1990年代音楽シーンは多様性に溢れ、次々と刺激的なアーティストや作品が生み出されていた。その中でも、the brilliant greenは衝撃的だった。
UKを中心としたロックサウンドをベースに、どこか陰鬱さを持ちながらも心の琴線に触れるメロディ、そして、川瀬智子によるどこか物憂げを帯びながらも圧倒的なヴォーカルと存在感。このバンドの登場は、それ以降のミュージシャンだけでなく、日本中のリスナーにも大きな影響を与えたといっていいだろう。

そんなthe brilliant greenの1stアルバム『the brilliant green』が、アナログ盤として9月17日にリリースされる。彼女たちの名を一躍世に知らしめた3rdシングル「There will be love there -愛のある場所-」も収録した本作は、1998年、CDセールスがピークを迎えた激戦の音楽シーンにおいて137.9万枚を売り上げ、オリコン年間チャート16位を記録。今なお色褪せないその輝きを、あらためてレコードの音で改めて体感できる貴重な機会となる。

さらに、2002年リリースのTommy february6『Tommy february6』と、2004年リリースのTommy heavenly6『Tommy heavenly6』のアナログ盤も、7月16日に2作同時リリースされる。川瀬智子の両極端のペルソナというべき2組。中でも、Tommy february6は、デビューから20年以上経った今、海外を中心に再評価を得ており、「Lonely in gorgeous」はTikTokを中心に改めて大ヒットするなど、グローバルに盛り上がりを見せている。

アナログ3部作のリリースを記念し、the brilliant greenのメンバーであり、Tommyプロジェクトのサウンド面を手がけてきたプロデューサー奥田俊作にインタビューを敢行。当時の制作背景や、今だからこそ語れるエピソードの数々を通して、3作品の”音の記憶”を辿っていく。

──the brilliant greenの1stアルバムリリースから、もう28年経つと知り、驚きました。

奥田:いや、もうまさにその通りで。
自分でもびっくりしています。ただ、音を聴くと「なるほど、あの頃の音だな」って感じるところもありますね。28年前の音っていうか。

──たとえば、どんな部分にそれを感じますか?

奥田:やっぱり”アナログ感”というか。ざっくりしてるんですよ。今みたいに編集で作り込まれた音楽じゃない、というか。そういうところが大きいかなと思いますね。

奥田俊作が振り返る、the brilliant greenのデビューアルバム、アナログの魅力と目指していたサウンド

奥田俊作

──the brilliant greenの登場には、本当に衝撃を受けました。当時はUKロックやオルタナという言葉を知らなかったですけど、他のメジャーなロック作品と全然違うということだけは分かって。どんなサウンドを目指して制作されていたんでしょうか?

奥田:ブリグリ(※the brilliant greenの略称)って、実は役割分担がはっきりしていたんです。サウンド面は僕と(ギターの)松井(亮)さんの男2人が主に担当していて、ファッションやビジュアル面はTommy(川瀬智子)が中心、っていう感じで。僕と松井さんは趣味も似ていて、60年代とか70年代の音の質感がやっぱり良いよねって、いつも話していたんです。
当時の音楽シーンの中で、どうやったら60年代の音の空気感を今の時代に再現できるか、よく試していました。

奥田俊作が振り返る、the brilliant greenのデビューアルバム、アナログの魅力と目指していたサウンド

川瀬智子

奥田俊作が振り返る、the brilliant greenのデビューアルバム、アナログの魅力と目指していたサウンド

松井亮

──90年代のブリットポップやUKロックの影響も感じるサウンド感もありますよね。

奥田:その頃って、UKやUSのギターポップが盛り上がっていた時期でもあって。自分たちもすごく影響を受けていたし、古い音楽の良さと、当時の新しいトレンドをうまくミックスして、ちょっとキラキラした感じのサウンドが作れないかな、っていうのを追求していた時期だったと思います。

──1st、2ndシングルまでは全英語詞でしたが、3rdシングル「There will be love there -愛のある場所-」から日本語詞を取り入れるようになります。1stアルバムには、最初の2枚のシングルは収録されていませんが、どういう流れで、このアルバムの形になったんでしょう。

奥田:デビュー前から英語詞でずっとやっていた流れがあったんですけど、レーベル的に、どこかのタイミングで日本語詞のシングルを出して、一気に売っていこうっていう作戦とか計画があったと思うんです。正直、自分たちはそんなことまったく意識してなかったんですけど(笑)。僕らとしては「とにかく音楽を突き詰めたい」っていう気持ちだけで音楽をやっていたので、日本詞を入れるとき、正直、めちゃくちゃ戸惑いました。メンバーみんな、そうだったと思います。けっこう悩んだ時期でもありましたね。自分たちが当初思い描いていたイメージから、少しずつズレていっているんじゃないかっていう不安があって。
そのズレが怖かったというか、そこに葛藤はありました。

──そんな葛藤がありつつ、この曲は大ヒットしました。どう受け止めていましたか?

奥田:純粋に本当に嬉しかったです。やっぱり多くの人に受け入れられてほしいという思いで作っていたので、それが結果として返ってきたのは本当に良かったなって。ミックスが終わったあたりで、ソニーの偉い人たちがスタジオに来てくれて曲を聴いたんですけど、みんな、すごい反応だったんです。「めちゃくちゃいい」って。あんなふうに絶賛されたのは初めてくらいだったんじゃないかな。そこから一気に忙しくなって、自分の中でも本当に切り替わりのタイミングというか……もう何もかもが変わった、人生が変わった瞬間だったと思います。アマチュアの延長みたいなところから、プロの世界に足を踏み入れて、いろんな関係性が生まれて、音楽だけじゃなくて、仕事として動いていくという変化が一気に来たというか。ほんとにスパッと切り替わったような感覚でした。

──アコースティックで始まり、後半で弦楽器も加わり壮大になっていくアレンジは、奥田さんの世界観が強く表れたものなんでしょうか?

奥田:僕は、けっこうしっかりデモを作り込むタイプなんです。自分である程度の構成やイメージを組んでから進めるんですけど、この曲に関してはプロデューサーとして笹路(正徳)さんについてもらって、弦アレンジを含めて全体を組み立ててもらいました。
それによって、楽曲にすごく広がりが出たと思っています。プロのプロデューサーと一緒に仕事をするのはこのときが初めてだったので、どう接すればいいかも分からなかったし、やり方も全然知らなかったんですけど、その中で、演奏の技術的なことだったり、音の重ね方の考え方だったり、いろんなことを教えてもらって。自分にとっては、すごく勉強になった曲ですね。音楽を作ること自体への興味が、より強くなったきっかけの曲でもあります。

──今でこそ、プロデューサー的な視点やエンジニア的な視点も強くお持ちだと思うんですが、当時はどちらかというとまだプレイヤー寄りの感覚だったんでしょうか?

奥田:そうですね。プレイヤーであり、デモを多重録音で作るのが好きっていう、ほんと趣味の延長みたいな感じでしたね。

──1曲目の「Im In Heaven」のベースの音も、今聴いてもすごく印象的ですよね。

奥田:この曲は、ちょっと特別なんです。録音のときって、まず全員で一緒に演奏して録るんですけど、この曲に関しては、六本木にあった「WAVE」っていうレコード屋の上にあったスタジオで録ったんです。ちょっと変わったビルで、広さもあって。ただ、反射音の関係で正直すごく演奏しづらかったんです(笑)。でも、録り音はめちゃくちゃ良くて。
空気感というか、グルーヴ感というかがすごくあって。スタジオそのものが持ってる”オーラ”みたいなものがあったんでしょうね。そういうのも含めて、グループ感が出たんじゃないかなと思います。

──「冷たい花」は少し陰鬱なイントロから入って、ぐっと開けてくるような印象があって、すごく好きなんですけど、the brilliant greenって、どこか”気だるさ”とか”陰り”のある空気感と、ポップさが同居してる感じがします。そういう部分って意識されていましたか?

奥田:いろんなタイプの曲が好きなんですけど、自分としては”メジャーとマイナーを行き来する曲”が好きなんです。明るい中に暗さがあるとか、逆に陰のある中に一瞬の光が差すとか。そういうコントラストって、音楽に限らず何にでもあると思うんです。だから、曲の中でも自然にそういう展開を作っていきたいなと思っていましたね。

──川瀬さんの声質もブリグリの世界観で大きな存在ですよね。奥田さんと松井さんが彼女をライブで見てバンドに誘ったそうですが、最初に声を聴いて、特別なものを感じたんでしょうか?

奥田:松井さんと2人で「絶対この人だな」って話して、すぐに誘いました。声の質感はもちろんですけど、佇まいというか、存在感というかすべてがハマった感じでした。やっぱりあの出会いは、自分たちにとってもすごく大きかったですね。


──最初に合わせてみたとき、思った通りの化学反応があったんでしょうか?

奥田:僕らって、ライブをやるようなタイプじゃなくて、当時から自宅録音メインだったんです。カセットMTRに曲を録って、そこに歌を乗せて、ギターの音を作り込んでっていう、ほんとに趣味でコツコツやる感じ。で、完成したものをみんなで聴くのが楽しみだったんです。その録音の中で、彼女の声が入るとパッと華やぐというか、映えるんですよね。

──1stアルバムがリリースされた1998年は、日本でのCDセールスが一番多かった年です。その中で、178万枚売れて、年間売上でベスト16位という大ヒットを記録しましたが、セールスについては、どう感じていたんでしょう?

奥田:正直、僕らって売上とかにはまったく関心がなかったんですよ。

──えっ、あれだけの数字があっても?

奥田:めちゃくちゃ純粋だったんです(笑)。ただただ、好きな音楽を突き詰める。それだけでやっていた。当時ってCDがめちゃくちゃ売れていた時代だったじゃないですか? 100万枚とか200万枚とか、そういう数字が割と普通にあった。だから、どこか感覚がマヒしていたというか。むしろ、次どうするかとか、音楽を作る時間をどうやって確保しようってことばかり考えていました。プロモーションもどんどん増えて、スケジュールが目まぐるしくなってきて、制作に集中する時間がどんどん削られていく。そっちの方が自分としてはちょっと不安だったんですよね。「ちゃんと音楽を追求できるんだろうか?」って。

──そんな中で、2001年にTommy february6がスタートするわけですよね。このプロジェクトは、どういう経緯で誕生していったんでしょうか?

奥田:たしか、最初はスタッフの方からの提案だったと思います。「Tommy、ソロでやってみないか?」って。自分たちもその頃、これからの方向性をどうしていこうか考えていた時期だったと思うので、そういう部分を察してくれて提案してくれたのかもしれません。

──ブリグリと比べると、Tommy february6は、音楽的な参照点も大きく違いますよね。ユーロビートとか、80年代のディスコ感、ニューウェーブ的な要素とか。そういう音楽って、奥田さんの中にルーツとしてあったんでしょうか?

奥田:初めて買ってもらったレコードが、祖父に買ってもらったシンディ・ローパーの『N.Y.ダンステリア』だったんです。小学生の頃だったと思うんですけど、めちゃくちゃ衝撃を受けて。曲が良いのはもちろんだけど、音もキラキラしていて、ジャケットの世界観もすごくて。特にリズムマシンの音とか、ドラムの”バシバシ感”がめちゃくちゃかっこよくて。その時は技術的なことはよくわかってなかったけど、自分の中にずっと残っていたんです。なので、「80年代路線でいくの、面白そうだな」ってなって。あの頃って、まだアナログシンセも今よりずっと安かったんです。だから気になる機材をいっぱい買って、音を出して、いじって。新鮮な音をどんどん作っていって、Tommy february6を形にしていった感じですね。

──その中で、特にこのアルバム制作で一番使われた機材ってありますか?

奥田:一番活躍したのは、MOOG社のMemorymoogっていうシンセサイザーですね。これは自分が一番好きなシンセでもあります。あとはProphet-5とかもよく使ってましたし、ドラムに関してはE-muのSP-12っていうドラムマシンとか、LinnDrumなんかも使ってました。特別に珍しい機材というわけではなくて、当時普通に使われていたものが多いと思います。

──奥田さんご自身は、Tommy february6を世に送り出すにあたって、どんな手応えを感じていましたか?

奥田:ブリグリはアマチュア時代から自分たち3人で作ってきた流れの延長線上で、そのままプロになっていった感覚があって。ずっと自分たち主体でやってきたんですけど、Tommy february6に関しては、チームで一体になって会議しながら進めていったんです。「the brilliant greenのTommyがユーロビートをやったら面白いんじゃない?」みたいなアイデアも、スタッフも含めた全員で”遊び感覚”でできたというか。みんなで楽しみながら作っていけたのは、すごく大きかったです。最初「こういう路線で考えています」っていうのをスタッフに聴かせたら、みんな「めちゃくちゃ面白そう!」って反応してくれて。そこから一気にバーッと広がっていくような感覚がありましたね。実際に作品をリリースしたときにも、反響がすごく大きくて、みんなで素直に喜び合えたんです。あの時の仲間感というか、スタッフとアーティストが一体になって作っている感じがすごく良かったなと思っています。いろんな相乗効果が一気に出て広がっていったような感覚でしたね。

──Tommyさんのアイコンでもある眼鏡だったり、チアリーダー風の衣装だったりも象徴的でしたよね。いまでは「Y2Kファッション」と呼ばれ、若い世代の人たちがTommyのファッションや世界観に注目していますが、当時、そういった時代を切り開いてるような感覚ってありましたか?

奥田:いや、まったくなかったですね(笑)。ほんとに、自分たちがいいと思うものを突き詰める、ただそれだけでした。でも、いま振り返ってみると、今のほうがTommy february6の評価が高いのはわかります。当時って、Tommy february6を「いい!」って言うのがちょっと恥ずかしい、みたいな空気もあって。今って自分の趣味を思いっきり表に出すことが当たり前になってますけど、あの頃はまだ人の目を気にする時代というか、手探りで自分のスタイルを探していた時代だった気がしますね。

──確かに ”オタク”って言葉も、今とは違う響きを持っていましたよね。

奥田:そうそう。ちょっと暗いイメージというか、”変わった人”みたいなニュアンスで捉えられがちだった。だから、the brilliant greenがあって、Tommy february6みたいな全然違う世界観のものをやるのは、すごくインパクトあったんじゃないかな。「なんでそうなるの?」っていう反応もあったと思うけど、自分たちはまったく変なことをやっているっていう意識はなかったんですよ。「いいものができたな」って、素直に思えていたし。

──こだわって詰め込んだものをストレートに出す怖さとか不安はなかったですか?

奥田:いや、むしろ楽しかったですね。シンセサイザーは昔から好きで触っていたけど、改めていいなと思えたし、リズムマシンも、曲じゃなくても鳴らしているだけでずっと聴いていられるみたいな感覚があって。アナログの音そのものの心地よさがあったんですよね。

──当時のアナログを突き詰めた音がパッケージされたこの作品を、今になって聴くと、当時にしか出せない音というのが込められている感じがしますよね。

奥田:意外だったのが、「♥Lonely in Gorgeous♥」が世界的に人気になっているっていうことで。ファッションとかいろんな要素があると思うんですけど、音の面ではこの曲って、Memorymoogっていう自分が一番好きなアナログシンセサイザー1台で作ったんです。リズムは別として、ベースも、ギターの代わりのパートも、上モノも、全部その1台だけでやったんです。自分の中で「今回はこのシンセだけで作ってみよう」っていう縛りを設けて。改めて思うのは、やっぱりアナログって、「確かに感じられる何か」があるんですよね。それが今、評価されている理由なんじゃないかなって思っています。

──確かに、AIで楽曲を生成できるようになってきた今の時代だからこそ、アナログでしか出せない魅力が際立っていますよね。

奥田:そう思いますね。データでは表現できない、”まだ発見されていない成分”や”周波数”がアナログから出ているんじゃないか、って。

──初めてアナログシンセサイザーを見たとき、”未来的な機械”って印象でしたよね。

奥田:わかります(笑)。未来の機械って感じ、ありますよね。でも、未来って実は古いものの中にいっぱい詰まっていると思っていて。年齢を重ねてきて、ようやくそういうことを意識できるようになってきました。やっぱり、自然なものにはすごく強さがあると思うんです。デジタル化されていないからこその魅力は、どこかでちゃんと人に伝わるものだなと。

──それがいま、若い世代からも再評価されてるっていうのは面白いですよね。

奥田:本当にそう思います。めちゃめちゃ嬉しいですね。

──2003年には、Tommy february6の逆サイドを表現したTommy heavenly6が始動します。これも、チームの中で「両極端なTommy像を展開していこう」というアイデアから生まれたものだったんでしょうか?

奥田:実は僕、あまりその流れを覚えてなくて(笑)。でも、Tommyの中では最初からあったと思うんですよ、両極端でやりたいっていう構想は。僕もそういう認識はずっとあったので、デモは前から作っていました。ロック系とダンス系、それぞれ別のプロジェクトとして。それで「やらせてほしい」みたいな話を、レーベルにしてたんじゃないかなって感じですね。

──Tommy heavenly6は、ロックサウンドといっても、the brilliant greenとはだいぶ違う質感ですよね。どういうモチーフやテーマを意識していたんでしょうか?

奥田:特に1stアルバムに関しては、試行錯誤の連続だったと思います。「こういうイメージの楽曲にしたい」っていうのは当然あったんですけど、自分自身もどこまでハードに振っていくか手探りでやっていました。ただ、メロディそのものはしっかり聴きやすくて、誰が聴いても違和感のないような世界観にしたい思いはあって。Tommy heavenly6のイメージがちゃんと固まってきたのは、2枚目(『Heavy Starry Heavenly』)以降からじゃないですかね。1枚目の時期は、まだいろんな可能性を模索していた感じでした。

──1stには11曲収録されていますけど、次につながる手応えを感じた曲はありますか?

奥田:曲もそうなんですけど、自分としては制作スタイルそのものを意識的に変えたんです。Tommy heavenly6では、めちゃくちゃシンプルにしようと思って。特に最初のシングルなんかは、昔、自宅録音してた時の感覚を思い出してやってました。たとえばギター1本と、安いコンパクトエフェクター3つだけ。それをラインでつないで録る。まさに宅録初心者が最初にやるような方法であえて作ったんです。使っていたギターも、Tommyが持っていたキティちゃん仕様のフェンダーで(笑)。

──キティちゃん仕様のフェンダー!?

奥田:3枚目のシングルになった曲(「Ready?」)は、キティちゃんのギターと、普通のリズムマシンで作ったと思います。それで言うと、Tommy heavenly6が進化していくのって、やっぱりゴスっぽい世界観やメタル的なニュアンスを含んでいくようになったあたりからですね。そういう意味では、6曲目の「+gothic Pink+」が一つの転機だったと思います。あと、最後に収録された「Hey my friend」は、映画『下妻物語』の主題歌になったんですけど、映像の世界観と、Tommyの音楽世界がガッチリ合っていて、自分でもちょっと感動したんです。こんなにしっくりくるんだ、って。

──Tommy heavenly6では、あえて高価なスタジオやハイエンドな機材を使わずに制作されたということですが、その”本質的な動機”って、どんなところにあったんでしょうか?

奥田:本当にありがたいことに、the brilliant greenでは、日本一恵まれてるんじゃないかっていうぐらいの環境でレコーディングさせてもらってたんです。それに慣れきってしまっていたところもあって。だからこそ、新しいプロジェクトを始めるタイミングで、一度”初心”みたいなものを取り戻したいというか、自分自身の気持ちをリセットするために、あえてそういうシンプルなやり方を選んだんです。音質がどうこうっていうよりも、気持ちの持っていき方を整えるためというか。それに、安価な機材でどこまでできるか試してみたかったんです。このアルバムで生ドラムは使ってないです。全部打ち込み。普通のRolandのリズムマシンを使ったり、サンプリングした音を組み合わせたり。そんな感覚で作ってました。

──ちなみにTommyさんの”歌い方”や”ボーカルスタイル”に変化はあったんでしょうか?

奥田:歌に関しては、基本的に全部本人任せなんです。レコーディングの時も僕が録るんですけど、特に「こうしてほしい」とか、指示はほとんど出しません。Tommyが自分で「いま歌いたい」って思ったタイミングで何テイクか録るっていうやり方ですね。だから、切り替えやニュアンスの違いとかは本人の中に全部あると思います。僕はそれをただ受け取って、どう形にするかを考えるだけ。すごく自然な流れでやってます。

──Tommyさん自身が「OK」ってなったところで完了、という感じなんですね。

奥田:基本的に、ボーカルディレクションもほとんどしていません。僕のやり方として、ボーカルを録るときは曲の最初から最後までを通して歌ってもらうんです。途中で止めて「はい、サビだけもう一回」みたいなことはあまりやりません。

──だいたいの人は、パートごとに細かく区切って録ることが多いですよね。

奥田:僕はやっぱり曲全体の流れを大事にしたいんです。細かく切ると、感情の起伏や一貫性がどうしても途切れてしまうような気がして。ピッチやリズムが多少ズレていても、3分間の流れがしっかり繋がっていることの方が、自分は大事だと思っています。演奏に関しても同じで、できるだけ通して録って、間違えたところだけパンチインしたり差し替えたりするようにしてます。全体の空気感が良ければ、それでいいかなって。

──そう聞くと、先ほど話されていた”アナログ感”とか、”肉体感”みたいなものを大事にされてるのがすごく伝わってきます。

奥田:でもね、正直、嫌がられますよ(笑)。

──えっ、そうなんですか(笑)。

奥田:やっぱり、楽なやり方じゃないですから。でも、自分は苦労して頑張って出てきたものの中に、美しさがあると思ってるんです。だから、なるべくそういうやり方で録っていきたいと思っています。

──改めて、3作品がアナログ盤としてリリースされることについて、どんな思いでいらっしゃいますか?

奥田:単純にすごく嬉しいです。当時は「20年以上経ってアナログで出る」なんて、レーベルの人たちも誰も想像してなかったと思うんです。特に、the brilliant greenに関しては、おそらく20年ぶりくらいに改めて聴き直したんですけど、感動しました。「ああ、すごくいいな」って心から思った。質感もそうだし、未完成な部分も含めて、「これを作れて本当に良かったな」って。もしかしたら、今の時代に初めてこのアルバムを聴く人にとっても、いろんな要素を感じ取って楽しんでもらえるんじゃないかなって。むしろ今だからこそ、見えてくるものがあるかもしれないとも思ってます。

──当時は気づかなかったことも、今だからこそ感じ取れる部分があるというか。

奥田:当時はどんどん技術が進化して、便利にクオリティも良くなっていくものだと思っていたけど、20年以上経って、実はそうじゃなかったんじゃないか?って。もちろん便利にはなったけど、今やろうと思っても、このアルバムの”質感”はもう出せないと思います。

──機材も環境も、時代の空気も変わってしまっているからこそ、余計に”時代感”が込められている作品だなと感じます。

奥田:あの頃の”若さ”も、このアルバムには詰まっているんです。キラキラしたエネルギーというか、純粋さというか。本当に、自分たちが「これが好きだ」と思ったものを、ひたすら追いかけていた感じがすごく出ていると思います。自分の作品で言うのもなんですけど、このアルバム、めちゃくちゃおすすめです(笑)。世界中の人にちょっとでも気になったら、ぜひ聴いてみてほしいなって思いますね。

──ブリグリの1stアルバムのラストを飾る「Rock'n Roll」も、シンプルなアコースティックな演奏で締めるというのも、心地よかったです。

奥田:「Rock'n Roll」は、自分がこれまで作ってきた中でも、すごくよくできた曲だなと思っていて。収まりがいいし、Tommyの歌もすごくハマっている。この曲、たぶんギターは当時住んでたマンションで録ったんですよ。レコーディングのために東京に出てきて、最初はウィークリーマンションに1カ月くらい住んでて。その部屋でギターを録ったりしていたんです。ヘッドホンでよく聴くと微妙にノイズが入っていたりする。その頃って、最新のデジタル機材とアナログ機材、そして昔から使ってる安い機材が混在していて。でも、そういうのも全部”味”になっていると思ってます。だからこの曲には、いろんなものが詰まってる、特別な感覚があるんです。

──そう考えると”the brilliant green”ってバンド名も音をすごく表していますよね。

奥田:自分は、自分の作ったもの、あまり聴かないタイプなんですけど、この間聴き返して、やっと自分の中でthe brilliant greenに納得できたんです。「ああ、ちゃんとできていたんだな」って。自分が目指してたのは、”完成度の高いもの”というよりも、多少ざらついていても、”イメージや表現が伝わること”だったんだなって。それがしっかりできていたな、「いい作品ができたな」って思って生きていけそうです(笑)。

──これからも、そういう思いのこもった曲をまた聴かせてもらえたら嬉しいです。

奥田:ありがとうございます。音楽って終わらないですから。自分にとっては趣味でもあるし、たぶんこれからも作り続けると思います。また近いうちに、いい作品ができたらいいなと思ってます。

<リリース情報>

奥田俊作が振り返る、the brilliant greenのデビューアルバム、アナログの魅力と目指していたサウンド


the brilliant green
1st Album『the brilliant green』(アナログ盤)
発売日:2025年9月17日発
価格:7700円(税込)
完全生産限定盤 2枚組LP
45回転・180g重量盤
=収録曲=
1. I'm In Heaven
2. 冷たい花
3. You & I
4. Always And Always
5. Stand by
6. MAGIC PLACE
7. ”I”
8. Baby London Star
9. There will be love there -愛のある場所-
10. Rock'n Roll

https://thebrilliantgreen.lnk.to/1gaP7F

奥田俊作が振り返る、the brilliant greenのデビューアルバム、アナログの魅力と目指していたサウンド


Tommy february6
タイトル:Tommy february⁶(2枚組)
発売日:2025年7月16日
価格:6800円(税込)
完全生産限定盤
=収録曲=
1. T.O.M.M.Y
2. EVERYDAY AT THE BUS STOP
3.トミーフェブラッテ、マカロン。
4. Bloomin'!
5. HEY BAD BOY
6. KISS_ ONE MORE TIME
7. WHERE ARE YOU? "MY HERO"
8. WALK AWAY FROM YOU MY BABE
9. 恋は眠らない
10. Can't take my eyes off of you
11. I'LL BE YOUR ANGEL
12. ★CANDY POP IN LOVE★

https://Tommyfebruary6.lnk.to/Tommyfebruary6_Vinyl

奥田俊作が振り返る、the brilliant greenのデビューアルバム、アナログの魅力と目指していたサウンド


Tommy heavenly6
タイトル:Tommy heavenly⁶(2枚組)
発売日:2025年7月16日
価格:6800円(税込)
完全生産限定盤
=収録曲=
1. 2Bfree
2. Ready?
3. Wait till I can dream
4. fell in love with you
5. Wanna be your idol
6. +gothic Pink+
7. Swear
8. Lost my pieces
9. GIMME ALL OF YOUR LOVE !!
10. LCDD
11. Hey my friend

https://Tommyheavenly6.lnk.to/Tommyheavenly6_Vinyl
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