彼女の音楽には、ハウスやディスコやレアグルーヴ、再評価が進むブリット・ファンク、ジャズ要素を含むニュージャズ(NuJazz)など、さまざまなダンス・ミュージックのエッセンスが息づいている。それに加えて、DJがダンスフロアでプレイしたくなるような機能性を備えた楽曲を制作できることも大きな強みだ。2021年の前作『Yellow』以来となる最新アルバム『Weirdo』が、ジャイルス・ピーターソン主宰のレーベル〈Brownswood〉からリリースされたのも大いに頷ける。
オーガニックな生演奏の魅力と、大胆なプロダクションが共存する『Weirdo』には、「Thank You For The Day」のようなダンス・クラシックとなり得る楽曲も収められている。だが、そこにあるのは単なる祝祭感だけではない。むしろここには、彼女自身のビターな経験を乗り越えようとする強い意思が宿っており、その感情はギターを通して表現されている。彼女は新たな表現手法を手に入れたと言っていいだろう。
前回のインタビューでも「(学生時代から)みんな私のことを変わり者だと思っていた」と語っていたエマ・ジーンは、なぜ今作を『Weirdo』と名付けたのか。彼女を襲った不幸とそこからの再生、豆腐、炒飯、カッサ・オーバーオールなど、その背景にあるストーリーを踏まえて聴くことで、アルバムをいっそう深く味わえるはずだ。
「生き抜くこと」についてのアルバム
―前作から少し時間が空きましたよね。その間はどんなことをしていたんですか?
エマ・ジーン:前作をリリースしたのが2021年で、翌2022年はツアー続き。とにかくあちこちを回っていたの。
それから、(Zoom取材を受けている)この部屋に1年引きこもってアルバムを作ったの。それは自分を取り戻し、自分らしく生きるためのセラピーみたいだったし、心を浄化するようなプロセスでもあった。そうすることで自分を取り戻していって、「生きる」ことの意味も取り戻そうとしていた。今はこのとおり元気になって、自分のすべてを注いだ音楽を聴いてもらえることにワクワクしている。
―『Weirdo』はどんな作品にしようと考えていたんですか?
エマ・ジーン:もともと思い描いていたアイデアがあって、最初は「疎外感」をテーマにした作品にしたかった。「自分は人と違う」という感覚について。ずっと抱えてきた精神的な葛藤に触れたかったの。自分が神経多様性(ニューロダイバーシティ)であることや、自閉症であること、そして常にみんなと違うと感じていること。でも、そのことに誇りを見出そうとしていた。たとえそのせいで嫌な思いをしてきたとしても、「人と違うことはいいことなんだ」って悟ったことを伝えたかった。
だけど結局、悲嘆を綴る日記のような作品になった。パートナーを失った後の日々や、どうやって気持ちを整理していったのか、そういうことも書いている。結局のところ、これは「生き抜くこと」についてのアルバムなんだと思う。大きな疎外感を抱えながら育っても、パートナーを失っても、自分は生き延びてきた。その背景にあるのは「立ち直る力」。だからこのアルバムは、全部自分一人でやりたかった。自己完結とか、自分が前に進むための強さを表現したかったから。
―前作『Yellow』のインタビューでも、「制作がセラピーになった」といったことを話していましたよね。今回は前作とは違う種類のセラピーになったということでしょうか?
エマ・ジーン:ある意味ではとても似ていたし、ある意味ではもっとカタルシスがあった。というのも、1年間ずっと一人きりだったから。サウンドを完全に自分らしくコントロールできるという感覚が、「自分らしく生きる」という感覚を取り戻すのに役立った。人のことを気にせず、自分のことだけを考えればよかったから、より深く自分を癒せたのだと思う。
『Yellow』では、ほとんどの楽器を自分で録音したけれど、他の人たちも貢献していて、その人たちを引っ張りながら、時には妥協もしつつ、みんなで作った作品だった。でも『Weirdo』は私ひとりだったからこそ、自分が何を必要としているのかをより強く感じられた。自分を取り戻すには、ホリスティックな癒しが必要だと思った。だから身体を整えるために料理をしたり、ウェイトトレーニングをしたり、走ったりした。そして精神を整えることを考えた時、やっぱり音楽に戻らなきゃ、と思った。音楽は、私がこの地球上で生きていくうえで最も得意とすることだから。そして、その両方に取り組むことで、魂が癒されて、人間らしさを取り戻せたように感じた。だから、このアルバムは、これまでで最も癒され、そして最も大切な制作過程だった。もしこれを作っていなければ、私は今、ここにいないと思う。
―『Weirdo』というタイトルについて聞かせてください。これは「変わり者」みたいなそのままの意味ですか?
エマ・ジーン:そう。子供の頃は、しょっちゅう「変人」って呼ばれてた。
エマ・ジーン・サックレイが考える「ロック」
―サウンド面ではどんな方向性を考えていたのでしょうか?
エマ・ジーン:少しロック寄りのサウンドを思い描いていた。タイトル曲の「Weirdo」は、『Yellow』の制作中に書いた曲。でもあのアルバムには合わなくて、これは次の作品に入れる曲だとわかっていた。その時点で、次はもっとジャズ・ロック、あるいはフュージョンっぽい作品にしようと決めていたの。つまり、取りかかるずっと前から種を蒔いていたってこと。
それに伴い、オーケストラの要素は減らしている。『Yellow』ではオーケストラを大胆に取り入れた部分もあったけど、今回はもっと自己完結させたくて、自分で演奏できる楽器だけで完成させたかった。
―エマさんが好きなロックはどの辺りですか?
エマ・ジーン:10代の頃に聴いていたのは、ニルヴァーナみたいなアメリカ西海岸のグランジとか、スティーリー・ダンみたいなジャズ/フュージョンっぽいロック。それから、レディオヘッドみたいな90年代のUKロックも好きだった。主要楽器がギターという意味ではどれもロックと言えるけど、ヘッドバンギングするようなメタルっぽいサウンドは違うかな。ディストーションはかかっていても、温かみがあって優しいサウンドが好きだった。グランジはポップやソウル、ジャズとも相性がいいと思う。
―前回の取材で、プログレも好きだと話していましたよね。
エマ・ジーン:プログレの要素も健在だと思う。4分の4拍子じゃない曲もけっこうあるし、そもそも変拍子やプログレっぽいシンセはよく使うから。
シンセ・パートに関しては、ヤン・ハマーをイメージしてる。特にリード・シンセの部分は、ジャズ・フュージョンっぽいヤン・ハマーのサウンドもそうだし、ジョー・ザヴィヌルの影響もある。そこにプログレからの影響も加わっている。だから、グランジほど目立ってはいないかもしれないけど、プログレの影響も今でもしっかりあると思う。
―ヤン・ハマーの好きなアルバムを挙げるとしたら?
エマ・ジーン:青や赤に分割されたジャケットで、「Dont You Know」が入っているアルバムかな。
―そのアルバム『Melodies』はDJの間でも人気だと思います。そういう文脈も今回のヤン・ハマーっぽさと関係ありますか?
エマ・ジーン:凄くグルーヴがあるから、ダンス・フロアにも合うと思う。自分としては、メロディが際立っているから「ポップ・ジャズ・アルバム」だと捉えているけどね。まだ一度もクラブでかけたことはないけど、今度DJするときにかけてみようかな。
―今作のサウンドを言葉にするなら?
エマ・ジーン:レーベルに対して、「カート・コバーンがスティーリー・ダンに入って、レディオヘッドと手を組んで、森のなかの小屋に行って、そこにはケイト・ブッシュもいて……」ってのを想像してほしいって説明した。そしたら、「いいね。さっそく一緒に作ろう」って言ってくれたんだけど、私は「そうじゃなくて、完成したら持ってくるから一人にして」と伝えたの。そしたら「わかった。前作とは違うね」って。実際、あの頃とは違う感覚だったし、違う人間だから。
アルバムには他にもいろんな影響が入ってる。ブロークン・ビートやハウス、ダンス・ミュージック、モータウンとか、いつも聴いている音楽が自然に、有機的に反映されていると思う。何か特定のサウンドを目指したというより、ありのまま自然に出たって感じ。

Photo by Lewis Vorn
ギターとサウンドメイクの秘密
―あなたにとってギターってどんな楽器ですか?
エマ・ジーン:自分としては、感情豊かな楽器だと思っている。すぐに耳に飛び込んでくる音色で、ほかのいろんな音を突き破ってくる。聴けばすぐに、琴線に触れるサウンドだってわかる。今作を作るうえで、自分が最初に音楽への深い愛を見つけた時に立ち返る必要があって、ロックやギター・ミュージックをたくさん聴いた。さっきも言ったけど、13歳の頃、ニルヴァーナにどハマりしてた時期があったんだよね。
今回、音楽からも、本来の自分からも離れていた期間が6カ月ほどあって。ひたすら壁をじっと見つめながら過ごしていた。そこから音楽とまた向き合い、曲作りに取り組むにあたって、最初に音楽を好きになった頃の感覚を取り戻したかった。13歳の頃から曲を作るようになったんだけど、その頃にもっぱら聴いていたのがギター・ミュージックだったから。あと、今もまだ私のなかにいる、周りから変人扱いされていた13歳の私を癒してあげたいという思いもあった。
―そもそもギターって、以前から使ってましたっけ?
エマ・ジーン:ギターは昔から弾いてた。ステージでも弾くし、今回の新作の曲も、ギターを弾きながら歌うような感じで演奏してる。トランペットは8歳から吹いていて、ドラムや打楽器、ギター、ベース、キーボードも13歳くらいから演奏している。どれも長い間弾いてきた、馴染みのある楽器たち。そんなふうに楽器をいろいろ弾けることを、これまであまり見せてこなかったし、語ってもこなかったかもしれない。『Yellow』でも多くの楽器を演奏しているし、もっと前のEP『Ley Lines』(2018年)では、すべての楽器を自分で演奏してるんだけど、それをアピールするのが重要だとは思わなかったから、あえて話してこなかった。
でも、今作ではそれが重要だと感じてる。自分がいた孤立した状況を理解してもらうための助けになると思ったの。とても個人的な作品で、私の物語、心の痛み、悲しみがすべて詰まっているから。だから、自分で録音からミックスまで全部手がけた。誰にも触れさせなかった。そうすることで、自分が孤独な場所でこのアルバムを作ったことを伝えたかったの。そういう背景があるから、今回はあえて「自分がすべての楽器を演奏した」と言うようにしてる。
―今作でのギターに関しては、どんな弾き方を意識しましたか?
エマ・ジーン:パーカッシブなサウンド。音符を丁寧に弾くというより、リズムを刻むことに重点を置いたつもり。だからアルバムの数カ所では、フレットをちゃんと押さえずにギターを弾いているパートもある。あとは、バッキングに徹している場面もたくさんある。例えば「Save Me」でのギターはすごくモータウンっぽいと思うし、「Black Hole」はファンキーなPファンク風で、思い切り歪ませたギターがフィットしてる。
―影響を受けたギタリストは誰ですか?
エマ・ジーン:当然、まずはカート・コバーン。彼の力強いパワー・コードが好きなんだけど、リフが単なる歌のバッキングではなく、ギターのメロディ自体も際立っているところが好き。ギターを弾きたいと思ったのは、彼の音楽を聴いてから。しかも私は、(カートと同じく)左利き用のギターを弾いてる。
他にも、パット・メセニーやカート・ローゼンウィンケルといった、ジャズ寄りのギタリストからも影響を受けている。アラン・ホールズワースもそう。彼は出身地が私とすごく近いんだよね。それ以外だと、ドリーム・シアターのジョン・ペトルッチみたいなプログレ系のギタリストもたくさん聴いていた。10代の頃は彼にすごく憧れてたけど、絶対にあんな技巧派にはなれないってわかってた。でも、それでよかったの。テクニカルなことは、トランペットでやれるから。
―きっとペダルやエフェクターにも凝ってるんじゃないですか?
エマ・ジーン:うーん、それほどたくさん使ってるわけじゃないかな。たとえば、違うディストーションを使ってダブル・トラッキング、トリプル・トラッキングしたりする。思い切りディストーションをかけるというよりは、さりげない歪みを何重にも重ねる感じ。
エフェクターは、Big MuffとかRAT、それからすごくクールなMoogのディストーション・ペダルも持ってる。値段は私が持ってるギターの3倍(笑)。あとは、ディレイやリヴァーブ系の音にはSpace Echoを使ってる。それくらいかな。ちなみに、このアルバムでは同じ1本のギターしか使っていない。セミ・ホロウのテレキャスターを全部のパートで使ってる。シンプルに留めることを意識した。
―例えば、「Let Me Sleep」をヘッドホンで聴くと、音の後ろに広い空間を感じるんです。すごくプロダクションにこだわっていますよね。
エマ・ジーン:たしかに。この部屋自体にも空間音のようなものがあるけれど、そこへさらに空間音を加えることで、すべてをその空間の中に置くような感覚で作ってる。何かを聴いたときに、目の前にバンドがいるような錯覚を覚えるようなサウンドが好きで、ミックスではそれを目指したかな。
それと同時に、たくさんのスペース・エコーを使って、そこから特定の音を浮かび上がらせようとしている。特に、ボーカルやいくつかの楽器のリードの旋律。目の前にバンドがいるんだけど、あちこちに音が動いたり、いろんなパンニングで音が頭の中を駆け巡ったりするようにしてあって。そこは気づいてもらえたら嬉しい部分だね。
―具体的に、どうやってその空間を作ってるんですか?
エマ・ジーン:リヴァーブにはValhallaのSuper Massiveを使ってる。具体的には「Maybe Nowhere」で使っていて、曲の終わりのほうで、ものすごくリヴァーブがかかって大きく広がるんだけど、そこは「死んだらきっとこうなる」というイメージ。重苦しいかもしれないけど、そういうのを想像しながらあのパートを書いた。二つの違うリヴァーブを同時に鳴らして、フィードバックっぽくさせたら、ああいうサウンドができたんだよね。
あと、トレモロもたくさん使ってる。自分のRhoadsにはトレモロがついてないから、エフェクターを使う必要があって、それをいろんな場所で流用してる。ブラスにかけたり、ボーカルにかけたり、シンセにかけたり。少ない機材を使って、そこから最大限のサウンドを引き出すようにしてる。
豆腐、炒飯、カッサ・オーバーオール
ーところで「Tofu」という曲がありますが、これって豆腐のことですか?
エマ・ジーン:そう! 豆腐は一番好きな食べ物。ほぼ毎日食べてる。アルバム全体は重たくてどんよりする部分もあるけど、それに対して笑える要素も入れることでバランスを取りたかったの。このアルバムは「悲嘆にくれる日記」って感じなんだけど、そのなかで私の日常の一コマを切り取ってもいいかなって。抽象的な思いを綴るだけじゃなくて、例えば3カ月の間、毎日台所で炒飯を作って、それを食べるのが楽しみだったこととか、何よりも好きな豆腐を食べることで、自分らしさを少しずつ取り戻していったことを反映させたかった。
―次の「Fried Rice」が炒飯の曲だと思いますが、豆腐とセットで食べるんですかね?
エマ・ジーン:そんなつもりはなかったんだけど、よく一緒に食べるのはたしかかも。アルバムの曲順を考えるときに、一緒にしたほうがしっくりきたから。ちょうど真ん中あたりで、食べることに幸せを見出す、少しホッとする瞬間があってもいいと思った。ずっと辛いだけじゃなかった。ほんの一瞬だけど、いいこともあったって。
―ちなみに豆腐は普段、どうやって食べるんですか?
エマ・ジーン:チリオイルをかけて食べることもあるし、時間がないときはオーブンで焼いたりもする。絹ごし豆腐を潰してペースト状にして、料理に使うこともある。豆腐を使ったチョコレート・ムースを作ったことだってある。
―「Its Okay」にはカッサ・オーバーオールが参加しています。彼を起用した理由は?
エマ・ジーン:カッサは、いろんな意味で私と同類のように思える。変人仲間だし、彼の音楽もカテゴリーに分けることができない。ジャズを超えた音楽を作るジャズ・ミュージシャン、みたいな感じ。しかも、いろんな表現方法を持っている。ドラムも叩くし、ラップもするし、プロデュースもする。私と同じで多面性がある人だよね。あと、彼は単にサウンドを作るだけじゃなくて、もっと深い次元で音楽を作っているように感じる。癒しのためだったり、自己表現のためにやってるように感じるから、とても深いところで私の心に響く。だから、今回参加してもらうのにピッタリの人だと思った。これからも一緒にいろいろできたらいいな。彼は間違いなく同志だから。
―カッサとどういうやりとりをしたら、このサウンドになったんですか?
エマ・ジーン:彼は私のパートナーの件も知ってたし、アルバム全体の文脈もわかっていた。当初、この曲では自分でドラムを叩いてたんだけど、私は本職のドラマーじゃないし、「やっぱり誰かに頼もう」と思った時に、真っ先にカッサが浮かんだの。
そこで、自分がドラムを叩いているバージョンと、私のドラムが入っていないトラックの両方を彼に送って、「好きなように叩いて。それと、この部分からこの部分までラップを自由に入れてほしい」とお願いした。「これが何についての曲か、わかってるでしょ? あなたならこの曲のメッセージを理解して、自分らしく表現してくれるって信じてるから」と。
そうして彼が戻してくれたものに、今度は私がプロデューサー的な手を加えた。トランペット・ソロが入っているミドルの部分では、カッサのドラムが右の耳に、私のドラムが左の耳に聴こえるようになってる。そこだけは自分のドラムを残したの。ドラムの音を左右に分けて、まるで二人が一緒に演奏しているようなサウンドにしたら面白いんじゃないかと思って。本当にクールな共演だった。
アルバムでは私がベースを弾いてるんだけど、まるで昔から彼とベースとドラムで共演してきたかのように感じた。でも、今回が初めての共演。そんなふうにコラボする前から「絶対にうまくいく」ってわかることがあるんだよね。彼がどんな人で、どんな心の持ち主かを知っていたから、すべてが上手くはまった。
―カッサも自身のメンタルヘルスをテーマに音楽を作るような人ですよね。だから、今の話も納得です。
エマ・ジーン:「Its Okay」は、パートナーが亡くなる前、前作のツアーから戻ってきたタイミングで書いた曲だった。ツアーが終わったあとは燃え尽きて、本当にひどい精神状態だったから、何か前向きになれるものを見つけたかった。自分の人生だったり、音楽活動を仕事にできていることのありがたさも、その頃は感じられないほどで。だからこそ、音楽の中でそれを表現することで、少しでも実感を得ようとしたの。そんな経緯で、この曲を2022年の年末に書いた。
その後、アルバム制作の追い込みに入ったときに、まだ荒削りだったこの曲をまた引っ張り出したの。「今はこういう気持ちにはなれないけど、またこうなりたい」という思いがあったから。日々にもっと感謝したいって。それでまた制作を再開して、その中に飛び込んで、希望が持てる場所に辿り着こうとした。そして完成が近づいたとき、最後に「これが必要だった」と感じた。というのも、この曲はダンサブルなんだけど、明け方のダンスフロアでかかるクローザーのような曲だから。
歌詞にしても、これをリスナーに最後に聴いてほしいと思った。苦痛の中に落ちていくけれど、願わくば、その終わりに向かって少し希望を感じられるような、すべてに対して少し前向きな気持ちになれるような。アルバムを通して描いてきたテーマでもある「生き抜く」とか「克服」といった感情を、最後に聴き手に感じてほしかったから。

Photo by Lewis Vorn
―ダンスフロアという話が出ましたけど、僕が面白いなって思ったのは、セラピーって話になると優しい音や静かな音を連想しがちですけど、このアルバムにはダンス・ミュージックも含まれていますよね。ダンス・ミュージックとセラピーの関係についてはどんなふうに思っていますか。
エマ・ジーン:ダンス・ミュージックは、物心ついたときから私の生活の中にあった。特に10代の頃は、まだクラブに行ける年齢になる前から通っていたくらいで、ダンス・ミュージックはいつも自分の中にあるものだった。今回は、「ダンス・ミュージックを作らなきゃ」と思って作ったわけじゃない。自分の直感を信じた結果、こうなった。つまり、自分の身体がそれを必要としていたんだと思う。
離人症(「自分が自分でない」と感じる精神的な不調)にならないためにも、より身体的な感覚や「ここにいる」という空間的な感覚を研ぎ澄ます必要があって、身体を動かすことを意識的に取り入れた。身体の感覚や人間らしさを取り戻す必要があったから、ランニングやウェイトトレーニングをたくさんやったし、ダンスもその一貫だった。きっと、自分の身体が欲していたんだと思う。ダンスも運動も、癒しの効果があると思う。散歩やランニングに出かけると、それだけで気分転換になるから。
―ダンス・ミュージックでいうと、最後の「Thank You For The Day」はDJならみんな好きになりそうな素晴らしい曲だと思いました。
エマ・ジーン:ジャイルス・ピーターソンも気に入ってくれたみたい。彼にこの曲を聴かせるとき、何パターンかのデモを渡したんだ。今年の1月、NYで一緒にいたとき、彼が観客に向かって「今日は僕たちのショーに来てくれてありがとう。最後に、今いちばん気に入ってる曲をかけるよ」と言って、「Thank You For The Day」を流してくれた。でも、曲のヴァースが流れた瞬間に、彼が間違ったバージョンをかけてることに気づいたの。私がメロディを口ずさんでいるだけのデモだったから。思わず「ジャイルス、それじゃないって!」って言ったんだけど、ジャイルスは「別にいいよ」って(笑)。お客さんも気に入ってくれてたから、楽しい笑い話で終わったけどね。

エマ・ジーン・サックレイ
『Weirdo』
発売中
再生・購入:https://emmajeanthackray.lnk.to/weirdo