シカゴ生まれLA育ちのZ世代マルチアーティスト、2hollis(トゥーホリス)が8月15日のソニックマニアで再来日。さらに8月18日には東京・渋谷Spotify O-EAST、翌19日には大阪・Yogibo META VALLEYで単独公演も開催する。
ここではRolling Stone Koreaのカバーストーリーを完全翻訳。エクスペリメンタル、ラップ、エレクトロニック、ポップを自在に行き来するニューアルバム『star』で、2025年を象徴する存在となった逸材の感性に迫る。

2hollisは、まるで夢のように燃え盛る1年を過ごした。ここ数カ月の間に、彼はフルアルバム『star』をリリースし、複数の大陸を横断するツアーを行い、息つく暇もなくショーをこなしながら、ステージ上でも外でも彼のトレードマークとなったフットワークを披露し続けた。さらには、彼にとってほとんど神話的な意味を持つステージ、コーチェラにも立った。

「実は僕、コーチェラで生まれたようなものなんです」と彼はインタビューの途中で笑いながら語った。「2003年に父があそこで演奏したんですよ。当時は今みたいなモンスター級の巨大フェスじゃなくて、インディーバンドばかりが出るイベントでした(※編注:父親のジョン・ハーンドンはシカゴのポストロック・バンド、トータスのドラマー)」

2hollisが語る真実の愛、燃え上がる衝動、「今この瞬間」を生きる若きカリスマの哲学


彼の人生が始まったフェスティバルのステージに立つ──そんな宇宙の循環みたいな瞬間が、Hollisが「人生で最高の時間」と語るこの一年を、さらに非現実的で鮮烈なものにしていた。しかし、ステージ上での躍動する身振り、エネルギー、輝かしいカリスマの裏には、深く思索し、自省を恐れないアーティストとしての姿がある。

彼の多忙なスケジュールの合間を縫って、わずかな空き時間に、私たちはビデオ通話で車内にいた彼と話を交わすことができた。その車は、スケジュールの隙間時間に立ち寄ったとあるガレージに停められていた。「今日はちょっと変な感じの日なんだけど、それでもいい日でしたよ」彼が最初に放った、このやさしく正直なひと言は、この日交わされた会話全体に通底する空気を象徴していた。


1時間にわたり、Hollisは『star』を制作するために旅した、自身の感情と魂の軌跡を語ってくれた。彼はこのアルバムを「リミナル(=境界的)」な作品と表現し、もはや存在しない場所で生まれたものだと説明する。このアルバムは、計画的に構築されたものではなく、直感に従って作られ、いくつかの要素はあえて”生のまま”に放置され、儚く通り過ぎていく過渡期の瞬間をとらえることで完成された。

Hollisは、刺激が溢れすぎたこの時代において、節度というものを学び、少ない要素で大きな共鳴を生み出す音楽を作るため、自らを追い込んだと語っている。

直接会っても、あるいは私たちのように画面越しで会話しても、2hollisはライジングスターというより、長年の付き合いがある思慮深い友人のように感じられる。「ホワイトタイガー」という華やかな異名や、グリフィスを思わせるドレッドヘアこそ目を引くが、その本質は音楽を作り、恋をし、家族と過ごし、「今この瞬間」という繊細な魔法の中で生きたいと願う一人の人間だ。そして彼は、その時間を「boylife(少年の人生)」と呼んでいる。

2hollisが語る真実の愛、燃え上がる衝動、「今この瞬間」を生きる若きカリスマの哲学


燃え上がるような日々のなかで

―最近は多忙な日々を送っていると思いますが、自由な時間ができたときは何をして過ごしますか?

2hollis:正直、自由な時間はほとんどありません。でも、少しでも時間ができれば、たいてい音楽に使っています。本音を言えば、音楽か、友人や家族と過ごすかのどちらかですね。そんなふうに慌ただしい日々の中でも、今この瞬間に集中し、現実に立ち返る時間は絶対に必要だと思っています。音楽がいつも僕を現実に引き戻してくれるわけではないけれど、回復力を与えてくれるのは確かです。
僕にとって音楽は、癒しであり、もっとも力強い自己表現の手段。感情やエネルギーを解き放つうえでも大きな助けになります。

音楽を作っていないときは、ただ友だちと話したり、一緒に時間を過ごすのが好きです。2hollisとしての活動のことは抜きにして、どんな話題でもいいから、その世界のことを考えずにいられる時間。たとえば、たった1日でもそれを忘れて、子どもの頃のように過ごす──それが僕にとってのリセットなんです。心から癒される感覚がありますね。

―以前おっしゃっていたことで印象的だったのが、まさに今のように夢を追いかけることは美しく、その過程は”燃え上がる”ようだという言葉です。

2hollis:ああ、それは本当に、いろんな意味で”燃える”という表現がぴったりだと思います。燃えるって、破壊的でありながら、美しさもあるじゃないですか。すべてを語ってくれる言葉というか。その強烈な感覚──それがまさに”燃え上がっている”ってことなんです。どういうことかと言うと……。


―ただ、目の前にあるもの。良くても悪くても、見て見ぬふりはできない。確かにそこに存在しているもの。

2hollis:まさに、その通りです。

2hollisが語る真実の愛、燃え上がる衝動、「今この瞬間」を生きる若きカリスマの哲学


―「Eldest Child」という美しい曲を作られましたよね。アコースティックでとてもミニマルな楽曲なのに、繊細な感情があらわになっているように感じました。たとえば「長男」という立場、家族が誇りに思う”自分”と、本当の”自分”とのあいだでの戸惑い、あるいは望んでもいなかった責任を背負わされているような感覚も含まれているように思います。今では、そうした2つのアイデンティティの間でバランスを取れるようになったと思いますか? それとも、まだ混乱の中にいますか?

2hollis:「Eldest Child」には、いろんな意味が込められています。僕自身、実際に家族の中で長男なんですが、それだけではなく、さっきも少し話したような──Hollisという誰かの兄弟や友人としての”僕”と、アーティストやキャラクターとしての”2hollis”とのあいだにある二重性についての曲でもあるんです。この曲は……複雑なんですよ。全部を言葉で説明するのは難しいですね。あの曲を録音したとき、実はすごく怒っていました。


―もう少し詳しく教えてください。

2hollis:スタジオにいて、(エンジニアの)Jonah Abrahamがギターを弾いていたんです。僕はその上に歌を乗せようと、たぶん45分くらい試してみたけど、どうしてもメロディが決まらなかった。汗びっしょりで、シャツも脱いで、イライラしていて。そしたら彼が「なあ、今日はもう終わりにしよう」って言ったんです。でも僕は「いや、もう一回だけ流して」と返して、そのままフリースタイルで歌ったんです。冒頭の 〈take off your jacket, stay a while〉から〈they dont know me〉までの部分は、そのとき一気に出てきたものなんですよ。あとで多少の修正は加えたけれど、大部分はその一発でできあがりました。振り返ってみると、この曲にはいろんな要素が詰まっていると思います。解釈はリスナーに委ねたいですね。

―興味深いですね。あの曲を聴いたとき、私は怒りなんてまったく感じませんでした。
むしろ、とても優しい印象を受けました。でも、背景を聞くと、その曲がまったく別の次元で響いてきます。

2hollis:そうなんです。僕にとって、あの曲は怒りの歌なんですよ。ただ、その怒りは社会や世界に向けたものというよりは、ある瞬間に対する怒り、そのプロセスの中で感じたフラストレーションに近いと思います。ある瞬間から自然に湧き上がってきた感情なんです。それが怒りであれ、喜びであれ、何であれ──”感じている”ということができれば、それは本物を生み出す力になるんだと思います。

「boylife」と有名になることへの葛藤

―アイデンティティの話の流れでお聞きします。これまで何度かアーティスト名を変えてきましたよね。以前、「誰がいつまでもDrippy Soupなんて名前で呼ばれたいと思う?」っておっしゃってたのを覚えています。でもあの名前も、なかなか面白かったですよ。

2hollis:そうですね、最初は本当に「Drippy Soup」って名前で始めたんです。
それから「2hollis」に変わって……そのあいだにも、ほかに使ってた名前がいくつかあるんですよ。

―ええ、私もいくつか聞いたことがある気がしますが……それは伝説として残しておきましょうか。

2hollis:簡単にはわからないでしょうね。もし本気で調べれば、どんな名前だったか見つけ出せると思いますよ。

―もしもう一人のあなた、文字通り2人目のhollis―がいたら、あなたが別のことに集中している間、そのクローンは何をしていると思いますか?

2hollis:ビートを作ってますね。ひたすら一日中ビート作り。僕も自分で作りますけど、ときどきスタジオに入ってすぐレコーディングしたいときがあるんです。でも実際にはゼロから始めなきゃいけない。他のアーティストは、すでに完成寸前のインストが15曲くらい用意されてたりするんですよ。だから僕も「くそっ、クローンが作った大量のビートや曲のアイデアがあったらな」って思うんです。そしてスタジオに入って、それを仕上げるだけ。最高ですよね。

―「やあ、来たよ。ありがとう!」みたいな感じですかね。で、クローンはあなたの代わりに買い物に行ったりとか。

2hollis:そうそう。服も買ってきてもらいたいですね。「僕が好きそうなやつを買ってきて」って。だって、それは僕なんだから。でもそうなると、どっちが本物の僕なのかって話になる。クローンが僕なのか……それとも僕がクローンなのか?

―『ミッキー17』はもう観ました?

2hollis:いや、何ですかそれ?

―2カ月くらい前に公開されました。主演はロバート・パティンソンで、『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督作品です。アイデンティティやクローンに興味があるなら、間違いなくおすすめですよ。

2hollis:観てみます。

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―最近は、多くのアーティストがプロデューサーとコラボしたり、YouTubeからビートを取り入れたりしていますよね。毎回ゼロからすべて自分で楽曲を作るアーティストとして、そういう傾向についてどう思いますか? ご自身のやり方に疑問を感じたことはありませんか?

2hollis:僕は、最初から最後まで自分で作っていくやり方が好きなんです。ずっとそうやってきましたし。すべてに自分の手を加える、という感じですね。プロデュース、ミキシング、アートワーク、ミュージックビデオに至るまで……そうすることで、作品に自分の視点がしっかり宿るんです。もし僕がプロデュースのやり方を知らなかったら、きっと今ここにはいないと思います。少なくとも、アーティストとしての自分にはなれていなかったはずです。自分のアイデアを、最初から最後まで一貫して押し通せる──それがものすごく大きな違いを生むんですよ。もし誰かがシンガーで、プロデュースに少しでも興味があるなら、僕は全力でおすすめしたいですね。

―すべてが思い描いた通りにハマったときって、すごく大きな満足感があるんじゃないですか? だって、それは本当にあなた自身が望んだものそのものだから。

2hollis:そうですね。自分の望みを自分以上に理解している人なんていないですから。たとえば、スネアがどう鳴ってほしいかとか、ブレイクダウンをどこで落としたいかとか、シンセがいつ入ってくるべきかとか──全部、僕の中ではもう聴こえてるんですよ。だったら誰かに推測させるより、自分でやったほうが早いし、確実。それがベストだと思います。

―よく言いますよね。「ちゃんとやりたきゃ自分でやれ」って。人の心は読めないわけだし。

2hollis:僕……少しコントロール・フリークなんだと思います(笑)。

―誰しも少なからず、そういう面は持っているものだと思います。ただ、今回のアルバムを聴いて感じたことがあって……いくつかの楽曲は、まるで自分自身と対話しているように聞こえました。自分自身をどう見つめるかについての物語であり、ある部分では、自分が他人の人生においてどんな役割を果たしているのかを受け入れていく過程のようにも感じられました。特に「Ego」にはそれが表れていた気がします。最近、アイデンティティについて感じた葛藤や気づきなどがあれば聞かせてください。今日のことじゃなくても構いません。最近ずっと頭から離れないようなことでもいいです。

2hollis:うん、それは大事なテーマですね。長年の友だちと接するのって、すごく難しいんです。僕の人生にいる友人のほとんどは、「Drippy Soup」って名前を使う前──それどころか、小学生のころから知っているような人たちなんですよ。たとえばNate SibやRoman、Jonasは高校1年のときからの友達で、NateやFinnとは僕が10歳のときからの付き合いです。本当に長いつきあいの仲間ですね。Ryanもそう。今一緒に音楽をやっている仲間の多くもそういう旧知の友人たちですけど、それとは別に、中学・高校時代に出会った友人たちのこともすごく大切にしてるんです。

でも、常にバランスをとるのが難しい。結局のところ、二つの人生を生きているような緊張感に戻ってしまうんです。これまで生きてきた人生と、これから歩んでいかなければならない人生。そのあいだで張り裂けそうになることがあります。たまに、友達から「お前、変わったよな」って言われるんです。「有名になりすぎて連絡もよこさない」「偉そうになった」って。そういう言葉、思っている以上によく耳にします。それがね、いつも胸に突き刺さるんですよ。だって僕は、そんな人間じゃないから。お金とか、名声とか、そういうもので変わるような人間じゃない。そういうものに一番価値を置かないようにしてるし、むしろ避けたいと思っている。でもね、やっぱりそのバランスを取るのは難しい。

本当に、難しいんです。注目されるようになって、お金も手に入るようになって、名前も顔も知らない人たちから愛されるようになってくると、自我って反応しちゃうんですよ。これは誰だって通る道なんじゃないかな。僕も一時期はそういう負の状態に陥ったことがあるし、今もそれを自分なりに調整しようと努力している。でも、僕もただの人間だから……今、冷静に考えると自分でも信じられないようなことが起きてるんですよ。だからこそ、人は僕が変わったように感じるのかもしれない。

中にはファンの人で、昔からの友達みたいな感覚で「もう今の君が誰だかわからないよ」って言ってくる人もいて。そう言われるたびに、「僕だってこの旅を理解しようとしてるところなんだ」って答えるんです。本当に、圧倒されるような経験ばかり。でも、やっぱり大事なのは”気づいている”ことだと思います。変化に対してオープンでいること、自分勝手なエゴの世界に深く潜りすぎないようにすること──それがすごく大事なんです。

―その通りですよね。有名になっていなくても、私たちは皆、自我と向き合いながら生きていますし。時間はどんどん足りなくなって、あちこちに引っ張られて……人間関係を維持することがどんどん難しくなっていく気がします。おっしゃったように、もう昔みたいに無限に時間があるわけではないですから。

2hollis:それなんです。夏休みがあって、1カ月くらいしたらまた再スタートできたらいいのになって思います。たまに、そういう時間が無性に恋しくなる。でも、思い返してみると、実際にそういう暮らしをしていたときは、毎日「今の自分みたいに生きたい」って願ってたんですよね。だからこそ、僕は今この瞬間に、すごく感謝してるんです。もちろん、いつだって太陽が照ってて虹がかかってるような時間ばかりじゃないけど。ときには荒れることもあります。

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―そうですよね。虹の先に宝箱があるとは限らないですし(笑)。あなたの言葉、すごく共感できます。10年、20年と付き合ってきた昔ながらの友人たちが、あなたにとってどれだけ大切なのかが伝わってきます。私にも、Nateさんとの関係みたいに、プライベートでもクリエイティブでも一緒にいられる友人がいます。だからこそ気になるんです。「boylife」というコンセプトには、あなたにとってどんな意味があるんでしょう? 特に、そういった親しい友人たちと何かを一緒にやるという文脈で。

2hollis:うーん、「boylife」って、僕にとっては何かこう──言葉では説明できないバイブスみたいなものなんですよ。別にボーイバンドってわけじゃないんです……いや、合ってるといえば合ってるけど、でもちょっと違う(笑)。ただね……”生きてる”ってことなんです。僕たちは少年で、険しい道を歩いてて、世界中を旅してる。

あるとき、僕、Nate、Roman、Ryanの4人で東京にいたんですけど、お互いの顔を見ながら「これがまさに”boylife”だよな。俺たち、いったい何やってんだろうな」って言い合ったんです(笑)。

”boylife”がアルバムのタイトルになったり、グループ名になったりすることはたぶんないと思います。そういうのではなく、ただのバイブスなんですよ。

―つまり”瞬間(moment)”なんですね。

2hollis:まさに、瞬間です。

―そう考えると面白いんですが、あなたの音楽って、ときどきRPGのクエストのサウンドトラックみたいに感じるんです。『RuneScape』みたいな。もし自分の音楽で旅をひとつ描くとしたら、どんな旅になりますか?

2hollis:それぞれのアルバムが別々のゲームになると思います。曲ごとに違うゲームでもいいくらいですね。一時期、Romanと僕は日本のアーケードレーシングゲーム『湾岸ミッドナイトMaximum tune 5』にハマってたんです。かなりレアで、限られたゲーセンでしか遊べないんですよ。東京の街を走り抜けて、車を改造するんです。僕らは真夜中まで遊んで、それからスタジオに行って、とんでもない音楽を作ってました。『Engine Boy』っていうミックステープまで作りかけたんですが、最終的にお蔵入りにしました。全部めちゃくちゃ大音量で、車の音を重ねまくってたんです。車をテーマにした作品にはまた挑戦したいですね。『star』にも少しそういう要素はありましたが、『Engine Boy』はまったく別物でした。

―ジャケットはどんな感じだったんですか?

2hollis:『AKIRA』にインスパイアされたもので……主人公がバイクのカバーを外すシーン、ありますよね。あれを僕バージョンにして、みんなが大好きな改造車のカバーを外してるんです。背中には十字架を背負って、全体は真っ黒。かなりクールでした。GT3 RSみたいな車で、もし実物を見たらみんな大騒ぎすると思いますよ。

―今のところは目を閉じて想像するしかないですね。そういえば、そういう強いビジュアルの感覚って、ずっとあなたの創作の一部だったんですか? それとも時間とともに育まれたものですか?

2hollis:進化してきたんだと思います。しばらくは自分にはビジョンがない、もしくはないと思い込んでたんです。でも時々振り返ると「ああ、ちゃんとあったな」と思うこともあるし、その逆もありますね。瞬間ごとの感覚なんです。ただ、究極のビジョンはずっとあって──それはレベルアップし続けること。進化すること。もっと大きな存在になること。それはずっと自分の中にあると思います。

―そうですよね。でも、その感覚を疑ってしまうときって、信じて突き進むべきか、それとも立ち止まるべきか迷いますよね。

2hollis:まさにそう。で、「これでいいのか? これはいい作品なのか?」って考えすぎた瞬間に、動けなくなるんです。そこでスランプが来て、作品を世に出すのが怖くなる。何も気にせず突き進むことにも芸術はあるし、抑制や鋭さを持つことにも芸術はある。そのバランスが大事なんです。気にしなさすぎれば鋭さを失うし、考えすぎれば不安という箱の中で身動きが取れなくなる。僕はそんな場所にいたくないんです。

真実の愛とは何か?

―これまでたびたび「愛したい」「愛されたい」といった言葉を口にしてきましたよね。あなたにとって真実の愛とはどんなかたちなのでしょう? あるいは、その渇望はどこから来ていると思いますか?

2hollis:僕、自分でも思うんですけど──かなり重度のロマンチストなんですよ。ずっと本物のラブストーリーに対する幻想とか、夢を抱いて生きてきた気がします。いつも、そういうものを求めてきたんです。たとえば『ハウルの動く城』みたいな物語とか、『君の名は。』みたいな恋愛──そんな愛が、ずっと欲しかった。

―私、『君の名は。』をたぶん400万回くらい観た気がします。胸が締めつけられますよね。

2hollis:ですよね。僕も、ああいうことが自分にも起きたらいいのにって、ずっと切望してるんです。実際にそうなるかは分からないけど。でも、僕は”愛”から大きなインスピレーションを受けているんです。想像しているようなかたちで実際に恋愛したことはまだないけれど、愛はいつも僕の中で大きな原動力になっています。いつか、ああいう愛を必ず見つけられるって信じてるんです。もちろん時々、「本当にそんなこと起こるのかな」って疑ってしまうこともあるけれど……。僕、今ちょっと語りすぎてます? オーバーですかね?

―いえいえ、大丈夫です。まさにそういう話を聞きたくて、このインタビューをしてるんですから。

2hollis:そうですよね。時々、こう思うんです──「たぶん、これが僕のいちばんの願いなんじゃないか」って。もちろん、音楽のことは心から愛してるし、ずっと音楽に人生を捧げてきた。音楽以外、僕には何もないっていうくらい。でもふと考えるんです。「もしかして、自分は成功よりも、他の何よりも、愛を求めてるんじゃないか」って。

僕、本当に愛に飢えているんですよ。ちょっとシニカルに聞こえるかもしれないけど、最近の人たちの恋愛の仕方って、すごく浅く見えてしまって。僕は誰かにDMを送りたいとも思わないし、パーティーで「番号教えてよ」なんてやりたくない。もっとこう……特別な感じがしてほしいんです。たとえ一生孤独だったとしても、意味のない、特別でもない関係で妥協するよりは、映画みたいな、美しくて運命的な何かを信じながら生きていたい。そういう気持ち、分かりますよね?

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―すごく共感します。私も気持ちが揺れるんです。『きみに読む物語』とか観ると「こういう愛こそが人生のすべてかもしれない」って思うけど、ふと「いや、もうあんなのって現実にありえるの?」って疑ったりもして。

2hollis:いや、絶対にありえますよ。僕は本気でそう信じてます。だって、世界がどれだけ変わっても、どれだけ騒がしくて混沌としてても、愛ってずっと存在し続けてきたじゃないですか。愛は、普遍的なものなんです。消えたりなんてしない。たとえ他の惑星に行ったとしても、そこにもきっと愛はあるはず。僕は前世とか、そういうのも全部信じてるんです。すべてがつながってると思っていて。だから愛も、止めることなんてできないんです。

こうやってこのテーマについて話してるのが、自分でも不思議に感じるくらいで。というのも、実は昨夜ちょうどこのことを考えてたんですよ……まあ、正直なところ、毎晩のように考えてるんですけど(笑)。でも、ふと気づいたことがあって──愛を求めて必死になったり、渇望したり、心を痛めたりするほど、それがだんだん現実から遠ざかっていくように感じるんです。でも、その欲を手放して、「この宇宙にはちゃんと計画がある」って信じて、目の前の”今”に集中するようにすると……不思議と、何かが噛み合い始める気がするんです。

―そうですよね。何かをあまりに強く握りしめていないとき、ふっと訪れる気がします。

2hollis:まさにその通りです。たとえば、小さな子どもが店先でお母さんに「ポケモンカード買って!」って必死にせがんでるような……ああいう執着には、低い周波数が流れてるんですよ。そういうエネルギーじゃ、何かを引き寄せることはできない。懇願するんじゃなくて、引き寄せなきゃいけないんです。「お願い、ちょうだい」と「これはもう自分のものだ」っていうマインドでは、発しているエネルギーがまったく違うんですよね。

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―上の世代から教わった言葉で、ずっと心に残っているものってありますか? あるいは、いつか自分より若い世代に必ず伝えたいと思っていることでもいいです。

2hollis:うーん……ちょっと待ってください、考えさせて。思い浮かぶものはたくさんあるんですけど、ひとつだけ選ぶとしたら……深い話かは分からないけど、ずっと心に残ってる言葉があります。僕の祖母が言ってくれたことなんですけど。

僕、基本的にお酒はほとんど飲まないんですけど、昔、おばあちゃんがこう言ったんです。「もしどうしてもお酒を飲まなきゃいけないときが来たら、砂糖が入ったものは絶対に飲んじゃダメ。必ずオン・ザ・ロックで飲みなさい」って。

で、それはおばあちゃんのお父さん──つまり僕の曾祖父にあたる人が、彼女に言った言葉だったそうなんです。それ以来、もし僕がお酒を飲むことがあれば、必ずストレートかオン・ザ・ロックです。モスコミュールとか、甘い系のカクテルは絶対に飲みません(笑)。

―すごくかっこいいですね。うちの父も「一度も酔っぱらったことがない」って言うんですよ。本当かどうかは分からないけど(笑)、でも父もお酒があまり好きじゃないタイプです。

2hollis:僕も同じです。これまでちゃんと酔ったことなんて……5回もないと思います。

もはや存在しない場所で生まれたアルバム

―尊敬します。では、少し話題を変えて──あなたの新しいプロジェクト『star』の話に戻りますね。このアルバムは、あなたが子ども時代を過ごした家で録音されたそうですね。ただ、その家は火事で失われてしまったと伺いました。その空間の一部が、音楽の中に今も生きていると感じますか? それとも、この作品がその家の記念碑のような意味を持つようになったり?

2hollis:すごく良い質問ですね。ちょっと不思議なんですけど……実はあの家が火事で焼けるなんて、アルバムを作ってたときはまったく想像もしてなかったんです。まあ、普通そんなこと考えないですよね(笑)。だから、あの家について歌った曲があるわけでもないし、家への思いを込めて作ったわけでもないんです。歌詞もそういう内容じゃないし、アルバム全体のコンセプトも喪失とは関係ありません。むしろこのアルバムって、けっこう軽やかで明るいトーンなんですよ。

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―そうですよね。アルバムの雰囲気は明るくて、喪失を悼むようなトーンではなかったと思います。

2hollis:そうなんです。だから家が火事になったとき、僕はその3日後か5日後にはツアーに出なきゃいけなかったんです。アルバム自体はすでに完成してたけど、「少し手を加えてみようかな」と一瞬思ったりもしました。でも、僕って一度「完成したな」って感じたら、そこからまたいじるのがあまり好きじゃなくて。過剰に仕上げるのが好きじゃないんですよね。だから結局、そのままの状態で残すことにしたんです。

今思えば、家が失われたことで、ある意味”運命”があのプロジェクトに封印をしてくれたのかもしれません。一つの瞬間を切り取ったスナップショットというか、タイムスタンプのようなものですね。たとえ曲たちがその家のことを直接描いているわけじゃなくても、あの空間のエネルギーは音楽の中に生きているような気がします。

―「リミナル」って言えそうですね?

2hollis:まさに。それがぴったりの表現です。リミナル、ですよね。もう存在しない空間で生まれた作品。そのこと自体は計画していたわけじゃないけれど、そういう意味ではすごく神聖な作業になった気がします。だからこそ、もうこれ以上手を加えたいとは思わなかった。ただ、そっとそのままにしておきたかったんです。

―なるほど。それだけで、すでに強い力を持っている作品なんですね。

2hollis:本当にそうなんです。僕、このアルバムのことを心から愛してます。自分のキャリアの中でも最高傑作のひとつだと思ってます。ただひとつ、ちょっとゾッとするような話があって──「Burn」っていう曲があるんですけど、それを作ったのが、家が火事になる2カ月前なんですよ。サビの部分は全部”燃えること”に関する歌詞で、自分で火の音も入れたんです。この曲のもともとのタイトル、何だったと思いますか? 「star」だったんですよ。あとでタイトルを変えたんですけど……ちょっと、鳥肌立ちませんか?

―うわ、それはゾクッとしますね……。そんなお話を共有してくれてありがとうございます。あといくつか聞きたいことがあるんですが、その中のひとつは以前のインタビューでの発言についてです。あなたは日記をつけないけれど、音楽がその役割を果たしてくれているとおっしゃっていましたよね。昔の曲を聴き返すと、まるで日記帳のように感じられるって。今でもその感覚はありますか?

2hollis:ええ、今も変わらずそう思ってます。

―ではいつか……それが明日かもしれないし、10年後かもしれないけど、このアルバムを改めて聴いたとき、自分自身について何か新しい発見があると思いますか?

2hollis:いい質問ですね。やっぱり、時間が経ってから聴き返すと、いつも新鮮に響くんですよ。少し前にも、車を運転しながら自分の『THE JARL』っていうアルバムを聴き返してたんですけど、「うわ、これ本当にすごいな」って思ったんですよね。あの頃は、まだ今ほど洗練されてはいなかったけど、自分の中にすごく明確なビジョンがあった。すごく特別な時期でした。

―設計図はあったけど道具がなかった、という感じですか?

2hollis:まさにそうです。ピラミッドを作りたかったのに、手元にあったのは棒と石だけ。でも、それにも魅力があるんですよ。昔の自分の曲を聴くと、そのとき自分がどんな精神状態で、どんな感情や創作意欲を持っていたのかがわかる。若いころの自分の写真を見るようなもので、そこにはビジョンや飢え、そしてむき出しの生々しさが映っているんです。

―その当時、あなたを突き動かしていたものは何だったんでしょう。

2hollis:そうですね。自分の人生を全部巻き戻して聴き返せるって、ちょっと不思議な贈り物のような感覚です。自分がどう成長してきたかを音でたどれるんですから。いつか50歳になったとき、人生のあらゆるステージを音楽を通して聴き返せる──そう考えるとすごいことですよね。

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―今回のアルバムは、サウンドがやや控えめな印象を受けました。

2hollis:そうですね、実験していたと思います。これまでいわゆる「穏やかな」曲ってほとんど出したことがなくて、昔の曲は5秒ごとにビートドロップがあるようなものばかりでした。今回も強さはあるけど……”リミナル”という言葉がぴったりかな。僕にとっては、もう存在しない場所で作られた作品なんです。意図的に終わらせたというより、状況的にそうなった。ある時点で「これで完成だ」と感じて、それ以上手を加えるのは違うと思ったんです。無礼というより、不必要という感覚。だから、そのまま残したいと思いました──時間の中に封じ込められたひとつの瞬間として。どの曲もダンスフロア向けというより、ただ”そこにある”ものなんです。

―完璧じゃない昔の作品って、特別な魅力がありますよね。決して悪いわけじゃなく、不完全さゆえの愛着というか。

2hollis:まさにそう。昔の曲を聴き返すと、自分が何を考え、どんな状況にいたのかがわかって面白いんです。

―今の時代って、小さな記録や思い出を何度も見返せるのがすごいですよね。さっきも触れていましたが、最初のころは曲が思い描いた通りのものにならなかったこともあったと。もちろん「悪い」とは言いたくないんです。あくまでその時点で使えるツールで作ったものでしょうし。でも、作ったものがまだ理想と違う段階でも続けられたのはなぜですか? 多くの人はそこで壁にぶつかってやめてしまいます。

2hollis:本当にそうですね。でも結局は……練習あるのみなんです。続けること。練習は嘘をつかない。昔の自分のプロダクションを振り返ると、「これはひどいな」って思うこともあります。ほんの1~2年前の曲でもそう感じるくらい。耳を鍛え、どういう選択をすべきか学び、Abletonの使い方やサウンドデザイン、プロダクション、ミキシング──全部を磨いていくことなんです。

でも、単に足していくことだけじゃない。上達すればするほど、逆に削ぎ落とすこともあります。『star』の中には、意図的に音数を減らした曲もあります。それを「空っぽ」「未完成」と感じた人もいたけれど、僕にとっては引き算で作る曲には強さがあると思うし、ある意味リスクでもある。僕の音楽ってたいていドーパミン過多なくらい情報量が多いから、静かになると「何か足りない」と思われがちなんです。でも、そのミニマリズムこそが難しい。少ない要素で人を惹きつける──それができたら本当にすごいと思います。

―だって、隠せるものが何もないですもんね。

2hollis:まさにそう。何千もの音を詰め込んで、ボーカルをストロボやスモークの中に埋もれさせるのは簡単なんです。でも必要最低限に削ぎ落とすのは、むき出しになること。抑制があってこそできること。それに気づいてくれて嬉しいですね。

―あなたのサウンドから完全に離れたというより、より計算され、整った印象を受けました。

2hollis:その通り。よりまとめられて、より意図的になった感覚があります。

2hollisが語る真実の愛、燃え上がる衝動、「今この瞬間」を生きる若きカリスマの哲学


―最後の質問です。このインタビューはRolling Stone Koreaに掲載される予定なんですが、前回韓国に来たときに印象に残ったこと、そしてまた訪れる際に楽しみにしていることはありますか? あと、好きなK-POPソングがあれば教えてください。

2hollis:韓国、大好きです。本当に美しい街でしたし、ライブのときの観客も最高でした。あのエネルギーは信じられないくらいで……すごかったです。でも、前回は2日くらいしか滞在できなかったんです。だから今回は、もうちょっと長くいられたらいいなって思ってます。できれば、韓国で音楽制作もやってみたいですね。K-POPは……僕、「LOONA(今月の少女)」が好きなんですよ。すごくクールなグループだと思います。

―いいですね! さて、残り時間はあと2分ほどですが、最後にどうしても聞きたいことがあるんです。実は妹からのリクエストで……あなたのダンス、あのフットワークについてなんですが。あれって即興なんですか? それとも、音楽に対する自然なリアクションなんでしょうか?

2hollis:あれは、もう……沸騰するヤカンみたいな感じですよ(笑)。蒸気が漏れ出すのを止められないじゃないですか。あれと同じで、もう抑えられないんです。いまやあのダンスは、僕のトレードマークみたいなものになってるし、とにかく楽しい。もし一度でもやってみたら分かりますよ。あれ、ほんとに最高に楽しいんです。

―踊りって、そうじゃなきゃですよね。

2hollis:ですよね。僕のダンスから、みんなにエネルギーとか、喜びを感じ取ってもらえたら嬉しいです。ステージの上にいるときって、僕にとっては人生最高の瞬間なんですよ。

―その気持ち、きっとみんなに届いてますよ……最後にひとつだけ伝えたいことがあって。去年のクリスマス、祖母にあなたの音楽を聴かせたんですよ。普段はずっと椅子に座ったままの人なんですけど、そのときは立ち上がって踊り出したんです! 私もびっくりしました(笑)。

2hollis:それ、最高じゃないですか(笑)。

PHOTOGRAPHS BY KIMMOONDOG

From Rolling Stone Korea.

2hollisが語る真実の愛、燃え上がる衝動、「今この瞬間」を生きる若きカリスマの哲学

SONICMANIA
2025年8月15日(金)
会場:幕張メッセ
開場/開演:開場19:00・開演 20:30
https://www.summersonic.com/sonicmania/

2hollisが語る真実の愛、燃え上がる衝動、「今この瞬間」を生きる若きカリスマの哲学

2hollis SUMMER SONIC EXTRA
2025年8月18日(月)東京・Spotify O-EAST
2025年8月19日(火)大阪・Yogibo META VALLEY
公演詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/2hollis-ssextra/

2hollisが語る真実の愛、燃え上がる衝動、「今この瞬間」を生きる若きカリスマの哲学

2hollis
『star』
再生・購入:https://umj.lnk.to/2hollis_star
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