FEVER333を電撃的に脱退したステファン・ハリソンとアリック・インプロタが、そのままデュオ形態で新バンドHouse of Protection(ハウス・オブ・プロテクション)を始めるという話を耳にした時は、少しばかり意外な感じがした。正直、フロントマンに成り得るような人材を補充しなくて大丈夫だろうか?とも。
だがしかし、昨年のデビュー作『GALORE EP』を経て、新たに届けられた2nd EP『Outrun You All』を聴いたら、元々この2人の中には溢れんばかりの創造性が抱え込まれていて、それは本格的に爆発する機会をずっと待ち望んでいたのだ、ということが完全に体感できた。
ワイルドなロック・サウンドと先鋭的なエレクトロニック・サウンドを、イカしたビートに融合させるスタイル、その最新形がここでは示されている。
―『Outrun You All』のプレスリリースには「アトランタ・トラップ、UKトリップホップ、ポストパンク、オルタナティブ、スポーツ系アンセム、アートロック、映像制作、スケートボードなど、あらゆる影響を融合させた」とありますが、そんな今作の収録曲は、どうやって作り上げられたのでしょうか?
アリック:制作当初に考えていたことの一つは、1st EPではやれなかったことを、ライブでやりたいということだった。バンド活動を5年も一緒にやってると、ステージで演奏していて、どの瞬間が気持ちいいとか、どの瞬間で観客を引き込んで盛り上げたいとかが、お互い分かるようになる。で、「Afterlife」や「Fire」といった曲は、自分たちが求めているペースやビートがあって、それを曲としてまとめていくことで出来上がったものなんだ。エレクトロニックな要素に関しては、俺たちの間で何年も前からシェアしているプレイリストに入っていた曲で、『Galore』では扱わなかった感じのトリップホップやドラムンベースなんかを参考にした。だからスタジオでは、他のアーティストをパクることなく、自分らしいサウンドの曲にしていくという作業だったね。「Phasing Out」や「I Need More Than This」は、まさにそうやって作られたんだ。「I Need More Than This」のヴァースや、特にブリッジのパートを聴くと、ドラムがトリップホップへのオマージュみたいに聴こえると思う。でもコーラスの部分では、自分たちらしいサウンドや雰囲気にした。
―聴かせてもらって感じたのは「とにかく自由な空気感があふれている」ということでした。やはり、FEVER 333では抑圧されていた創作意欲が爆発したという実感はあるでしょうか? それから「政治や社会問題に対して、積極的・直接的に言及する姿勢を常に前面に示すべき」という在り方からも自由になっている印象も受けたのですが、どうでしょう?
ステファン:すごい質問だな! ハハハ!
アリック:答えは「イエス」だ。まずは「イエス」と言っておこう。
ステファン:とりあえずはな。
アリック:俺たちには、音楽を作るうえで大事にしてるルールみたいなもの、絶対に破りたくない価値観がある。それは、できるだけクリエイティブで、オープンでいること。そして、相手が何かに挑戦するのを批判しないこと。たとえ、それがすごく奇妙だったり、(政治的に)左派だったり、中道だったり、これまでの取り組みとは全く違っていたとしてもね。だから制作に入る時は、できるだけオープンであること、お互いを信頼することを大切にしている。たとえば、俺たちが何か奇妙なことをしたとしても、お互いがそれについて良いと思っていればそれでいい。他の人がどう思うかは関係ない。
ステファン:質問の後半で政治的なことについても訊いていたよね?
―はい、もはや「政治的であれ」というところからも自由になっている様子が感じられたので。
ステファン:このバンドは、そういうのじゃないんだよ。フィーバー(333)は確かにそうだった。政治的なバンドだ。でも、このバンドはそうじゃない。
アリック:俺たちにもそれぞれ政治的意見はあるけど、俺とスティーヴが集まると、俺たちの会話や考えていることは政治には行かないんだ。違う方向に行く。俺たちの関係性の中心にあるものが政治ではないのに、政治的な音楽を作ろうとするのは不自然な感じがするね。

Photo by Anthony Tran
―では、現在の創作のインスピレーションは、どんなところから得ていますか?
ステファン:いろんなものからだね。俺はなんでもコレクションしちゃうタイプで、ステッカーとか、怪獣のソフビとか、ポケモンカードとか……そういうの全部が、アート的なインスピレーションになっている。
アリック:クリエイティブな感じもあるよね! 滑るために作られた環境じゃない場所を使って、スケボーする方法を見つけないといけないから、常に即興性が求められる。それは音楽作りにも通じる感覚だと思うんだ。あと、スケボーのスタイルも重要! トリックを成功させるだけじゃなくて、自分らしさが出る形でトリックを決める、自分しか出せないスタイルを出すことが大事なんだ。それから、最近よく話すのがフィジカル・メディアの重要性。最近は何でもデジタルになってるけど、やっぱり「モノ」として存在するアートには特別な魅力がある。スティーヴはよく「ロスト・メディア」の話をするけど、子供の頃に夢中になったメディアやコレクションしてきたものに、今でも影響を受けているし、だからこそレコードを作ったり、CDを出そうという意識が強い。バンドのグッズについても、その延長線上で、新しい表現の形として面白いと思っている。今ちょうど友達のスペンサーがやっているDogman Toysとフィギュアを作ってるんだ。
二人が追求する「予測不可能なカオス」
―ここまでのHouse of Protectionの活動を見てきて、他のメンバーを補充せずに2人だけでやっていこうと考えた理由が、それで十分に足りると判断したからであり、そして正しかったのだということがよく理解できました。ふたりとも5月24日が誕生日だそうですが、そういうところにも、このユニットに運命的なものを感じていたりするのでしょうか?
ステファン:間違いなく感じてる。完全に星が揃ったって感じだったな。正直、他の誰かとこれを一緒にやるのは考えられない。なんだろう、俺たちには共通点がすごく多いんだけど、なかでも「アートに対する信頼」とか「人としての価値観」とか、そういう根っこの部分が通じ合ってるんだよ。時間が経てば経つほどその実感が強くなる。信頼が強くなっているんだ。俺たちという核の部分があって、他の楽器や要素を後で加えたりしたとしても、やっぱり俺たちというユニットが一番しっくりくる。
―これまで、ふたりともリード・ボーカルの経験は無かったという話が信じられないくらい、もはや堂々とした歌いっぷりを聴かせてくれていますね。ふたりの歌パートの振り分けは、どんなふうに決めているのでしょう。
ステファン:どうやって決めてるんだっけ?
アリック:すごく良い質問だね。

Photo by Anthony Tran
―本作について、「スマッシング・パンプキンズの名作『メロンコリーそして終わりなき悲しみ』の2枚目のディスクのよう」と形容されているのが面白いと思いました。スマパンといえば、ステファンの最も好きなバンドだと聞いていますが、どんな点で『メロンコリー~』のディスク2みたいなのか、もう少し詳しく説明してもらえますか?
ステファン:このEPについて「前作『GALORE EP』の夜バージョンだよね」っていう意見があって、俺はそれに完全に同意してる。もっとダークというか、別にダークって言っても、「悪」とかそういうんじゃなくて……。
アリック:ネオンの光が揺れてる、みたいな。
ステファン:そう! 深いんだよ。より深い(deeper)っていう表現が合ってるかもしれない。
アリック:夜のドライブに合う曲が多いというか。
ステファン:『GALORE』よりも夜に聴くとハマるというかね。
アリック:『GALORE』にも「Being One」とか「Better Off」みたいな曲は、夜の雰囲気はあったけど、今回のEPはそのムードが全編に流れてる感じがある。『GALORE』のときは、まだ手探りで作っていた部分も多かったけど、今回は作曲の時点から、「夜のヴェール」みたいなトーンが一貫してあった感じがするな。
―これら多様な要素を含んだ楽曲の、ライブでの再現方法についてはどう工夫するつもりですか? エレクトロニックなサウンドの要素と生演奏のパフォーマンスの融合は、ステージにおいても2人だけで可能でしょうか?
ステファン:(自信を持って)イエス!!
アリック:今、いろんな機材を準備しているところ。俺は、色々なサウンドが出せるエレクトロニック・パッドを持っているんだ。もちろんライブでは、スティーヴがギターを主に演奏して、俺は主にドラムを演奏することになるけれど、それに加えて、楽曲に入っているノイズを出すペダルボードみたいなものを作っている。即興演奏できる余地も残しておきたいと思っているよ。ドラムとギターの即興は簡単なんだけど、エレクトロニクスを使った演奏や即興はまだあまりやったことがないから、これからはそういうことをやっていきたい。あらゆる方面から、「予測不可能な感じ」と「自然なカオス」を表現したいと思ってる。今も色々と学んでいる段階だけど、このバンドの新たなフェーズにワクワクしているよ!
―2017年にアリックが披露した「Blur-Lights in the Videodrome」というパフォーマンスの動画を見ました。以前から通常のドラム・プレイにとどまらない演奏にトライしてきたことがわかりましたが、こうした表現方法を追求しようと考えたのには、どんなきっかけがあったのでしょう。また、そのことがHouse of Protectionでの表現活動に、何か貢献していると感じていますか?
アリック:あれは間違いなく、今の自分につながってると思う。俺はパフォーマンス・アートがすごく好きで、自分にとって「これは絶対に無理だろ?」っていう挑戦をわざと課して、それをどうにか成立させるのが好きなんだ。当時、ドイツのマイネル・ドラム・フェスティバルで40分間のドラム・パフォーマンスをやってくれという話をもらって、単にバンドの曲を叩くんじゃ面白くないなと思ったから、「じゃあ40分間のドラム・ソロをやって、それをずっと面白いものにしよう」と決めたんだ。だって、普通に考えてドラム・ソロ40分なんて、9割の人は途中で飽きるだろ?(笑)だから自分の好きなトリップホップやドラムンベースのバンドを参考にしてパフォーマンスを組み立てていった。プロダクションにおいては、DJシャドウやアルカ、ビョーク、マッシブ・アタック、ネットスカイなどを参考にしたんだけど、俺はそれを実現する機材を持っていなかったんだ。だから、もし俺がそういう音を出そうとしたら、それは本質的に、他のどのアーティストとも違うものになると思った。この挑戦のおかげで、アコースティック楽器の音をエレクトロニクスに通すと、パソコンからでは出せない音が出せるということが分かった。同時に、その音はデジタル操作が可能だったんだ。そういう音をオーガニックに(=生の楽器を使って)演奏した。この過程があったからこそ、俺たちが今やっているようなサウンドに興味が湧いたんだ。当時、俺たちは別々のバンドで活動していたから、俺はこのサウンドを発見したものの、その時は自分の活動にうまく活かせずにいたんだよ。だから、あのソロ・パフォーマンスで得た感覚やスキルを、今回のプロジェクトにも活かせていることがすごく嬉しい。
ーちなみに、デヴィッド・クローネンバーグの映画はお好きですか?
アリック:デヴィッド・クローネンバーグという監督について詳しいわけじゃないけど、『ヴィデオドローム』は好きだよ! 子どもの頃に観たんだけど、よくわからなくて、「これ、どう受け取ったらいいんだ?」って戸惑った記憶がある。たぶん、幼すぎたんだ。叔父が見せてくれたんだと思うけど、とにかく変な映画だった。でも今、自分が好きなアートの多くは、そういう気持ちを呼び起こしてくれるものなんだ。大人になっても、心をかき乱してくれる作品ってそう多くないだろ?「40分のドラム・ソロを書き上げる」というのは、俺にとってのそういうアートだと思ったから、このタイトルをつけたのさ。
ジョーダン・フィッシュとの絆、BABYMETALの楽曲参加
―今作もジョーダン・フィッシュ(元ブリング・ミー・ザ・ホライズン)を再びプロデューサーとして起用していますが、彼の仕事ぶりで最も評価しているのはどんな点でしょう?
アリック:俺たちは今まで数多くのプロデューサーと仕事をしてきたけど、多くのプロデューサーは自分の得意分野があって、一緒に仕事をするバンドを、そこに当てはめようとする。ただ、ジョーダンは例外というか、彼は素晴らしい才能を持つソングライターであるのと同時に、アーティストが持ち寄った変なアイデアを、できる限りの時間と労力をかけて理解しようとする献身的なプロデューサーなんだ。その奇妙なアイデアがどんな形になるのか想像もつかないのにね。初めのアイデアがどんなに変なものでも、それを形にして、満足のいくものとして完成させようとする、その目的意識はマジで異常だよ。彼ほど一流のプロデューサーで、そこまでやる人は他にあまりいない。「Afterlife」なんかは、最初のアイデアだけだと全然、曲として完成したものに感じられなかった。でも、ジョーダンが入ってきて、今の形にしてくれたんだ。すごく難解なアイデアを、理解しやすい形に解釈して、かつ元のクリエイティブなアイデアに敬意を払う形でそれをやれる人は他に会ったことがないよ。
ステファン:俺も同感だ。ジョーダンは白髪になるまでアイデアを模索する。
アリック:解決策を見つけるために18時間ぶっ通しで仕事しちゃうような人だよ。
―ところで、ステファンは、ジョーダンやPoppyとともに、BABYMETALの新曲「from me to u (feat. Poppy)」に貢献したそうですね? そのプロジェクトに関わることになった経緯を教えてください。
ステファン:ある日、俺はPoppyと一緒にスタジオにいたんだ。そこにメールが届いて、BABYMETALの曲に参加しないかという話だった。早速それに取り掛かろうということになって、俺も曲に参加したんだよ。まず言いたいのは、俺はPoppyとジョーダンと一緒に仕事をするのが大好きだってこと。3人で作曲するのはすごく楽しい。だから、めちゃくちゃ楽しんで、自然な形でできた曲だった。あの曲では、自分でもお気に入りのリフができたよ。最後のブレイクダウンのところのリフはめちゃくちゃ良い。だから最高だったよ。それに俺たちが作った音楽の上に、BABYMETALの声が合わさった感じもすごくいいし、キーが変わるところも最高だ。彼女たちの声はクールだし楽しいし、Poppyの声とも合うと思う。今後もああいうコラボレーションをもっとやりたいね!
―それから、『Outrun You All』という言葉は、コンヴァージの曲「Black Cloud」の歌詞からとったそうですね。「不思議でワクワクする道を歩むことができなかった仲間や友人たちへのトリビュートでもある」とのことですが、このタイトルについて説明してもらえますか?
アリック:元々のアイデアはスティーヴのタトゥーからきていて、それはコンヴァージの曲から取ったものなんだ。俺たちはコンヴァージから多大な影響を受けている。今まで様々なバンド活動をやってきて、その間に数多くの才能ある友人やミュージシャンと出会い、彼らと一緒にツアーしたり、共演したりしてきたけど、そのうちの多くが、音楽以外の道を歩むことにしたり、音楽に飽きてしまったりして、もう音楽をやっていない。この道に残れなかった、才能があった人たちや、俺たちにインスピレーションを与えてくれた人たちに対する、ほろ苦い思いもある。トリビュートというのはそういう人たちに捧げるという意味で、俺たちはここまで来れたのだから、絶対に諦めないという意思表示でもあるんだ。今回のEPは、現時点でここまで来た俺たちにとってのサイン(兆し)だと思った。俺たちは絶対に辞めない、一生かけてやり続けるぞってね。
―わかりました。さて、このあと日本公演の可能性はありますか?
ステファン:可能性がないとは言わないよ。
アリック:機会があれば日本でライブをするよ!
ステファン:そういう提案があって、スケジュール的に可能なら、ぜひ日本でやりたい。
アリック:なるべく早く行きたいよ。一緒に仕事をしている周りの人は全員、俺たちが一番ライブをやりたい国は日本だってことを知ってるしね。ここ7年間において、最も印象に残っている最高なライブは日本でやったものなんだ。そういう瞬間は一生忘れないし、そういう思い出をまた作る機会があるのなら、スケジュールが可能な限り、すぐにでも行きたいよ!

House of Protection
『Outrun You All』
発売中
再生・購入:https://hop.ffm.to/outrun