走るのではなく、ゆっくり歩くこと。誰かと競い合うのではなく、そのままの自分を肯定すること。『Music For Walking』を通じて、ラブサマちゃんは社会と向き合い、ありのままを曝け出し、「休めサボれ腐れ!」と勝利至上主義からのドロップアウトを表明しながら、「何のために音楽をやっているのか?」を見つめ直している。
卓越したメロディセンス、90年代ロックへの憧憬に満ちたサウンドを持ち味とし、シンガーソングライターとしてデビューを飾ってから早10年。ラブサマちゃんの楽曲には、いつだって彼女の生き様が滲んでいる。永遠のピチピチロックギャルは、可愛くてかっこいいだけでなく、ユーモラスかつリリカルで、真面目ゆえにこんがらがっていて、それでも這いつくばりながら生きている。そんな彼女にミニアルバムの制作背景を訪ねつつ、音楽と社会、メンタルヘルスについてじっくり話を訊いた。(※取材:小熊俊哉/構成:高久大輝)
◎ローファイと新自由主義「今のままでいいんだよ」
─最初にトラックリストを見たとき、ライブで以前から披露していた「OK, Shady Lane」が収録されると知って嬉しかったです。ペイヴメントも大好きなので。
ラブサマちゃん:ありがとうございます。〈誰にも日陰が必要なのさ〉という歌詞はもう完全に「Shady Lane」の和訳なので。そこから着想を得て作ろうと思った曲です。
─ですよね。最高の曲だなって。
ラブサマちゃん:よかった! 歌詞を和訳するのも好きなので、ペイヴメントの和訳をブログに書いたりしていたんですけど、なかでも「Shady Lane」がめっちゃ好きで。〈all that we want is a shady lane〉というフレーズが、中国の寝そべり主義の記事に載っていた、日陰に3人くらいで寝転がっている写真と完全に一致しちゃって。レコーディングするときのイメージをバンドメンバーと共有するための資料にも、その写真を貼ってました。
─〈「向日葵みたい」って言われたのは結構昔 / 今の私なら虎杖あたりだろうか〉という一節もいいですよね。自嘲しているようで冴えたワードセンス。
ラブサマちゃん:何気に韻が硬いですよね(笑)。虎杖(イタドリ)の部分が最初は苔(コケ)だったんですよ、苔で4文字だとゼニゴケかなと思って、ライブではそれで歌っていたんですけど。何気に苔って重宝されてるなと思って。
─「君が代」にも出てくるし。
ラブサマちゃん:(笑)苔屋さんもあるし、銀閣寺の苔は立ち入り禁止だったりする。
─〈「Hey Jude」書けない私も筆折る必要は無い〉と歌うところで、「Hey Jude」風のピアノが鳴ったりもして。〈千円札の顔にならない凡才が回す世間です〉もパンチライン。
ラブサマちゃん:すごい、あのピアノに気づいてくれた! 〈千円札〉の部分は、あえて言うなら永井祐さんという歌人の方の影響があるかもしれません。大好きな歌人なのですが、お金に関する歌が多くて。「何してもムダな気がして机には五千円札とバナナの皮」とか、「五円玉 夜中のゲームセンターで春はとっても遠いとおもう」とか。金のことを金だと思っていない、モノとして見ているような。その永井祐さんの感覚がすごく好きで。自分にも金をモノとして見てみたいという願望があったんだと思いますね。
─今作のシークレットトラック「GIMME MONEY」で、お金と懐事情について生々しくラップしていますが、そこも永井さんの影響?
ラブサマちゃん:たしかにあるかもしれない。
─〈青の洞窟〉を諦めて〈百円ポポロスパ〉を手に取るくだりもリアル。
ラブサマちゃん:「280円は無理だな」みたいな、本当に切ねえ(笑)。
─その「GIMME MONEY」は自虐も含みつつ、トラップの意匠を拝借しながら資本主義ゲームとの相容れなさをラップした曲でもあるわけで。そのセンスとペイヴメントへの共感は繋がっていそうな気がするけど、そもそもどんなふうに彼らの音楽と出会ったんですか?
ラブサマちゃん:ウチの父は世代的にハードロックキッズだったんです。それで小さい頃からKISS、AC/DC、エアロスミスのような音楽ばっかり流れていて。中3のときに父にアコギを貸してもらってギターを始めたんですけど、そのとき自分はYUIの曲が弾きたかったのに、エアロスミスの「Walk This Way」のコード譜を渡されたんですよ。アコギでそれをやれと言われ(苦笑)。その時点でハードロックへのアレルギーみたいなものが出始めちゃって。中高生のときは父と折り合いがつかなかったし、反抗心もあって、父親の趣味とは離れたところの音楽を聴こうとしていたんです。
そこからペイヴメントと出会ったのは……高校2年生くらいかな。
─Kompassでビーバドゥービーと対談したときも、ペイヴメントはずっと好きだと話していましたよね。第一印象は?
ラブサマちゃん:メロディが美しいと思ったかな。「Cut Your Hair」を最初に聴いたんですけど、MVの荒唐無稽な感じがすごく好きだったのも覚えています。
─音楽性はもちろん、人としての在り方にも彼らの影響は大きいのでは?
ラブサマちゃん:本当に大きい。ペイヴメントはローファイバンドの代表的存在ですけど、今ローファイって言葉が指すのは音像ではなく、精神性になっている気がしていて。「〇〇するべき」「〇〇した方がいい」みたいなことから逸脱しながら、遊び心やユーモア、ヘロヘロしている感じをいかにクールに出せるか、というのがローファイだと思うんです。そう考えると、音自体はすごくハイファイでもローファイなものもいっぱいあるし、音楽だけに止まらない。ローファイな人ってカッコいいですよね。
─うんうん。
ラブサマちゃん:それにローファイって言葉は、マッチョイズムやアメリカン・ドリーム的なものへのサヨナラも意味していると思っていて。中国やアメリカ、全世界的に今そういう動きがあるみたいなんです。
自分もこのミニアルバムを作っているとき、頑張って、のし上がって、メイクマネーして、成長してっていうマッチョイズムが及ぼす害のようなものを特に感じていたから、いっそ誰よりも遅くいきたいなって。みんなアルバム(リリースの間隔)を1年スパンで考えたりするけど、5~10年とかで考えたいと思ったんです。数字にこだわりたくないとかそういうレベルじゃなく、とにかくゆっくり。「OK, Shady Lane」は、マッチョなラッパーが「Higher!」とか「走れ!」とか言っている中、「おいらは這いつくばっていくぜ!」って気持ちで書いた曲です。
─素晴らしい。ただ、最近はそういうローファイな人たちの肩身がどんどん狭くなっている気がして。
ラブサマちゃん:ねー! わかります!
─社会もそうだし、リスナーやメディア、なんなら作り手も、ネオリベ的な価値観を内面化しているというか。音楽もバズったものが勝ち、それ以外は成功と見なされない、みたいな。そういうのが嫌で音楽を聴いてるんじゃなかったっけ……と、最近よく思うんですよ。
ラブサマちゃん:本当にそうですよね。内面化しちゃってるのはもうしょうがないんですよ。小さい頃から自然にインストールされちゃっていることだから。それに今は不景気で食うのに困っている人も多いわけだし、簡単にお金になることに価値が出てきちゃうのはわかるんです。音楽も数字で可視化されやすいから、自分も昨日オリコンチャートを調べちゃったりしたし、過去の順位と比べて考えたりもしちゃう。でも、そういうことじゃないんですよね。自分がどれだけ納得できるかを軸に置くほうが本当の意味で幸せ。もちろん音楽一本で食っていくとなると、それなりに稼がなきゃいけないからジレンマはありますけど、そういう自分の内面化しちゃっている部分に気づいて、「いやそうじゃない、そうしないぞ」って思ってほしいし、自分も思いたいです。
─ものすごくわかります。だからこそ、「OK, Shady Lane」の〈夢叶って 役に立って そりゃ素敵 / でも そんなのなくたってOK!〉という一言はグッとくるんですよね。
ラブサマちゃん:嬉しい! 「お前はお前のままでいていいんだよ」って思わせないことが世の中に多すぎるじゃないですか。毛を生やせ、毛を抜け、もっと勉強しろ、本を読め、〇〇したい人必見......そうじゃなくて、そのままでいいんだよということを言いたい。そのために日々過ごしているのかもしれないです。
─作品からもひしひし伝わってきますよ。
ラブサマちゃん:窮屈なことが嫌いなんだと思います。これは自分のなかで一貫していて。前作『THE THIRD SUMMER OF LOVE』でも、『ファイト・クラブ』という映画に触発されて作った「AH!」という曲で、「キャリアを築く」「潤った生活を送る」とか、そういう夢を見させてくることへの抵抗を歌ったんです。フレックスするのもルッキズムに従って生きるのも、それで絶対的な幸せが増えるのであれば、その人がそう生きるのが楽なのであればそうした方がいいと思うけど、でもそのためにお金をいっぱい稼いで、身体を壊したり、わざわざ痛い思いをしたりすることって、本当に必要な苦しみなのかなって。だったら「そのままでいいよね」と考える方が、自分には合っている。
美容医療をやってる女の子たちが周りに多くて。だから飲み会に行ったりすると「ヒアルロン酸を入れようと思うんだけど、どこに何をどれくらい入れたらいい?」という話題になる。おいらにとってはその話題は面白くないよって。「もう十分に可愛いんだから、なんでそんなことしないといけないの?」って正直思ってるんです。シワに抗ったりしなくても、あなたは十分に素敵なんだよってことを強く言いたい。あなたの価値は誰かの美醜の物差しや、仕事ができるかどうか、お金を持ってるかどうかでは決まらない。好奇心旺盛なところだったり、おいらが夜泣いてるときに「眠いけどレッドブル飲んで一緒に起きてるよ」って声をかけてくれるやさしさとか、そういうところこそが素敵なんだよって伝えたい。
◎ビリーから受け継いだ「やる時はやる」の精神
─「好きなように生きさせて」というのは、ラブサマちゃんがデビュー当初から歌い続けているテーマだと思うけど、そことの向き合い方に変化を感じたりもします?
ラブサマちゃん:本当にずっと言ってるし、(根本的な部分は)変わっていないと思うけど、そこに他者が介入してきた感じがします。最近のガール・イン・レッドの作品にも「この人、部屋から出てきたな」って思ったんですけど、それを自分にも感じます。これまでの「好きにさせてくれよ」という気持ちは、自分のために、自分が自分で自分をこうしたいっていう「好きにさせてくれよ」だったけど、今は社会に対しても「こうあってくれよ」と言ってる気がする。「あなたと生きたい」「あなたといっしょにいさせてくれ、いさせてください」みたいな。部屋に人が入ってきたというか、人を招きたいと思っているのかもしれないです。
─今の話はよくわかる。『Music For Walking』を聴きながら「個人的なことは政治的なこと」というフレーズも思い浮かべたんですよね。個人の経験は社会のあり方と結びついている。だとすると、制作中のラブサマちゃんには「社会」がどう映っていたんですか?
ラブサマちゃん:この作品を作ったコロナ禍の時期は、今までしていたことをしない方が美徳になっていたじゃないですか、不必要な外出を控えるとか。でも、それは法律ではなく努力義務だったから、真面目にやっている人もいれば、真面目にやらない人もいて、そういう人たちがいがみあったりしていた。みんな同じデカい恐怖の中に立たされているなかで、それぞれの意見がぶつかりあって、とてもギスギスしていましたよね。
自分は真面目ちゃんなので、「人が死んでんだぞ! ちゃんとやれよ!」とは思いましたよ。でも一方で、今しかできないことを諦めさせられた人たちがいたり、それを諦めたくないと思って活動して、若干やんちゃな印象を持たれてしまったアンダーグラウンドなミュージックシーンがあったりしたわけじゃないですか。そういった状況を見ていると、みんなそれぞれに都合があるなと思って。こういうこと言うと甘ったるいと思われてしまうかもしれないけど、やっぱりみんな寛容にならないといけないというか、なってほしい。
─大切ですよね、寛容さ。
ラブサマちゃん:さっき小熊さん(筆者)もネオリベっぽくなってると言ってたけど、最近は数字を取るとなったら誰かを槍玉にあげたり、みんなが何か言いたくなるようなトピックを作ったり、デカいこと言ってみるのが一番なわけで、おのずと過激な方に向かっていく。そうやってネオリベ的な人が出てくるのは、この不幸な時代には仕方ないのかもしれないけど、歌を歌うようなことに関しては最後の砦であってほしいんですよね。
社会や政治のシステムのなかで生きていると、世界がクソだと思っていても、クソな状況をある程度受け入れなくてはいけない。そのルールに乗っかって過ごしていかなきゃいけないけれど、「でも、自分はこう思ってるんだよ」という自分のなかでのユートピアだったり、それを共有できる人やモノがあってほしい。自分だってマネージャーに対して〈頑張るよって指切りしたことない〉なんて言えないですよ。言えないけど、でも曲のなかでは言いたい。曲のなかでは理想論者でいたいんです。
「普請中」という曲の〈急かさないで そのCUE〉というフレーズも、現実ではあまり言えないけど、曲のなかでは言える。歌は自由で、誰も禁止してないから。好きなように言いたい放題したいんですよね。
─「普請中」は言い換えれば”Now Loading”。ラブサマちゃんが曲作りに向かう前、自分を見つめ直していた時期に生まれた曲で、森鴎外の同名小説が下敷きにあるそうですね。
ラブサマちゃん:これはコロナ禍の日記なんです。(2020年に)『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を出したあと「じゃあ今年もアルバム出してね」と言われて、「わかりました!」と納期を飲んだんですけど、その納期が20日に1曲くらいのペースで、「あー、ちょっと無理かな」みたいな。「急かさないでくれ!」って思いながら書いた曲(笑)。
─〈ビリーも言うじゃない / When I can, I will(やる時はやる)って〉というのは、ビリー・コーガンが歌うスマッシング・パンプキンズ「Mayonaise」からの引用ですよね。2021年にも「スマパンで一番共感できる歌詞」とツイートしているし、ずっと心のなかにある言葉なんだろうなって。
ラブサマちゃん:(「Mayonaise」を口ずさみながら)あー、本当にスマパンで一番いい曲ですよね。「親しい人には愛を送る / 君が悲しさのなかにいるときには、夢を」「それで俺は失敗する / でも、やる時はやるって / 理解してくれよ、やる時はやれるんだって」……マジでそうですよね。全部、毎回できるわけじゃないですから。本当にやるときはやれるんですけど、足をくじいている時もあるし、歩けなかったり、走れなかったりする時もあると思うんです。でも、やる気はあるんですよ。
─わかるなー。
ラブサマちゃん:そうだ、こないだヤバいメッセージが来たんですよ!
─今の話と関係ある感じ?
ラブサマちゃん:ありますあります。(スマホを見ながら読み上げる)「今のあなたは、明らかに音楽より政治に興味があるように見えます。しかし本気で政治活動するわけではなく、音楽にも政治にも中途半端です。政党や政治団体に入るなどして政治活動に専念されてはいかがですか? 私のことを最近Twitterで知ったニワカの捨て垢だと思っているかもしれませんが」……このあと、ニワカではない理由がいろいろ書いてあって、「7年間あなたを見ていますが本当に成長していません。もういい大人なのに、まだ高校生と変わらない精神年齢です」って。
─まさか、熱心なファンからそんなDMが……。
ラブサマちゃん:まだ続きがあって。「エイジズム反対とか言うかもしれませんが、あなたの幼さは親に服を選んでもらっている成人と変わらないです。何年も前から免許を取ると何回も言っているのに、なぜいまだに取っていないんですか? 才能はあるのに、なぜたまにしか活動しないんですか? いい加減、中途半端なことはやめて、何かに本気になってはいかがでしょうか? 22歳にこんなことを言われるのは恥ずかしいと思いませんか?」って。
─辛辣すぎる!
ラブサマちゃん:これを読んで、ちょっと笑ったんですけど、「一番頑張りたいと思ってんのはおいらだよ!」と泣いてしまって。本気になりたいのは山々なんだよ、頑張れていないおいらが一番嫌なのはおいらだよっていう気持ちですね。「When I can, I will」にはそういう悲しさがある。
─胸が締め付けられる話ですね。そのDMを送ってきたファンの方も悪気はなくて、ラブサマちゃんを叱咤激励するつもりだったんでしょうけど、この時代にアーティスト活動することは難儀だなと。
ラブサマちゃん:ヤバいですよね(笑)。こないだテロ予告も来ましたよ。それはさすがに110番しましたけど。
◎音楽愛とメンタルヘルスの話
─スマパンの「Mayonaise」は1993年の曲で、ラブリーサマーちゃんは1995年生まれ。自分が生まれる前後の時代の音楽にずっと魅了され、その愛を歌い続けている。これもデビュー当初から一貫していることだけど、音楽との向き合い方に変化は感じますか?
ラブサマちゃん:今のところ自分がマジで好きな、核になっている音楽って、リアルタイムじゃないものが多かったので、気持ちの変わりようがないっていうか。でも今はチャーリーxcxも好きだし、オアシスだって復活するし、ブラーもライブを観れて最高だったけど、いつか失望したりするんですかね。向き合い方が変わったりするのかな。
─音楽愛といえば、今作はライドのマーク・ガードナーがマスタリングを手掛けているのも素敵だなと。音の良さにも驚きましたが、そこはマスタリングの影響も大きい?
ラブサマちゃん:まずはいい音で録らないと、どれだけやってもいい音にはならないから、ウチのメンバーとエンジニアが素晴らしい仕事をしてくれたのは間違いなくて。マスタリングしてもらう前に、何回もミックスをチェックしたんですけど、その時点で本当に素晴らしかったんです。だからそのまま出してもよかったけど、マークの音が好きだからマスタリングをお願いしてみたら、結構ガラッと変わりましたね。ロー(低音)がズンズン出て、かなり重たい感じで、なおかつハイもちゃんとあって、それなのに音量を上げても耳が全然痛くない。「The Great Time Killer」の最初のリフは太さがすごくて。抽象的ですけど海外っぽい音になったんですよね。自分が普段聴いている洋楽っぽい音になったなって。
見てください!!!!!!!!気付いてください!!!!!!!!!!!!今回のアルバムは大好きなバンドRIDEのマーク・ガードナー氏がマスタリングしてくれました 本当に素敵な人&音で嬉しかった!!!!泣 pic.twitter.com/oESA83tfoZ— ラブリーサマーちゃん / LSC (@imaizumi_aika) January 24, 2025
─クロスビートの荒野政寿さんも「深夜の馬鹿力を聴きながら作業していて、急に洋楽の音圧になった?と思ったらラブリーサマーちゃんの『The Great Time Killer』だった」とツイートしてました。
ラブサマちゃん:嬉しい。マスタリングに関しての知識があまりないので、マークの感性ややり方、電圧の問題だったりがどこに影響しているかわからないけど、だいぶ堂々とした音に変わったなって。仲介してくれた人はライドの追っかけで、いろんな都市にライドを観に行っているんですけど、その方とは友人で一緒に飲んでいたとき「次の作品の制作しているんですけど、マークがFor Tracy Hideの『Hotel Insomnia』(2022年)のマスタリングをやっていて、本当にいい音だったんですよね。お願いすればやってくれますかね?」と話したら、「やりたいと思うよ」と紹介してくれて。
─そういう意味では、人との縁を感じる作品でもありますよね。元For Tracy Hideの管梓さんが「The Great Time Killer」の歌詞英訳を手伝っていたり、ムラカミカイさんが「普請中」でアコギを弾いてたり、いろんなミュージシャンが参加している。
ラブサマちゃん:最初のアルバム『#ラブリーミュージック』は全部一人で作ってましたからね。普段はリフやモチーフが頭に浮かんで、本当にパソコンとにらめっこして曲を作っているんですけど、「The Great Time Killer」はスタジオで、「ドンドンタトタト」っていうビートを叩いてもらって。そこにAからのG(コード)を乗せてもらって、セッションから作った曲で。年を重ねるにつれて、自分一人という形から開いていってるかなって。
─CDのパッケージも手が込んでいますよね。収録曲のコード譜やセルフライナーノーツも付いていて。洋楽の日本盤をいっぱい買って、歌詞や対訳、ライナーノーツを穴があくほど読んできた人が作ったCDだなって。
ラブサマちゃん:(ブックレットを)本当はあの白いペラペラの紙でやりたかったんですけどね(笑)。粉川しのさんにライナーノーツをお願いしたりして。CDで育ってきたので一番愛着がありますね。見た目が可愛いし、ジュエルケースのキラキラしていて、割れちゃったりするフラジャイルな感じも好き、コンパクトディスクというだけあってコンパクトさも良いですよね。持ち歩きにも便利。
─ジャケットも色鮮やかでいいよね。毎作ごとにテーマカラーがあるけど、今回「緑」を選んだ理由は?
ラブサマちゃん:健康になろうと思って。「緑」は健康的なことを想起させる色らしく、健康食品とかでアピールしたいときのロゴって絶対に緑らしいんですよ。(アルバムのサブタイトル)「Out Of The Woods」は「大丈夫になる」っていうイディオムなんですけど、コロナ禍で始めた散歩を通じて、どんどん大丈夫になっていく感じがあって。
「今日こんなことがあってしんどい」「こういうのクソだと思う」とか、そういう気持ちが自分の頭や心のなかにしかない状態って辛いじゃないですか。人に話したり、Twitterに書いたり、曲にして人に聴いてもらったりして、どんどん平気になっていくことってあると思うんです。そういう感じで、「本当に走るの無理だわ」という気持ちを曲にすることで「大丈夫になった」部分もあるんですよね。とにかくヘルシーに、健康に、大丈夫になっていくCDを作りたかった。
─そういう意味では、ミュージシャンとメンタルヘルスの話でもあると。
ラブサマちゃん:本当にそう。自分は15歳とかで一番デカい精神の失調を経験していて、それから薬とかも欠かしたことがないんですよ。そこからの15年間、つまり人生の半分は、揺れるメンタルヘルスとの共存という一貫したテーマがあるので。それに対するマイルストーンを置くことができた、という感覚があります。〈休めサボれ腐れ!〉と今は言えてますよ、という足跡を残せたかなって。これからもそういう曲を出していくと思うけど。
─「鬱っておいらにとって視力が低いとか癖毛とかそういう、もはやデフォルトなものだから慣れた」と2023年にもツイートしてましたね。
ラブサマちゃん:いいこと言ってるなー(笑)。
─鬱というデフォルトを脱すること(Out Of The Woods)は今後あり得ると思います?
ラブサマちゃん:完全な森の外に出ることはないかなって。「The Great Time Killer」で〈森はだんだんと森でなくなっていく / それは突然ではなく / 気づけないほどにゆっくりと〉と歌っている通り、グラデーションなんだと思います。スピッツも「スピカ」で〈幸せは途切れながらも続くのです〉と歌っているように、(断続的に)途切れていくものかなって。今はなんとなく森を抜けた場所にいるかもしれないという自覚がありますけど、また歩いている道が森の中になっちゃったりすることもあるだろうし。そこは「When I can, I willl」ですね。抜け出すつもりはあります、走れないけど歩く気はあります、という意味で。「Out Of The Woods」という完成した状態じゃないかもしれないけど、光のほうに向かっていこうという約束はできているかな。

『Music For Walking (Out Of The Woods)』
ラブリーサマーちゃん
配信中
配信リンク:
https://lsc.lnk.to/MusicForWalking
M-1 普請中 (※読み︓ふしんちゅう)
M-2 (Song For Walking) In My Mind
M-3 OK, Shady Lane
M-4 The Great Time Killer
M-5 (Song For Walking) Out Of The Woods
Secret Track : GIMME MONEY
ラブリーサマーちゃんNew Mini Album Release Tour
- Tour For Walking (Out Of The Woods)
2025年4月25日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
2025年4月28日(月)大阪府 Shangri-La
2025年5月1日(木)愛知県 伏見JAMMIN'
https://columbia.jp/artist-info/lovelysummerchan/info/90099.html