メキシコ出身のギタリストによるコンビ、ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ(Rodrigo y Gabriela)が9年ぶりに来日。4月7日(月)東京・恵比寿ザ・ガーデンホール、8日(火)大阪・BANANA HALLでライブを開催する。


ロドリーゴ・サンチェスとガブリエーラ・クインテーロがデュオを組んだのは2000年のこと。アイルランドのダブリンへ拠点を移してから、超絶技巧を駆使したライブ・パフォーマンスで注目されるようになった。初来日を果たした2008年には2度の単独来日とフジロック・フェスティバルへの出演で、日本のファンベースをしっかり築いている。

2019年のアルバム『Mettavolution』は、第62回グラミー賞で最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバムを受賞。2023年にリリースした最新作『In Between Thoughts...A New World』ではエレキギターやシンセサイザーを導入、オーケストラも起用し、これまでの”アコースティックデュオ”というイメージに縛られない壮大な音風景を見せてくれた。今回はオンライン取材にガブリエーラが参加。近年の歩みと、最新作の話題を中心に訊いた。

─来日は9年ぶりと聞いて驚きました。間にコロナ禍もありましたが、あなたたちのようなライブアクトにとって、ロックダウン期間は苦悶の時期だったのでは?

ガブリエーラ:ええ、ミュージシャン全員にとって、そして私たちにとっても本当に辛い時期だったわ。それまでの20年ずっとツアーをしていたけど、コロナで母国のメキシコに戻らざるを得なくなって。そんな経験は初めてで、音楽だけがストレスのはけ口だった。でも幸い、自分たちのスタジオがあったから、そこでたくさんの音楽を作ったわ。
そうして生まれたのが『In Between Thoughts...A New World』。スピリチュアリティについての物語を描いているの。これを作ることで、私たちなりにこの困難な時期を乗り越えられたのだと思う。そして2023年から再びツアーを開始したわ。2年間収入がなかったから、とにかく活動を再開することが大切だったのよ。

─初めて日本に来たのはもう17年も前で、2008年でした。フジロックも入れると3度も日本に来た年でしたが、当時の日本の印象はどんな風でした? 初めての日本についてやオーディエンスの反応など、記憶に残っていることを教えてください。

ガブリエーラ:素晴らしい体験だったわ。もともと日本文化が大好きで、外から見ているだけでも美しい国だと思っていたけれど、私たちはアーティストとしての視点から日本文化を体験するという、貴重な機会をもらえたの。自分たちの音楽を愛し、楽しんでくれる人たちの前で演奏できるのは、本当に幸せだった。私もロドリーゴも、その瞬間に日本に恋をしたわ。初めての来日で飲んだ緑茶にハマってしまったり(笑)。
日本には素晴らしいアーティストがたくさんいるし、本当に刺激をもらった。そして、また日本に戻れることが心から嬉しいわ。きっと皆さんが想像している以上にね!

最大の人気曲「Tamacun」、2008年のライブアルバム『激情セッション/ LIVE in JAPAN』DVDより(公式映像)

─アルバム『In Between Thoughts...A New World』は、オーケストラが参加したほか、エレクトロニックサウンドも取り入れた壮大なスケールの作品になりましたね。これまでに作り上げてきたスタイルの「型」にはまらず、あのように自由で野心的なアルバムが生まれたのは、どのようないきさつから?

ガブリエーラ:あれはまさにパンデミック・アルバム。スタジオの中で「もしかしたら、このまま世界が終わってしまうんじゃないか、黙示録みたいに世の終わりなのかも」と思っていた。それで「だったら、すべてを詰め込んだアルバムを作ろう」と決めて、取り掛かり始めたわ。時間を潰しながらも、そうすることで心を整理していたのだと思う。時間だけはたっぷりあったから、「エレキギターを試してみよう」、「オーケストラともやってみよう」と、たくさんのことに挑戦できた。いつもと違うことをしながらも、私たちの核である”2本のギター”は失わないようにした。このアルバムは、オーケストラや他のミュージシャンとでも演奏できるし、私とロドリーゴの2人のアコースティック・ギターだけでも問題なく演奏できる。そうやって、何かに頼らなくても音楽が成立することが、私たちにとってすごく大事なことなの。

─エレキギターのパートの多くはFender Jaguarで演奏されたと聞きました。
なぜ使ってみようと思ったんですか?

ガブリエーラ:前作『Mettavolution』はLAで、レッド・ホット・チリ・ペッパーズやオアシスをはじめ、数々のバンドを手がけてきた有名なプロデューサー(デイヴ・サーディ)と録音したの。その時、彼が「こういうのもやってみたら?」と背中を押してくれて。レッチリがそのスタジオでレコーディングに使ったというFender Jaguarを持ってきてくれたのがきっかけで、ロドリーゴはすっかりJaguarに惚れ込んでしまったのよ。

─ちなみに、エレクトリック・ギター奏者ではどんなギタリストが好みですか? 

ガブリエーラ:最近、アルバート・キングを再発見したんだけど、素晴らしいブルース・プレイヤーだわ。あとは当然、デヴィッド・ギルモア。メタルだったらマーティ・フリードマン、パンテラのダイムバッグ・ダレル、それにジミ・ヘンドリックスも大好き。いくらでも名前は挙げられる。

デヴィッド・ギルモアは、歌も歌い、曲も書くところが好き。それに、彼のギターソロはとても表情豊かよ。世界一の速弾きじゃなくても、たった2つの音でも、何かを表現することはできる。ヴァーチュオーゾでなくても、人の心を動かせるのが真のアーティストだと思う。シンプルな1音にも、エネルギーが宿っていなければならない。
その点で、デヴィッド・ギルモアは天才よ。

最新作で探求した「新しい世界」、来日公演の展望

─『In Between Thoughts...A New World』の背景には、パンデミックだけでなく、『The Power of Now』(邦題『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』エックハルト・トール 著)という精神世界についての本があったとか。その本のどんな部分に共感し、インスピレーションをもらいましたか?

ガブリエーラ:もともとはロドリーゴがコロナにかかり、20日くらいスタジオに来れなかったことがあったの。その自宅療養中、彼が「ノンデュアリティ(非二元論)」についてのYouTube動画を見つけたのがきっかけよ。スタジオに戻ってきたロドリーゴが、ノンデュアリティとやらについて夢中になって話すので最初のうちは「一体何を話してるの?」という感じだった。そこで気づいたの。彼が話してることは、私の人生を変えた本『The Power of Now』のことだと。

これはノンデュアリティの哲学に基づく本で、私にとってはとても実践的で、常に試練を突きつけられるこの時代を生き抜くための指針になっている。現代社会はものすごいスピードで絶えず変化し続けていて、テクノロジーや環境破壊、政治情勢など、あらゆる面で問題に晒されているわ。そんな中、私たちは毎日、そうした挑戦に晒されていて、それにどう向き合うかが大切なの。私は楽観主義者だから、まだ間に合うと信じてるわ。責任を持つことで、変えられることもあるはずよ。
私にとってこの本は、一歩引いて深呼吸し、物事を見つめ直すためのツールのようなものなの。毎日をどう生きているのか? 歴史のどこに位置しているのか? 誰かを助ける側なのか、それとも破壊に加担しているのか? そんな問いを投げかけてくれるツールのような、ますます厳しくなっていく世界を生き抜くのを助けてくれる1冊なのよ。

ロドリーゴ・イ・ガブリエーラが語る日本への想い、2本のギターで描く「新しい世界」

Photo by Vergentino Robles

─あのように緻密なアルバムが作れたのは、あなた方がメキシコに自分たちのスタジオを持っていて作業に集中できることも関係していますか?

ガブリエーラ:ええ、スタジオは”もう一つの楽器”のような場所で、そこは実験を重ね、何度失敗してもいい安全な空間なの。なぜなら、ミスを重ねることで、最後は正解へとたどり着けるから。失敗して、失敗して、失敗して。それでいいのよ。そうするうちに、いずれうまくいくときがくる。スタジオがあれば、デモを作って、作って、作って⋯⋯違うアイデアを試せる。ミュージシャンにとってスタジオという安全な場所があるのは、すごく大事なことだわ。そこでは、あなたが言うように”緻密に”作り込める。実験を恐れず、思いがけない結果を恐れずに試すの。そうするうちに、またやり直すチャンスが生まれてくる。
自分に失敗を許すのは、正しいプロセスだと思うわ。失敗した分、より良いものができるのだもの。何度でも挑戦して、正解と呼べるものを生み出すために欠かせないのがスタジオなのよ。

─『In Between Thoughts...A New World』からの曲でライブ演奏が特に楽しい曲はどれですか?

ガブリエーラ:どれも楽しいけれど、特にお気に入りなのは「Seeking Unreality」よ。あの曲での私のリズムはちょっと独特だから、弾いていて楽しいわ。あの曲を作った時、新しいリズムや奏法を思いつくまでに、だいぶ時間がかかったし、最初うまく弾けるようになるまではかなり苦しんだわ。でも今は弾いてて一番楽しい曲。アルバム最後の曲「In Between Thoughts…A New World」もダイナミックで弾くのが楽しい曲よ。

─ステージで「育っている」と感じる曲は?

ガブリエーラ:どれもそうだと言えるわ。曲の構成とかを変えることはないけれど、演奏は毎回違ってくる。毎日が発見よ。特にツアー中は、毎晩演奏をするから、ツアー中は、毎晩新しい何かを発見しているわ。小さなフレーズの断片だったり、常に変化しながら形になって行っているわ。植物みたいなの。毎日、水やりをすれば新しい葉が生えて、どんどん変化していくのよ。

─すでに新しいアルバムも作っているそうですね。次のアルバムはいつ頃リリース予定で、どんな方向性のアルバムになるのでしょうか?

ガブリエーラ:今年の暮れから来年になるんじゃないかと思うけど、正確にはわからない。私は2枚組にしたいと思っていて、1枚目は少し実験的な内容にして、もう1枚は2本のギターだけで聴かせる、というのが私とロドリーゴの構想。でも、どうだろう。私たちは時々、まったく正反対の感覚を持つこともあるから。でも最終的には同じ方向を向いて、同じゴールを目指す。とはいえ、基本的に私たちはすごく違う。だからこそ、一緒に演奏するといいバランスになるんだと思う。

─最後に、来日公演がどんな内容のライブになりそうか教えてください。

ガブリエーラ:日本を訪れるのは久しぶりだから、昔のアルバムから懐かしい曲も演奏したいと思っているわ。というか、ファンの皆さんが聴きたい曲ならなんでも演奏するつもりよ。どの国に行っても初期の曲はすごく人気がある。それと、日本ではまだ演奏していない、グラミーを受賞した前作『Mettavolution』や、最新作からの曲も披露したいわ。

ロドリーゴ・イ・ガブリエーラが語る日本への想い、2本のギターで描く「新しい世界」

ロドリーゴ・イ・ガブリエーラ来日公演

2025年4月7日(月)恵比寿ガーデン・ホール
18:00開場/19:00開演
チケット:スタンディング¥10,000

2025年4月8日(火)BANANA HALL
18:15開場/19:00開演
チケット:スタンディング¥10,000

公演詳細:https://udo.jp/concert/RodrigoyGabriela25
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