新世代の共演にワクワクする。なとりが「この3人で次は東京ドームで」なんて言うからなおさらだ。
imaseが繋げた3人の縁は、いつの間にか大きな求心力を持って動き出しているのだろう。アンコールで3人が一緒に歌った「メロドラマ」「メトロシティ」がびっくりする程良く、なるほど、確かにこのライブは来る日から見たプロローグなのかもしれないと思った。jo0jiの「Nukui」でオーディエンスが”everything all right”と大きな声で歌っていたのも象徴的だ。時代は暗いが未来は明るい(と敢えて言い切ろう)。ジャンルに頓着がない世代による、気の置けない友人同士の素晴らしい一夜である。

imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」

なとり、jo0ji、imase

まずはざっくりとした背景だ。2021年5月、TikTokに音源を投稿し活動をスタートさせたimaseとなとりはすぐに意気投合。昨年は2曲の共作(上記の「メロドラマ」「メトロシティ」)を発表するなど、音楽性を越えて刺激を与え合う友人としてクリエイティブにもその関係性を反映している。そこにjo0jiを結びつけたのがimaseである。彼はjo0jiがYouTubeにアップした「不屈に花」に反応。DMでのやり取りが始まり、3人で焼き肉に行ったり「メトロシティ」にjo0jiもコーラスとしてジョインするなど親交を深めた彼らは、今回の『Juice』で初の三者共演を果たすことになる。

出演の順番は『スマブラ(正式名:大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL)』での対戦結果に委ねられ、優勝したimaseがトリをチョイス。
勝負に負けたjo0jiがトップバッターに(jo0ji曰く、「本番の前は自分が勝ってた」)。まさに遊びの延長、信頼から発展して生まれたライブである。転換中にはリスナーからの質問に応える対談形式のトークが放送され、ライブ中には3人がそれぞれの楽曲を互いにカバー。血の通ったコラボレーションを見せていたのが印象的だ。2月11日(火・祝)大阪・Zepp Nambaにて行われた初日を経ての、2月16日(日)東京・Zepp Haneda公演である。

imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」

なとり、imase、jo0ji

トップバッターjo0ji登場、聴き手の人生を肯定する詩と歌

jo0jiはそこにいるだけで詩になるような人だ。静寂に溶け込むような柔らかいピアノと歌声.……真っ暗なステージの中で、スポットライトは彼だけを照らして降り注ぐ。まるで月の下で歌うように、悲しいくらい綺麗な名曲「不屈に花」でライブは始まった。気づけばバンドサウンドが合流、ボーカルに寄り添うような品のある演奏に好感を持つ。

imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」

jo0ji

2曲目の「明見」からは早速ギアが切り替わる。jo0jiがギターに持ち替えたこの曲で、バンドメンバーも一気にエネルギーを放出したようだ。鍵盤の柿沼大地はこの日度々耳を引くプレイを見せており、とりわけ「眼差し」の魔法みたいなサウンドは印象的だった。
そしてハイライトは「escaper」である。原曲でも不気味さを感じるこの曲は、ライブではスモーキーなソフトサイケに化けており、それでいて腰を揺らすようなグルーヴがある。思う存分歪ませるギターもおあつらえ向きで、目の覚めるような活気のあるアンサンブルに惹きつけられた。そしてもちろんimaseの「恋衣」、なとりの「食卓」というふたつのカバーにも触れないわけにはいかないだろう。甘さと苦みを兼ね備えたjo0jiの声質は、前者の詞世界と絶妙なシナジーを見せており、曲のストーリーが生々しく伝わってくる。後者は原曲の毒気が少しだけ薄まった感じで、代わりに哀の感覚が増幅。メロディ良さはそのままに、逆説的にjo0jiの個性が浮かび上がっていたように思う。

終盤の「ワークソング」から「≒」の流れに励まされる。音源よりも情熱を感じる声で歌う前者は彼なりの人生賛歌だろう。柔らかくあたたかみのあるタッチのドラムも素晴らしい。身体の内側からじんわりと熱が込み上げてくるような演奏であり、それはjo0jiのライブにおけるひとつの魅力だろう。友人や家族がモチーフになることが多い彼の楽曲には、手を伸ばせば届くような距離感があり、そして慎ましい人生を肯定するような力強さがある。
彼はこの日も語りかけるような声色で、何度も客席に指を差しながら、座ったり、はにかんだり、身体をくねらせながら歌っていく。飾らないMCも親近感を抱かせる要因だ。恐らく彼にとってはこれまで経験した中でも大きな会場であるはずだが、そうした舞台でもその資質はブレることがない。”だって答えは俺らの中から見つけるもんだろ兄弟”(「≒」)と語りかける時、思わずその歌の奥にある彼の内面に触れたような気持ちになってドキリとする。バンドアンサンブルも一層育っている印象で、「≒」はこれからの10年、ずっと歌い続けていく楽曲になるのではないだろうか。

imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」

jo0ji

ボカロ、ロック、ブラックミュージックなどを内包するなとりの熱演

客電が落ち、なとりのシルエットが浮かび上がった瞬間空気が変わる。ステージに立った時の歓声は一番だったのではないだろうか。「ぶっ飛ばして帰りましょう」と告げる頃には既にフロアはブッ飛んだテンションになっており、「絶対零度」「エウレカ」「EAT」と頭から強烈なエナジーを放つハードな演奏を聴かせていく。特にバキバキに歪んだベースは存在感抜群で、脳味噌を直接揺さぶられるような音圧が快感をもたらす。錆びた風を感じるような不穏なサウンドと、冷徹な視線を感じる不機嫌そうなボーカルーー演奏はどこまでも激しく燃えるような熱さがあるのに対し、ボーカルはどこかひんやりとした冷たさがあり、そのコントラストにクラクラした。

imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」

なとり

「jo0jiもかっこよかったし、この後imaseくんもかっこいいライブをすると思う」という敬意と、「アイツらふたりブッ潰して帰るのでついてきてください」という挑発ーーなとりは音も態度も好戦的だ。激しい音はこの殺伐とした時代の閉塞感を振り払うようでもあるし、痛みと祈り、不安と期待が交差して爆発を起こすような歌詞からは、逆説的に彼の誠実さ(あるいは切実さが)が浮かび上がってくるような気がした。


かかってこい!と何度もフロアに火をつける中、緩急が生まれたのは「金木犀」から。どことなくジャジーなニュアンスを感じるピアノにはムードがあり、夜気を含んだような低い声がメランコリックな気分をもたらしていく。新曲の「FLASH BACK」も艶やかなサウンドが印象的で、蠱惑的な魅力を感じさせる1曲だ。カバーは「ミッドナイトガール」(imase)、「Nukui」(jo0ji)としっとりとした楽曲をセレクト。なとりの歌声で聴く新鮮さはもちろんのこと、重厚感のあるアンサンブルも印象的だ。うっとりするような夜の曲である前者にはざらついた質感が加味され、のほほんとした気分を感じる後者も、原曲とは打って変わってどこか焦燥感を伴って聴こえてくるから不思議である。

ボカロ文脈を引き継ぎながら、ロックサウンドにアップデートしたような「IN_MY_HEAD」からは再び狂乱のフロアに舞い戻る。アドレナリンがドバドバと出てくるようなドラムとベースをエンジンに、ギターとキーボードもスリリングなフレーズを聴かせていく。明日を見ない音楽というか、今この瞬間を快調に飛ばしていくことだけを考えているようなテンションが凄まじく、会場中がタオルをぶん回している。最後は地獄のダンスホールで踊り明かすような「Overdose」で終演。レトロフューチャーな気分を感じる鍵盤の音色が非常に良く、そのまま別の空間に飛んでいくような解放感である。

imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」

なとり

トリはimaseの華やかなショー。
最後は3人で名曲をカバ

演者によってガラッと景色の変わる1日だ。鍵盤の音が聴こえてきたかと思えば、スモークでステージが見えなくなり、そしてimaseが現れ代表曲の「NIGHT DANCER」へ。オレンジ色のジャケットは、この日の誰よりも華やかなステージを見せることを予感させる。そして始まったのがショーマンシップを感じる『Juice』のトリ、imaseのライブである。

imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」

imase

蛍光色の光を感じる爽やかなロックナンバー「LIT」を歌い、MCを挟んで「I say bye」へーーと思いきや、自身の曲にマッシュアップするようになとりの「糸電話」とjo0jiの「不屈に花」をカバー。なとりの楽曲の中でも一際軽快なテイストを持った前者とは相性がバッチリで、ふわっと浮き上がるような夢心地のポップスという感じだろう。「不屈に花」では原曲の儚げな雰囲気が幾分弱まり、代わりに麗かな春が訪れたような明るさを感じる。と思っていたら、いつのまにか「I say bye」の”東京lonely night”のコーラスに戻っており、あたたかな春から、まどろむような孤独な夜へと帰還していく。

だが、ぼんやりとした気分は一瞬で吹っ飛ぶ。ヒリヒリとした質感のシンセが空間を覆い、不安を掻き立てるように打ち鳴らされるドラムが身体を揺さぶる「Dried Flower」である。ダークでアグレッシヴ、imaseのステージにおいて異色な雰囲気を持ったナンバーであり、ポップでチャーミングな「I say bye」と、シティポップからの影響を感じる軽快な「Nagisa」の間に挟まるスパイスになっていた。

imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」

imase

母音を潰して均したような発声が、imaseの音楽をより愉快にさせているように思う。
彼の歌は波に乗るように言葉と言葉がスムースに繋がり、チアフルな演奏も相まって思わず身体が動き出すような軽やかさがある。ということでとびきり踊れる「Nagisa」を歌い、そして「この3人でまたやれるように頑張ります」というMCを挟んで「EGOIST」へ(あっけらかんと「次は東京ドームかな」と口にするなとりと、優等生的な挨拶と共に「頑張ります」と言うimaseが好対照で、良いバランスの関係性を思わせる)。imaseは舞うようにステージを動き、虹色に輝く照明を背景に「ユートピア」を披露。もう疲れがぶっ飛ぶような明るさがあり、最後は「Happy Order?」で大団円。笑顔で踊れる素敵なショーである。が、本番はここからだ。

アンコールに登場したimaseが、なとりとjo0jiの2名を呼び込みボーカリスト3人で「メロドラマ」「メトロシティ」を歌う。なとりからimase、imaseからjo0jiへと繋がっていくボーカルは爽快で、「メロドラマ」には初めから3人の曲だったみたいなハーモニーがある。どことなく乾きを感じるなとりの声と、どうしたって色気が漏れ出すjo0jiの声。その2人の掛橋となるimaseの声はそれぞれが魅力的で、フレーズごとに主役を譲り合いながら、残りの2人がコーラスで重なっていく姿もカッコいい。特に原曲よりもディスコファンク色が増した印象の「メトロシティ」は、この日の中でもダントツだったと思う。

imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」


imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」


imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」

Zepp Namba公演後に3人でスポッチャへ遊びにいったという話から、それぞれの個性的なボーリングの投げ方を披露したシーン

3人が活動を始めたのは2021年。芸術に対し「不要不急」のレッテルが貼られたこの国の中で、彼らの音楽はSNSを介して産声を上げた。その後の数年でのimase、なとりの海外でのバズを含めた快進撃はご存知の通り。jo0jiの音楽も昨年辺りからうんと広い場所へと漕ぎ出した印象だ。目まぐるしくトレンドが移り変わっていくシーンの中で、彼らはタフに突き抜けていくような予感がある。最後は斉藤和義「歩いて帰ろう」のカバーまでやって盛大に終演。何年か先に待っているかもしれない、大舞台での開催が楽しみである。

Editor = Yukako Yajima

2025年3月25日発売の「Rolling Stone Japan vol.30」には、ここに収まりきらなかった撮り下ろし写真とともに、『Juice』終演直後のimase、jo0ji、なとりのインタビューを掲載!

『Juice supported by Rolling Stone Japan』
2025年2月16日(日)@Zepp Haneda
セットリスト

jo0ji
1. 不屈に花
2. 明見
3. 恋衣(imaseカバー)
4. 眼差し
5. Nukui
6. 食卓(なとりカバー)
7. escaper
8. cuz
9. 駄叉
10. ワークソング
11. ≒

なとり
1. 絶対零度
2. エウレカ
3. EAT
4. 金木犀
5. FLASH BACK
6. DRESSING ROOM
7. ミッドナイトガール(imaseカバー)
8. Nukui(jo0jiカバー)
9. フライデー・ナイト
10. IN_MY_HEAD
11. Overdose

imase
1. NIGHT DANCER
2. LIT
3. I say bye ~糸電話(なとりカバー), 不屈に花(jo0jiカバー)Mashup Ver.~
4. Dried Flower
5. Nagisa
6. EGOIST
7. ユートピア
8. Happy Order?

imase×jo0ji×なとり
1. メロドラマ
2. メトロシティ
3. 歩いて帰ろう(斉藤和義カバー)

<書籍情報>

imase、jo0ji、なとり3マン『Juice』レポ 新世代ポップスシーンの第一章「次は東京ドームで」


Rolling Stone Japan vol.29(2025年2月号)
発行:CCCミュージックラボ株式会社
発売:株式会社CCCメディアハウス
2024年12月25日発売
価格:1320円(税込)
※Amazonにて販売中
編集部おすすめ