かつてウルトラマンを演じ、子どもたちに夢を与えたつるのは現在5児の親であり、幼稚園教諭二種免許と保育士資格を保有、さらに今年3月には東京未来大学 通信教育課程こども心理学部を卒業した。あらゆる立場から子どもに触れてきたつるのと、「令和のポップマエストロ」と呼ばれるmeiyoが思う、今の時代を生きる子どもたちから大人までへ届けたい「ちょっとだけ」の考え方について語ってもらった。
―まずはお二人がコラボレーションをすることになった経緯から聞かせていただけますか?
つるの:そもそもはベネッセさんの配信番組(『ベネッセ進級式』昨年3月、ベネッセ会員向けに配信)でご一緒させてもらったことがきっかけで。
meiyo:その番組で自分が、新学期に向けてエールを送る曲を作る企画があって。〈二重跳び30回目指す!〉〈100点を取りたい!〉とかの歌詞は、小学生の視聴者への「新学期に頑張りたいことはありますか?」という質問に答えてくれたものを入れました。それを曲として完成させてリリースしようってなったときに、せっかく番組でつるのさんと一緒に歌わせてもらったので「ぜひ音源にも参加してくれませんか」とお願いさせてもらいました。
つるの:仕上がったデモテープを初めて聴かせてもらった瞬間、「多分ルーツが似ているな」とピンときたんです。スタッフさんに「meiyoくんって多分、このアーティストが好きですよね?」って言ったら、「なんでわかったんですか」と。僕も大好きで。ニュアンスがそっち寄りだったから、きっと好きなんだろうなって思ったんですよね。
meiyo:僕はKANさんがすごく好きで。
つるの:じゃあ僕、間違ってなかったんですね。僕もKANさんは、高校生の頃からどっぷりだったんです。芸能界に入って歌うことになって、KANさんの「永遠」という曲をカバーさせてもらったご縁でKANさんとお会いして、そのあとKANさんが曲を作ってくださって、自分の武道館のライブでもピアノを弾いてくださって。もうとにかく大好き。でもほら、meiyoさんと僕は年代が違うじゃないですか? だから珍しいなと思ったんですよ。
meiyo:もともと僕が作っている曲もKANさんに影響受けているものが多いですね。KANさんが亡くなられてしまって、「これからKANさんくらい好きなアーティストは自分の前に出てくるのだろうか」みたいなことを考えたりするんですけど、KANさんが残してくれた音楽のニュアンスを僕が勝手に引き継いで、それを一緒につるのさんと歌えることによってひとつ形になったことがすごく嬉しくて。
つるの:嬉しいですね。最初に僕がそれに気づけたことも嬉しいし。だから「音楽性の違い」とかもなく、本当にドンピシャで、meiyoさんの世界に入ることができました。
meiyo:ああ嬉しいです。
つるの:番組のときにmeiyoさんからアルバム(『POP SOS』)をいただいて、それを聴きながら帰って、「もう天才や、この人」「すげえ」と思って。全部のジャンルをやっているじゃないですか。だから「すごい人とコラボレーションさせてもらう」というのが僕の最初の感想でした。でも僕はどちらかというとロック畑というか、「バコーン!」っていう感じの声で。この辺のコラボレーションがどうなるのかなって、実はちょっと不安があったんですよ。
meiyo:でも僕ももともとライブハウス出身で、気持ち的にはロックなので。今回できあがった曲はけっこう優しい感じになっていると思うんですけど、つるのさんの歌の感じとか、お会いしたときの印象から、「つるのさんだったらこの感じも絶対にやってもらえるだろうな」という確信はありました。
つるの:ルーツは似ているけど、出すものが違うっていうところで、いいコラボレーションになったと思います。令和の天才と一緒にスタジオに入ってレコーディングさせてもらって、すごく新鮮でした。いろんな勉強や発見がありました。
meiyo:いやあ、平成の神と……。
つるの:なんでやねん!

Photo by Mitsuru Nishimura
人生は「ちょっとだけ」の繰り返し
―小学生が見る番組で届ける曲として、どういう歌詞を書こうと思っていましたか?
meiyo:『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』という名作があるんですけど、その映画は子どもに向けていると同時に、大人へのメッセージも含まれていて。小中学生の頃に観たときは自分が完全に「しんちゃん」だったんですよ。でも30歳を超えてから観ると、自分の気持ちが「野原ひろし」になっていて。結局は大人も子どもも悩んでいることは一緒だったりするのかな、ということを思ったんですよね。「ちょっとだけ」も、簡単な言葉で歌うんだけど、大人になって聴き返したときに「この曲ってこういう目線でもあったんだ」みたいに人生でターニングポイントがあるような、長い目線で「いい曲だな」って思ってもらえる曲にできたらいいなと思っていました。この曲に限らず、常にそういう曲であったらいいなとは思っているんですけど、まさしく今回は子どもが親と一緒に見る番組だったので「これは自分の気持ちを全部放出するしかない」と思いながら作りました。
つるの:そういうことだったんですね。そのテーマは知らなかったんですけど、5人の子どもがいる親として、教育者・保育者として、小さいときの夢を叶えて仕事をさせてもらっている立場として、どの年代の人にも刺さるようにという目線で歌いました。同じ目線だったんですね。その辺の気持ちは「ちょっとだけ」じゃなくて「たっぷり」で歌わせてもらいました。
meiyo:(笑)。同じ気持ちで歌えたというのは嬉しいです。
―タイトルの「ちょっとだけ」には、どういった想いがありますか?
meiyo:歌詞の中に〈去年よりちょっとだけ/大人になれたでしょ?〉って出てくるんですけど、結局、人生は「ちょっとだけ」の繰り返しだなというふうに思って。どの世代の人にとっても、昨日より、去年より、ちょっとだけよくなったかなと思えたら、もうそれだけで前に進んでいるじゃないですか。そういう意味で、「ちょっとだけ」という言葉を曲のタイトルにして大丈夫そうだってすんなり思えました。
―本当に最初から最後まで歌詞が全部素晴らしいんですけど、meiyoさんが特に伝えたかったメッセージは?
meiyo:やっぱり最後じゃないですか?(〈とりあえずで良い/未来に会いに行こう〉)僕、あまり根が素直ではなくて。
つるの:僕もです。
meiyo:だから「今から明るい未来に会いに行こうぜ」って言いたいけど、あんまり素直に言えなかったりするんです。その感じは子どものときからあって。でも「とりあえず」っていいなと思って。
つるの:「とりあえず」、いいですよね。あの方(KAN)のフレーズにも「とりあえず」がけっこう出ますよね。
meiyo:ああそうですね。
つるの:でも本当、なんでも「とりあえず」なんですよ。僕もそう思ってます。とりあえず未来に向かって一歩一歩、歩いていけばなんとか未来にたどり着くでしょう、みたいなね。
meiyo:本当にそうです。
つるの:具体的なメッセージをラップのところに入れてみたり(〈楽しくないなら逃げてもいい/そんな言葉でちょっとだけ楽になれたら/もっと素晴らしい未来に会いに行こう〉)、そういうやり方がいいなあと思いました。すごく普遍的で、どの世代の皆さんが聴いてもど真ん中に入ってくる歌だと思いますね。お子さんが聴いても新学期で頑張りたいことやこれからチャレンジしたいことが出てくると思うし、大人が聴いてもあの頃を思い出したりするだろうし、親御さんが聴いても親目線でお子さんに対する想いとかも聴こえてくると思いますし。みなさんの中に入っていくメッセージなのかなと思いますよね。
meiyo:すっごくいいことを言ってくれて……! 今の子たちがちょっとだけ賢くなっている気がするんですけど……これは気のせいじゃないですかね? 自分の世代より、いろんな物事を早くから知っている感じがするというか。子どもが興味を持てるものも増えているんでしょうね。
つるの:単純にツールが増えてるというのもありますし、情報も早いわけじゃないですか。
meiyo:何になりたいのか、わからなくなりますよね。
つるの:わからないし、きっとこれからさらにいろんな仕事がたくさん出てくるわけじゃないですか。これから難しい時代になってくるのだろうなっていうのは、親としても保育者としても思いますよね。

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親が「ゲームはダメ」と言わないで
つるの:meiyoさんは、小学生の頃の夢は何だったんですか?
meiyo:その頃の夢は、ただただゲームが好きだったので、ゲームクリエイターになりたいって言っていたんですよ。でも今にして思えば、僕がやっていたゲームって音楽ゲームだったんです。
つるの:僕とまったく同じ! 音楽にハマったのはゲームがきっかけ。ゲームミュージックのベースラインしか聴こえなかったんです。『スーパーマリオ』とかも、メロディのうしろの旋律が全部聴こえてたの。
meiyo:天才っぽい(笑)。「ちょっとだけ」のレコーディングのときも、コーラス録りがめちゃくちゃ上手くて。
つるの:あのラインを取るのが得意技なんです。
meiyo:あれは本当にすごいことだと思いますね。僕、いろんなアーティストの方のレコーディングに立ち会っていますけど、ぱっとできる人は本当に少ないですからね。
つるの:うわ、自信持っていいのかな。THE ALFEEの高見沢(俊彦)さんにも「これはつるのくんにしか歌えないから」って「ULTRA BURN -Dedicated to ULTRA HERO-」という曲に呼んでもらって、それもすっごく嬉しかったんですよ。話を戻すと、ゲームミュージックっていうルーツもお互いあったんですね。
meiyo:僕がやっていたゲームって『beatmania』『pop'n music』とか、音楽ゲームだったので、実際には「ゲームのプログラミングをしたい」とかじゃなくて「音楽を作りたい」って思っていたのかもしれないです。
つるの:昨今、親御さんも「ゲームってどうなの?」みたいなところがあるじゃないですか。でも、たとえば『信長の野望』『三国志』のゲームをやる中で「諸葛亮」「武田信玄」「織田信長」とか歴史上の人物を覚えたような気がするんですよ。逆に、学校でやった勉強なんか全然覚えてないわけですよ。うちの息子が3、4歳のとき、釣りにいって暗くなってきた頃、「そろそろ見えなくなるから帰るか」って言ったら「帰らなくていいよ。松明焚けば」って言ったんですよ。「なんでそんな言葉知ってんの?」って聞いたら「ゲーム」だって。『マインクラフト』で覚えたと。
meiyo:(笑)。たしかに松明出てきますね。
つるの:そう。だから「ゲームはダメだ」って一概に言うんじゃなくて、一回子どもと付き合ってみて、ちゃんとゲームの魅力を知った上で、「時間はこれだけにしなきゃダメだよ」っていうことを伝えなきゃいけないなって、親としても気づかされたわけ。
meiyo:ああ、いい話ですね。
つるの:ちょっとだけいい話でした。

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次回のコラボレーションが決定!?
―つるのさんは、50歳記念ライブ『つるの剛士 50歳記念ライブ”50th!!”』(5月31日、東京・日本橋三井ホールにて)の開催も発表されました。今音楽へのモチベーションとは、どういったものですか?
つるの:小さい頃から「ウルトラマンになりたい」「芸能界に入りたい」という夢はありましたけど、実は「歌う」というビジョンはまったくなかったんです。バンドは興味あったしやりたいなと思っていましたけど、バンドのジャンルはデスメタルだったので(笑)、僕が綺麗に歌うなんてビジョンはまったくなかったです。なので今歌を歌っていることが不思議でしょうがない。番組の中で歌ったら賞を取って、「いけんじゃねえかな」って勘違いして、そこから歌い出して。今でもずっと不思議だなと思いながら歌ってます。
meiyo:へえ! じゃあ記念ライブはどういうモチベーションなんですか?
つるの:今年50歳になって、芸能生活が30年目で、ちょうどいいキリなので。「芸能界」という括りでも、俳優で入って、ウルトラマンになって、深夜のラジオDJをやって、気がついたらおバカタレントやって、「羞恥心」でアイドルをやって、歌手をやって、パパタレントみたいなことをやって……これ、就職でたとえたらものすごい転職している人なんですよ。そういう自分の芸能生活を振り返れるようなライブになったらいいかなと思っていますね。いろんな方たちが入れ替わり立ち替わりでステージに出るような、賑やかなライブになると思います。
meiyo:めっちゃいいですね。自分は今年、歌い始めてからちょうど10周年だったんですよ。最初は「ワタナベタカシ」という名前で始めたので、meiyoとワタナベタカシの2マンライブ(『ワタナベタカシ10周年記念ツーマンライブ~WT×meiyoにまつわるエキストラ~』、1月27日開催)をやりまして。
つるの:ああ、いいですね! やってることは大体同じですよ。
meiyo:そこで自分も歴史を振り返ったんですけど、それが30年とかになってくると、しかももっともっといろんなことをされている中で……めっちゃ楽しそうだなあ。
つるの:僕なんて、その場の思いつきだから。いつも「とりあえず」です。「とりあえず未来に向かって歩いていればなんとかなるか」みたいな感じでここまで来たので。その「とりあえず」が、すごくいい「とりあえず」だったなって思いますね。間違ってなかった。そういう感謝の気持ちも込めてライブができたらいいなと思っています。
―今後二人でやりたいことはありますか?
つるの:いや、そんな! やらせていただけるのなら、こちら側としてはそんな光栄なことはないですから。
meiyo:「ちょっとだけ」は名義が「meiyo feat.つるの剛士」になっていますけど、僕が歌わない形で、つるのさんの曲を作らせてもらえるなら作りたいです。
つるの:え!……僕、そういうの真に受けますよ。僕に曲を書くとしたら、どんな感じになると思いますか?
meiyo:いろんな経験をされているじゃないですか。だからAメロはヘヴィメタルなんだけど、Bメロで急にバラードになったり(笑)。それくらいの振り幅のものができたらいいですね。
つるの:ミクスチャー! 面白いですね!
meiyo:そういうことはユニコーンとかもやっているじゃないですか。そういう変なアイデアみたいなものはつるのさんっぽいかなと思ったりします。
つるの:やば! もうビジョンできちゃった。これはちょっと作ってもらわないといけなくなってきましたね。ちょっとだけじゃない。
meiyo:「だいぶ」っていう曲(笑)。
つるの:だいぶね……ああ! 「ダイブ」!
meiyo:こういうところから生まれたりしますよね。
つるの:その日を夢見てます!

Photo by Mitsuru Nishimura
<INFORMATION>

「ちょっとだけ feat.つるの剛士」
meiyo
配信中
https://meiyo.lnk.to/alittlebitTP
『ワタナベタカシ10周年記念ツーマンライブ 第二陣~侍文化×meiyo 寒くて鳩膨らむ の巻~』
2025年6月19日(木)
会場:東京・新代田FEVER
開場18:30 / 開演19:15
出演:meiyo / 侍文化
『つるの剛士 50歳記念ライブ”50th!!”』
2025年5月31日(土)
会場:東京・日本橋三井ホール
開場17:00 / 開演18:00
出演:つるの剛士 / 野久保直樹 / 河相我聞 ほか