しかも、来るたびに規模は大きくなり、今回は初の東名阪ツアー。さらに、Spotify O-EASTをソールドアウトさせた前回の成功を受けて、今回の東京公演のために用意された会場は豊洲PITだった。ほぼソールドアウトと言ってもいいくらい、多くのオーディエンスが集まった場内は非常に温かい雰囲気で、不思議とユニティを感じさせるものだった。バンドが持つメッセージがそういったムードを生み出したのだろう。
今回のインタビューは、東京公演当日に豊洲PITのバックヤードで行われた。インタビュイーはカラン・カティアール(ギター/マルチ・インストゥルメンタリスト)。ライブではフロントに立つジャヤント・バドゥーラとラウル・カーの勢いに圧倒されるが、カランはよくデザインされたヒゲこそ迫力があるものの、とても穏やかな人物。非常に謙虚な姿勢でインタビューに臨んでくれた。ちなみに、このインタビューの終了後、筆者は彼らのTシャツを手に入れるために物販列に並んだのだが、販売開始から購入までに1時間もかかるほどの大行列。もちろん、ライブも大いに盛り上がり、さらなる人気の拡大を予感させた。

カラン・カティアール(Photo by Teppei Kishida)
―2022年の前作『Rakshak』が出てから、ものすごい勢いでバンドが飛躍(ジャンプ)していますよね。この状況について、どう受け止めていますか?
カラン:僕たちの場合、何かしらの飛躍が起きる前から、常にその先を見ているっていう感覚なんだ。
―でも、周囲の変化には気づいていますよね? アルバムリリース前と比べて明らかに状況が変わっていると思います。
カラン:それはもちろん。観客の数も増えたし、会場もどんどん大きくなっていって、今まで想像もしなかったようなスケールになってきてる。たとえば、BABYMETALとのコラボの話が来たり、映画の監督から「あなたたちの曲を使いたい」と直接オファーが来たり。そういうことが実際に起きるなんて、以前は考えもしなかったよ。でも、それも成長の証だと思ってるかな。

Photo by Teppei Kishida
―そうやって注目度が高まっていく中で、「自分たちの音楽が誰かに影響を与えている」と実感したのはいつ頃でしたか?
カラン:それはずっと前のことで、僕たちが初めて出したオリジナル曲「Jee Veerey」のときかな。あの曲はメンタルヘルスをテーマにしていたんだけど、リリース後に多くの人から「この曲に救われた」とか、「この曲があったから命を絶たずに済んだ」といった声をもらって、音楽が人の人生に与える影響ってこんなにも大きいんだって、そのときに気づかされたんだ。
―自分たちの音楽がそんなにも深く影響を与えられているというのは、やはり驚きでしたか?
カラン:今でも驚いてるし(笑)、毎日が驚きの連続だよ。たとえば今、こうして日本でライブをしていて、すでに2本のライブを終えたところだけど、故郷からこんなにも遠く離れた場所で観客が僕たちの曲を一緒に歌ってくれる。
―自分たちがユニークなことをやっているという自覚はありましたか?
カラン:それはあったね。最初から「唯一無二のサウンドを作ろう」っていうのがこのバンドの核だったから。たとえば、街のどこかで安いスピーカーから流れていても、「あ、これはBloodywoodだ」ってわかってもらえるような音楽にしたかった。もちろん、他のバンドからの影響はたくさんあるけど、それでも僕たちは常に「新しい音」を作ることにフォーカスしてきたんだ。
―じゃあ、自分たちのやっていることに確信はあったけど、ここまで受け入れられるとは思ってなかったという感じなんですかね。
カラン:そうだね。こんなに大きな反響をもらえるとはまったく思ってなかったな。

Photo by Teppei Kishida
―Bloodywoodは2022年にフジロックで初来日を果たし、翌年には大阪と東京を回る初のジャパンツアーを行い、東京公演はソールドアウト。そして、今年は東名阪のツアー中という。海外バンドがこんなに短いタームで日本に戻ってくるのは珍しいことだと思うんです。何か特別な理由があると思いますか?
カラン:うーん、アジア的なつながりもあるのかもしれない。
―あのライブは僕もYouTubeの生中継で観ました。現地には行けなかったけど、すごく印象的なライブでした。今回の来日を含めて、これまで日本で特に印象に残っている出来事はありますか?
カラン:2023年に来日したとき、ある飲食店のオーナーが僕たちのライブを観に来るためにお店を閉めてたんだ。シャッターには「インドのメタルバンドを観に行くので閉店します」っていうメモが貼られていたのを誰かが写真に撮って送ってくれて、それを見たときは本当に感動したよ。
―それはすごい話ですね。
カラン:あと、この年は、BABYMETALのプロデューサーKOBAMETALさんが僕たちのライブを観に来てくれたことも特別だった。でも、何よりも特別なのは、日本のオーディエンスのエネルギー。これはもう、他の国とは比べものにならない。これは、ここが日本だから言ってるんじゃなくて(笑)、本当にそうなんだよ。
―でも、日本のオーディエンスって、一見おとなしそうな印象があるんじゃないですか?
カラン:確かに、ライブの前と後は静かだよね。でも、いざライブが始まったら全然違う(笑)。
―あはは! 今回のジャパンツアーは毎日移動しつつ、3日連続公演だからなかなかハードですね。
カラン:いや、いつもは7日連続でライブをして1日だけ休んでまた7日連続とかだし、ホテルに泊まれるのも毎日じゃなくて、バンで寝たりもするから、今回はそこまで大変だと感じるほどではないかな。特に、日本のホスピタリティは素晴らしいよ。インドとすごく似ていて、西洋とは全然違うから、ここはホームみたいに感じられる。たとえば、イベンターのSMASHもフジロックのときからずっと僕たちをサポートしてくれていて、今でもすべてのことをしっかり整えてくれるんだ。
最新アルバム『Nu Delhi』について
―では、最新アルバム『Nu Delhi』について聞かせてください。前作以上にアグレッシブだと感じたのですが、それは何か変化を意味しているんでしょうか?
カラン:『Rakshak』は人生一般について語ったものだったけど、今回の『New Delhi』は僕たち自身の物語なんだ。自分たちがどこから来て、どんな場所に住んでいて、どういう環境で音楽をつくっているのか。
―言い換えると、前作よりも自信を持って自らのことを語っている作品とも言える?
カラン:自信と真実を込めた作品だね。僕たちはこの作品で、自分たちの住む場所について良い面も悪い面も語っている。「全部素晴らしい」なんて嘘は言わない。現実をそのまま受け入れて、それを音楽に乗せているんだ。インドって世界から見ても誤解されてることが多い国だから、そうした誤解を正すという意味も込めて「本当の姿」を伝えたかったんだよ。
―前作と視点が異なるということは、それに伴って楽曲制作のアプローチにも変化があったのでは?
カラン:そうだね。今作のサウンドの変化は、伝えたいメッセージの変化から来ているんだ。とはいえ、信念が変わったわけではなくて、これまでと同じ価値観のまま、まったく別の物語を伝えようとしてる。たとえば、今作の曲は怒りを帯びたものが多いから、フルートは一切使っていない。なぜなら、怒りを表現する曲にフルートは合わないと思ったから。
―つまり、物語やメッセージに合わせて、新しいサウンドを取り入れたと。
カラン:その通り。インドには本当にたくさんの音があるから、あらゆる感情をそれらで表現できるんだ。だから、怒りを描くアルバムにはそれにふさわしい音、内省的なアルバムにはそれに合った音がある。次の3作目がどういう内容になるかはまだ分からないけど、きっとまたまったく違うサウンドになるだろうね。
BABYMETALとの共鳴、インドを背負う覚悟
―『Nu Delhi』に収録されているBABYMETALとのコラボ曲「Bekhauf (feat. BABYMETAL)」について聞かせてほしいんですが、その前にお伝えしたいことがあって。この話をあなたが知っているかわからないんですけど、2023年1月に幕張であったBABYMETALのライブで、開演直前に流れていた曲が「Dana-Dan」(『Rakshak』収録)だったんですよ。曲が終わるのと同時に暗転して本編が始まったので、すごく印象的でした。
カラン:知らなかった……それはめちゃくちゃ嬉しいよ。
―なので、あくまでも僕個人としては、BloodywoodとBABYMETALの関係はあの日のあの曲からスタートしてるんですよね。あそこから両者の運命が動き出したかのような。
カラン:2023年にKOBAMETALさんが僕らのライブを観に来てくれたとき、なぜ来てくれたのか正直わからなかったんだけど……今ならその理由が見えるよ。
―その幕張でのライブよりも前から、KOBAMETALさんはみなさんに注目していたってことですね。
カラン:きっとそうだったんだろうね。
―BABYMETALに対してどんな印象を持っていますか。
カラン:すごくプロフェッショナルで効率的な印象だね。アーティストって一般的には「何かを頼むとギリギリに出してくる」みたいな印象があると思うけど(笑)、彼女らはすごくしっかりしていて、完璧にバランスの取れたトラックを驚くほど早く送ってくれたんだよ。信じられないぐらいスピーディーだった! そういうところも本当に尊敬しているし、刺激を受けたな。
―楽曲についてはどうでしょう。
カラン:僕らはこの曲がすごく気に入っているよ。日本でどう受け取られているか、正直よくわからないんだけど……教えてもらえたら嬉しいな。
―最高に盛り上がってますよ。
カラン:本当に? 正直に言っていいんだよ?(笑)
―いやいや、本当ですよ(笑)。
カラン:世界的な反応についてはある程度わかってる。もともと僕らの音楽を聴いてくれていた人たちにはすごくウケがよかった一方で、BABYMETALファンの反応はまちまちだったみたいだね。最初はピンとこなかったけど、段々ハマってきたという声も多く聞いてる。結果的には、ポジティブな反応ばかりだと思う。この曲は半年以上演奏し続けてきたんだけど、こないだの大阪で初めて日本語パートをお客さんが一緒に歌ってくれたんだよ。それが本当に感動的だったな。

Photo by Teppei Kishida
―今回のコラボを持ちかけたのはカランからだったとか。
カラン:僕は彼女らの曲が本当に好きで、特にエレクトロニック・サウンドを使うやり方にはかなり影響を受けているんだ。だから、正直まさか一緒に曲を作ることになるとは思ってなかったけど、KOBAMETALさんがライブを観に来てくれたし、タイミング的にもいろいろな”星”が揃っていたから思い切ってお願いしたんだ。
実は、『Rakshak』に収録されている「Aaj」は「アニメのオープニングみたいだね」ってよく言われるし、「Endurant」も「アニメのバトル曲っぽい」って言われることが多くて。そういう反応があったからこそ、「このコラボは実現させなきゃ」って思ったんだ。最初ははっきりした返事をもらえなかったけど、後からKOBAMETALさんからメッセージを送ってくれて、そこからすべてが始まったんだよ。
―Bloodywoodのメンバーはアニメが大好きだそうですね。
カラン:アニメからの影響は大きいね。僕たちはみんなアニメが大好きで、僕はバンド内でいちばん年上だから「ドラゴンボール」の時代から観てるけど、他のメンバーは5歳くらい下だから別の時代のアニメを観てきてるんだ。インドにもアニメ文化はすごく根付いていて、日本の皆さんはあまり知らないかもしれないけど、めちゃくちゃ人気があるんだよ。
―アニメからの影響という意味では、「Bekhauf (feat. BABYMETAL)」からは「進撃の巨人」的な雰囲気も感じます。
カラン:実は、あの曲をつくっている段階で、歌詞についてBABYMETAL側に「恐れに立ち向かう」というテーマでいきたいと伝えていたんだ。それは「進撃の巨人」のテーマでもあるよね。だから、どうしても入れたかった一行(〈自分自身を捧げる〉)を提案したんだ。あの作品へのリスペクトを込めてね。
―やはりそうだったんですね。Bloodywoodは、BABYMETALと同様に世界のメタルシーンをすごい勢いで駆け上がっているバンドだと思います。今後、どんなバンドで在りたいですか。
カラン:僕たちにとって一番大事なミッションは、聴いてくれる人の人生にポジティブな影響を与えることなんだ。Bloodywoodという名前が人々の生活を少しでも良くするきっかけになればと思ってるよ。
―みなさんの姿はインドを背負っているようにも見えますよ。
カラン:そう言ってもらえるのは嬉しいけど、僕らだけじゃなく、すでにたくさんのインドのアーティストたちが頑張ってるんだ。でも、少なくともメタルシーンにおいては僕たちがいま最も広く知られている存在かもしれない。けれど、いつか僕らよりも大きなバンドがインドから出てくる日が来ると思ってるし、そのときは喜んでバトンを渡すよ。それまでは自分たちの責任をしっかり果たしたいと思ってる。

カラン・カティアール、東京公演のステージ上で公開プロポーズ!(Photo by Teppei Kishida)
Bloodywood東京公演セトリプレイリスト

Bloodywood
『Nu Delhi』
発売中
再生:https://found.ee/NUDELHIJP