【写真】GooDee
ー父がジャズ・ミュージシャンだったり、メタル/ハードコア・バンドのFOADでボーカルをやっていたりと、小さい頃から様々な音楽に触れてきたとは思いますが、どのような音楽のバックグラウンドの変遷がありますか?
5~6歳の時から親父に「リズム感とメロディ感を学べ」って言われてました。タップダンスとジャズのアルトサックスをやらされましたね。
ー自分でも好きな音楽を見つけたのは?
一応、そこで裏のリズムとかブラック・ミュージックの基礎は構築されていったんです。中学の時は吹奏楽部に入れられたんですが、そこでサックスに飽き飽きしちゃいまして。たぶん反抗期も相まって、高校入学とともにメタル・バンドをやり始めることになったんです。ストーリー・オブ・ザ・イヤーの「Until the Day I Die」に衝撃を食らってしまって。そこから高校生の同級生で組んだFOADというバンドで、アジア各地を回りながら、その後は音大に行きました。
ーバンドではボーカルをやりたかったんですね。
ボーカルをやった理由は、英詞を歌えるのが俺しかいなかったからという理由です(笑)。
ー音大ではまた違うインプットが入るわけですよね。
入学当時はジャズ科に入って。ベースを勉強してたんですけど、理論の勉強もするので、「これがダメ」という制約の部分ばかりを勉強するようになって。ちょっと違うなと自分の中で感じたんです。そこで一旦区切りをつけて、作曲、編曲をしてみようというので、転科したんですよ。オーケストラとか劇伴音楽を作りながら、バンドものの書き方とかレコーディング技術を勉強して、3年間通って卒業しました。そこからコロナが来て、ヒップホップのトラックを作るようになったんです。
ー様々な音楽を勉強しているし、様々な音楽が好きだし、ある意味何だってやろうと思えばできるわけじゃないですか。その中でヒップホップを選んだというのは何かあったんですか?
自由さですかね。ヒップホップっていろんな概念が通用しないじゃないですか。例えば、USだとドラッグの話ばかりしてるようなものが世界的なヒットソングになったりとか。日本の価値観ではあり得ないことが起こるじゃないですか。そういう非現実感も含めて、この自由さ……大学で理論の制約を受けた時に感じた、縛られるものの逆の感覚を感じたんですよ。
ープロデュース業の方は最初はどこから入っていきましたか?
ちゃんとトラックを書くようになったのは、Yella Flat Boysという3人組のラッパーのクルーです。あいつらは弟みたいな感じで、出してる曲の99%は僕ですね。彼らの一人がFOADのファンで、お客さんとしてよく来てくれてて、フロアで飛び跳ねてたんですよ。久しぶりにインスタで連絡を取ったら、ラップを始めたとのことで、自分たちの能力では限界を感じるから、一回レコーディングをちゃんとしてほしいということだったんです。それがビートメーカーの始まりで、コロナが来てからすぐで。バンドの活動が途絶えてできなくなった時とちょうどつながったんですよ。そこからはガーッとヒップホップ、R&Bモードになったという感じですね。これだけちゃんとビートメーカーをやれてるのも、ちゃんと土台を作ってたからかなという自覚はあります。やってて面白いですよ。回収フェーズみたいになってきたので。
ー2023年にAOTLに加入して、3House、Yo-Sea、IO他の楽曲を手がけるようになりますが、どういうタイミングでこの流れができたのですか?
ちょうどYella Flat Boysをやり始めて、トラックメイクに慣れてきた時に、自分の実家がゲストハウスをやってるんですけど、そこにたまたま泊まりに来た人がAOTLとつながってて。その人と仲良くなった時に、AOTL側から「このトラックを別のトラックで書いてみてほしい」という話が来て。それが3Houseの「MIRROR」という曲だったんですよ。正直、ヒップホップはずっと書いてたんですけど、R&Bはまだちゃんと書き切ったことはなくて。1~2日でいろいろバーッと調べて、こうやるとR&Bになるんだというのを改めて勉強して。2日ぐらいでポーンと送ったんですね。
ー学習能力が高いですね(笑)。
飲み込みは早いんですよ(笑)。そしたら1~2週間後にはAOTLのチームと3Houseが家に来て。この曲を詰めたいってなって。「MIRROR」が出来ました。そこからは週イチで3Houseとは制作してて、今でも続いてます。
ーこれまでのプロデュース仕事で、自分にとってのシグネチャーだと思える曲はありますか?
迷いますね。自分のプロデュースした曲は本当、自分の子供みたいな感じなので。でもやっぱり3Houseの『Terminal 3』というアルバムですかね。全曲アルバムをまかせてもらえたんですけど、それってけっこうスゴいことじゃないですか。絶大な信頼をされてるなというのを感じるし。僕もそれを返さないとなというのをめちゃくちゃ感じた一枚だったので。これからもずっと忘れないと思いますね。
プロデュースワークとともに「歌」を始めた理由
ーそこからさらにプロデュースだけではなく、歌も始めたわけですけど、どのようなきっかけで始めたのですか? やはりバンドでボーカルをやっていたぐらいだから、やりたくなりますよね。
そうなんですよ。フロントマンとして脚光を浴びる快感を知っちゃってるんですよね(笑)。それこそメタルって、マイクを差し出したら大量の人だかりが乗ってくるマイクジャックとかあるじゃないですか。ああいうのを経験しちゃってるので。
ー最初に作った曲は?
EPではリミックスで収録されてるんですけど、「Sooner or later」です。
ーいきなり名曲じゃないですか。
ありがとうございます。あれは出来上がった時、初めて日本語詞を書いた曲だったので、自分で良い悪いの判断ができなかったんですよ。バンドの時は作り込んだ世界観があって、その世界観がちゃんと付属してる文章を英詞で書いてたんです。でも今回は、普段生きてる上で感じる自分の気持ちを、日本語で入れたいとずっと思ってたので、そこはめちゃくちゃ難儀でした。ただ、リミックス・ヴァージョンで入ってくれたYo-Seaが、セッションの時に、「これは名曲だから大丈夫だよ。
ー歌のスタイルについては考えたんですか?
特にはないですね。基本的に、毎日トラックを作るんですよ。トラックが溜まると、空いた時間に何となく聴き直すんですね。その聴き直してる時間に、一番最初にメロディが降りてきたのがこれだったんですよ。その時は珍しく日本語の歌詞も一緒に降りてきてたので。これは何かフィールできるかもと思って始めました。これはまちまちなんですけど、リリックが最初にバーンと降りてきてからハメる時もあるし、同時に出てくる時もあるんですよ。基本、メロディを作る時って、楽器だけのトラックをループさせて、ブースの中で、歌詞なしの状態で、宇宙語みたいな感じでメロディをずっと探ってるんですね。何回かやってると飽きてやめるんですけど、大体1回目に歌ったヤツが良いんですよ。

Photo by Tairiku Kawamura
ートラックはUSというよりもUKを感じました。黒いビートなんだけど、クールさがあって、そこのさじ加減が絶妙だと思いました。
そこはちゃんと自分の中でミックスするようにしてますね。ちょっとノスタルジックなサウンドとモダンなドラムの音とかをミックスして、全部がR&Bにならないように、ちょっとずらして引き合わせて作った感じはあります。
ートラックでは自ら楽器も演奏しているんですよね。
トラックに入ってる楽器は全部自分ですね。ピアノ、ギター、ベース……。「Wrong or right feat. 3House」という曲ではエレクトリック・シタールも使いました。アコースティックギターも2種類ぐらい使ってるんですよ。生ドラムも入れてるし、パーカッションもサンプルだけでなく、自分で叩く場合もあります。このEPは、楽器の数で言うと10個ぐらい入れましたね。
ーそれができてしまうのは強みですね。
今まで器用貧乏でやってきたのが功を奏した感じです(笑)。
ーSNSで以前、2025年にはまとまった作品を出す予定だとアナウンスしていましたが、EPの構想はすでにあったのですか?
1曲目の「Sooner or later」が出来た時から、タイトルでもある「CROSSROADS」というテーマは決めてました。そこからそれに合う曲を選定していったので、ある程度最初から枠組みは出来てた感じです。次に出す作品はもっと音楽的にも、テーマ的にも、広いものにしたいので。今は試行錯誤しながら、テーマから練り上げていってる感じですね。
ー「CROSSROADS」というと、ブルースマンのロバート・ジョンソンのことが浮かぶし、リリックからは、自分の中の過去と今、未来の分岐点という雰囲気もスゴくしたんですよね。
ロバート・ジョンソンにしても、十字路の悪魔じゃないですか。有名な27クラブもそうで、みんな悪魔と契約する時は十字路なんですよ。印象的な対比で使われることが多い気がするし、自分の紆余曲折あった人生観、音楽観とかも表してるし。スゴく自分の中でしっくりきたのでこれにしようと思いました。
ーEP収録の6曲は、いろいろな曲を入れようと思ったのですか?
『CROSSROADS』を作り出したきっかけとして、ある一個のテーマが文章であったんですよ。僕たちは普段生きてる中で選択をしますよね。 例えば、今コーヒーを飲もうというのも一つの選択肢だし、小さな選択をずっと続けて、重ねて、重ねて、生きてるわけじゃないですか。それを僕はおざなりにしたくないなと思って。自分の過去の分岐点の中で、「うわ、これ、こうしとけば良かった」とか、「いや、これはこれで良かったわ」ということを思い出して書いた感じなんですよね。トラックの方はその時に浮かんだリリックに合うように選定していきました。いろんな曲が入ってるのは、たぶんその感じかなと思います。
ー「E.C.E.G」には独特なビート感があるし、「Deep Inside」にはビートが強めのファンクを感じますね。
やっぱりメタル出身なのもあって、ちょっと骨太のドラム・ビートがずっと好きなんですよ。あまりR&Bの人たちがやらない音選びなので、僕しかやらないんじゃないのかなと思ってます。
これは1st EPで、僕のシンガーとしての出発点
ー今回の客演はYo-Seaと3Houseですよね。なかなかスウィートな男性ボーカルの共演ってあまりないなと思って。違うキャラを入れるために、ラッパーを入れたり、フィメール・アーティストを入れたりすることも多いですが、そこの面白さも難しさもあったのではないですか。
もう単純に、これは1st EPで、僕のシンガーとしての出発点なので、Yo-Seaと3Houseという、一番仲良くて信頼してるミュージシャンの二人に一緒にいてもらいたいなという、僕のわがままです。ラッパーとか海外のフィメール・シンガーとかと共演するというのは、次のアルバムでやっていこうかなという感じです。とりあえず最初の一歩を踏み出すタイミングは、レーベルメイトの二人に見守られながら迎えたいなと思ったし、しかもライブをやりたいと思わせてくれたのは、この二人だったので。二人と一緒のステージに立てる曲を作りたいなというのがずっとあったので。1st EPでやるしかないでしょと思って、お願いしました。
ーライブ活動の方はどんな感じでやっていきますか?
自分のシンガー名義のライブは、Zepp YokohamaでやったAOTLのイベントと、渋谷のWWWでやった「Melt:Blend」というイベントにしかまだ出たことはないですけど、これからちょこちょこやっていこうかなと思ってます。
ーどんなセッティングでやるんですか?
いろいろアイデアはありますね。それこそ美術館とか草原みたいなところで、インストゥルメント・ライブをやったりもしたいなとも思ってるし。まあ、FKJのようなセッションスタイルですね。やっぱりバンドセットに慣れ親しんでるので、自分の曲をバンドセットでやれるワンマンができたらいいなとは思ってます。でも、ヒップホップのようなトラックをバンと出すカッコ良さもあるので。長いスパンで、どっちの良さも楽しんでいこうかなと思ってます 。
ー1st EPを世に出した今、音楽的にはどんなことやりたくなってきていますか?
今はプロデュース業も全然やりつつ、アンビエントもやりたいですね。みんなで制作でどこかに旅する時は、絶対そこの景色を見てアンビエント曲を作るようにしてるんですよ。そういうところでいろいろ作っていくと、最近は引き算の美学に気づくようになって。メタルの時はプラス、プラスの掛け算みたいな感じだったんですけど、もはや音圧とかリズムとかも要らない世界線なので。そういうところで新たな感覚を培って、プロデュース業に持ち帰りたいなというのはありますね。どの音楽からも得られる栄養素はあると思ってるので、いろいろ裾野を広げてやっていこうかなと思ってます。
ー長い目で見て考えていることは?
1st EPの『CROSSROADS』で英詞を多めに入れてる理由でもあるんですけど、海外の活動をどんどんやっていきたいなとは個人的に思ってて。FOAD時代にHeart Town Rock Festっていう台湾のフェスに2~3回出させてもらってるんですよ。その時に、違う国で育った人が自分の歌を大合唱してくれてる光景を目の当たりにして。それがずっと頭から離れないんですよ。ちょうど8月にもタイで、現地の人たちとライターズ・キャンプをしようとなってるので。それを皮切りに、海外のアーティストとトラックを作ったり、フィーチャリングで招いたり、招いてもらったりという国際交流もどんどんしていこうかなという感じです。
ー近いところでのリリース、ライブ予定は?
GooDee 8月13日に18scottと自分がプロデュースして、フックも歌った「雨天決行」という曲がリリースされる予定で、MVも公開される予定です。8月30日に山中湖でやるSWEET LOVE SHOWERのYo-Seaのステージで1曲弾かせていただこうかなと考えてます。

GooDee 1st EP 『CROSSROADS』
AOTL
DL & Stream
https://aotl.lnk.to/crossroads
1. Crossroads
2. E.C.E.G
3. Sooner or later (Yo Remix) feat. Yo-Sea
4. Deep Inside
5. Life is Journey
6. Wrong or right feat. 3House