ピンク・フロイドのボーカル兼ギタリスト、デヴィッド・ギルモアの最新インタビュー。日本でも9月17日・18日にIMAX上映される新作ライヴ映画『David Gilmour LIVE AT THE CIRCUS MAXIMUS, ROME』の話を中心に、今後のツアー計画や新作アルバムの展望などを語る。


デヴィッド・ギルモアのツアーは非常に稀で、非常に短く、ほんの一握りの都市しかまわらないことが多い。しかし彼は少なくとも1回の公演を映像にとらえることに常に長けており、世界中のファンが見逃してしまったものを体験できるようにしてくれる。この40年間、彼はロンドンのハマースミス・オデオン(1984年)、ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホール(2002年)、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホール(2006年)、ポーランドのグダニスク造船所(2006年)、そしてイタリアのポンペイ円形闘技場(2016年)でソロ・コンサートを撮影してきた。

最新のコンサート映画は『David Gilmour LIVE AT THE CIRCUS MAXIMUS』である。同作は彼が2024年10月、『邂逅(Luck and Strange)』ツアー中にイタリア・ローマの歴史的なチルコ・マッシモで行った3回の公演を時系列で追ったもの。9月17日に映画館やIMAXシアターでお目見えし、10月17日にはブルーレイ2枚組/DVD3枚組のセットの一環としてもリリースされる(日本盤は2CD+2BD4枚組7インチ紙ジャケット仕様『ラック・アンド・ストレンジ・コンサーツ  ジャパン・エディション』としてリリース。2CDには、『邂逅』ツアー中にアメリカやヨーロッパで行われた他のギグからのライヴ音源が収録される)。

私たちはギルモアとZoomで繋がり、チルコ・マッシモの映画、今後のツアーの機会、ピンク・フロイドの未発表曲の保管室、近づきつつある彼の80歳の誕生日、そしてスフィア(訳注:ネバダ州ラスベガスにある球体型の複合アリーナ)でのレジデンシー(滞在型)公演の可能性について語り合った。

チルコ・マッシモ公演の撮影秘話

ーツアーの計画を始めた頃には既に映像にとらえる方法を考えていたのでしょうか。

ギルモア:後世のためにツアーの模様をとらえておくことというのは、自分自身のためでも他の人のためでもあるけれど、僕が好き好んでやっていることは明らかだね。それにチルコ・マッシモは僕の好きな会場のひとつで、元々収容人数15万人を想定して建てられたものだけど、ユリウス・カエサルによって25万人収容に拡大されたんだ。僕たちはそのほんの一部しか使わないけれどね。
君もおそらくご存じのとおり、僕はこういう歴史的な場所で演奏することに目がないんだ。撮影映えもするしね。ローマの街並み、木々、そしてスタジアム。しかもチャリオット(訳注:古代に戦車として使われていた1人乗りの二輪馬車)がハイ・スピードで走り回っている姿が想像できるんだ。

ーあなたはロイヤル・アルバート・ホール、グダニスク、ポンペイなどでもショウを撮影してきました。今回はそれらと違った見映えの会場を映像にとらえておきたかったということでしょうか。

ギルモア:僕が望んでいるのは、僕たちがやっていることの記録なんだ。美しい場所ではあるし、他とは違って見える。ショウとして別物だ。僕の人生のまた別の瞬間なんだ。演奏している新曲はたくさんある。自分がやっていることの重点は新しい曲たちに置いている。
だから他とは違うんだ。以前にアルバート・ホール公演を収録したのは2006年だった(『覇響(Remember That Night - Live At The Royal Albert Hall)』としてリリース)。人生の中の別のひとときで、すてきなものだった。新顔が大半を占める面子と共演するコンサートという、本当にすてきなショウだった。僕にとってはワクワクする出来事だったし、そのワクワクぶりが、映画を観に行って耳を傾けてくれる人たちに伝わることを願っているんだ。

ーチルコ・マッシモ公演は6回とも撮影して、最高の瞬間をピックアップしたのでしょうか。

ギルモア:いや、後半の3回を撮影したんだ。ツアーの皮切り公演だったから、序盤の3回は撮影せずにしようと考えた。そうしたら、撮影した後半の3回のうち1回はゲリラ豪雨に見舞われたんだ。とにかくびしょ濡れだったよ。雨が止むのを待って演奏しなければならなかったし、モップもたくさんかけないといけなかった。ただ、雨に濡れてギラギラ光った部分は一部使ったよ。


ーその3回の公演からどうやって「運命の鐘」のベストな演奏とかをピックアップするのですか。何を求めていたのでしょう。

ギルモア:3回分の映像全部を見ながらメモを取って、一番雰囲気のいいものはこれだという話をして、それを採用したんだ。

デヴィッド・ギルモアが語る最新ライヴ映画、ピンク・フロイドの記憶、80代を目前にした未来
デヴィッド・ギルモア


ー監督のギャヴィン・エルダーとはもう長い間あなたのコンサート映画を一緒に手がけていますね。彼のどういったところに惹かれたのでしょうか。

ギルモア:彼と一緒にやるようになったのは2006年だった。あのツアーの序盤についてきてくれてね。ふとした瞬間がすべてオンライン上の小さなクリップに使われるような時代に突入したからには、バックステージの要素を録ってくれる人が欲しかったんだ。彼はフィル・マンザネラの妻クレア・シンガースの推薦だった。あまりに自分の生業に長けていたから、試しにグダニスクのショウを録ってもらったら、見事にやり遂げてくれた。という訳で彼はチームの一員になったんだ。

デヴィッド・ギルモアが語る最新ライヴ映画、ピンク・フロイドの記憶、80代を目前にした未来

ギャヴィン・エルダー監督

娘との共演、バンドメンバーへの信頼

ーツアーの前、あなたは70年代のピンク・フロイドの曲を紐解くことを躊躇していると語っていましたが、最終的には一握り演奏しています。
今も「生命の息吹き」や「タイム」などを演奏することを楽しんでいますか。それともファンへの義務にかられてやっている部分もあるのでしょうか。

ギルモア:義務ではないね。心から楽しんでプレイしているよ。自分が……自分はできるだけ新しい曲をやろうとしているけど、直面して付き合っていかなければならない現実もある。ああいう曲をいくつか聴けることを期待している人たちがいるからね。僕はあの曲たちが大好きだし、演奏することも大好きだ。今回は少し減らしたけれど、今もセットリストに入っているよ。

ー「幻の翼」はクラシック・ロック系ラジオでよくかかっています。どうしてあの曲はまったくやらないのでしょうか? とても合うと思うのですが。

ギルモア:選べる曲は山ほどあるからね。僕にとっては『鬱』からは他に優先曲があるんだ。
ということであのアルバムからいくつか、その次の『対(TSUI)』からもいくつかピックアップした。すてきな曲だけどね、「幻の翼」も。でも今は必須に感じられなかったんだ。僕の持っている素材すべてから……ソロ・アルバムが5作、ピンク・フロイドのアルバムが何枚あるかは神のみぞ知るというところだが、その中には脇に追いやられざるを得ない曲というのがあるんだ。全部の曲をやれる訳じゃないから、リストを作って、なくてもやっていけると思われる曲を線で消さないといけない。時には辛い選択ではあるよ。

ーツアーでは娘のロマニーさんを多くのファンにお披露目しましたね。

ギルモア:あの娘は大学生だったから、当初はロンドン公演にのみ出して、「ビットウィーン・トゥー・ポイント」だけ歌わせようと考えていたんだ。ところが状況が変わって、あの娘はツアーの全日程やりたい、バッキング・シンガー陣に加わりたいと決心した。僕にとってもポリーにとっても、みんなにとっても素晴らしいアイデアに聞こえた。そうして一員になって、本物のプロみたいに全力投球しているよ。

ーSpotifyによると、「ビットウィーン・トゥー・ポイント」は他をかなり大きく引き離して最もよくストリーミングされた曲になっていますね。
驚かれますか。

ギルモア:いや、あまり驚かないね。受け入れられるよ。この曲がこれほど多くの人たちの琴線に触れ、SpotifyやYouTubeなどでヒット曲のようになったのは本当に、本当にすてきなことだ。

ー彼女は今どんな計画を立てているのでしょうか。歌手になりたがっているのでしょうか。

ギルモア:そうだなぁ、ツアーに参加している他の女の子たち……ルイーズ・マーシャル、ハッティ&チャーリー・ウェッブと、ロマニーは小さな一座を作ったんだ。彼女たちだけのバンドをね。全員楽器ができるから。彼女たちは1ヶ月かそこら前、ロンドンのクラブで4夜公演を行った。全部ソールド・アウトになったし、素晴らしかったよ。そんな訳で、娘はそういう方向性を探っているんだと思う。俳優などを志望していたバックグラウンドがあるけど、まだ若いからね。あの娘にはまだすべての可能性が開かれているよ。

ーあなたがウェッブ姉妹を紹介されたのは、彼女たちがレナード・コーエンと共演しているのを見たときではないでしょうか。

ギルモア:そう、10回くらい観たんだ。彼女たちはファンタスティックだよ。しかもいい子たちだ。そしてルイーズ・マーシャルは、喉から手が出るほど欲しい声の持ち主なんだ。

ーあなたはバンドのラインナップを非常に大きく変えましたが、ガイ・プラットは1987年以来ずっとベースを担当しています。彼は何があってもあなたの音楽的補佐ということでしょうか。

ギルモア:彼はいつだってそこにいるよ。本当に長い間友だちだし、彼がいないとどうにもしっくりこないだろう。

ー他のメンバーはいかがでしたか。これほど大人数でツアーするのは初めてですよね。

ギルモア:本当に優れたミュージシャンたちだよ。ドラムのアダム・ベッツはこっちじゃ有名なんだ。パルプともツアーしているけど、彼らのドラムスは担当していない。パルプではギターを担当したり、歌ったり、他にも色んなことをやっている。多才な男だからね。最高に素晴らしいよ。

キーボードのロブ・ジェントリーは何をやってもマジックやインスピレーション、それからとても珍しいタッチがあるんだ。それから(ギタリスト兼シンガーの)ベン・ウォーズリーは僕たちのプロデューサーを務めるチャーリー・アンドリューの推薦で加入した。これまでの人生では100人くらい以上の前でステージに立ったことがなかったんじゃなかったかな。でも水を得た魚のようにすんなり慣れて、断然パーフェクトだった。

(キーボーディストの)グレッグ・フィリンゲインズのことは心から大好きだ。この仕事のベテランだよ。あらゆる経験をして、あらゆるところを訪れてきた。このチームは大いに楽しみながら喜びと熱意をもってこの仕事に身を投じてくれた。実にすてきなツアーの雰囲気ができているんだ。

ーあなたは以前、ピンク・フロイドのカバー・バンドのように聞こえるものは一切望まないと言っていましたね。

ギルモア:それは、長年の間に、自分がやりたいのは人々にもっと自由を与えることの方だという結論に徐々に達したからなんだ。カバー・バンドがやったバージョンはもちろん色々見てきた。彼らのコピーしている「コンフォタブリー・ナム」のギター・ソロは、何であれ僕がプレイすることはできない。僕は毎晩(コンサートで)プレイしながら自由に弾いてるだけだからね。僕が求めるのは、自分がやっていることの本質を分かっていながらも、大半の人が必須だと思っている範囲から一歩踏み出して、より自由になって、実際にパフォーマンスをしたり、自分の能力や才能を僕のやっていることにもたらしたりできる人たちなんだ。そして今回のツアーではそれが最高の状態になった。心から嬉しいし、その効果に満足しているし、二度と元に戻るつもりはないよ。

ピンク・フロイド未発表曲とソロ新作の展望(1)

ーツアーはわずか23公演、アメリカではわずか2都市しか訪れませんでした。あなた史上最も短いツアーです。どうして続けようとしなかったのでしょうか。

ギルモア:でも、ロンドン、ローマ、ニューヨーク、LAでは1週間ずつやったからね。かなり多くの動員があったよ。思うに、キャリアのこの時点にもなると、自分がみんなに会いに行くより、みんなが観に来てくれることをもう少し要求してもいいんじゃないかな。それに大規模な長いツアーをやる気はなかった。何ヶ月も延々と、いわゆる「旅をする」というのは、僕にとってはもう過去のことなんだ。

ーもっとやってほしいとオファーがあったでしょう。

ギルモア:ああ。その後オファーがいくつかあったことは言うまでもない。やってしかるべきこと、しかるべきショウの数や場所のように思われたし、もっとやってほしいと思わせることができそうな気はしたよ。

ーこの映画は、行けなかった人々にもコンサートを体験させてくれますね。

ギルモア:9月17日には世界中のIMAXや、これ以上ないくらいに高品質の上映ができる映画館で上映されるんだ(日本では18日にも上映)。その後はブルーレイやDVDを手に入れることもできる。もちろんストリーミングも可能だし、ワクワクしているよ。本当にとらえる必要があると僕が感じたものをとらえているんだ。

ー2、3年前にニック・メイスンにインタビューしたとき、彼は『炎~あなたがここにいてほしい』と『アニマルズ』のツアーを撮影しなかったことを後悔していると言っていました。どちらも時の流れに失われてしまいましたね。あなたも同じように後悔しているのでしょうか。

ギルモア:実はそうなんだ。そうだね。思うに、僕たちはその瞬間を満喫すべきだという考えがあったんだと思う。その瞬間がすべてで、それを撮影したりリリースしたりするのは二番煎じのようなものかもしれないと。それに、すてきな昔ながらのVHSテープでそういう映像を見るという当時の方法は、公平に言っても、小さな画面で見てもあまりその魅力を十分に見せることができなかったからね。そりゃ本物のフィルムで撮影することはできたけど、あの当時はとんでもないプロセスを経ないといけなかった。幸いポンペイの……最近リリースした『ピンク・フロイド・アット・ポンペイ』の映画は、ちゃんとしたフィルムにすべて記録されていて、すべての箱に収められていたすべてのフィルム缶を取り出して、きれいに修復して、4Kに変換してから、可能な限りの高品質で編集し戻すという作業をすることができた。そういうオプションを採ることはできたのに、僕たちはやらなかった。僕たちの考え方が歪んでいたんだろうな。後々のために、缶に素材を入れておくべきだった。

ーニックによると、それらのツアーからはサウンドボードのテープもあまり多く残っていないそうですね。

ギルモア:実はたくさん、たくさんのミキシング・デスクのテープがあって、70年代にはカセットに落とし込まれていた。その後80年代や90年代になるとDATに録音されていたけど、それらはミキシング・デスクから直接音を録ったものだった。でも大半のショウは単に音だけ録ろうという感じで録っていたし、あれほどたくさんのテープがどこにあるかは神のみぞ知るといったところなんだ。多分ソニーの手元にあるんだろうな。だからそれを見てみるにはソニーを説得しないといけない。

ー最新のテクノロジーでは1つのトラックから標準レベル以下の録音を取り出して、各要素に分解してからリミックスが可能だそうですよ。

ギルモア:ああ。できるだろうね。幸運を祈るよ。

ー今は何か新曲に取り組んでいるのでしょうか。

ギルモア:ああ。新しいアルバムに向かってゆっくり組み立てているところだ。発達段階のような状態の素材が結構たくさんあってね。今はそれで忙しいんだ。

ー前作やツアーと同じバンドを使っているのでしょうか。

ギルモア:レコーディングの初めの段階では概ね自分独りでやっているんだ。ProToolsで作業してね。ドラムはあまり得意じゃないから、現代の伝統のように機械を使ってやっている。それからもの(ネタ)をまとめて、何ヶ月もかけていじくり回すことができるようにする。自分の望みに近いと思われるところに辿り着くまで、ちょっと足したり、色々引いたりしながらね。そうすると、たくさん人のいるスタジオに持っていくことができるし、自分がやりたいこと、どうやってそれを実現したいのか具体的にわかっているから、みんなのインプットのために提案することができるんだ。

デヴィッド・ギルモアが語る最新ライヴ映画、ピンク・フロイドの記憶、80代を目前にした未来
デヴィッド・ギルモア


ーあなたはアルバムとアルバムの間が大きく開く傾向があります。10年くらい開いていることが多いですが、どうやら今回はずっと早く出そうですね。

ギルモア:いつももう少し早く出すつもりではいるし、今回はもう少し早く出せそうな気がする。でもどうなるかはわからないよ。向こう1、2年の間くらいかな。

ーそれを引っさげたツアーはすると思われますか。

ギルモア:それはまた別の決断で……多分やることになると思うね。今回と似たレベルで何かやるのは多分構わないだろう。残念ながらアメリカ、南米、ヨーロッパ、その他の地域をすべて網羅して回ることはないけれど。そういうのは若者のすることだ。

ー先日、ボブ・ディランとウィリー・ネルソンがショウで共演するのを見ました。彼らは80代と90代ですが、常にツアーしています。あなたには到底想像できないライフスタイルに違いありません。

ギルモア:いやあ、年齢やら何やらを超えてああやってツアーに出られる人たちには心から感服するよ。ほら、ミック・ジャガーを見てごらん。驚異的だよね。ボブ・ディランも君の言う通りだ。ウィリー・ネルソンも歳を重ねてはいるけれど……でも彼らは彼ららしくやっている訳で、僕の人生はちょっと違う風に作用しているだけなんだ。

ーご自分はあまりツアーしないことによって歌声を守ってきたと思われますか。その年齢にしてはかなり驚くべき声をしていると思います。あなたよりずっと若い人たちが完全に声がダメになってしまっているというのに。

ギルモア:あまり使わないからまだ少し残っているという可能性は大いにあるね。でもツアー中に声を管理するのは楽な仕事ではないよ。それに、自分のやっていることにとても、とても慎重でいなければならない。ショウの後は話せないんだ。翌日のサウンドチェックまでほとんど話さない。それから声のコーチに一緒に来てもらって、色んな手を尽くして、声の健康と能力を保つようにしているんだ。ただ出て行って毎晩歌っているだけじゃ済まない。

ー相当ストレスフルなことに聞こえます。

ギルモア:ああ。まあ、こういうやり方の方が身体にはずっと楽なんだ。4都市しかやらなくて、午後にはホテルを出てサウンドチェックをやって、それからショウという感じで移動の大半をカットするのは、ツアーのやり方としてはいいけどね。

ーラスベガスのスフィアはあなたにすこぶるぴったりだと思いますよ。演奏している自分を想像できそうな場所でしょうか。

ギルモア:うーん、正直言って、その役割についてはほとんど何も知らないんだ。だけど先方からはアプローチされていて、何かしたらどうですかと提案されている。将来はどうなるかわからないよ? まだそこまで考えていないけどね。

ピンク・フロイド未発表曲とソロ新作の展望(2)

ーピンク・フロイドの保管庫に残っているもので、リリースを実現したいものはありますか。

ギルモア:ピンク・フロイドのカタログ全体……デスク・テープ(ミキシング・デスクのメイン出力からの音源)などあらゆるものは、今は僕の手を離れているんだ。ソニーがやりたいと思ったことが起こることになる。僕はこの40~50年の間にキュレーションの手助けをする中で多くのもめごとや苛立ちを経験してきたけど、そういったものの責任を負わずに、もっと平和で、それらの音源に対して穏やかな気持ちでいられる生活を送ることにワクワクしている。ソニーに対しては何の指図もしない。それに、彼らが僕に何か訊きたいと思ったら、してくれることは言うまでもないからね。

ーとても解放感があることでしょう。みなさんは『アニマルズ』のボックス・セットですらこんなに長い間合意できなかったのですから。お三方の認識をひとつにするというのは、何についてであれ、基本的にかなり難しいことです。

ギルモア:まったくその通りだね。

ー少し『ポンペイ』に話を戻したいと思います。あの作品を映画館で観て、若かりし日の自分がシャツを着ない状態であのショウを演奏している姿を眺めるのはどんな感じでしたか。

ギルモア:25歳の若造があれだけのことをやっていたなんてね。本当にいい音がしたし、僕たちはIMAXのスクリーンで観たから、ニキビまで丸見えだったよ。僕が長年の間に見てきたバージョンは、VHSテープからのものか、走査線405本の昔のテレビからのものしかなかったからね。クオリティは最悪だけど、あの頃はそれこそ僕たちが見慣れていたものだった。おそらく僕たちの脳とイマジネーションが埋め合わせてくれていたんだろう。だけど、あんな感じの非常にクリアな画質のものが巨大なスクリーンに実際に映っているのを目の当たりにするのは、間違いなく感動的だった。ああいうものを作って、今の人たちに観てもらえる状態になって、彼らにとても喜んでもらえているように見受けられるのは、本当にすてきなことだよ。

ーニック・メイスンの記憶によると、あなたがシャツを着ずにショウで演奏したのはあの時だけだったそうです。しかも永遠に映像にとらえられた唯一のショウでもあります。

ギルモア:まあ、僕たちは観客がいない状態で、野外で撮影していたからね。「僕たちは映画を作っている」なんてはっきり意識しないものなんじゃないかな。自分がやっていることが未来永劫人々に観られるものとして存在するなんてあまり思わない。それに、ポンペイの9月の午後は灼熱の太陽の下、ものすごく、ものすごく暑かったんだ。もちろんそれは問題ないし、自分がそんなに気にしていたとは思わないけど、その後映画の撮影用台本に沿って、パリの映画スタジオで演奏を再現して、つなぎの映像を作らなければならなかった。それで監督のエイドリアン・メイベンが「いいかい、台本にはシャツを脱がなければならないと書いてあるんだ」なんて言うんだ。それで僕が「何だって? 冗談で言っているのかい?」と言うと、彼は「誰も違いなんて気づかないから」と。それで「あのさ、気づかれると思うよ」と言ってやった。そして僕は正しかったんだ。

デヴィッド・ギルモアが語る最新ライヴ映画、ピンク・フロイドの記憶、80代を目前にした未来


ー最後にあなたの次作について。今年のどこかの時点で、バンドが合流して曲に肉付けをすることになると思われますか。新作へのタイムラインはどんな感じでしょうか。

ギルモア:タイムラインがどんなだか君に教えてあげられればいいのにと思うけど、タイムラインにはちょっと早いんだ。年末までには何らかのスタジオ・セッションを概ねいつもと同じメンバーとやって、曲を録りたいんだけどね。

ー曲はすべてここ1年くらいで書き下ろしたものなのでしょうか。

ギルモア:僕が取り組んでいる曲は漠然としたアイデアで、落としどころを見つけるのに数年かかりそうなものもある。前作に入っていた曲は10年以上前のものや、もしかしたらさらに昔のものまである。それに、できかけでとても気に入っている曲もまだある。もっとうまく説明できればいいけれど、曲が勝手に「今こそ曲として姿を現すときだ」と決めてしまう時があるみたいなんだ。その後全員の意見が合って同じように感じたら、ことを次へ進める。ものによっては30、40年くらい遡るものもあるよ。

ーご自分の曲を全曲、未完成状態のものもそうでないものも整理した保管庫を持っているのでしょうか。

ギルモア:大きな、整理されていない保管庫があるよ。最近整理しようとしたんだけど……そうだね、今のところ、表面上は秩序立っているといいんだが。

ー3月には80歳になります。何か予定していることはありますか。

ギルモア:家族や大親友たちとすてきな夕べを過ごすんじゃないかな。大仰なことはしないよ。僕くらいの歳になると、他の何よりも忘れてしまいたくなるものになりがちだからね。

ー次にツアーするときはぜひスフィアを検討してみてください。あなたなら、あそこで何か本当にスペシャルなことができるはずです。

ギルモア:そうだね、これから考えようとしているプランの中には入るだろう。

From Rolling Stone US.

デヴィッド・ギルモアが語る最新ライヴ映画、ピンク・フロイドの記憶、80代を目前にした未来
デヴィッド・ギルモア『ラック・アンド・ストレンジ・コンサーツ』

デヴィッド・ギルモア ライヴ・フィルム
『David Gilmour LIVE AT THE CIRCUS MAXIMUS,ROME』
特設サイト:https://www.110107.com/Gilmour_live_movie
チケット購入:https://w.pia.jp/t/davidgilmour-on

★ワールド・プレミア上映
2025年9月17日(水) 19:00開映
東京・グランドシネマサンシャイン 池袋

★一夜限定IMAXⓇ上映(上映前舞台挨拶あり)
2025年9月18日(木) 19:00開映
東京・グランドシネマサンシャイン 池袋
登壇|伊藤政則(音楽評論家)
スペシャル・ゲスト|ギャヴィン・エルダー監督

★一夜限定IMAXⓇ全国上映
2025年9月18日(木) 19:00開映
※上映館など詳細は特設サイトを参照。
北海道、群馬、埼玉、東京、千葉、神奈川、静岡、新潟、石川、愛知、大阪、岡山、広島、愛媛、福岡、鹿児島、沖縄にて上映。

デヴィッド・ギルモアが語る最新ライヴ映画、ピンク・フロイドの記憶、80代を目前にした未来
デヴィッド・ギルモア『ラック・アンド・ストレンジ・コンサーツ – ジャパン・エディション』

デヴィッド・ギルモア
『ラック・アンド・ストレンジ・コンサーツ – ジャパン・エディション』
2025年10月17日発売 税込11,000円
〈完全生産限定盤〉
7インチ紙ジャケット仕様(2CD+2Blu-ray)
高品質BSCD2 Blu-ray:日本語字幕付
再生・購入:https://sonymusicjapan.lnk.to/DavidGilmour_TheLuckandStrangeConcertsAW
特設サイト:https://www.110107.com/Gilmour_LUCK_AND_STRANGE
編集部おすすめ