン・ライブなんかでもジャックス・マネキンの曲をやった。でもはっきり言って、単に楽曲を並べただけの感じだった。
僕にとってジャックス・マネキンは、サムシング・コーポレイトでやっていたことを、スタジオでのプロダクション重視の形に発展させたプロジェクトだった。レベルの高い彼らと一緒にステージに立つことで、ミュージシャンとしてものすごく成長できた。ジャックス・マネキンの曲を演奏する時は、間違いなく本能的に感じるものがある。当時経験したストーリーと密接に結びついた音楽だ。僕の人生にとって、大きなターニングポイントだった。
闘病生活に入る前から、『Everything in Transit』を制作するために全部を捨て去ってゼロから始めるのは、大きな決断だった。プレッシャーも大きいし、危険も伴う。
ジャックス・マネキンの本質はラブストーリー
―当時に立ち返ると、特にステージ上では、いろいろな感情が湧き上がってくるでしょうね。
AM:正直言って、怖い気もする。ツアー中は、僕のセラピストも待機してくれている。ジャックス・マネキンの音楽は、ストーリー性を重視していた。曲作りという点では完全に僕が中心で、3枚のアルバムを通じて僕のストーリーを表現できた。ジャックス・マネキンのプロジェクトで、アルバムを3枚も出せるとは思っていなかった。プロジェクトを取り巻くさまざまな出来事の渦に巻き込まれているうちに、時間が経っていた感じだ。
人生のあの時期のすべてが、3枚のレコードに凝縮されている。当時を回顧することは、精神的にも肉体的にもある意味で試練になるだろう。毎晩ステージで、曲に込められたストーリーを披露できるのは嬉しいことだ。僕たちはすべての曲を完璧に仕上げて、毎回のセットリストを新鮮で特別なものにしようと思っている。バンドのファンがいろいろ楽しめるようにしたいんだ。いわゆるB面曲もリハーサルしようと思う。『Everything in Transit』の20周年だから、当然デビュー・アルバムからの曲が多くなると思うけれども、じっくり取り組む時間は十分にある。
―B面曲といえば、例えば「Balloons」といったジャックス・マネキンの未発表曲も聴けるでしょうか?
AM:あの曲はどこかにあるかな…もし持っていたら送ってくれないか?
―YouTubeなどに上がっていると思います。
AM:いいね。「Balloons」「Cell Phone」「Out of It」の3曲から、2枚目のアルバム『The Glass Passenger』(2008年)が始まったと言ってもいい。この3曲は僕にとって大きな挑戦だと感じていたけれども、当時は自信がなかったんだ。レーベル側も気に入ってなかったしね。
―ツアーの名称を、デビュー・アルバムの収録曲「Made for Each Other」から名付けたのは、なぜですか?
AM:決まるまでには紆余曲折あった。チームも僕もまず「ツアーをやる意味って何だろう」と考えた。ジャックス・マネキン、正確に言うと僕の音楽全般の本質は、ラブストーリーなんだ。破局や結婚、それから夫婦として色々乗り越えていく姿を描いている。すべての曲に、そういった要素が絡み合っている。これは、良い時も悪い時も僕に寄り添ってくれたメンバーにも当てはまる。僕らの間にはさまざまな困難もあったが、それらを乗り越えて今に至る。また、ファンの存在も忘れてはならない。
―楽曲「MFEO」は「You Can Breathe」との二部構成になっていますが、2曲をどのようにセットリストへ組み込む予定ですか?
AM:2つの曲を切り離すことはできない。全体で10分間の作品を、ステージでもそのまま再現する。以前ライブで、『Everything in Transit』の最初から最後まで収録順に演奏したことがある。今はそんなことをする気はない。でもツアー中に気が変わって、やるかもね。とはいえ、別々のアルバムから曲をピックアップしてセットリストに組み入れることで、楽曲自体の進化や、曲作りのテーマの変化、バンドの成長を感じられる。さらに、プロジェクトがまたがっても、多くのテーマが密接につながっている。これらは、サムシング・コーポレイト・ツアーで僕が実感したマジックだ。チャレンジではあるけれど、ライブのスペシャル感を打ち出せると思う。
「自分の辿ってきた軌跡を振り返るのも悪くない」
―サムシング・コーポレイトとジャックス・マネキンにとって、Warped Tourは一つの重要な転機だったと思います。2025年は、Warped Tourの初開催から30年目の区切りの年です。またツアーに参加する予定はないですか?
AM:ケヴィン・ライマンは、僕のキャリアを勢い付ける上でとても重要な役割を果たしてくれた一人だ。ただそれだけさ。僕は彼を尊敬しているし、Warped Tourにも愛着を感じている。機会があれば、もちろん出演したいさ。でも本当に、現時点では何の話も出ていない。
―テレビ番組『ワン・トゥリー・ヒル』への出演と楽曲提供や、番組キャラクターの「The Mixed Tape」のMVへの出演など、同番組はアルバム『Everything in Transit』にとって欠かせない存在です。現在、番組のリブート版の制作が進んでいるという話ですが、もしオファーがあれば参加しますか?
AM:もちろんさ。ケヴィン・ライマンがサムシング・コーポレイトの知名度向上に貢献してくれたように、番組『ワン・トゥリー・ヒル』はジャックス・マネキンの成功へ向けた足場固めに大きな存在だと言える。普通ではなかなかできない経験で、僕の人生にとっても重要な出来事だった。撮影場所への移動用に、新たにバスと2人の運転手を手配しなければならなかった。当時はまだ僕の健康状態が本調子でなかったからね。主治医は呆れていたよ。当時はまだ婚約者だった妻のケリーが『ワン・トゥリー・ヒル』の大ファンだったこともあって、あのクレイジーな旅が実現した。ケリーと僕とバンドのメンバー3人とで、僕の健康状態が悪化する前に、できるだけ急いで移動した。ドラマのキャストは皆、本当に気をつかってくれた。LAに住んでいた頃も、何人かと連絡を取り合っていた。リブート版に呼ばれたら、ぜひ参加したいね。
―回顧することであなたが何を発見するのか、楽しみです。
AM:僕は、過去を振り返ることに抵抗を感じていた。僕の強みの一つは、とにかく前進し続けることだと思っていたんだ。それは同時に、弱点でもあった。とにかく前へ進みながら自分の可能性を見出そうと必死だったから、後ろを振り返るのが怖かった。でも40歳になって、「僕たちは、振り返ってみる価値のある時代を築いてきたんだ」と思えるようになった。
目まぐるしかった旅を中断して、1~2年も時間を持てる。「人々や友人やバンド仲間や自分自身にとって役に立つ何かを成し遂げたんだ。一度立ち止まって、自分の辿ってきた軌跡を振り返るのも悪くないな」と思えるなんて、幸せなことさ。
From Rolling Stone US.

JACKS MANNEQUIN THE MFEO TOUR
2025年9月8日(月)大阪・梅田クラブクアトロ
2025年9月9日(火)東京・渋谷クラブクアトロ
OPEN 18:00 / START 19:00
チケット:¥9,000(税込/All Standing/1Drink別)
詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/jacks-mannequin_2025/