―来年で15周年。25枚目のシングルまでキャリアを積んできた今、Aimerはどんなアーティストになっているとご自身では思いますか?
Aimer:歌い始めた14年前には想像していなかったところに今いるなと思います。10周年イヤーでツアーを多く回らせていただいたり、『残響散歌』をリリースしたり、いろいろ派手にお祭りモードで活動していたときに「自分の居場所ができたんだな」と感じたんですよね。すごく煌びやかで荘厳な建物というわけではなくて、かと言ってすきま風が吹くようなところでもない、自分の音楽を聴いて下さっている方たちとそこで過ごせている、すごく大切な居場所を持っているアーティストになれているのかなって。
―どんな瞬間や状況において「自分の居場所ができている」と感じたんですかね?
Aimer:やっぱりライブが大きいですね。音楽活動を始めたときは、それこそ顔も出していなかったし、暗がりの中でライブをしたりしていたので、自分の中で「そんなにライブに重きを置くのかな?」という感じだったんですよ。でも、最初は自分の音楽が誰かに届くのか分からない中で活動していたんですけど、その活動の先で私の曲を受け取ってくれる人のことをいつの間にか意識しながら創作をするようになっていて。それは自分が放ったモノを誰かが受け取って大事にしてくれているんだなと、そういう想いの交換や循環みたいなものをライブで感じたからなんです。
―たしかに、デビュー当初はパーソナリティを見せずにミステリアスな存在として活動している印象でした。でも、そこからライブを重ねていく中で「自分を出してもいいんだ」と徐々に思えたことが今のスタンスに繋がっていったのかもしれないですね。
Aimer:そうですね。ただ、パーソナリティみたいなものを「出してもいいのかな」と思えたのは、本当に最近ですね。それこそ10周年のあとぐらいからじゃないかな。「私を介してAimerという音楽がそこにある、あくまで私は媒介である」という意識が元々すごくあったので、それを自分は守ろうとしていた。でも、音楽活動を続けていけばどうしても自分と楽曲の関係性は密になるし、切っても切り離せないものになっているんだなと気付いて、「これは私の中から出ている、私が出しているモノなんだから」とひとつ開き直るというか。そこを大袈裟に分断することは不自然なのかなと思うようになったんです。
―意識が変わったんですね。
Aimer:だんだんライブも明るい照明でやるようになったり、ファンクラブとかライブの中で砕けた自分を見せるようになっていく中で、尖っているところも丸いところも、もっとちゃんと自分の形にしていきたいという意識が生まれてきましたね。
―とは言え、それまで見せていなかった自分を見せていくのって勇気がいることですよね。でも、ライブを繰り返していく中で「この人たちだったら大丈夫かもしれない」と思えたからこそ、そういう意識になれたところもあるんじゃないですか?
Aimer:本当に今言って下さったとおりです。本当の意味での愛みたいなもの。私が愛を語るのはおこがましいんですけど、そういうものを考えていったときに「自分が守っていかなきゃいけない」と思っているモノを委ねる。
―ゆえに居場所もできたわけですよね。ただ、それがわりと最近であると。時間がかかりましたね(笑)。
Aimer:自分でも「時間かかったな」って思います。でも、逆に言えば、すぐにそういうところへ行けちゃう方たちもいると思うんですけど、私の場合はここまで長くゆっくり積み上げてきた関係性があったからこその今なので。ある意味、ちゃんと貫いてきたから「裏付けされた道のりだったな」って自分の中で納得もできているんだと思いますね。
―そんな今のAimerさんの音楽活動に対するモードってどんな感じになっているんでしょう?
Aimer:長いスパンで見たときに、10周年で『残響散歌』という作品のリリースもあって、ちょっと派手に花火を上げるようなタイミングもあったから、そこで若干燃え尽きていたなと思うんですよね。大きなお祭りから抜けて、喉とか気持ち的にもある程度疲弊した感覚もあったので、そこでいったん鎮火した感じ。だからこそ、そこからまた粛々と歩いていこうと思えたんです。その結果、今、2025年を迎えて「次の新しい灯火を育てていきたいな」という気持ちが湧いてきています。
―どんな「新しい灯火」「ここからまた生まれ変わるAimer」になりそうな予感がしていますか?
Aimer:今まで自分が創ってきた音楽だったり、その道筋を否定するとかそういうことではまったくなくて。ある種、私はひとつひとつ堅実に積み立ててきたなと自分でも思うんですよね。でも、その中で、ファンやリスナーの方に自分のパーソナルを出すことが以前より違和感のない状態になれてきた。だからこそ、音楽でもう少し自分に忠実に遊んでみてもいいのかなって。冒険するというか尖るというか、また試行錯誤してもいいのかなって思っているんです。10周年を経てからのここ数年は「自分は本来どういう音楽が好きなんだろう」「ファンの方に向けてどういう音楽を創りたいのか」みたいなことを考え直していて。今までだったら「堅固に道をかためる」的なモードになりがちだったんですけど、自分のパーソナルをもうちょっと汲みながら音楽を創っていけたらなと思っているんです。今はそれを模索しているところですね。
―そんな今のAimerさんから見た日本の音楽シーンってどんな風に映っていたりしますか?
Aimer:ずっとこの活動をしながら、自分も音楽シーンに密やかながら存在している身として思うのは、この14年の中でもいろいろガラっと変わったじゃないですか。例えば、チャートを見ていても14年前とは大きく変わっているし、私もアニメの主題歌をよく歌わせて頂いていますけど、かつてはこんなにアニメの主題歌がメインストリームに存在しているなんて想像できなかったことだし、カルチャーの受け取り方自体が変わってきているんだなって。
―実際、そのシーンの中でどう在りたいなと思っています?
Aimer:すごく抽象的なんですけど、それこそ自分の音楽を受け取ってくれる人たちとの居場所ができたこともあって、例えば「Aimerっていう人、なんかさり気なくずっといるな?」みたいな、そう気づいてくださった方が「なんでこの人は密かにずっとシーンにいるのかな?」って曲を聴いてみたら、ずっといる意味が分からなくもないと。そう思ってもらえたら、それが自分の理想です。時の流れだったりとかにあまり左右されないような、ちゃんと普遍性を保っている音楽。ちゃんと音楽的な音楽、それでいて、自分らしい音楽を歌い続けられたらなと思っています。難しいことですけど。私自身、どんなに時代が変わっていっても「凄いな」と感じる先人たちの音楽に魅了されてきた人間だから、そういう音楽を目指してずっと創っていきたいですね。
―今の話ともリンクすると思うんですけど、NHK『みんなのうた』の為に書き下ろした「やさしい舞踏会」。今回のシングルにも収録されていますが、子供たちが頻繁に耳にするであろう『みんなのうた』に対してもちゃんとAimerらしいディープな音楽アプローチをしているなと感じまして。
Aimer:そう感じてもらえるのは嬉しいです。私もいつか『みんなのうた』に仲間入りしたいなとずっと思っていて。
―今の話を聞いて、Aimerさんが平沢進さんのファンであることをふと思い出しました。対象が『みんなのうた』リスナーであっても自分らしいディープな世界観で届ける。そのメカニズムは近しいものがあるかもしれないですよね。
Aimer:たしかに。私は平沢進さんが大好きで、『パプリカ』とか今敏さんのアニメーション作品の音楽も手掛けられていたじゃないですか。そういうものに自分も影響を受けたりしていたし、物語としてちゃんと起承転結があってハッピーエンドを迎えて「あー、観てよかった!」という作品も良いけど、私の場合は「あれ、なんだったの? どういう意味?」みたいな作品に惹かれることが多いんですよね。
―「やさしい舞踏会」にも通ずる世界観ですよね。それを『みんなのうた』だからこそ打ち出す面白さがある。
Aimer:そうですね。あまりにも得体の知れない怖い曲を『みんなのうた』で流してもらうのはアレなので、そこの塩梅は考えながら制作しました。私は児童文学も好きなんですけど、子供の頃に普通に無邪気に読んでて、大人になってから「え、こんなに過激なこと言ってたの? こんなにダークだったんだ!」みたいな作品ってあるじゃないですか。それを敢えて子供たちに向けて発信するということは、決して悪いことじゃないと思うんですよね。そういう良い意味で刺激になったり、フックになったりするもの。それが何かの入り口になったりするから。私も自分の曲が音楽を好きになるきっかけになったらいいなと思っているので、そういうことを考えながら「やさしい舞踏会」は創りました。
―今回のシングルの表題曲となっている「SCOPE」についてもお話を伺っていきたいのですが、まずこの曲がオープニングテーマとなっているアニメ『天久鷹央の推理カルテ』自体にはどんな印象や感想を持たれましたか?
Aimer:『天久鷹央』シリーズの原作を読ませて頂いて、アニメ『天久鷹央の推理カルテ』の脚本も事前に読ませてもらいながら「SCOPE」は制作したんですけど、アニメ制作サイドからのリクエストとして、天久鷹央という主人公の名前がタイトルに入っている作品ですし、鷹央さんのテーマソングというか、彼女にフィーチャーした曲にしてほしいと。なので、彼女に着目しながら読んでいきました。医療ミステリーということで、私はあんまりミステリーを読まないのですごく新鮮でしたし、彼女は誰にも解けなかった謎を卓越した頭脳でどんどん解析していくので、爽快感もありましたし、本当に面白い作品だなと思いました。
―医療ミステリーのイメージを悉く覆していく作品でもありますよね。恐竜の化石に足を食われたとか、推理の過程もかなりぶっ飛んでいるじゃないですか。でも、ちゃんと理に適っているという。
Aimer:初回から凄かったですよね。アニメ版の序盤は原作にはないストーリーで、原作者の知念実希人さんが新たに書き下ろしているんですけど、インパクトもありますし、血が青かった理由の謎とか含めパンチが効いていて。でも、ちゃんと医学的見地に基づいて堅実的に謎を解いていく。それが面白いんですよね。
―ミステリーとしてはかなりアッパーな作品ですよね。ゆえにオープニングテーマ「SCOPE」の疾走感あるアッパーな曲調ともシンクロしていて、まさに天久鷹央のテーマソングだなと感じました。
Aimer:分かりやすく華々しい曲にしようと思って。鷹央さんのキャラクターが普通じゃないじゃないですか(笑)。彼女自身もすごくアクのあるパンチが効いたキャラクターだから、その人となりが見るからに華々しい。ちょっと常軌を逸している存在なので、そんな彼女に負けないように、今回は自分としても今までにないぐらい、いろんな要素を詰め込んでいるんですよね。例えば、あんまり自分の作品に入れてこなかったブラスサウンドを取り入れたり、ギターのリフとかも常人では弾けないぐらい速かったり、ボーカルもバックコーラスとの掛け合いみたいになっていたり。とにかく間を空けない。全部の間をオーバーに埋めていく。そこまでやらないと、鷹央さんと張り合えないと思ったんですよね。
―言動や思考のとんでもなさ、火の中にバイクで突っ込んでいくような性格も含め、何もかもが激しいキャラクターですからね(笑)。
Aimer:そうなんですよ。あんなに可愛らしいのに激しい性格をしていて、そのうえで頭脳明晰。でも、人間関係の機微とかは分からなくて、孤独も抱えている。作品の主人公としてのインパクトがいっぱい詰め込まれているので、人として色が濃いんですよね。なので、そんな彼女にちゃんと張り合えるような曲にしたいなって。
―歌詞も天久鷹央をイメージして制作されたと思うんですけど、例えば「もう前例だらけのまやかしdays 迷宮の先に輝くstar」から「常識通りのmeasureを捨て ただ真実を知りたくて」みたいなフレーズは、Aimerさん自身の音楽活動に対する姿勢にも通ずるものがあるのかなと感じました。
Aimer:そうですね。鷹央さんは本当に超人的なので、私と近しい部分はほとんどないんですけど、常識にとらわれない姿勢だったり、真実を知りたい好奇心だったり、そういうスタンスには共感できるところがあって。なので、私自身が音楽をやっていく中で生まれる感情とかも滲み出ているのかもしれない。あと「駆け巡れ 超えてゆけ 届くまで」みたいな強いフレーズが飛び出す楽曲でもあるので、自分自身も鼓舞されますし、聴いてくれる人たちにとってもそういう存在になったらいいなと思っています。
―そして、本作『SCOPE』からもう1曲。「うつくしい世界」はどういった背景や想いから生まれた楽曲なんでしょう?
Aimer:出光興産さんのCMソングとして制作させて頂いたんですけど、この曲は音色がいちばん大切というか、言葉も紡いではいるけど、それ以上に音色から美しさが伝わったらいいなと思って。声ですね。なので、声の響きはすごく拘ってレコーディングしました。
―Aimerさんにとっての「うつくしい世界」とはどんな世界?
Aimer:誰かがそう望むとき、夢を抱くことができるの世界ですね。その夢が叶うか叶わないかということ以前に、夢を抱けること自体がすごいことなんだな、と感じます。特に今は夢を持ちづらい時代だと感じますが、誰かがそう望むとき、叶えたい夢を自由に抱けるような世界であってほしいと、ひとりの人間として強く思うんです。余談ですが、私、アイスランドがとても好きで、何回も行っているんですけど、その度に「私たちが住んでいる地球は元来うつくしい場所なんだ」と思うんですよね。日本で日々生きていても「あ、今日の夕焼けうつくしいな」と感じる時がある。どなたにもそういう瞬間ってあると思うんです。そんなふうにこの世界のうつくしい瞬間に心洗われながら、誰かに対して優しい気持ちを持ったりすることができる世界であったらいいし、自分もそうでありたいなと思いますね。
―「うつくしい世界」はそういう感覚を思い出させてくれる楽曲だと思います。
Aimer:音楽ってそういう人の気持ちにちゃんと依存しているものだと思うんですよ。誰かに対して心が動いたりとか、そういう出来事がないと「音楽をつくろう」と思わないだろうし。そもそも音楽の元を辿ったら、自然との繋がりの中でそういう崇高な願いがあったのかもしれないし。そんな音楽に関わっているからこそ、ダイレクトに何かを啓蒙するような曲じゃなくても、うつくしい景色を観たときのような気持ちになってもらえたらと思ったんですよね。「うつくしい世界」はそういう感覚に響く曲になってくれたらいいなって思います。
―そんな三者三様の音楽が堪能できるニューシングル『SCOPE』ですが、初回生産限定盤には、海外ワンマンツアー【Aimer 3 nuits tour 2024】上海メルセデス・ベンツアリーナ公演から11曲のライブ映像を収録したBDが付属されます。このライブはAimerさんの中でどんな印象の公演になっていますか?
Aimer:上海メルセデス・ベンツアリーナという場所でライブをすることは、ひとつの目標だったんですよ。イベントで何回か立たせて頂いたことがあって「こんなアリーナでいつかワンマンできたら凄いよね」ってスタッフさんとも話していて。こんなに早く叶うと思っていなかったから、すごく感慨深かったです。海外ツアー自体も5年ぶりですごく久しぶりだったんですよ。世界的に見てもなかなかライブが出来ない、渡航が出来ない時期を越えて実現できたツアーだったので、お客さんの熱量も凄くて。特に上海は全曲いっしょに合唱みたいな。こっちが圧倒される感じもありましたし、10周年を超えてゼロになってまたステージに立ったツアー初日でもあったから「こんな形でまたみんなと一緒にライブが創れるんだ」という手応えがあって。それをこうして円盤に残せたのはすごく嬉しいです。
―では、最後に、今後の展望も含めて読者の皆さんへメッセージをよろしくお願いします。
Aimer:来年で15周年を迎えます。あっという間で。先ほどもお話したように、ちいさな炎というか、灯火みたいなものをここからまた育てていこうと思っていますし、今まで以上に音楽に誠実でありたいという気持ちもより芽生えてきているので、リリースするかしないかに関わらず「まずいろんな音楽を創ってみよう」と。もっとフレキシブルにいろいろ表現してみようと思っているので、そこからどんな音楽が生まれるのか、皆さんにもますます楽しみにしてもらえたら嬉しいなと思います。
<リリース情報>

Aimer
シングル『SCOPE』
発売日:2025年2月19日(水)
https://Aimer.lnk.to/SCOPE_PKG
<ライブ情報>
Aimer2024年秋 全国10都市19公演ホールツアー
「Aimer Hall Tour 2024-25 "lune blanche”」
2025年
2月21日(金)2月22日(土)フェスティバルホール(大阪府)
3月8日(土)3月9日(日)東京ガーデンシアター(東京都)
チケット価格:【全席指定】8800円(税込)
ライブ情報詳細:https://www.aimer-web.jp/live/
Aimer オフィシャルサイト https://www.aimer-web.jp/