「カッコよかったー!」「やべえ! やべえ!」「ファンクラブ入ろう!」――これは、8月1日に下北沢Shangri-Laにて開催されたPompadollS2度目となるワンマンライブ「道標」の終了直後、フロアで耳にした観客の感想だ。とにかく、すごい熱気だった。
Shangri-Laが沸騰していた。

【ライブ写真ギャラリー】計8点

まず、おさらいをしたい。PompadollS――通称”ポンパズ”は、6月28日に下北沢Flowers Loftにて初のワンマンライブ「いつか帰るところ」を行った。ソールドアウトとなったこの公演の模様は、当サイトでも既報のとおり。そこで発表されたのが自身初となる東名阪ツアー「Courtesy Call」だった。恵比寿LIQUIDROOM公演を含むこちらのチケットは一般発売がスタートしたと同時に即ソールドアウト。当然、それよりも前にチケットが販売されていた本公演「道標」もソールドアウトしていた。

さらに、Shangri-La公演の途中には、来年開催される東名阪ツアー「SOUND OF ROCK」が早くも告知され、名阪はCLUB QUATTRO、そして東京はZepp Shinjuku (Tokyo)で行われることが発表された。PompadollSが結成されたのは2024年1月8日。わずか1年半の間に繰り広げているこの展開は、はっきり言って異常。こんなにハイスピードでロックシーンを駆け上がったバンドを自分はほかに知らない。

念のために言っておくと、彼らの音楽は何かの偶然で大きなバズを起こしたわけではない。
自分たちの音楽とライブの力でここまで来たと断言できる。このとんでもない勢いに音楽メディアがまだ大きく騒いでいないことを不思議に思う人もいるかもしれないが、この疑問に対する回答はシンプルだ。彼らは多くの人の助けを借りながらも、正真正銘インディーズの活動をしていて、まだ積極的なプロモーションをしていないからだ。もちろん、このレポートも編集部からバンドに掲載の打診をし、実現したもの。そういった事情で、現時点では、彼らの音楽に対して自発的に反応したメディアだけが騒いでいるという珍しい状態になっているのだ。つまり、この日、下北沢Shangri-Laに詰めかけた500人を超える観客も、自らのアンテナでPompadollSの音楽を見つけた熱心な音楽リスナーだけということ。みんながみんな、PompadollSの音楽とパフォーマンスを渇望していたのである。

結論から言うと、この日、そんな熱狂に十分応えるライブを5人はした。前回のワンマンライブからひと月しか経っていないが、ライブ冒頭を見ただけでわかるくらい、はっきりとした成長を見せていた。前回に比べて最初からいい具合に肩の力が抜けているように見え、1曲目「悪食」の演奏への入りも自然。その一連の過程は流れるようにスムーズだった。もともと上手いプレイヤーが揃ったバンドではあるが、いつも以上に演奏が安定していて、ドタバタしていない。
これは、会場の音響的な面に加え、五十嵐五十がフロントウーマンとしてどっしりセンターに立っていたことも大きい。この1カ月の間に、大阪での初ワンマン、初の大型夏フェス出演、先輩バンドとの2マンや3マンといった経験を経て獲得しつつある自信が、ステージに余裕を生み出していたように見えた。「台風は私たちが蹴散らしたんで!」という五十嵐による初っ端のMCも頼もしかった。ここだけでなく、彼女のMCはこの日随所で光っていた。「私たちは、みんなのことが大好きだよってことを伝えに来ました!」という短い紹介を挟んで「ラブソング」を鳴らしたのもよかったし、曲間のブリッジがよく練られているように感じた。こういったちょっとした工夫もライブ全体のクオリティを上げていたのだ。

早くもZeppのステージへ PompadollS、異常なスピードで駆け上がる理由

Photo by Daishi ”DA” Ato

数回にわたって彼らのライブを観ていて改めて感じたのは、PompadollSはただの”ピアノロックバンド”ではないということ。たとえステージングが徐々に洗練されていったとしても、彼らが奏でるサウンドや佇まいにはパンク/ロックンロールの匂いが残っている。この”匂い”は簡単に模倣できるものではなく、彼らの生き様が反映されている。もちろん、5人全員が似たようなルーツを持っているわけではなく、だからこそ生まれる独自のブレンドに惹かれるのだ。

現在、PompadollSを取り巻く環境は彼ら自身を浮足立たせてもおかしくはない状態。なぜなら、彼らは今、一日ごとに状況が激変していく怒涛の日々を過ごしているからだ。
それはバンド自身が望んだことではあるが、勢いに乗っているバンドというのは、自分たちでさえ想定していないような大波に巻き込まれることがある。しかし、5人は己に打ち勝っていた。500人超という大観衆の熱気、興奮、感動を正面からしっかり受け止めていた。

早くもZeppのステージへ PompadollS、異常なスピードで駆け上がる理由

Photo by Daishi ”DA” Ato

クラシック出身の小松奈菜(Key)によるクラシカルな鍵盤ソロから始まった「怪物」で心地よいアンサンブルを響かせたあとは、急いで仕上げたという新曲「ネズミの花嫁」を披露。初演にもかかわらず、最初のサビから観客が掲げた拳でフロアが埋め尽くされていたのはすごかった。この新曲は、疾走感溢れる8ビートに、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITYから影響を受けている五十嵐のストレートで力強いボーカルが乗る、”the ポンパズ”な良曲で、青木廉太郎(Gt)によるギターソロも印象的。このタイミングでストレートにわかりやすい楽曲を送り出したことは正解としか言いようがない。ポンパズが優れているのは音楽だけではない。今、自分たちに何が求められているのかまでよく見えている。自他ともに認めるバンドの”黒幕”である青木を中心とした客観性も彼らの隠れた強みだと思う。

早くもZeppのステージへ PompadollS、異常なスピードで駆け上がる理由

Photo by Daishi ”DA” Ato

早くもZeppのステージへ PompadollS、異常なスピードで駆け上がる理由

Photo by Daishi ”DA” Ato

それにしても、このバンドは上手い。わかりやすく高度なテクニックを見せつけるわけではないが、職人的な技巧が随所で際立っている。
五十嵐と青木がポンパズの切り込み隊長だとするならば、但馬馨(Dr)、サイカワタル(Ba)、小松はこのバンドの屋台骨。安定感のあるグルーヴが本当に頼りになる。実はこの日、筆者はリハーサルから会場入りしていたのだが、彼ら3人はリハが終わったあとも、開場時間ギリギリまでアンサンブルのチェックをしていた。このこだわりが本番のパフォーマンスにつながっていた。今後、バンドとして成長していくにつれて、5人のアンサンブルはより強固なものになっていくだろう。

早くもZeppのステージへ PompadollS、異常なスピードで駆け上がる理由

Photo by 和花奈 @waka_mera08

早くもZeppのステージへ PompadollS、異常なスピードで駆け上がる理由

Photo by Daishi ”DA” Ato

中盤のMCは、速すぎるバンドの成長スピードと、それに伴って急速に拡大する会場の規模に、「お客さん、いなくなっちゃうよ」と人から嫌味を言われたことがある、という五十嵐の話から始まったが、これはただの愚痴ではなかった。何ひとつ約束されたものなどなかったが、振り返ってみれば、これまでやってきたことの一つひとつが道標となっていたし、ファンがいるからこそ、この先の道も意味あるものになる。道標というのは確実な道案内ではなく、これから先、みんなとバンドをつなげるものなんだ――と五十嵐は締めくくった。このMCで、今回のライブの「道標」というタイトルへの思いを伝えた。今のところ、彼らは自分たちの主催ライブには必ず思いのこもったタイトルを付けている。それは、そのライブが自分たちとファンにとってどんな意味を持つものなのか明確に見えていることを意味する。ライブの規模感に比べてライブ本数が極端に少ないことは、PompadollSの数少ないマイナスポイントのひとつではある。
しかし、だからこそ、1本1本のライブに深い意味を見出しているのだろう。

早くもZeppのステージへ PompadollS、異常なスピードで駆け上がる理由

Photo by Daishi ”DA” Ato

ライブの空気が大きく変わったタイミングがあった。終盤のMCで来年開催の東名阪ツアーを発表し、東京の会場がZepp Shinjuku (Tokyo)だと告知されたときに、場内の熱量がグッと高まったのだ。「残り3曲、Zeppまでついてこれるかー!」という五十嵐の煽りに続く最後のブロックは「赤ずきんはエンドロールの夢を見るか」から始まったのだが、観客のテンションはそれまでと明らかに違っていた。さらに熱狂していたし、これまで以上の一体感を見せていた。それはメンバーも同様。ポンパズのライブでここまでステージとフロアがひとつになったのを見たのは初めてかもしれない。

早くもZeppのステージへ PompadollS、異常なスピードで駆け上がる理由

Photo by Daishi ”DA” Ato

ラストは、恒例のソロ回しから「スポットライト・ジャンキー」へ。圧巻のパフォーマンスで本編を終え、アンコールは「日の東、月の西」で締めた。記念撮影のあと、青木は「これでライブハウスなんだー」とポツリ。ライブハウスとは思えないくらい人がたくさんいる、という思いから出た言葉だが、今後どれだけバンドが大きくなろうとも、5人はこのとき見た光景を忘れないんじゃないだろうか。そんな場所に立ち会えたことが幸せに思えるライブだった。
これからも、PompadollSはありとあらゆる対バンやフェスから声がかかるはず。そんな彼らの物語を、ファンの一人として引き続き楽しんでいきたい。
編集部おすすめ