にしなの東京国際フォーラム(ホールA)公演「MUSICK」が4月12日(土)、開催された。にしなにとって自身最大規模となるワンマンライブ。
今回は、ステージセットはなく、また、ライブ中の映像演出もなかった。公演のタイトル「MUSICK」が象徴しているように、まっすぐに"音楽"を届け、そして、"音楽"を介して観客と深くコミュニケーションを重ねていく、そうした極めてシンプルな、かつ本質的なライブの在り方を真摯に追求した公演だったように思う。順を追ってレポートしていきたい。

【画像】にしな、東京国際フォーラムワンマン(全35枚)

開演前のスクリーンには、「MUSICK」「NISHINA」「Sorry, too sick to make music」の文字によって象られた笑顔の顔文字が映し出されていた。この英文から、今回の公演タイトル「MUSICK」は、「MUSIC」と「SICK」を合わせた造語であることが分かる。

にしなが信じた「音楽の力」、東京国際フォーラムワンマン「MUSICK」を辿る

にしな(撮影:Daiki Miura)

開演の時間になると、この日唯一の映像演出であるオープニング映像が流れる。そして、ステージを覆う白い幕に、激しいセッションを重ねるバンドメンバー、力強くコードをかき鳴らすにしなのシルエットが映し出され、幕が降りるのと同時に「アイニコイ」が披露される。いつもはライブの終盤に披露される楽曲だが、今回はライブの熱き口火を切るオープニングナンバーとしての役割を担った。

続いて、会場が暗くなり、「クランベリージャムをかけて」へ。今回のライブでは、会場が暗くなるたびに、一人ひとりの観客が手に持つライトやスマホを自由に光らせる光景が見られたが、これは、昨年11月のZeppツアー「SUPER COMPLEX」から引き継がれているもので、にしなのライブの自由な楽しみ方が広く浸透していることを実感した。

にしなは、ハンドマイクで広いステージを端から端まで往来しながら、キャンディを客席に振りまきつつ、大胆にマイクを観客に託して大きな歌声を引き出していく。「全員で音楽つくっていきたいと思います」「手始めにクラップいいですか?」。
そう呼びかけたにしなは、「東京マーブル」で大らかなハンズクラップを巻き起こしてみせ、その流れで披露した「ケダモノのフレンズ」では、「みんなで、はい!」「みなさんご一緒に、さんはい!」と呼びかけながら、引き続き、一人ひとりの観客を力強く巻き込んでいく。一切の迷いも、ためらいも、遠慮もなく、観客と親密なコミュニケーションを重ねていくそうした姿は、これまで数々のライブを重ねてきた今のにしなが抱く自信の表れであったように思う。

にしなが信じた「音楽の力」、東京国際フォーラムワンマン「MUSICK」を辿る

にしな(撮影:Daiki Miura)

最初のMCで、にしなは、今回の公演タイトルが「MUSICK」であることに触れつつ、「今回は潔くシンプルにライブを楽しめたらと思って」と告げた。そして、そのためには、「みなさんの力が必要です」と前置きしつつ、「みんなで今日一日をつくりあげていきましょう」と改めて呼びかけた。その後、くじらの楽曲にフィーチャリングとして参加した「あれが恋だったのかな」、再び会場が暗くなる中で披露された「bugs」「夜になって」が立て続けて披露される。そして、メルヘンチックな響きのインタールードを経て「1999」へ。アウトロでは、シューゲイザーのような轟音のギターソロが鳴り渡る中、大量のスモークによって視界が白く遮られる。前半パートをドラマチックに締め括る圧巻の名演だった。

ここで、ずっとやってみたかった試みであるというアコースティックコーナーへ。にしなは、観客に着席を促し、「休憩しつつ、ゆったりしていってもらえたらいいなと思います」と伝え、アコースティックアレンジが施された「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」を披露。単に、アコースティック編成で演奏している、というわけではなく、楽曲にとってエッセンシャルな音だけが選び抜かれて鳴らされているような極めて洗練されたアレンジで、また、リズムの解釈も刷新されている。キーボードのジャジーなテイストが特に色濃く出ていたが、何より、にしなの歌の親密な響きが強く胸に響いた。
続いて、歌とキーボードのみの2人体制で「ランデブー」へ。間奏では、にしながカズーを高らかに吹くスペシャルな一幕もあった。また、広大なホール空間に広がる2つのミラーボールが放つ燦々とした光が、楽曲が描き出す〈宇宙空間〉とマッチしていて、何重もの意味でこの日ならではの特別なパフォーマンスだったと思う。

にしなが信じた「音楽の力」、東京国際フォーラムワンマン「MUSICK」を辿る

撮影:Daiki Miura

続いて、他のバンドメンバーを呼び込み、5人で肩を寄せて横一列に並んで、「It's a piece of cake」を披露。今回も、非常に即興性の強いライブパフォーマンスが展開。それぞれのメンバーの音が、各々のタイミングで加わったり、抜けたり、時に重なり合ったり、余白が生まれたり、を繰り返していき、そこに次第に観客の歌声や手拍子が合流していく。にしなは、「みんな一緒に!」「大きい声でー!」と呼びかけ、会場全体を巻き込みながら、この日にしか生まれ得ない「It's a piece of cake」をつくりあげてみせる。「みんな」と呼びかけてはいるが、ライブを体験する中で感じるのは、一人ひとりが、一人ひとりの個としての輪郭を大切にしたまま、音楽を介して待ち合わせたり、すれ違ったり、再び巡り合ったりするような感覚に近い。その感覚は、一体感とは似て非なるもの。にしなが言う「みんな一緒に!」には、そうした豊かで優しいニュアンスがあると改めて感じる時間だった。

アコースティックコーナーはここで終わり、ライブは後半パートへ。「ちょっとほっこりしましたけど、仕切り直して、最後までよろしくお願いします」。
そう告げたにしなは、「真白」「スローモーション」を続けて披露。極めてパーソナルな"私"の孤独や感傷を、音楽を通して"私たち"のものへと昇華し、分かち合っていく。音楽の深い可能性を感じさせてくれる感動的な展開だった。一転、「シュガースポット」では、感情のリミッターを外してしまったかのような爆発的なテンションで全身全霊で歌い、間奏では、床に寝転び、「みんな助けて~」と観客に呼びかける一幕も。続く「U+」において、サビのほとんどのラインを観客に委ねていたシーンも印象的で、改めて、にしなの、観客を信じて託す、巻き込む度合いは、かつてよりも大きくなっているように感じる。

ライブ初披露となった2月リリースの「つくし」、パーソナルな恋心を歌う"私"の唄の真髄である「ヘビースモーク」を経て、本編ラストを飾ったのは、昨年11月のZeppツアー以降の数々のライブにおけるハイライトを担い続けている「わをん」だった。この曲は、ライブを経るたびにライブパフォーマンスの形が変わっていて、今回は、1サビと2サビで、マイクを大きく客席に向けて歌声を求めていた姿が印象的だった。そしてラストでは、鮮烈な響きのギターソロを受け、渾身のフェイク&ロングトーンに言葉にならない想いを託していく。その想いとは、祈りのようでもあり、願いのようであり、またそれ以上に、私たち一人ひとり自身の手によって、人生を、生きることを、肯定し祝福していかんとする覚悟のようでもある。今回も、言葉を失うほどに素晴らしい名演だった。

にしなが信じた「音楽の力」、東京国際フォーラムワンマン「MUSICK」を辿る

撮影:Daiki Miura

アンコールの1曲目は、「ねこぜ」。続けて、「みんなと一緒に歌える曲になったらいいなぁと思って作りました」という紹介を添えて、4月30日にリリースされる予定の新曲「weekly」が披露された。
軽やかに躍動するバンドサウンドを追い風にして、ポジティブなフィーリングをめいっぱい分かち合っていくポップナンバーで、人懐っこいメロディが優しく心に染みる。観客が歌声を重ねるパートも用意されていて、リリース後のライブで合唱が巻き起こる光景がはっきりイメージできる。

バンドメンバーを見送り、ステージに一人残ったにしなは、「自分が音楽を始めた形で終わるのがいいかなと思って、弾き語りの曲を持ってきました」と告げた。続けて、良くも悪くもただの一人の人間でしかない自分が、大きなステージで、かっこいいバンドメンバーと一緒に、いろいろな人に支えられながら、みんなの前で歌わせてもらっていることに対して、丁寧に感謝の気持ちを伝えた。そして、実は、本番前に自分の心が折れてしまう出来事があり、今日は歌えないかもしれないと思っていたことを明かした上で、「でもステージに立って、うまくできてたか分からなかったけど、みんなが楽しそうにしてくれて、音楽ができて本当によかったし、すごく幸せだなと感じました」と告げた。「こんなちっこい私、できること少ないし、でも、一生懸命これからもがんばろうと思うので、応援よろしくお願いします」。

にしなの真摯な言葉に大きく温かな拍手が送られる中、最後に弾き語りで披露されたのは、未発表の楽曲「harmonic flight」。2年ほど前に書いた曲であるという同曲について、にしなは、「誰にも披露することないかなと思ってたけど、みんなに渡したいなと思って用意してきました」と説明した。改めて、にしなが観客に寄せる信頼の深さを感じる。2番のサビでは、感極まってしまったのか、2回ほど歌が止まる場面があったが、涙をグッとこらえるようにして、たおやかで力強い歌声を届け切ってくれた。深いお辞儀をして退場した後も、温かな拍手がいつまでも止むことはなかった。今回の公演「MUSICK」を通して深めた自信や確信を胸に、にしなは、6月のワンマンツアー「MUSICK 2」へと歩み出していく。


セットリスト
1. アイニコイ
2. クランベリージャムをかけて
3. 東京マーブル
4. ケダモノのフレンズ
5. あれが恋だったのかな
6. bugs
7. 夜になって
8. 1999
9. FRIDAY KIDS CHINA TOWN
10. ランデブー
11. It's a piece of cake
12. 真白
13. スローモーション
14. シュガースポット
15. U+
16. つくし
17. ヘビースモーク
18. わをん
EN1. ねこぜ
EN2. weekly(新曲)
EN3. harmonic flight(新曲)

<ライブ情報>

にしな ワンマンツアー 2025「MUSICK 2」
2025年6月2日(月)香川:高松オリーブホール OPEN18:00 / START 19:00
2025年6月4日(水)熊本:熊本 B.9 V1 OPEN18:00 / START 19:00
2025年6月6日(金)福岡:福岡 DRUM LOGOS OPEN18:00 / START 19:00
2025年6月10日(火)大阪:大阪 BIGCAT OPEN18:00 / START 19:00
2025年6月12日(木)愛知:名古屋 DIAMOND HALL OPEN18:00 / START 19:00
2025年6月14日(土)石川:金沢 REDSUN OPEN17:00 / START 18:00
2025年6月17日(火)札幌:札幌 PENNY LANE 24 OPEN18:00 / START 19:00
2025年6月19日(木)宮城:仙台 Rensa OPEN18:00 / START 19:00
2025年6月24日(火)岡山:岡山 CRAZYMAMA KINGDOM OPEN18:00 / START 19:00
2025年6月26日(木)東京:Spotify O-EAST OPEN18:00 / START 19:00

チケット料金:¥5500(税込・別途ドリンク代)
※未成年の方は保護者の同意を得てご来場ください
※車椅子等でご来場される場合は、チケットご当選・ご入金後、事前に各公演の問い合わせ先にご連絡ください。
※チケットの転売、譲渡は一切禁止となります。また、主催者が判断した場合を除き、チケットの払い戻しは致しません。

e+最速先行
受付期間:2025年4月12日(土) 20:30-4月20日(日) 23:59
受付URL: https://eplus.jp/nishina2025/
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