スティングが2年振りとなる来日公演を、全国5都市6公演で開催する。今回はスティングが新たにトリオ編成のバンドを結成したことで話題となっている「STING 3.0」のツアーで、トリオ編成というのはポリス以来のものになる。
スティング以外のバンドメンバーは、長年スティングをサポートしてきたギターのドミニク・ミラーと、マムフォード・アンド・サンズなどで活躍するドラマーのクリス・マース。キャリア45年にも及ぶ名曲の数々を、このトリオならではのシンプルかつ空間の広がりもあり、アレンジもインプロビゼーションも交えた新しいサウンドで堪能できるのだ。イタリアの自宅にいるスティングにインタビューを行った。

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ー来月、いよいよ来日ですね。

スティング 日本にはしばらく行ってないからね。とても楽しみなんだ。日本はいつも居心地がいいからね。

ー1980年に初めて日本に行った時のことは覚えています?

スティング 鮮明に覚えているよ。僕にとって日本は未来の世界に見えたんだ。

ーポリスの「So Lonely」のMVは東京の地下鉄の中で撮影したものですが、これは初来日の時ですか?

スティング 初来日だったと思う。東京の地下鉄はとても静かだったな。

ー日本の観客については、何か特別なものは感じますか?

スティング 日本の観客はとても感受性が鋭いし、深い理解力と共感力、そして知識をもって聴いてくれるんだ。
あのように聡明な観客の前で演奏することは、僕にとって常に良い刺激となるね。

ー私たち日本のファンは、あなたの音楽に対する理解と敬意が深いと思いますよ。

スティング 音楽と文化に対する、日本独自のアプローチというものは確かに存在すると思う。もちろんどこの国でもそうだけど、世界は変わっていくし、人々も変わっていくし、そうあるべきなんだ。僕は日本の観客がこの何年間でどう変わったのかをコメントできるほど、日本にはたくさん行けてるわけではないけど、日本に行くのはとても楽しみにしている。見るべきものが多いし、学ぶべきことも多い。現代的な日本も大好きだし、昔ながらの日本も大好きだ。京都を訪れるのも大好きだし、富士山を眺めるのも大好きなんだ。

ーこの数十年でラーメンの味も変化したと思いますが、そこは何か感じましたか?

スティング ラーメンだって!?(笑) ラーメンはいつ食べても最高だよ。僕は観光客向けではない、地元で働く人たちがランチ時に行くような店が好きなんだ。そういう店は必ず美味しいというのがわかっているからね。

ー特定のお好みの味はあります?

スティング いや、お店で出しているものを見て、その場で決めているよ。
そうすれば間違いないんだ。何かラーメンの話をしていたらお腹が空いてきたよ。まだ朝食を食べてなくてね。今はイタリアにいるからラーメンがないんだよ(笑)。

ー今回の来日ですが、「STING 3.0」のワールドツアーになりますよね。STING 3.0というのはバンド名ですか? コンセプトですか?

スティング その両方だね。当然メンバーは僕たち三人だけだ。2007年にポリスの再結成があって、トリオ編成のラインナップというものを久々に経験したんだ。基本に戻って、楽曲のアレンジを骨組みまで削ぎ落としていくプロセスは、うれしい驚きとも言えるほど、興味深い発見があった。それに楽曲自体も、そういった最小限の構成に耐え得るだけの充分な強固さを持っていた。さらに言えば、多くの点で音楽がより良いものになったんだ。何故かというと、音が非常に明確になるし、楽器の周りにたっぷりと空間が生まれるからだ。
ソフトでありながらも、非常にダイナミックなものになるんだ。おそらく、たった三人しかいないからこそ、かえってサウンドが広大なものに感じられるんだと思う。その分、僕のやることはよりハードワークになるんだけどね。ギタリストのドミニク・ミラーもよりハードワークになるし、ドラマーのクリス・マースはというと、非常にエキサイティングな存在なんだ。僕たち三人はみなこのチャレンジを楽しんでいるよ。これは決して簡単なことではないんだ。それでも、観客はこのコンセプトに非常に興奮して反応してくれる。普通ではないんだけど、かえってそこが良いんだ。

スティングが語る“STING 3.0”の真意、時代もジャンルも超越する「声」

 ©D&W/Sting.com

ーライブベスト盤『3.0 Live』を聴いた限りですが、シンプルなのに空間の広がりがあるし、タイトなのに自由なんですよね。音もクリアだから、曲の強さが感じられるんです。

スティング いろいろ実験ができる余地をたくさん与えてくれるからね。大人数のバンドでは、空間を作り出すためにもっとオーガナイズする必要があるんだけど、トリオだと全員がインプロビゼーションで演奏しながらリスクを取ることができる。
僕が何かを変化させれば、それがドミニクを刺激するし、彼が僕についてくるきっかけにもなるし、あるいはその逆も起こり得る。それは、僕たちがトリオとして目指しているものであり、はるかに容易にできるものだ。これって実はけっこうジャズ的なんだよね。もちろん僕たちがやっているのはジャズではなく、ロックなんだけど。でも目指しているところは、小編成のジャズ・バンドの雰囲気に近いんだ。

ーわかりますよ。何よりも音が生きて呼吸しているように感じました。

スティング そうなんだよ。歌を歌うための空間があるから、それが素敵なんだ。きれいに聴き取ってもらおうと無理する必要もないからね。基本的には”四つの楽器”が生み出す空間なんだ。ベース、ギター、ドラム、そして声。
しかも、僕はそのうち二つを担当しているんだ。

ーそこには三人のミュージシャンシップの素晴らしさもありますね。

スティング ドミニク・ミラーとは非常に長い付き合いで、もう35年も一緒やっている仲だ。ドラマーのクリスとは、約2年前から活動をともにしている。クリスは以前マムフォード・アンド・サンズと活動していて、トリオ編成の演奏というチャレンジに非常にワクワクしているんだ。大の音楽ファンだし、今ではかなりのモンスターに成長してしまったよ(笑)。確固たる自信も持っているからね。

ートリオ編成で演奏するというアイデアはどのように出てきたのですか? これはチャレンジの一つですか? あるいは、原点回帰のような意味合いもありますか?

スティング 僕はこれまで様々な編成でやることで、実験を重ねてきた。4人編成の時もあれば、7~8人編成の時もある。ある日、メンバーの一人が病気で出演できなくなって、結果としてトリオ編成で演奏したことがあって、それがけっこう良かったんだよね。人々の予想を裏切るうれしい驚きがあったし、僕自身も音楽における驚きが大好きなんだ。だから、とにかく試してみようと思ったんだ。
結果、人々からの反応も非常に良いし、ミュージシャンからも同様に良い反応を得ている。これは単なる実験かもしれないけど、僕のルーツはトリオ編成にあるから、時々そこに戻るのは興味深いチャレンジになるんだ。

ーチャレンジだし、ハードワークだけど、それを楽しんでいるわけですね。

スティング 僕はハードワークが好きだし、ハードワーカーだ。だからハードワークを恐れることもないんだ。

「音楽はすべてつながっている」

ー日本ではどのようなセットリストを考えていますか?

スティング ヒット曲を演奏したいと思っている。観客が期待していた曲を聴けずに、がっかりして帰るのは嫌だからね。だから、「Roxanne」とか「Englishman in New York」とかは必ず演奏する。もちろんみんなが知っている曲だけど、アレンジも入るし、インプロビゼーションで演奏もする。枠組みとしてはヒット曲なんだけど、単に音源を再現するのではなく、はるかに実験的でありたいと考えている。音源を再現するというのは、一度も興味を持ったことがないんだ。さっきも話したように、これはジャズ的だけど、ジャズそのものではないんだ。

ー長年にわたる自身の楽曲カタログの中から、選曲をしていくプロセスそのものは楽しいものでしたか? 『3.0 Live』にしても、「Never Coming Home」は初のライブ音源だと思うし、「Cant Stand Losing You」もソロとしては初のライブ音源になりますよね(注:2CDデラックス盤に収録)。

スティング 「Cant Stand Losing You」はポリス時代の曲だけど、非常に長い間演奏していなかったね。時代を遡るようなプロセスは楽しいものだったよ。まるでタイムマシンみたいだったから(笑)。

ー過去の曲を今再び演奏することで、新たな発見はありますか?

スティング 過去の曲も古いものには聴こえないんだよね。音楽性にしても、曲のテーマにしても、非常に現代的だと思えるから。「時代を超える」という言葉を使うと、少々傲慢に聞こえるかもしれないけど、特定の時代に属しているとは言い難いんだよ。今でも過去の曲が現代的に聴こえるのは、僕が今もその曲を演奏する理由になっている。

ー過去の曲でも、当時の音源通りではなく、今の自分の曲として演奏しているわけですね。

スティング 昔のまま再現することが、僕の野心だったことは一度もないよ。音源というのは、特定の時、特定の場所における特定の出来事の記録だから。その音源を購入して、聴くことはできるけど、ライブは全く異なる経験なんだ。

ー「時代を超える」と言えば、あなたの歌は時代もジャンルも超えていると思います。あなたがこれまでに関わったコラボレーション、例えばスヌープ・ドッグやP!NK、マシュメロ、シャギーとの共演、あるいはスウェディッシュ・ハウス・マフィアによるリミックスにおいてさえ、あなたの歌は常に核として存在しているし、ジャンルの壁を越え、時代を超えているんですよね。

スティング 異なるジャンルから来た様々な人たちとコラボレーションするのは素晴らしいことだ。彼らはそれまでにはなかった何かをもたらしてくれるし、僕は彼らから何かを学べる。だけど、歌そのものには一貫したものがあるし、聴けば僕だってわかるものだ。だから僕としてはいつだって満足しているよ。音楽はすべてつながっているからね。

ーしかも自分の世界、自分の物語を作っていますよね。

スティング ありがとう。それこそが僕のやりたいことなんだ。

ー昨年11月にリリースした、スヌープ・ドッグ、ドクター・ドレーとコラボレーションした楽曲、「Another Part of Me (ft. Sting)」についても聞かせてください。

スティング ドクター・ドレーとは何度も会っているんだ。僕がここヨーロッパのスタジオにいて、ドクター・ドレーとスヌープ・ドッグはロサンゼルスにいて、インターネットでファイルを交換しながら制作をしたんだ。僕たちは同時期にスタジオにいたことになるね。二人と仕事ができたことは非常に誇りに思っているよ。

ーあと、STING 3.0の三人で制作した新曲「I Wrote Your Name (Upon My Heart)」は、シンプルだけどパワフルな楽曲になりましたね。

スティング ああいう感じの曲をもっと作りたいと思っている。ニューアルバムは、ああいう方向性のサウンドになるかもしれない。非常にベーシックだし、洗練されすぎていない生のエネルギーが、バンドにとっては良いと思うから。感情的にもそれが表現されているからね。

ーSTING 3.0としてのニューアルバムを予定しているのでしょうか?

スティング それはまだ僕の頭の中にあるだけだよ。

ー最後に、日本の読者にメッセージをお願いいたします。

スティング みんなに会えるのを楽しみにしている。あと今回、神戸でやるのは初めてなんだ。

スティングが語る“STING 3.0”の真意、時代もジャンルも超越する「声」

 ©D&W/Sting.com

STING 3.0 TOUR

2025年9月12日(金)
神戸・GLION ARENA KOBE
開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(12:00-17:00 ※土日祝除く)
協力:読売テレビ / FM COCOLO

2025年9月14日(日)・15日(月・祝)
東京・有明アリーナ
開場15:30/開演17:00
お問い合わせ:ライブネーション・ジャパン LIVENATION.CO.JP
後援:J-WAVE / TOKYO FM / interfm / tvk

2025年9月17日(水)
名古屋・IGアリーナ
開場17:30/開演19:00
お問い合わせ:CBCテレビ事業部 052-241-8118 (平日10:00~18:00)
主催:CBCテレビ 後援:ZIP-FM / FM AICHI

2025年9月19日(金)
広島・広島サンプラザホール
開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:HIGHERSELF 082-545-0082(11:00-17:00 ※土・日・祝除く)
主催:広島テレビ / RCC中国放送

2025年9月21日(日)
福岡・マリンメッセ福岡B館
開場16:00/開演17:00
お問い合わせ:SCARLETT PROMOTION 092-717-7630(12:00~17:00 ※土・日・祝除く)
主催:RKB毎日放送 / LOVE FM

▼公演ホームページ
https://www.livenation.co.jp/sting-2025
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