9月9日・10日に東京・有明アリーナで開催されるタイラー・ザ・クリエイターの8年ぶりとなる来日公演「CHROMAKOPIA: THE WORLD TOUR」。このワールドツアーの全日程にサポートアクトとして出演するのが、Paris Texas(パリス・テキサス)である。
Paris Texasはジャンルの境界線を自由に超えた新たなオリジナリティで知られる、LA出身のヒップホップ・デュオ。新作EP『They Left Me With The Sword』、『They Left Me With A Gun』を2週連続でサプライズリリースしたばかりだ。メンバーのルイ・パステルとフェリックスに来日直前インタビューを行った。

ー2年前の来日がキャンセルになりましたが、いよいよ来日ですね。

ルイ・パステル 楽しみでしかないよ。

ー「…We Fall」という曲で、「When I was little, I would dream about Japan(小さい時、日本のことを夢見てた)」と歌っていますよね。

ルイ・パステル その通りさ。理由は二つあるんだ。まず日本って唯一、西洋世界にそれほど影響されてない場所に思えたんだよね。他のヨーロッパとかブラジル、メキシコとかは軽んじるつもりはないけど、けっこうアメリカと似てると思うんだ。あとは子供の頃、日本のカルチャーに触れて育ったというのも大きい。アニメもそうだし、音楽もそうで。
僕が日本に行きたいと思ったのは、日本がスゴくクールな場所に思えたからだ。子供の頃に母が、「ハイスクールをちゃんと卒業できたら日本に行っていいよ」って言ってくれたんだけど、実現しなかった。でもこの前、母さんから「やっと行けるね」っていうメッセージが来たよ。日本はね、すべてがスゴく異国的に感じるんだよね。

ー日本の音楽も大好きで、バンドのFACTが好きなんですよね。

ルイ・パステル FACTは大好きだ。他にも、マキシマム ザ ホルモン、SOIL & "PIMP" SESSIONS、ONE OK ROCK、ミドリが好きだね。

フェリックス 僕にとっての日本の入り口は、ファッションとかビデオゲームになるね。子供の頃は、世界というものが自分の世界よりも広いなんて思ってなかったんだ。ゲームをしてる時、アニメを観てる時は、ただコンテンツを楽しんでるだけで、それがどこから来てるかも知らなかった。でも大人になってから学んだこともあって、それが今はスゴく興味深いんだ。日本に行ったらめちゃくちゃ暑いんだろうけど、僕はサラリーマンみたいにスーツをバシッと着て、一日中歩き回りたいと思ってる。
そう言えば、2017年にNEO TOKYO的なゲームセンターがクローズしたらしいね。あれは行きたかったな。あと、ガンダム立像も見てみたい。

ー現在、タイラー・ザ・クリエイターとツアー中ですが、タイラーからツアーのオファーを受けた時のことは覚えています?

ルイ・パステル 僕たちはタイラーがツアーに出ることすら知らなかった。それに、特にタイラーと曲を一緒に作りたいとも思ってなかった。でもそれは、彼の音楽が嫌いだからではなく、彼は僕たちにとってめちゃくちゃインスピレーションを与えてくれる存在だからだ。だから曲を作ることよりも、何らかの形で認めてもらえることの方が大きかったんだ。LAのオルタナティブ・ヒップホップ・シーンというものは、彼が始めたクレイジーな乗り物だし、彼はそれをどんどん上げていってくれてる。だから、最初にオファーをもらった時は心臓が止まるかと思った。「やっとだ!」ってね。

ー初めてタイラーと出会った時のことは覚えています?

フェリックス 確かXLARGEの撮影の後だったよね。メキシカン・レストランで会ったんだ。
その時、いろいろ話をしていく中で、僕たちが出したアルバム『MID AIR』の話もしたし、当時の彼が音楽的にどこに向かってるのかも少し教えてくれた。あれは彼が『CHROMAKOPIA』を出す前のことだ。その時取り組んでた曲についても話してくれたんだ。あと、現場で手伝ってくれてたカメラマンの一人が、昔タイラーから車を買おうとしたことがあったみたいで。二人にとっては久々の再会になったんだ。

タイラーからのアドバイス

ー現在回っているツアーは2月からのロングランで、全世界で80公演以上を行う大規模なものですよね。今のところツアーの手応えはどうですか?

ルイ・パステル 今のところ、良い感じだよ。最初の2月はヨーロッパで、ウォームアップみたいな感じでやってたけど、かなり慣れてきてる。

フェリックス 今はスゴく良くなってるね。

ルイ・パステル どのショーもめちゃくちゃクレイジーなんだ。みんなに受け入れられてるし、僕たちもスゴく楽しんでる。

ー今まで最高のショーは?

フェリックス 今回ってるオーストラリアのメルボルンとパリはクレイジーだったね。


ルイ・パステル 100近いショーをやってるけど、どれもクレイジーだよ。

ーホームタウンのLAはどうでした? クリプトドットコム・アリーナ(Crypto.com Arena)での6日にわたるアリーナショーをソールドアウトにしましたよね。

フェリックス 3日目は本当に最高だったな。僕たちの親も観に来てくれたんだ。

ー今回のツアーで、タイラーのファンの多くがParis Texasのファンになったと思います。ファンが増えていくことについてはどうですか?

ルイ・パステル そこは間違いなく、タイラーが僕たちを好きになってくれたことで、前よりもファンは増えてるよ。それはタイラーが早い段階から考えてたことでもあるんだ。タイラーからはアドバイスももらってて、「ステージでカラフルな服を着なよ」って言われた。ステージでメインキャラクターになれっていうことだよ。アリーナ会場で地味だと存在感が出ないからね。

フェリックス あと、タイラーはパフォーマンスに関して、セットリストに気をつけること、そしてデカい会場でもちゃんと響く曲を選べということを言われたね。僕たちのお気に入りの曲でも、大きな会場では伝わらないこともあるからだ。
セットリストの中に、観客が一緒に歌ったり、参加したくなる曲を入れることが大事なんだ。今はそれがちょうどいい感じにハマってきてると思うよ。

ー今はどういうセットリストでやっています?

ルイ・パステル Paris Texasのいろいろな要素を見せられるように心がけてる。「girls like drugs」は一番盛り上がる曲だから、3曲目ぐらいにやってる。そこから「NüWhip」をやるんだけど、この曲で僕たちを知ったファンも多いからだ。この曲はタイラーが取り上げてくれた曲でもあるし、彼の世界観にもスゴく合ってる。そこから新作EPの曲も披露して、今の僕たちの音楽性を体験してもらう。それで「FORCE OF HABIT」をやるんだけど、これも大きな曲で、「ヘイ、ヘイ、ヘイ!」って大きなブレイクが起きるんだよ。それで最後に「Lana Del Rey」をやるんだ。

ー「girls like drugs」のライブ動画を観ましたが、あの曲で観客がモッシュし始めましたね。

フェリックス そうそう。

ルイ・パステル 日本人もモッシュするの?

ーもちろん。
日本のショーにはリル・ヨッティが来ませんが、ライブ時間が増えたり、セットリストが変わったりしますか?

ルイ・パステル わからないな。まあ様子を見てみようって感じだね。

僕たちの進化はこれからなんだ

ー北米公演の最中に、2枚の新作EP『They Left Me With The Sword』と『They Left Me With A Gun』を、2週連続でサプライズリリースしましたよね。これはツアーに合わせてのリリースですか?

ルイ・パステル というよりも、僕たちのファンに向けてのものだ。僕たちはツアーで1年間いなくなるから、その間に聴けるもの、楽しめるものを残しておきたかったんだ。次のアルバムまでのつなぎみたいなもので、ツアー中でも人々が聴けるものがあるといいからね。それに、2年前のアルバムと同じサウンドではなく、僕たちが進化し続けてるところも見せたかったんだ。

ー新作EPは『MID AIR』に続く新たなチャプターですか? それともスピンオフ?

ルイ・パステル 新たなチャプターだね。次のアルバムのプレリュードという感じだ。僕たちとしては、これから歳を重ねて、ものスゴく大きな存在になっていくだろうから、その前にファンと一緒にもう一度楽しみたいと思ったんだ。これは送別会みたいなものになるね。ビッグな存在になれば、成長もしていくわけだから、これまでの僕たちの究極バージョンを見せたいと思ったんだ。「今までありがとう。でもここから先は新しい道に行くよ」っていうお知らせみたいなものだ。

ーしかも2枚のEPでは、それぞれ二つの全く違う方向性を見せていますよね。クレイジーだけどユーモアもあって、クリエイティビティが爆発しているじゃないですか。この二面性については、どういう風にコンセプトを考えました?

ルイ・パステル ありがとう。でも、たぶん今回が初めて、最初にコンセプトを作らずに自然体で作ったんだ。それが逆に上手くいったんだと思う。というのも、リアルタイムの瞬間を切り取る方が自然だと思うからだ。コンセプトをあらかじめ決めるやり方は、僕たちにはまだ早い気がするからね。僕たちの進化はこれからなんだよ。よく人々から「ライブの音がめちゃくちゃ良かったから驚いた」って言われるんだけど、それはほとんどの人が最初に僕たちの音楽を誰かからシェアされて聴くからだ。僕たちのキャリアは7年になるんだけど、今まで死ぬほどライブをやってきた。だからライブはめちゃくちゃ仕上がってるんだ。でもレコーディング・アーティストとなると、まだまだ初心者に近い。だから「コンセプトを作ろう」ってなると、まだ完全にはそこに至ってない気がするんだ。だから僕たちは「できるだけ多くの曲を作ろう」「ツールを磨こう」って感じで進めた。結果的に500以上のデモを作ったよ。それでツアーが始まるってなったから、さらに磨きをかけてレコーディングに臨んだんだ。

フェリックス 今回のツアーでは、「mudbone」と「infinyte」をライブでやってるよ。

ー新作EPのMVも2本作りましたよね。めちゃくちゃ面白いし、ぶっ飛んでいますよね。最初、二人は結合双生児として登場しますが、やはり二人は離れられない存在なんですね(笑)。

フェリックス そうだね(笑)。最初は1曲ごとにアイデアがあったんだ。それで、ディレクターのダン・ストライトと話した時に、本来ならもっと短い形になるはずだったものを、彼がフルレングスでまとまったものにしたいって強く言ったから、ああいう形になったんだ。それで小さな断片が全体を通してつながっていく感じになってる。

ーあのMVは細かなところまで面白いんですよね。最後にフェリックスは、結合双生児だった二人が分離した時に、タマを一つなくしたと言いましたよね。あれは最高でした(笑)。

フェリックス (爆笑)あれは即興で出てきたんだ。

誰もが見た目は違うし、背景のカルチャーも違うし、一人ひとりが違う

ーParis Texasというと、ヒップホップとロックをクロスオーバーした音楽性で知られますが、そもそも「Heavy Metal」で登場した時から、他のクロスオーバーとは全く別ものだったと思います。異ジャンルの融合についてはどう考えています?

ルイ・パステル 僕にとっては同じことの延長みたいなものだから、クロスオーバーはやりやすいんだと思う。特に最初の頃は意図的じゃなかったしね。ただ、ギターを弾いて育ってきた僕にとっては、二つのジャンルを区別する方が難しいんだ。スゴく自然な感覚だし、一つのこととしてやってる感じだ。たぶん他の人は「ジャンルを融合させよう」ってトライするだろうし、ラップ・ミクスチャーみたいな感じでダサいヤツになりがちだよね。僕にとってはこの二つのジャンルは同じだし、違うものではないし、スゴく似てるものなんだ。ビートを聴いてると、いつも「ああ、ここにギターを入れられるな」って想像できてしまう。だから言葉で説明するよりも、ずっと自然にできるんだ。過去にランDMCとかビースティ・ボーイズもやってたよね。ランDMCとエアロスミスが共演する「Walk This Way」のMVを見ると、ジャンルと人種が分かれてるよね。そういうレイシズムはリアルじゃないんだ。誰もが見た目は違うし、背景のカルチャーも違うし、一人ひとりが違うから。

ー最後に、二人のキャラクターを知りたいのですが、お互いに相方のキャラクターについて話してもらえますか?

フェリックス 過小評価されてるリリシストだね。才能とセンスを持ったプロデューサー。ビジョンを持って行動する人。素晴らしいアイデアを持った情熱的なアーティストだ。人生のユーモアとか楽しさを見つけながらも、世界の中で僕たちがどう生きてるかについての批評も表現できるんだ。愛情たっぷりの友達でもある。ふざけるのも好きだけど、天才なんだ。あと、背が高いね。

ルイ・パステル フェリックスは本当にクールで思慮深い人だと思うよ。話の流れも常に考えてるし、どうしたら理屈が通るのか、どう聞こえるべきか、どうしたら理論上正しいのか、常に自分の中で戦いながら考えてる。しかも努力してるように見えないくらい自然なんだ。でも、僕には彼が自然に見せるためにどれだけのことをやってきたのかがわかるよ。クレイジーだけど、何十歩も先を考えてる感じなんだ。スゴい人だし、天才だと思うね。

Paris Texas、タイラー・ザ・クリエイターとのツアー舞台裏と日本カルチャー愛を語る

Paris Texas
『They Left Me With A Gun』
配信中
https://orcd.co/tlmwag

1. Superstar
2. Twin Geeker
3. Stripper Song
4. mudbone
5. H A L O
6. No Strings

CHROMAKOPIA: THE WORLD TOUR
タイラー・ザ・クリエイター
Support Act: Paris Texas

9月9日(火)、10日(水)
有明アリーナ
OPEN 17:30 / START 19:00
詳細はこちら:https://aegx.jp/schedule/09/2025/1320/
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