「どっかのメディアの人俺にTexas 3000をインタビューさせてくれないかな」

3月のある昼下がり。Dos Monosのラッパー/トラックメイカーにして、東京アンダーグラウンド・シーンの重要人物である没 aka NGSのツイートを目にし、筆者は即座に「やりましょう!」とDMを送った。
やるしかない明確な理由がそこにはあった。

Texas 3000は2019年、幡ヶ谷Forestlimitの伝説的パーティー「K/A/T/O MASSACRE」で、Jojo(Vo, Gt)と崎山(Dr)が出会い結成。のちにkirin(Ba)が加わり、現在の3人編成となる。2023年の1stアルバム『tx3k』は、エモに通じる衝動と実験精神が交錯するサウンドで注目を集め、収録曲「Connector Fuck Man」がビーバドゥービー選曲のプレイリスト「gnochi5000bea」にセレクトされたことでも話題に。今年4月には、5曲入りの最新EP『Weird Dreams』をリリース。4月17日にはDYGL、おとぼけビ~バ~、the hatch、FIXED、どっかん小僧も出演する自主企画「WEIRD DREAMS FOREVER」を渋谷クラブクアトロで開催するーー。

このくらいまではググれば一発だが、その先の情報はほとんど出てこない。しかし、彼らを知る人たちは口を揃えて言う。いま東京でもっともヤバいバンドはTexas 3000だと。とりわけライブは規格外かつクレイジーで、ありがちなインディーロックとはまったく次元が違う。カオスな音源ともまた別物で、あの衝撃は現場でしか味わえない。

没は2023年の春、大阪・難波ベアーズで行われたTexas 3000の自主企画「Practice #3」で共演したことをきっかけに親交を深め、『Weird Dreams』に収録されたバンド初のフィーチャリング曲「Other」でラップを吹き込んでいる。
そんな彼が聞き手となり、Texas 3000の謎多きルーツやバックグラウンドを掘り下げることに。ただのインタビューじゃ終わらない予感はしていたが、この3人は予想のはるか先を行っていた。(※取材:没 aka NGS、小熊俊哉/構成:高久大輝)

ライブでうまを2回もやるとこうなる
没さん最高!!!!!!!! https://t.co/mPwFNlT8XO— Texas 3000 (@TX3KTX3K) April 9, 2025今年4月6日、Texas 3000と没 aka NGSが名古屋で共演

崎山:暴走族の母から教わったロック

─そもそも、没くんはどうしてTexas 3000にインタビューしたいと思ったんですか?

没:きっかけは今読んでるプリンスの本で(『プリンス 戦略の貴公子』ブライアン・モートン 著 )。ボブ・ディランもそうだけど、彼らは録音は録音で面白いことをやりつつ、ライブでは音源をそのまま再現しようとするよりも、「音楽をやること」そのものに重きを置いている、という話があって。楽曲がライブでどんどん変わっていくんだよね。Texas 3000もライブとレコードでまったく違うし、一緒にやった曲「Other」でリハに入ったときも、なんか毎回練習する度に違ったんですよ。そういう日本のバンドはいま他にあまりいないと思った。

でも勿論、Texas 3000は日本だけがバックグラウンドにあるわけじゃないから、その辺りも深く聞いてみたいなと思って反射的にツイートした。

Texas 3000とは何者か? 異彩を放つ3人組の深層、衝撃のバックグラウンドに没と迫る

左からJojo(Vo, Gt)、kirin(Ba)、崎山(Dr)、没 aka NGS Photo by Julian

Jojo:でも、一番やらかしてるのは日本にバックグラウンドがある人......(崎山のほうを見て)。

崎山:え(笑)。

没:俺が最初に会ったメンバーは崎山くんで。コロナ禍が始まる直前か直後のForestlimitで、深夜に床で突っ伏している男がいて。


崎山:それで起き上がったら、没さんらしき人がリュックを背負ったまま、歌謡曲に合わせてめちゃくちゃ踊ってたんですよ(笑)。深夜の3~4人しかいないフロアで。「うわっ、やばい人がいる!」って。

没:そのあと「没さんですよね」って声掛けてくれたよね。俺はドン引きしてて、その場のノリでSNSを相互フォローしたけど、あとでフォローを外した(笑)。

崎山:怪しいヤツすぎるからね(笑)。

Texas 3000とは何者か? 異彩を放つ3人組の深層、衝撃のバックグラウンドに没と迫る


没:崎山くんはどういうバックグラウンドなの? キャラクターだけで強烈だけど、なんにも全然知らないから。

崎山:親父の話から始めちゃうよ?

没:東北の出身なんだっけ?

崎山:親父が岩手の出身で、母親が板橋で。慶應大学に入った親父と暴走族やってた母親が東芝ビルの同じフロアで働いていて、親父が恋をしたっていう(笑)。

没:いきなりヤバ(笑)。

Jojo:めっちゃイイ話じゃん!

崎山:それで母親を連れて岩手に戻って、そこで5人育てたんですよね。僕は3番目なんです。
兄、姉、僕、弟、妹。そこで微笑ましいけれどすごく殺伐とした食卓を囲みながら、僕は静かにただおかずを取る幼少期を過ごしました。「生き延びるんだ」って。だから実家に帰ると一番静かなんです。他の人がうるさいから。

没:その頃からロックは聴いてたの?

崎山:母親がオジー・オズボーンとかレッド・ツェッペリンとか、そういうのが好きで。

没:板橋の暴走族はそういうの聴くんだ(笑)。

崎山:母親が最初にくれたCDがツェッペリンの『Physical Graffiti』で。

Jojo:俺も初めてのCDはそれだった。

崎山:最初は地味だなと思ったけど、もう1枚が井上陽水の「コーヒー・ルンバ」が入ってるCDで。今は好きだけど当時は気持ち悪いと思って、ツェッペリンばっかり聴いていて。

没:すごい二択だ。


崎山:あと、ヒューストンっていう一発屋のラッパーがいるんだけど(※正確にはR&Bシンガー)。その人の曲も聴いてましたね。

kirin:それは何歳のときですか?

崎山:9歳とか10歳くらい。

没:メンバー同士でインタビューを進めてる(笑)。崎山くんはそこから一回も曲がらずにここまで育った感じがするね。話を聞いても印象がまったく変わらない。

崎山:そうっすね、そのまま来ましたね(笑)。

Jojo:憧れのお兄さんは「変で最高」なラッパー

没:Jojoのバックグラウンドも聞きたい。アメリカのベイエリア出身だよね?

Jojo:そう。僕はカリフォルニアのバークレーという街の出身で。オークランドやバークレーって、ハイフィーっていうラップのジャンルで有名で、僕も高校時代にめちゃくちゃ聴いて育ちました。で、僕が1年生のとき4年生にLil Bがいて。
彼がいたThe Packの「Vans」はウチの高校のテーマソングだった。

没:すごい。世界中のみんなが聴いてた曲じゃん。

Jojo:だから、自分でラップしてたわけではないけど、Lil Bは憧れのお兄さんというか。変で最高で有名な人だから。

没:直接話したりもしたの?

Jojo:全然話してない。最近、Jeimus(※)はLil Bにテキストしてたけどね。「物販買ってね」ってテキストが必ず返ってくるんだって。「一緒に曲作ろうぜ、物販買ってね」って。

没:ヤバい、BASEDGODすぎる(笑)。

※Akio Jeimus:シカゴ出身/日本在住のドラマー。GOATのメンバー。
今年2月のジョーディー・グリープ来日公演に参加。Jojoとはpastoralというバンドで共に活動

Jojo:没さんを最初に知ったのは、kirinがサポートで入って間もない頃(2022年)に鏡のテルから紹介してもらったときだよね。Dos Monosより先に没さんのソロを聴いて、めっちゃLil Bを感じる自由な発想で。すごくよかったし、Lil Bが没さんとの接点だと勝手に思ってて。

没:めっちゃ嬉しい。

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1stアルバム『tx3k』ジャケット写真

─Jojoさんが日本で暮らすことになったきっかけは?

Jojo:お母さんがフィリピン系アメリカ人なんだけど沖縄育ちで。だから東京や沖縄に親戚がいたから、小さい頃から沖縄に遊びに行ったりして、日本が好きになって、留学して、就職して。ちょっと前までサラリーマンをずっとやってた。

崎山:住友ビルで働いてたもんね。

Jojo:そう、広告代理店で働いてたから。

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Photo by Julian

kirin:中国での高校生活を激変させた『けいおん!』

没:kirinのことが一番わかってない気がする。

kirin:何が知りたい?

没:全部知りたいです(笑)。

kirin:私は中国の青島(チンタオ)って街の出身で。小さい頃から親の教育方針で中国の民族楽器とクラシックをやってたんだけど、親はあまり音楽に興味がない人で。5歳から古箏を弾いていて、中学からはフルートを習ってた。

没:いろいろできるんだ。

kirin:広く浅くね。音楽の最初の触れ方がエンジョイよりシビアな教育って感じで。でも要領がいいのか、めっちゃ先生に好かれた。

Jojo:古箏を弾いてる動画、カッコよかったよ。

kirin:普通にできるよ。だって何十年もやってるから。

崎山:ベースより長い(笑)。

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古箏を弾く5歳のkirin

kirin:私は褒められると超伸びるタイプ。最初は子どもだったし、じっとしていられなくて辛くて、それで親とも喧嘩したりしてたんだけど、先生が可愛がってくれるから古箏が好きになって。だから最初は文化的な理由もあって、ロックとかバンドの音楽を通ってこなかったんだよね。親も勉強してほしいから楽器を触ってると怒られることもあったし。

没:俺も似てるかも。ドラムがやりたかったのにダメって言われて。段ボールと週間少年ジャンプを叩いて練習してた。よくある話だけど。

kirin:それで高校生になったとき、変な人が集まるクラスに入っちゃって。『けいおん!』の放送開始の年に、変な転校生が入ってきたんですよ。厨二病っぽい人で。その人が「俺はバンドがやりたい!」って言い出して。その人がちょっとだけギターを弾いてたくらいで、他に経験者もいなかったんだけど、私も「カッコいいかも」と思って入っちゃったのね。私の高校は部活やサークルの文化がそんなになかったんだけど、無理やり軽音部を作って、空き教室の南京錠を壊して、ドラムセットとアンプと楽器を持ち込んでデカい音を出してた。

没:熱すぎる(笑)。

kirin:学校の運動場で無理やりライブをやったりもして。「Don't say "lazy"」を10回くらいカバーしたよ。

没:ガチの『スクール・オブ・ロック』だ。

kirin:マジでクラスに変な人しかいなかったよ。みんなカンニングしまくってたし、授業中の教室でIHを使って火鍋をやったりもした。でも治安は悪くなくて平和だったな。街も綺麗だし、私の高校は海が近かったから、一人で授業をサボってフェンスを登って抜け出して、海に行ったり、映画に行ったりしてた。めっちゃエンジョイしてた記憶がある。

没:青春じゃん。それだと日本は退屈じゃない?

kirin:日本は最高だよ! 高校を卒業してすぐ来たんだけど、そのときは何も考えてなかった。進路を考えるとき、日本に行きたくて親に相談したけど最初はめっちゃ反対されて。一人っ子で娘だから遠くに行ってほしくなかったみたい。でも「絶対行く」と決めて、自分でパスポートの申請をして、京都の学校とやり取りしてビザを貰って、それを親の前に叩きつけて「お金ください!」って頭を下げて。

Texas 3000とは何者か? 異彩を放つ3人組の深層、衝撃のバックグラウンドに没と迫る


Jojo:それから向こうでは暮らしてないの?

kirin:休みのときに1カ月帰ったりするくらい。日本はなんだかんだ自分に合ってると思う。すごく住みやすい。あとスイーツが美味しい。日本のスイーツはマジでヤバい! コンビニスイーツだってめちゃくちゃ美味しいから嬉しい。

崎山:ずっとスイーツかグミ食ってるよね。

kirin:グミ最高。あとは楽しいエンタメがいっぱいある。東京は特にそう。Texas 3000に入る前まではパーティーとか全然行かなかったけど、「K/A/T/O MASSACRE(以下、マサカー)」のようなパーティーに目覚めて、自分たちで企画をやるようになったし。バンドのおかげで良い音楽に出会ったり、良いライブを観る機会が増えて、ありがたいですね。

崎山:俺もTexas 3000をやるようになって、ライブでいろんなところに行くようになって、今までより音楽をやっている人との繋がりが広がっていっているし。今は楽しいです。

Jojo:もうまとめにかかってるね。よし、ご飯行こう!

没:もうちょっと話したいです(笑)。次は結成についてききたい。

「どういう世界の人?」音楽ルーツを辿る

没:Jojoと崎山はいつ出会ったの?

Jojo:2019年。ちょっと没さんより早いかな。

崎山:そうだね、Jojoと会ったのが初めてForestlimitに行ったときだった。僕は鮭空間っていうバンドで「マサカー」に出ていて、それをJojoが観ていた。

Jojo:僕はそのとき音楽を一緒にやってた友達と、2018年くらいからForestlimitで遊んでて。最近僕らを韓国に招聘してくれたパク・ダハムが出たときに初めて行って、そこからほぼ毎週行くようになりました。他のライブハウスにはほとんど行ったことがなかったし、しばらくバンドに一切興味がなかったんだけど、Forestlimitは身体で感じるエンターテインメントだから。踊るのも楽しいし、変なヤツがいっぱいいるし、これは毎週行きたいなって。

没:わかる、通っちゃうよね。

崎山:Jojoの踊り方がすごかったんですよ、今もだけど。友達とかと3~4人で、各々が気持ち悪めの......腰を振る、エッチな踊りをしてて(笑)。いろんな国から来たお兄さんたちが気持ち悪い踊りをしてた。

kirin:たしかにそれあるね。Jojoと一緒に踊れないもん。すげーノリずらいリズムにノッてて。ぐにゃぐにゃ。あとモーションが激しい。

崎山:でも、Jojoのそれが好きだったんだよね。「どういう世界の人?」と思って。

Texas 3000とは何者か? 異彩を放つ3人組の深層、衝撃のバックグラウンドに没と迫る

Photo by Julian

Jojo:その日か2週間後くらいに、崎山がウチに泊まりに来たんだよね。いろんな国の変なお兄さんたちが来ていて、崎山が変な人の日本代表。朝起きたら一人で観葉植物にめっちゃ話しかけてた(笑)。

崎山:レアだと思ったんでしょうね。「観葉植物が部屋にあるんだ!」って。

Jojo:それでスタジオに行くようになって。

没:え!? 前後関係がわけわかんない(笑)。

崎山:マジでそのあと一緒に音楽始めたんだよね。

Jojo:そうそう。メシュガー、ツェッペリン、Sleepとかで話が合って。ただ、僕は全然違う90年代の音楽を聴いてきたから、それはどうしても曲に出ているけど。

─Texas 3000を始めるとき、どんな音楽をやろうと考えていたんですか?

Jojo:何も話してないね。

崎山:話してはなかったけど、Jojoと一緒にスタジオに入ったときに出てくるフレーズが「お、好きだな」と思って。グルーヴがあるというか、俺の好きなオールドスクールのロックとも近かったから、俺は勝手に意識してたかな。「ハードロックをやろう」って。

没 : kirinはどのタイミングでTexasに参加することになったの?

Jojo:僕はもともとベーシストで、kirinとの出会いもその繋がりなんだよね。僕が今もベースを弾いてるPastoralというバンドがあって、その元ベーシストがkirinだった。

kirin:当時はまだAkioがいなくて、私とギターのTaro、Davidの3人だったんだけど、何をやればいいかわからなすぎて自然消滅した。そしたら私の代わりにJojoが入って、Akioも入って、そこから超いいバンドになって悔しい。

没:Pastoralもそうだし、Texas 3000も大きくエモと括られがちだけど、エモは聴いてた?

Jojo:3人とも聴いてないんじゃない? 僕がアメリカでやってるバンド(Curling)のメンバーが聴いてたくらいで。エモと言ってもちょっと変な、Joan of ArcとかOwlsとか。僕が育った頃のベイエリアでは、ハイフィーとマスロックがめっちゃ流行ってて。Hellaがサクラメント出身だったから。Don Caballeroもちょっとだけ聴いてた。あとはガレージ・ロック。前に来日してたOseesはサンフランシスコで毎週ライブしていたし、Ty Segallのライブを観に行ったりとか。

没:わかる、そういうのが全部ある感じ。

Jojo:だから、みんながTexas 3000の喩えに出してるバンドは全部知らない(笑)。

─Texas 3000の「Universe Drawer」という曲は、〈アメリカのエモバンド・Mineralを彷彿とさせるようなエモ・サウンドとノイズ・ポップが融合〉とネットニュースに書いてありましたけど。

kirin:Mineralは嬉しい。

Jojo:え、kirinもエモ聴いたことないでしょ?

kirin:実は聴いてたよ。

没:隠れキリシタンだ(笑)。

kirin:去年のフジロックにも来てた、台湾のNo Party For Cao Dongっていうバンドが好き。(中国の)Chinese Footballも聴いてたし。

Jojo:俺もアジアのエモ、マスロックはちょっと知ってる。それこそtoeは聴いてた。

kirin:マスロックでは(台湾の)Elephant Gymが大好き。tricotも。

崎山:Jojoが教えてくれたシー・アンド・ケイクっていうのは誰がやってたバンド?

Jojo:ジョン・マッケンタイア、トータスのドラム。

崎山:あれは好きだね。

Jojo:Papa Mとか、その辺のポストロックは僕もめっちゃ好き。ごめん、ひとつだけめっちゃ好きだったエモ・バンドがあった。Braid、ギターがめっちゃカッコいい!

kirin:ついこのあいだ対バンしたFoxingも、音源を聴いてみたらめちゃくちゃ良くて。

Jojo:Foxingもエモだけど、今はエモじゃなくなったというか。良い意味でポップで最高だった。まあ1枚目(のアルバム『tx3k』)をリリースして、エモの要素をみんなが感じてるみたいだから、それはそれでいいと思う。それがきっかけで一緒にやることができたカッコいいバンドもたくさんいるし。

没:でも、自分たちの企画に呼んでるのは全然エモじゃないよね。俺とかthe hatchもそうだけど。

Jojo:没さんが最初に言ってくれたように、音源じゃなくて、音楽に対して何かを感じさせるようなアーティストと一緒にやってて。日本のプリンスが周りにたくさんいるってこと。

崎山:楽しい人たちとやってるよね。

kirin:それ。ジャンルは違っても、楽しい人しか呼んでない。

「マサカー」から学んだ自由、ライブで体現する自由

没:Texas 3000みたいなフッ軽さで自分たちのパーティーをやるバンドはいないよね。3回目のライブで「自主企画を大阪でやろう」とか普通のバンドは考えないでしょ。

kirin:やらないよ普通。何でやったんだろう。

Texas 3000とは何者か? 異彩を放つ3人組の深層、衝撃のバックグラウンドに没と迫る

没と大阪で初共演したTexas 3000の自主企画大阪「Practice #3」のフライヤー(2023年)

kirin:そういえば京都で初めてライブやったとき、お客さん0人だったよね。

Jojo:いや、それは埼玉のやつでしょ。kirinがまだいないときだったから。

崎山:あーそうそう、出演者全員の客を合わせてもゼロだった(笑)。演者はたしか3バンドで、そのうちの一つは飲みに行っちゃってて、残ってたのはお店の人と、もう1つのバンド、俺とJojoだけ。Jojoはその日が初めてのライブハウスでのライブだったから、「顔合わせって何?」みたいな感じで。「出なくてもいいかな」って言い出して、2人でコンビニに行って、缶チューハイ飲んだね。

Jojo:めっちゃ飲んだ(笑)。

没:それは呼ばれたやつ?

Jojo:そう。でも2022年にはちゃんと自分たちで「マサカー」っぽいことをやりたいと思って、友達を全員呼んで、DJにも出てもらって。それが最高だったから「自分たちでやった方が楽しい」と思って。

没:その成功体験があるからやり続けてるんだ。

Jojo:最初は、僕がやってる全てのバンド、崎山もソロのアンビエントや他のバンドとか、みんなが関わってるプロジェクトだけ呼んで。だから友達もいっぱい来て、ホームパーティーっぽい感じだった。それがきっかけで、kirinが初めてライブに出てくれたんだよね。そのときは3曲くらい一緒にやったかな。

没:それは幡ヶ谷のSur Sound Studioでやったとき?

Jojo:そう。「マサカー」をやってるForestlimitのすぐ近く(※徒歩6分の距離)で、「マサカー」っぽいパーティーを自分たちでやろうとして。

kirin:びっくりしたよ!「こんなやり方あり?」って。それまでは音楽学校に通って、バンドもちゃんと顔合わせするようなライブにしか出たことなくて、ノルマも払ったりしてたから。

没:めっちゃ日本っぽいことやってたんだ。

kirin:そうそう。いきなり自分たちの企画だし、スタジオでライブだし、しかも無断でやってたからびっくりして。「すごい人たちだな」って。Sur Sound Studioはちゃんと出禁になったけど(笑)。

崎山:リハという名目で借りたからね、「友達いっぱい来るんで」とか言って。

kirin:「40人規模でリハします」みたいな。

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Sur Sound Studioでのパーティーの様子

Jojo:1回目がマジで最高だった。俺らがCスタジオを借りて、Aスタジオは空いてたんだけど、隣のBスタジオはジャマイカのお兄さん4人がレゲエの練習に入ってて。彼らも途中から「イイね!」ってこっちに参加してきたんだよね。

没:合同パーティーだ。日本の練習スタジオではあり得ない話だけど、あり得ない2組がたまたま隣でやってた。

崎山:ジャマイカの人たち、すごく歌上手かったよ。

Jojo:崎山はあっちに入ってたでしょ?

崎山:「観てもいいよ」って言われたから、練習を観てた(笑)。

没:Forestlimitと「マサカー」の影響が大きいのもわかるし、そういう自由さが音源の再現にこだわらず、演奏そのものを大切にする姿勢に繋がっている気もする。

Jojo:僕は個人的に、このバンドをやるまではそんなにライブしていなくて。正直、数年前まではレコーディングにしか興味がなかったし、アメリカでやってるバンドも3年に1回集まっていっぱい曲を作って、ツアーを1回やって3年休ませるような感じ。でも、kirinもkirinでライブしてたし、崎山も鮭空間、家畜とか自分のバンドでライブしてたからね。ライブの楽しさを二人が教えてくれた。僕とはまったく違うkirinのスタイルも、崎山のエンターテインメントなプレイもすごく好き。音楽をやること自体が”楽しいもの”として伝わっているかどうかが大事なんだなって。オーディエンスはそれをすぐに感じ取るから。没さんの演奏もそうだよね。

没:俺は長年やってくうちにそうなったところがあって。意識的にやってるというより、勝手に変わっていった。でも、Texas 3000は初めてライブを観たときからそういう自由さがあった気がする。もちろん、最初の頃はまだ音源も少なかったけど。

Jojo:そもそも音源で弾いたことをライブではできないっていう。ライブバンドを全然やってこなかったから、ライブを意識せずにめっちゃギターを重ねてるし、曲の途中でチューニングの違うギターを使ったり、部分的にシンセやトランペットを入れたりしてて。それはもう3ピースでは演奏できないから、ライブでどうやってカッコよく表現できるかを考えなきゃいけない。

2024年10月、香港公演でのフルライブ映像

没:でも、ライブと音源で全然違うけど、メロディで何の曲をやってるのかわかるというか。そこがボブ・ディランっぽいと思う。その話でいうと、「Bones For Doug」の途中で「Uma Ga Suki」と同じメロディが入ってきたりするよね。あれをやれるバンドってなかなかいない。

Jojo:あれはラップのアドリブというか。

没:サンプリング的な感覚なんだ。俺はプリンスやボブ・ディラン的な方向から聞こうとしちゃったけど、意外とヒップホップ的な編集感覚なんだね。

Jojo:ロックにもそういう大袈裟なカッコつけがあったらカッコいいかなって。でも、そのうち出る新曲にも同じメロディを使おうとしたら、kirinから「さすがにもういいんじゃない?」って言われた(笑)。

kirin:実は「Uma Ga Suki」「Bones For Doug」「Shanburuon」には全部同じメロディが入ってるんだよ。

Jojo:あと、僕は歌詞を覚えられないから、ライブで音源と全然違う歌詞を歌ってて。たまに外国人がオーディエンスにいるとすごくビビる。去年の12月、NINE SPICESのライブに香港のキッズが来てくれて、ステージに上がって僕らの曲を歌ったんだけど、僕より歌詞を覚えてて。「あっちが合ってるんだっけ?」って(笑)。

没:歌詞の話もしたい。「Here」のなかに〈Nikka Clear(ブラックニッカ)〉って出てくるけど、Texas 3000の歌詞は酒を飲んでるような気持ちになるんだよね。

Jojo:作ってるときの出来事を文脈に関係なくいっぱい入れてるからね。

「Here」ライブ映像(2023年)

没:飲んでる最中の寂しさみたいなのもあるし、男っぽくない飲み会という感じもいいんだよな。マスキュリンじゃないというか。「飲みだー!」みたいなテンションで飲んでるわけじゃない自分を肯定してくれてる感じがして、嬉しいんだよね。

崎山:たしかにJojoは「今日は飲むぞ、やってやっから!」みたいな飲み方をしないんですよ。初めて会ったときから「今日は家にすごいネギがあるからちょっと焼こうよ」とか、「スーパーで豆腐を買ってニッカ飲もう」とか。

没:やっぱりニッカなんだ(笑)。

Jojo:実は3人でいるときに誰かが言ったことを、なるべくこっそり歌詞に入れようとしてる。なんていうか、みんなの思い出的な歌詞。

没:パーソナルでもあるし、誰が聴いても自分のことだと思える感じもある。どっちの感覚もあるのがすごい。

kirin:Jojoの歌詞、超大好き。感情をむき出しにしてるところとふざけてるところが混じり合ってて、めっちゃいい。あと、本当に友達のエピソードを入れてる。「Here」の2ヴァース目の1行目は、天気予報士になりたかった友達のダニーのことなの。そういうのがさりげなく入ってる。

『Weird Dreams』:ありえないことが繋がる夢

没:新しいEP『Weird Dreams』のことも聞かないと。今回もだいぶ編集した感じ?

Jojo:実は1枚目の方がたくさん編集してるかも。でも、1枚目はそう感じさせないようにめっちゃ頑張った。今回は例えば「Universe Drawer」は2人の演奏そのままで、あとからkirinがベースを入れてて。「Strange Cherry Red」は3人の演奏そのまま。あとから重ねてはいるけど、1枚目ほどは重ねてない。3人で作ったものを基礎にして、何が作れるかという実験かな。没さんがラップしてくれた「Other」は僕がベースを弾いてて、何を作るかまったく想像せずに崎山がドラムを入れてる。

崎山:没さんが入るとかまったく考えず、ただクリックを聴いて叩いただけだからどうなるかなって。

Jojo:1枚目は自分たちのポートレートっぽい感じ。主に僕と崎山で作って、僕がめっちゃエディットしながら作ったもので、ライブはそれをどうアレンジするかだったけど、今回は逆にライブをたくさんやってる最中に作曲しようとしてて。バンドのアイデンティティが変わったわけ。kirinも入ったし、3人のアイデンティティって何だろうって考えて。その頃、kirinが毎晩ヤバい夢を見てたんだよね。

kirin:すごい夢の内容を覚えちゃうタイプで、Jojoに毎回話してて。

Jojo:だから、Texas 3000の新しいアイデンティティっていうのは、セッションから生まれた構成とドリーミーさ。

没:ドリーミーっていうのは、音そのものじゃなく存在として?

kirin:そうそう。ロジックがないような、辻褄が合わない感じ。

Jojo:夢の内容と3人が現実でやろうとしていることが繋がっているかもしれない、っていうのがEPのコンセプト。普通の人からしたらありえないことでも、夢のなかならいけちゃうから。

kirin:内田百閒という好きな作家がいて。どこか不思議なんだけど、なぜか成り立つ小説ばかり書いてて。そういう作品が作れたらいいなって。あと、「人間の脳にいない人は絶対に夢には出てこない」という話をどこかで読んだんだけど、夢には知らない人が出てくるじゃん。それも不思議だなって。なんていうか、そもそも”存在していない存在”というか、”存在しない音”を鳴らすことができたらいいなって。

崎山:カッコいいね。脳内オルタナ。

kirin:あとは私も含めて、ミュージシャンにはまとめがちな人が多いと思うけど、このバンドの良さはまとまらないところ。「とっ散らかっても大丈夫だよ」ってことも今回のEPで発信してる。

Jojo:1枚目よりずっとクレイジーだけど、同じメンバーで作ってるし、次に繋がるドキュメンタリーでもある。それに、一人ひとりの表現がもっと前に出ている作品でもあって。kirinの曲(ボサノヴァ風の「There's Still Time」)もテキサスだし、没さんがドラムソロのうえでラップしているのもテキサス。それこそヒップホップのミックステープみたいに、バンドと違うキャラが行ったり来たりしても、テキサスにしか作れないものになったと思う。

没:それで俺を入れてくれたんだね。

kirin:これはJojoが最初に言ったんだけど「初のフィーチャリングは没さんがいい」ってバンドで決めてて。大好きだから。

崎山:「この曲、没さんにお願いしたらいいよね?」っていろんな曲で言ってたよね。

没:だったらもう別にEPを作ろう。

Jojo:LPでしょ。

Texas 3000とは何者か? 異彩を放つ3人組の深層、衝撃のバックグラウンドに没と迫る

Photo by Julian

─Texas 3000の主催企画も「WEIRD DREAMS」というネーミングですが、それも今の話と関係ありそうですか?

kirin:もともと「Practice」っていう自主企画をずっとやってて。「WEIRD DREAMS」は去年から始まったんだけど、「Practice」よりもっとクレイジーで予測できない、悪夢みたいなイベントにしたいって気持ちがある。「こんなメンツが揃うの!?」ってくらい。

没:じゃあEPとも一致してるね。東京公演のメンツは特にヤバい。

kirin:この6アクトは欲張りですよね。自分たちが観たいアーティストを呼んでるだけ。ぶっちゃけそれだけかも(笑)。

没:でも毎回めっちゃ面白い。「何を混ぜても自分たちが面白ければOK」ってスタンスは刺激になるだろうし。「マサカー」と同じように「自分たちも企画やってみよう」って思う人も増えるんじゃないかな。俺も自分のパーティーをやろうと思ったもん。

Jojo:最高じゃん! これを観ていろんな人がパーティーをやってくれたら嬉しいよね。

─ところで聞きそびれてましたが、Texas 3000というバンド名はどこから?

崎山:「テキサス1000」っていう福岡のパチンコ屋の名前があって。Jojoが出張か何かでそれを新幹線から見て、パチンコ屋の名前にしてはいいよね、3000がいいよね、じゃあ俺らのバンド名はTexas 3000にしようって。いつか福岡でライブできたらいいね。

kirin:その店、Google Mapにあるかな?

Jojo:あるよ。

kirin:(スマホで探しながら)ないじゃん。

崎山:それも夢だったのかもしれないね。

Texas 3000とは何者か? 異彩を放つ3人組の深層、衝撃のバックグラウンドに没と迫る

WEIRD DREAMS FOREVER
2025年4月17日(木) 渋谷クラブクアトロ
開場/開演 18:00/18:30 

出演:
Texas 3000 / DYGL / おとぼけビ~バ~ / FIXED / the hatch / どっかん小僧

チケット料金
前売|Adv ¥4,500 (Under-22) ¥ 3,500 ※ID Required
当日|Door ¥5,000
※税込/スタンディング/整理番号付/ドリンク代別

公演詳細:https://www.club-quattro.com/shibuya/schedule/detail/?cd=016876

Texas 3000とは何者か? 異彩を放つ3人組の深層、衝撃のバックグラウンドに没と迫る

Texas 3000
『Weird Dreams』
配信:https://friendship.lnk.to/WeirdDreams_tx3k
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