「感じたことをそのままやってくれ」
Rei 最初にオファーをいただいた時は嬉しかったですね。アニメに限らず、音楽以外の作品に合わせて楽曲を作るということが初めてでしたし、何より朴監督が10年も練り上げてきた熱量のある物語の一端を僕たちに担わせてくれたことに喜びを感じて。「よし、やるぞ!」っていう気持ちになりました。
Yohey(Ba) そんな作品に関われたことは、僕らのやってきた音楽を認めていただいたようでした。シンプルにめちゃくちゃ嬉しかったですね。
Steven(Dr) 「イェーイ!」って感じだったね。僕たちにとって初めての挑戦だから、ベストな曲を作ろうと思った。
Rei それと、今作は劇場でも上映されるじゃないですか。映画館で自分の曲が流れるっていう大きな夢が叶って感無量です。
朴 エンディングテーマの候補としてリストに挙げられた色んなアーティストを聴いていて、Newspeakの楽曲からはすごく前向きなムードが伝わってきたんです。歌詞は英語だからすぐに内容がわかったわけではないんですけどね。
Rei 歌詞ではなく音だけでもそれが伝わったっていうのはめちゃくちゃ嬉しいですね。僕自身も、作品のメッセージに共感する部分はありました。
朴 そこからウチの会社に来ていただいて打ち合わせをして。僕はいつも、アーティストの方に「こういう曲にしてください」っていうディレクションをあまりしないタイプなんですよ。今回も、皆さんがシナリオを読んで感じたものをそのまま音楽にしてほしかった。ただ、僕がその時Newspeakの「Be Nothing」という曲にどハマりしていて、こういうテイストで主人公のギアを表現しても良いなと思ってたので、それを伝えた記憶があります。
Rei こんなに気持ちを込めてお話してくれるんだって、感動しましたよ。「Be Nothing」はどん底から希望を見出す楽曲なので、そのインスピレーションを生かしつつ、僕らが作品から感じたことを加えていきました。仲間が出来て前向きになっていくギアの姿や、アニメ全体のポップさが音として聴こえてくるような曲にしたくて。
Yohey 制作の過程で朴監督と具体的なやりとりをしたのは最初の打ち合わせだけでしたよね。
Rei タイアップって言われて浮かぶイメージとは全然違ったよね。もっと細かい指定があるのかなと思ってたら、「感じたことをそのままやってくれ」っていうムードで、すごくやりやすかったなと。
朴 それがすごく大事なことだと思うんですよ。自分一人が感じているもの、考えていることすべてが正しいものではないので。もちろん監督が伝えようとしていることも大切ではあるんですけど、そこに色んなアーティストそれぞれの解釈が乗っかって出来上がるのが良い作品だと思ってまして。だから、最初に「Glass Door」を聴いた時に「マジで?」って感じたことが逆に嬉しかったんです。20回、30回とリピートして聴いてたら、自分の想像の中にいなかったギアの姿が生まれた。エンディングの絵コンテと演出は僕自身が担当したんですけど、楽曲のおかげでイメージしていたのとは全然違うものが完成しました。
一度ムカついて、レベルアップする
Rei ギアはバンドを始めた頃の自分にすごく似てるというか。「このまま就職していいのか?」「世間が良いとするものだけをやっていく方向でいいのか?」とか考えてた時期があって、その頃の自分を思い出させてくれるキャラクターで。
Yohey どこにでもいる普通の少年ではあるんだけど、憧れの存在をちゃんと見つけられたことがギアをギアらしくしたと思うんですよ。で、僕らも目指すバンド像や、子どもの頃に憧れたバンドがいて。甲子園を見てるみたいに、ギアが無垢な思いを追いかける姿に自分たちを重ねて熱いものを感じていました。
朴 僕は韓国にいた頃からバンドが結構好きで、アマチュアのバンドをやってる友達もいるんですけど、結成するまでの物語がどれも面白くて好きなんですよね。で、今作のキャラクターたちもそれに似てるところがあるんです。家族みたいな存在のキャラクターも、声をかけて新しく仲間になったキャラクターも、みんなが一つの目標に向かって、喧嘩しながらも進んでいくっていう。だから、Newspeakの皆さんの解釈ともリンクしてるのが興味深いです。
Rei 朴監督の作品に対する姿勢もめっちゃバンドっぽいなって思います。自分だけで作るものが必ずしも良いとは限らないからチームで制作をするっていう。
Yohey 制作チームが会しているところに僕らも参加したことがあるんですけど、本当に自由なんですよ。皆さんがそれぞれのポジションに誇りを持って自分のアイデアをぶつけているということが実感できて、かなり刺激を受けました。これで良いんだよなって、腑に落ちるものがあって。
朴 社内のスタッフはあまり言うことを聞かないんです(笑)。でもそれが良いなと思ってるんですよね。飲みながら喧嘩したりもするんですけど、それも含めて楽しんでやってます。
Yohey でも、ムカつくこともあるんですか?
朴 はい、ムカつきますね。
一同 (笑)。
朴 たとえば、アニメーターがコンテと違うものを上げてきたりして、「これじゃダメだから、俺を納得させるぐらいのクオリティのものを出してくださいよ」って言うと、本当に良いものが上がってくるんですよ。で、そうなるとこっちは「なるほど、勉強になりました」って言う感じで。
Rei 実は「Glass Door」もそうやって出来たんです。まだ監督にシェアする前、僕が最初に作ったデモがあるんですけど、そのAメロをStevenが気に入らなかったみたいで、「もっと良いの出来るよね?」って言われて、ムカついて「は?」みたいな(笑)。で、Stevenを納得させるデモを作るために何週間か使っちゃったんですけど、最終的には正直に言ってくれてありがとうと思えるような仕上がりになりました。僕がみんなにやり返すこともありますし。お互いにイラつきをグッと堪えて、みんなで良いものを作るっていう。話を聞いていて、朴監督もムカつくんだなって安心してます。

Rei(Photo by Mitsuru Nishimura)
Yohey みんなが違うバックグラウンドを持ってるから、デモを聴いて感じることも当然違っていて、まずは全員が一度素直に向き合わないと先に進めなかったりするので。

Yohey(Photo by Mitsuru Nishimura)
Steven 小さい頃に聴いてた音楽や好きな音楽が違うから、ぶつかっちゃうよね。

Steven(Photo by Mitsuru Nishimura)
Rei でも違っていて良かったと思う。好きなものがみんな同じだったら、多分これまでやられてきたことをやるだけのバンドになっちゃうから。「俺は音楽のすべてを知ってるから、これが正しいんだ!」っていう人と一緒にはやりたくない。
Steven 喧嘩しても、最終的に面白い音楽が出来たら良いよね。
朴 バンドは3人や4人ですけど、こっちは何百人もいますからね。アイデアがたくさん生まれる分だけぶつかることも多いけど、それが良い作品の素になるんです。だから、衝突も楽しんでます。
Rei そのマインドが作品にも表れてますよね。『BULLET/BULLET』のキャラクターも、そういう人たちの集まりじゃないですか。
朴 1話が完成してみんなで一杯飲みながら試写をした時、みんなに「ギアって朴さんみたいですね」って言われたんですよ。自分では意識してなかったんですけどね。で、作品の中では、僕に似た性格の主人公のもとに凸凹のキャラクターが集まって、一つのチームになっていく。考えてみると、ウチの会社も凸凹なクリエイターたちを集めて作ったんです。全部が実は繋がっていて、ずっとこういう作品を作りたかったんだと思います。
Rei 監督にとって一番思い入れのあるシーンはどこですか?
朴 11話のギアがバレルを殴るシーンは難しかったけど楽しかった。すごく大事な場面で、どう表現するべきかを空港のラウンジで絵コンテを描きながら考えてたんです。で、Newspeakの皆さんがいるから話すわけではないんですけど……その時偶然、僕のプレイリストから「Be Nothing」が流れてきて、「こういうテイストで作ってみよう」と思ったら、一気に描き上げることができたんです。で、完成したものを見ながらもう一度「Be Nothing」を聴いたら、「これだ!」って。ダメ元でお願いして、「Be Nothing」をそのまま使わせてもらいました。
Yohey めちゃくちゃ光栄ですね。
Rei 僕もそこが台本を読んで一番感動したシーンで、あそこから受けたインスピレーションが「Glass Door」にも繋がりました。「Be Nothing」はバンドの中でも特にエモーショナルな曲というか、思い入れが強い曲なので、朴監督のクリエイティブにプラスな影響を及ぼしたっていうのは嬉しいですね。

Newspeakと朴性厚監督(Photo by Mitsuru Nishimura)
違和感とギャップが生むオリジナリティ
Rei 「Glass Door」の制作では、ギアの葛藤とアニメのポップさをバランス良く曲に落とし込むのに時間がかかりました。これだとちょっと捻くれすぎだよなとか、逆にこれだと明るすぎだよな、とか。
Steven 一度アレンジが全部終わった後に、Reiがサビに入ってるメロディックなギターフレーズを持ってきて、「これどう?」って聞いてきたよね。僕は「え!? まだ変わるの!?」って思ったんだけど。
Rei 嫌な顔してたね(笑)。シンセみたいに聴こえるフレーズですね。
Steven でも、そのギターが入ったことですごく良くまとまったと思った。
Rei 良い違和感が生まれたね。ただ気持ち良い曲を作るだけじゃなくて、「なんだこれ?」みたいなポイントを用意することってすごく大事だと思うんです。鬱屈とした主人公が仲間と出会ったことで動き始めて、ともに走って戦って、サビの最後にみんなでガッツポーズするっていう流れは作れてたけど、その直前にグッと踏ん張る顔みたいなものが浮かぶようにしたくて、あのギターを加えました。
朴 「Glass Door」は、サビの最後ですごく幸せを感じるんですよ。最初に聴いた時は、満員電車の中で「うわー!」って思いました(笑)。自分が本当に会いたかった人にやっと出会えたような気持ち。だからエンディングのアニメでは、サビ終わりにギアがみんなと出会う瞬間の笑顔を描きたいって感じました。
Rei そこでコードも明るくなるんですよね。すべての痛みを後ろに追いやって終わる曲にしたかったので。伝わってて良かったな。
Yohey 普段、自由に曲を作る時は暗中模索なところもあるんですけど、作品のメッセージやギアのキャラクターを意識しながら曲作りを進めるのはバンドとは別にもう一つの軸があるような状態で、明確な方向性を持ったままアレンジできましたね。
Rei それでもやっぱりバンドの精神性と『BULLET/BULLET』のテーマが近かったから、アニメのことを意識しつつも途中からは自然にバンドのことや自分の生活のことを考えながら歌ってたっていうぐらい、感情移入してました。
朴 先ほどReiさんが話していた気持ち良さだけじゃなく違和感も意識するっていうのは、フィルム作りにも通ずる点がありますね。20分の物語の中で、感情の路線をどう引いてどこで落とすのかというリズムが大事なんです。一般的に予想しやすいリズムっていうのがあって、そのわかりやすい表現をあえてやらないようにする。みんなが共感しそうなポイントで、逆に変則的なものを差し込んだり、誰も予想してないような展開を挟んだりして、独特のリズムを作るんです。
Steven オリジナルの作品を作る上でそういう考え方はすごく大事だね。どこで崩すか、っていう。
朴 僕は、ギャップを表現するのがすごく好きなんですよ。みんなが見慣れている風景を撮る実写ではそれが難しいけど、アニメは同じ作品でまったく違う絵を見せることができるからやりやすい。だから、深刻になりすぎないような変化球を投げたりするんです。特に今作はシリアスなテーマがあるから、そこにフォーカスして物語を作るとどうしても暗くなってしまうので。
Yohey 楽曲構成の中にギャップを持たせることは僕たちも考えます。「Glass Door」のAメロは元々もっと色んな音が鳴ってたんですけど、音数を減らして明瞭度を上げていく作業をしました。そうするとメッセージ性にもっとフォーカスが当たる。あと、1番のAメロと2番のAメロが全然違うカラーになってたりとか。
Rei 確かに。1番はエモいけど2番は明るいっていう形で、コードが違っていて。同じメロディなんだけど異なる表情を持たせました。
Yohey アニメでは絵柄で表現することを、音楽ではコードの響かせ方やビートの作り方で表現できるんじゃないかなと。朴監督が仰っていた通り、サビの最後に一段階明るくなって開放感を与えるっていうのもある種のギャップなんだと思います。
朴 やっぱり、お互いにものづくりの方法が似てますね。

朴性厚監督(Photo by Mitsuru Nishimura)
音楽と映像が共鳴して深くまで届く
朴 『BULLET/BULLET』を作ろうと思ったきっかけは、街でやっているデモの模様を見たのがきっかけだったんです。最初は「こんな暑い中、何をやってるんだろう?」と思っていたんですけれど、話を聞いてみるとちゃんと僕たちが話さないといけない内容だと感じました。そして、その模様がマスコミに取り上げられて話題になっていたので、数人が声を上げたことが大きな力になっていくことにグッと来たんです。ただ、それをそのまま暗くてスリリングな作品にはしたくないなと思って。難しいテーマをお客さんにも伝わりやすい共通言語に書き換えて、自然に一緒に考えてもらえるようなアニメを目指しました。
Rei めちゃめちゃ明るい音楽なのに、実は歌っていることは暗くて、他人を批判したり文句を言ってばっかりのバンドが僕は好きなので。それこそ、そのギャップを大事にしたいというのは僕たちも一緒ですね。
Yohey そうだね。朴監督の狙い通り、ポップな要素やギャグが入ってることで過酷な世界観をすんなり受け入れられるっていうのが『BULLET/BULLET』の魅力でありアニメの主人公のパワーなんだなと思いました。明るくて希望に満ちあふれたヤツが伝えると、重苦しいこともスッと届く。すごく参考になりましたね。
朴 もちろん音楽にも同じパワーがあると思います。アニメ作りの段階においても、やっぱり音楽が入らないと完成しないんですよね。アニメーターが描いた動画に、声優さんが演技で命を吹き込んで、最後に音楽が乗るんですけど、そこで作品全体に生命力がみなぎる感じがする。観ていて泣くか泣かないかの違いも音楽によるし、そこで初めて「このシーンが好きかも」とか感じられるようになるんです。僕はいつもダビングの作業を楽しみにしてます。
Rei 僕らがミュージックビデオを作る時には逆のことが起こりますよ。映像に関して具体的な意見はあまり言わないようにしているので、「こうやって解釈されて、こんな感動的になるんだ!」って驚くことがあります。だからいつも完成が楽しみですね。
朴 やっぱり、お互いに似てるんですよ。
Yohey まだどこかでタッグを組みたいですね。
朴 実は主題歌のタイアップだけじゃなく、ボーカルなしの劇伴もすべてバンドの解釈にお任せしたアニメを作れないかなって、ずっと夢見てるんです。
Steven やりたい! サウンドトラックの仕事はずっとやってみたかった。
Rei ぜひぜひお願いします。

EP『Glass Door』
Newspeak
ワーナーミュージック・ジャパン
配信中
https://newspeakjp.lnk.to/GlassDoorPu
1. Glass Door
2. Lifedance
3. Coastline
4. Glass Door (Anime Version)
『BULLET/BULLET』
監督・原案:朴姓厚
ディズニープラス スターで独占配信中
劇場版『弾丸決戦編』 全国劇場で公開中
製作:ギャガアニメーション制作:E&H production(C)E&H/GAGA
https://bullet-bullet.com/