あの熱狂の一夜がライブ・アルバムに。昨年のフジロックで強烈なインパクトを残したUS(アス)。
その直後の初単独公演の模様を収めた『We're Us! Live in Japan 2024』が、本日4月23日にリリースされた。5月には再来日も控える彼ら。ライブで体感すべきバンドの真価、本作の聴きどころについて、荒野政寿(シンコーミュージック)に解説してもらった。

ほぼ無名の状態で、デビュー・アルバム『Underground Renaissance』を携えて昨年7月に初来日、フジロックフェスティバルで計6回ものライブをやり遂げ、一躍その名を轟かせたフィンランド出身の若き5人組、US(アス)。その勢いのまま渋谷WWW Xで7月30日に敢行した日本での初ワンマンライブの模様は、昨年レポートさせてもらった通りだが。あの日の煮えたぎるような演奏が、実は録音されていた。

バンドは間もなく、二度目のジャパン・ツアーで再来日。5月11日(日)大阪・梅田Shangri-La、5月12日(月)東京・渋谷Club Quattro、5月13日(火)東京・新代田FEVERの3公演が予定されている。ツアー開幕の前に、来日を記念してリリースが実現したライブ盤『We're Us! Live in Japan 2024』を、隅々まで味わっておこう。



開演前までミッシェル・ガン・エレファントの「スモーキン・ビリー」が流れたりして盛り上がっていた場内だったので、1曲目の「Black Sheep」でショーが始まると、ウィルコ・ジョンソンばりの鋭いリズムギターを繰り出すテオ(Vo, G)の姿がアベフトシと重なって見えたことを思い出す。ギターソロは左チャンネル:マックス→右チャンネル:テオの順で、スイッチする時にハーモニカ担当のパンがいちいちギタリストを指差す様子が微笑ましかった。音楽的な中心人物はテオのようだが、ステージ上でのムードメイカーとして、終始にこやかなパンがいい味を出している。


2分台の短い曲が続く。「Citroen Blues」はギターと寄り添うパンのハーモニカがドライヴ感を増強。”Blues”と言いながらも曲調はパンキッシュで、「Leaving Here」などのモータウン・ナンバーを高速でカバーしていた初期のザ・フーとも通じる味がある。

その「Citroen Blues」と同様に「Snowball Season」でもリフ作りのうまさが光る。リズムギターで徹底的に押しまくる構成だが、ハーモニカやリズムアレンジの妙で起伏を生み出し、まったく飽きさせる瞬間がない。

US「伝説の一夜」を追体験 フジロックを震撼させたロックの衝動、最強ライブ盤を全曲解説

2024年7月30日、渋谷WWW Xにて撮影(Photo by Masashi Yukimoto)

「Just My Situation」は英国人ながらフィンランドでウィグワムのシンガーとして活躍したジム・ペンブロークのカバー。実はザ・バンドのロビー・ロバートソンを敬愛しているというテオが、他の曲では見せない柔和な側面を小出しにする。中盤からのドラマティックに盛り上げるところは、マックスのリードギターが伸びやかに歌い、リズム隊の迫力もかなりのものだ。

「I Do Not Need No Motor Ride」はアルバム未収録曲で、ラスムスの歪んだベース、パンのハーモニカが印象に残るブルージーなロックンロール。続く「Don't Call The Cavalry」でも、曲の要になってグルーヴを生んでいるのはラスムスの屈強なベースだ。

「Paisley Underground」は1stアルバムの中でもメロディが飛び抜けて印象に残る曲。ストゥージズもかくやというリフの熱さと、スウィートさを同居させられてしまう点は本当にユニークで、こういう独特なセンスが今後の作品でも鍵になるのではないかと思う。


「Got To Know」でワイルドなボーカルを聞かせるのはマックス。フィンランドの大先輩ロッカー、デイヴ・リンドホルムがペン・リーで活動していた時期の曲で、こういう自国のロックンロール・クラシックを積極的に取り上げる姿勢もUSならではだ。

「In & Out My Head」は半音ずつ下がっていくリフの割と地味目な曲だが、後半で聴ける舞い上がるようなマックスのギターソロに思わず息を飲む。リズムの芯を外さないリーヴァイのドラムは安定感が抜群。彼は意外にもデイヴ・ウェックルやスナーキー・パピーのラーネル・ルイスをフェイバリットに挙げる技巧派ドラマーで、音楽の好みがひとりだけ全然違うが、彼のビートがビシッと締めているおかげで、ギターやベースが派手に暴れても演奏が崩れない。

テオとリーヴァイは「I Wanna Be Your Lover」を本作のお気に入りに挙げている。ウィルコ・ジョンソンも取り上げたボブ・ディランの隠れた名曲だが、ここまでスピードアップしてアグレッシヴなロックンロールに作り変えてしまう思い切りのよさが気持ちいい。当日はこの後に「Stella」「Manchester Night Blues」「Off My Mind」も披露したはずだが、これらの曲は今回未収録。「Stella」はライブ初披露だったようで、2枚目のアルバム用に温存しておきたい曲なのかもしれない。

今を生きる若者としてのロックンロール

イントロが鳴るや、ひと際場内が沸いたのが「Night Time」で、直線的な高速ロックンロールは痛快の一語。ラモーンズのファンにも喜ばれそうなこういう曲がある一方で、テオとマックスがデュエットする「Carry Your Bag」では突然サザン・ソウル/STAX風味が全開になり、振れ幅が非常に大きい。「I Ain't Got Nobody」は初期スライ&ザ・ファミリー・ストーンの人気曲だが、オルガンで弾かれていたパートをガサツなギターの音色に置き換え、これも高速化して騒々しく盛り上げ倒す。


ライブでどういうアレンジをするのか気になっていたのが、アルバムではビートルズっぽいテイストでまとめられていた「Hop On A Cloud」。近年ありがちな、キーボードの音源を流しながら演奏するパターンかと思ったら、そんな手は使わずメンバーの生演奏だけで堂々とやり切り、曲の表情がガラッと変わった。ここでもマックスが奔流のようなギターソロを聞かせてくれる。

US「伝説の一夜」を追体験 フジロックを震撼させたロックの衝動、最強ライブ盤を全曲解説

Photo by Masashi Yukimito

「Help Me With My Broken Heart」はシングル「Paisley Underground」のB面に収められていた曲で、スライ・ストーンがファミリー・ストーンを結成する以前の1962年にシルヴェスター・スチュワート名義でリリースした曲のカバー。原曲はこれと似ても似つかぬかわいらしいポップチューンでギャップが面白いので、USのヴァージョンとぜひ聴き比べて欲しい。

「While You Danced」はパンとベーシストのラスムスが、マックスのギターソロを理由に、本作のお気に入りに挙げている。元ファンシー・クローズの高松健朗さんがInstagramでこの曲を紹介、「曲のパターンとして、違う曲が始まったかと思うくらいに曲の展開が変わる」と指摘していたが、高速のパートとスローのパート、全然関係なさそうな2曲を1つに組み合わせたかのような構成は、確かに同世代のバンドでは類を見ないものだ。

US「伝説の一夜」を追体験 フジロックを震撼させたロックの衝動、最強ライブ盤を全曲解説

Photo by Masashi Yukimito

本編ラストの「Say Mama」はジーン・ヴィンセントのヴァージョンが最も有名だが、恐らく彼らがシンパシーを寄せる同郷の先輩、Hurriganesのアレンジを踏襲したんじゃないかと踏んでいる。ガレージ・パンクにも詳しそうな彼らのことだから、ミルクシェイクスのヴァージョンもきっとチェックしたはずだ。

音だけだと伝わりにくいかもしれないが、彼らが新鮮なのはファッションも曲の方向性も、まんま過去のものをなぞったようなコスプレ感がないこと。音楽の知識も愛情もたっぷりあるのだが、マニアの遊びとしてではなく、今を生きる若者としてロックンロールをがっちりキャッチし、自分たちなりの語り口で表現しようとしている。だからカバー曲ひとつをとっても、旧世代には恐れ多くて思いつかないような大胆なアレンジを平気でやれてしまうのだ。


この後、1回目のアンコールはサム&デイヴの「Hold On I'm Comin」を、凄まじくラウド&高速なアレンジでカバー(今回のライブ盤には未収録)。しかしいつまでも観客の拍手が鳴り止まない。もうやる曲がなくなってしまったバンドは、2回目の「Black Sheep」を猛烈な勢いで演り、幕となった。最後の最後、リーヴァイが他のメンバーよりも流暢な日本語で、「必ず、来年戻ってくる!」と話す声まで収録されている。その約束通り、再び彼らが日本を揺るがす5月まで、もう少しの辛抱だ。

US「伝説の一夜」を追体験 フジロックを震撼させたロックの衝動、最強ライブ盤を全曲解説

US
『We're Us! Live in Japan 2024』
2025年4月23日(水)CD・配信リリース
※日本盤CD品番SICX-208 価格:¥2,860(税込)

<日本盤CDには解説&豪華特典付き>
・16ページカラーブックレット
・ロゴ&ジャケット写真ステッカーシート(初回限定盤のみ)
・ミニポスター/メッセージシート(初回限定盤のみ)

再生・購入リンク:https://USJP.lnk.to/LiveInJapan2024RS

US「伝説の一夜」を追体験 フジロックを震撼させたロックの衝動、最強ライブ盤を全曲解説

Us Japan Tour 2025
- Fuji Rock Calling presented by Fuji Rock Festival -

2025年5月11日(日)大阪・梅田 Shangri-La
Support Act:天国注射
(from Fuji Rock Festival 2024 ROOKIE A GO-GO)
開場:18:00 開演:19:00
チケット代:税込 6,500円(ドリンク代別)

2025年5月12日(月)東京・渋谷 Club Quattro
Support Act:HOME
(from Fuji Rock Festival 2024 ROOKIE A GO-GO)
Special MC:魔将軍チャッキー
(from Fuji Rock Festival 2024 ROOKIE A GO-GO)
開場:18:00 開演:19:00
チケット代:税込 6,500円(ドリンク代別)

Us Japan Tour 2025 - Additional Headline Show

日時:2025年5月13日(火)
会場:東京・新代田 FEVER
開場:18:00 開演:19:00
前売料金:税込 6,500円(ドリンク代別)

公演ページ:https://smash-jpn.com/live/?id=4379

US「伝説の一夜」を追体験 フジロックを震撼させたロックの衝動、最強ライブ盤を全曲解説

US
『Underground Renaissance』
配信・CD発売中
※日本盤はボーナス・トラック1曲収録 解説・歌詞対訳付き
再生・購入:https://USJP.lnk.to/URENAISSANCERSJ
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