3作目となるアルバム『A Matter of Time』に向けて、レイヴェイの頭の中にははっきりとしたイメージがあった。「このアルバム全体をひとことで言えば、シンデレラが真夜中の鐘に気づいて、慌てて駆け出すあの瞬間なの。胸がドキドキするでしょ? あの高鳴る感覚こそが、このアルバムの核心だと思う」と、26歳のアイスランド出身ポップスターは語る。
失恋や架空の結婚式、童話のモチーフが散りばめられた作品だけに、これほどぴったりの比喩はないだろう。ただしレイヴェイは、物語のイメージをそのままなぞるつもりはなく、特にアーティストとしての自分をどう見せるかについては強く意識している。「私って”おとなしくて、髪にリボンを結んで、街をひらひら歩いている可愛らしいジャズガール”って思われがちなの。本当の私は、もっと複雑な存在なんだけどね」と彼女は言う。
2021年にデビューEP『Typical Of Me』を発表した頃、彼女はまだバークリー音楽大学を卒業しておらず、自分がどんなアーティストになりたいかを模索している最中だった。1stアルバム『Everything I Know About Love』と、グラミーを受賞した2nd『Bewitched』で、レイヴェイはジャズ的な歌い回しやロマンティックな世界観をファンに印象づけた。そして3作目『A Matter of Time』で、彼女は初期の作品からどれだけ成熟したか、そしてまだ見せていない新しい一面を世に示そうとしている。
サウンドを新たな方向へと導くために、レイヴェイは一部の楽曲で新たなプロデューサーを迎え入れた。その相手はアーロン・デスナーだ。
「彼と一緒に作業したとき、”私の物語とサウンドを正直にさらけ出せた”って思えたの」と彼女は言う。「それが、彼も一卵性双生児だからなのかどうかはわからないけどね」(デスナーはUSインディ・ロックを代表するベテラン・バンド、ザ・ナショナルを双子の兄弟ブライスとともに率いており、テイラー・スウィフトやグレイシー・エイブラムスらと密接に仕事をしてきたことでも知られる。ちなみにレイヴェイの双子の妹、ユニア・リン・ヨンスドッティルは彼女のクリエイティブ・ディレクターを務めている)
「私たちのサウンドがどう交わるのか本当に楽しみだったし、彼は私の音楽に、まさに欲していた”輝き”と”スピード感”を持ち込んでくれた」と彼女は続ける。「そのおかげで私の表現の幅がとても楽しく広がったの」。
ここからはシングル「Snow White」を含む6曲を取り上げながら、レイヴェイみずからその”広がり”を解説する。

Photo by Emma Summerton
「Lover Girl」
1st EPの頃からボサノヴァにはちょこちょこ手を出してきたの。「Lover Girl」は、その要素をもっと自由に遊べたから、制作しながらすごく楽しかった。アルバムの中では一番”安定したラブソング”っぽく聴こえるかもしれないけど、実は不安に満ちている曲なの。
「Lover Girl」は7月の来日中に撮影。下北沢や新宿といった日本らしい風景を背景に、レイヴェイがチャーミングなダンスを披露する。監督は妹のユニア・リン
「Tough Luck」
ここまで怒りに満ちた曲を書くのはすごくワクワクした。現代的な意味で”怒り”を表現していながら、同時に私がこれまでで一番クラシカルなストリングスを書いた曲でもある。その両極をどこまで押し合わせられるか挑戦してみたの。だからこそ作っていてすごく楽しかった。制作もすごくスムーズだったの。ほとんど作り込む必要がなかったから。ただ彼が言ったことを、そのまま曲の中で言っただけ……まあ、私と付き合う時点で、どういうことになるかはわかってるはずでしょ。
「Snow White」
この曲は、私にとって本当に大切なの。最初は不安もあった。私の音楽を聴いてくれている若い女性たちがたくさんいて、私の言葉を受け止めてくれていることを知っているから。
その一方、今回のアルバムで掲げたテーマは”誠実さ”だった。自分自身を信じられていないのに、どうしてみんなに「自分を信じて」なんて言えるの? これは”いい感じ”の曲じゃない。最後に「でもあなたは美しいし大丈夫」なんてリボンで結んで終わるわけでもない。私が書いたのは、自分の見た目や体型が、頭や心よりも重視されてしまうんじゃないか……そう感じた瞬間のことで、それって本当に気持ち悪い感覚なんだよね。
自分に対して落ち込んでいるとき、誰に何を言われても立ち直れるわけじゃないって気づいた。みんな「そんなことないよ」って励ましてくれるけど、あまり響かない。でも友達が「私も今、ほんと最悪な気分なんだよね」って言ってくれると、それが世界で一番救われる瞬間になる。今回の曲の多くは、そういう友達との会話を書き写したようなものなの。できれば共感してほしくない、だって辛い感情だから。でも、もし誰かが共感してしまったなら、そのときは「自分の気持ちも理解されている」と感じてもらえたらいいなって思う。
「Snow White」のMVは母国アイスランドで全編撮影、監督はユニア・リン
「Too Little, Too Late」
この曲を書くのは本当に楽しかった。アルバムの中でもお気に入りの一つかもしれない。深夜2時にベッドの中でゴロゴロしながら「あっ、やばい、この歌詞を足さなきゃ!」って飛び起きるような曲だったの。これは私自身の視点じゃなくて、男性の視点から書いたもの。キャラクターや他人の心を理解する練習みたいな感じ。サウンドもずっと緊張感を保ちたくて、はっきりしたサビもヴァースもなく、ただずっと坂を登っていって、最後に結婚式のシーンみたいにドカーンと弾けるようにした。もう、めちゃくちゃドラマティック。
「Castle in Hollywood」
私の知っている女性のほとんどは、恋愛の別れと同じくらい、もしかしたらそれ以上に辛い”友情の別れ”を経験していると思う。女性はとても強く深い共感力を持っているからこそ、女友達と別れるときは本当に苦しいの。自分の人生を大きく変えてくれた女性に対して「もうあんたなんか知らない!」なんて簡単には言えないもの。相手の幸せを願ってはいるけど、それでも心に一生消えない傷を負ってしまった──その経験は、私にとって”少女時代の終わり”を意味していた。だからこそ書かずにはいられなかったの。
「Forget-Me-Not」
この曲は一見すると男性へのラブレターみたいに聴こえるかもしれないけど、実際はアイスランドへのラブレターなの。夢を追うために離れなきゃいけなかったけど、私は母国を心から愛しているし、どうかアイスランドが私のことを忘れないでいてくれたらって願ってる。
歌詞はアイスランド語で、とてもシンプルにこう歌っているの。「私のことを忘れないで。たとえ私が去っても。あなたを愛してる。永遠に愛してる」。英語で歌ってみたこともあるんだけど、どうしても嘘っぽく聞こえてしまって。まるで別の言語で「愛してる」って言うみたいに、しっくりこなかったの。レコーディングしたのもアイスランドで、アイスランド交響楽団と一緒に行ったわ。メロディはアイスランドの民謡に基づいていて、この曲を書くことは私にとってとてもカタルシス的で、癒しの時間でもあった。
From Rolling Stone US.

レイヴェイ
最新アルバム『A Matter of Time|ア・マター・オブ・タイム』
配信・購入:https://LaufeyJP.lnk.to/AMatterOfTimeRS
国内盤CD:発売中
購入:https://laufeyjp.lnk.to/AMatterofTimeJPverRS
Blu-spec CD2 全14曲収録(国内盤はボーナストラック1曲収録)
初回限定封入特典:日本限定メッセージ・カード
1. Clockwork クロックワーク
2. Lover Girl ラヴァー・ガール
3. Snow White スノー・ホワイト
4. Castle in Hollywood キャッスル・イン・ハリウッド
5. Carousel カルーセル
6. Silver Lining シルバー・ライニング
7. Too Little, Too Late トゥー・リトル、トゥー・レイト
8. Cuckoo Ballet (Interlude) カッコウ・バレエ(インタールード)
9. Forget-Me-Not フォゲット‐ミー‐ノット
10. Tough Luck タフ・ラック
11. A Cautionary Tale ア・コーショナリー・テイル
12. Mr. Eclectic ミスター・エクレクティック
13. Clean Air クリーン・エアー
14. Sabotage サボタージュ
国内盤ボーナス・トラック
15. Clockwork (Voice Note) クロックワーク(ヴォイス・ノート)