アンダーグラウンド・カルチャーとして、限られた空間で息づいてきたハードコア・パンク。しかし今、その轟音とエネルギーは、メインストリームの扉を次々と押し開いている。
Turnstile(ターンスタイル)やKnocked Loose(ノックド・ルーズ)、Scowl(スカウル)といったバンドが音楽的境界線を軽やかに越え、グラミー賞の舞台にも名を連ねるようになった現在、かつての”異端”はどこへ向かうのか。ジャンルの純粋性を守ろうとする声もある一方で、若い世代はより開かれた表現を求めている。ポスト・パンデミックの時代に、観客とアーティストがライブの熱狂を通じて再びつながろうとする今、ハードコアは新たなフェーズへと突入している。

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昨年11月、米ケンタッキー出身のバンド、Knocked Looseがトーク・ライブ番組『ジミー・キンメル・ライブ!』に出演したとき、それは深夜番組というよりも、Riot FestやSound and Furyのようなパンク・フェスの一場面のようだった。フロントマンのブライアン・ギャリスが咆哮を上げ、ゲストボーカルのPoppy(ポピー)は、白い衣装に身を包みながらステージを動き回り、激しく叫んだ。その様子は、ホラー映画の登場人物を思わせるような不気味ささえ漂わせていた。

バンドは激しいメタルコアを演奏し、その周囲では観客が押し寄せ、渦を巻くようなモッシュピットが生まれた。この夜の演奏は、強烈な印象を残し、一部の視聴者の子どもたちを泣かせたという報道もあり、昔ながらのハードコア・ファンたちには困惑を与えた。こんなにハードなバンドが、こんなに大きなポップカルチャーの舞台に出るのはシーンにとってプラスなのか? それとも、アンダーグラウンドであり続けたジャンルの終わりを意味するのか?

1979年、南カリフォルニアのBlack Flag(ブラック・フラッグ)がEP『Nervous Breakdown』を発表したことによってハードコアというパンクの一形態が生まれて以来、同ジャンルはメインストリームからは距離を置いてきた。理解ある少数の若者たちにとって、それは一種の秘密結社のような存在だった。『American Hardcore』(2001年)の著者であるスティーヴ・ブラッシュは語る。「ハードコアは音楽産業とはまったく関係がなかったんです。
完全にアンダーグラウンドだった。商業的な構造とは無縁で、だからこそ、あれほど純粋な音楽が生まれたのです」

だが近年、ハードコアはその枠を超え、思いがけない形で成功を収めている。その代表例が、メリーランドのバンド、Turnstileだ。彼らは2021年のアルバム『Glow On』で、ロックンロール、R&B、サイケデリックな要素を巧みに織り交ぜ、従来の枠組みを軽やかに飛び越えた。その音楽は大音量でありながらも踊れるもので、当時のロックシーンにおいては他に類を見ないものだった。『Glow On』は、つながりや心の解放を求めるリスナーたちの琴線に触れ、大きな反響を呼び起こした。やがてその流れは、グラミー賞へのノミネートという、ジャンルとしては予想外の展開にまで至ることになる。

現在のハードコアは、多様な音楽性を内包している。Knocked Looseの最新アルバム『You Wont Go Before Youre Supposed To』は、原始的な衝動に訴えかけるメタルコアであり、カリフォルニアのバンドScowlは2023年のEP『Psychic Dance Routine』でメロディとヘヴィネスを両立させている(※4月4日にアルバム『Are We All Angeles』がリリースされた)。また、イギリスのHigh Vis(ハイ・ヴィス)は、2024年作『Guided Tour』においてニューウェーブの要素を取り入れている。

Turnstile、Knocked Loose、Scowlが開いた扉の向こう 2020年代のハードコア再考

Knocked Loose(Photo by BROCK FETCH)

こうした変化に、リスナーたちも応えている。Knocked Looseはテレビ番組でモッシュピットを生み出しただけでなく、2025年のグラミー賞〈最優秀メタル・パフォーマンス〉部門にノミネートされた。
これは、10年以上活動してきたバンドにとって、初の快挙だった。彼らに限らず、Turnstileは2022年にロックとメタルの両部門でノミネートされ、Code Orange(コード・オレンジ)も2018年と2021年にノミネートされている(後者は2020年のアルバム『Underneath』によるもの)。さらに、Scowlは2023年にTaco Bellとコラボレーションし、女子ワールドカップの非公式ハーフタイム・ショーを行った。同年、ポスト・マローンはロサンゼルスのバンドMilitarie Gun(ミリタリー・ガン)の人気曲「Do It Faster」をバックステージで一緒に歌う場面も見られた。

このような広がりの背景には、パンデミック以後の空気の変化があると語るバンドも多い。High Visのグレアム・セイルは、「ロックダウン明け、人々は集団で何かを体験することに飢えていた」と話す。「ハードコアのライブは、まさにそうした瞬間の最たるものです。とりわけステージダイブには、ある種の自由がある」。Scowlのフロントウーマン、キャット・モスはこう語る。「インターネットによって、DIYカルチャーやライブの映像にアクセスする機会が増えました。景色が大きく変わったと感じます」

また、今のバンドたちは、ジャンルに対するこだわりをあまり持っていない。それはTurnstileがロックとメタルの両方で評価されたことにも表れている。
ドラマーのダニエル・ファンは2022年のノミネートに際し、「ジャンルという言葉そのものが、もはや古くさい考え方に思える」と語っている。Knocked Looseの「Suffocate」に客演したPoppyも同じ考えを持っている。「私はハードコア・アーティストではありませんが、叫びの表現には自信があります。ヘヴィな音楽は、私の表現の一部であって、すべてではないんです」

Turnstile、Knocked Loose、Scowlが開いた扉の向こう 2020年代のハードコア再考

Poppy(Photo by SAM CANNON)

オクラホマのスラッジ・メタル・バンド、Chat Pile(チャット・パイル)もまた、ハードコアとは定義づけられていないものの、そのシーンに迎え入れられている。「今のハードコアは、さまざまな分野や背景を持った人々を受け入れる懐の深さを持っている」と語るのは、ベーシストのスティン。彼は、純粋なハードコア・ファン向けのフェスで受けた「圧倒的にポジティブな反応」を振り返っている。

もちろん、昔からの”門番”のような存在はいまだにいる。オーストラリアのバンドSpeed(スピード)のジェム・シオウによれば、「ファンは”筋を通せ”という意識を大切にしている」とのことだ。だが、Scowlのようなバンドは、そうした態度にとらわれていない。キャット・モスは言う。「ゲートキーピングの議論って、あまり意味がないと思うんです。もちろん、大切なものを守ろうとする気持ちは分かる。
でも、私たちは一体、誰から何を守ろうとしているのでしょう?」

では、2025年のハードコア・シーンはどこへ向かっていくのか。スティーヴ・ブラッシュはこう語る。「ハードコアには、いつの時代も”革命のるつぼ”でありたいという願いがあります。それが現実のものとなるのを、私は見てみたい」

そして、バンドたちが今も大切にしているのは、ライブという場だ。Poppyは語る。「ハードコアとそのライブには、痛みや怒り、苛立ちといった感情を預けることができる場所があります。それを、SNSの動画などを通じて知る人が増えている。でも、最終的には、実際の会場で体験してほしい。あの場所に身を置いてこそ、初めてわかることがあるんです」

from Rolling Stone US
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