※筆者のアレックス・エデルマン(Alex Edelman)は、トニー賞とエミー賞を受賞したアメリカの俳優、作家、コメディアン。テレビドラマ『The Office』のスピンオフ作品『The Paper』では主演を務め、脚本も手掛けている。
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オアシスのショーでもっとも最高な瞬間は、「Wonderwall」や「Champagne Supernova」を歌っているのを観たときではなかった。夜の終わりに打ち上がった花火でも、リアム・ギャラガーのうなり声まじりの毒舌でもなかった。僕にとっての一番の瞬間は、ニュージャージー州イーストラザフォードのメットライフ・スタジアムで行われた2公演のうち最初の夜(8月31日)、1階コンコースにあるカーベルの売店の前で起こった。そこで僕は、通りすがりの二人の男が互いの胸を指さし合い、力強く抱きしめるのを目にしたのだ。なぜ抱擁を交わしたのか? 二人が同じ1998年のオアシス・ツアーTシャツを着ていたからだ。
「オリジナル?」とひとりが言う。
「もちろんさ!」ともうひとりが応える。

ニュージャージーで大合唱が巻き起こる(Photo by Emilio Herce)
ギャラガー兄弟のショーは、この夏を代表するツアーであるだけでなく、誰もが口を揃えるように、その予想外のポジティブさで多くの人を驚かせている。「アリーナにはニュージャージーのヴァイブスがあるな!」と、リアムはマイクを握って最初にそう言った。
数年前までは、このイベントが実際に開催されることさえあり得ないと思われていた。ギャラガー兄弟はこの15年間の大半を、お互いを罵り合うことに費やしてきた。リアムはノエルの写真に「ポテト」というキャプションを付けてツイートし、ノエルはリアムのことを「無能」「代わりはいくらでもいる」「扱いにくい」「恩知らず」などと表現してきた。僕がこの確執で一番気に入っている──いや、もしかするとあらゆる確執の中で最高の一撃かもしれない──のは、ノエルがリアムを「スープでできた世界にフォークだけを持っている男のように、苛立ちと無力感に苛まれている」と形容したことだ。
まさしく一級品の侮辱──だが、それはどこか陰鬱さを帯びている。この兄弟のいざこざは、それを気にかけていた人々にとって、私たちが生きている壊れたタイムラインの一部でもあった。アメリカの大統領は愚か者、デオドラントにはアルミニウムが含まれ、そして世界で最もクールなバンドのひとつが、兄弟が後部座席で殴り合いをやめられないせいでツアーをしていない。
ところが突然、その最後の障害が取り除かれたのだ。
オアシスがツアーに出ると発表した。僕も何万人もの人々と同じようにチケットを確保し、ニューヨーク市からニュージャージーの湿地帯までどう行くか計画を立て、熱狂的なUK公演の映像がInstagramに上がっているのを見ながらも、あまり期待しすぎないようにしていた。友人のひとりはこう言った。
別々の控室があるのかもしれない──と一緒に観に行ったスローン・クロズリー(※アメリカの作家/エッセイスト)が推測していたが──手をつないでステージに現れた瞬間、誰もが同じことを考えているように感じられる。「なんてこった、本当に始まったんだ」と。いや、心の中で思うだけじゃない。僕の前にいた男のように、叫び声を上げてもいいのだ。
2025年のオアシスが「反逆的」な理由
この出来事には特別な雰囲気がある。広大な駐車場を抜けてメットライフ・スタジアムに向かう道のりは、地下鉄からウェンブリーへ歩いていく感覚に似ている。テールゲート・パーティーに、非公式のグッズ売り、バケットハットをかぶった人々。マンチェスター・シティのカラー、オアシスのアディダス・ジャージ(ケイジ・ジ・エレファントのオープニング・セットが終わる前には、ほとんどの物販スタンドから姿を消していた)。それは宗教的体験にも近い──もしその宗教が「フットボール・フーリガン」であるならば。
それにしても、オアシスのサウンドは素晴らしかった。リアムの声はアルバムで聴いたままの響きで、今もヘッドフォンで聴けるそのままの声で、初めて酔っ払ったホームパーティーのBGMで流れていたオアシスの記憶どおりの声だった。そして彼らが演奏するのは、ほとんどがヒット曲、ほとんどが1996年以前の曲、そしてシンガロング向けの曲ばかりだ。

メットライフ・スタジアムの観客(Photo by Rich Fury)
そして、このコンサートを目撃すること以上に、その瞬間を長年待ち望んできた人々を目撃できたのも大きかった。僕の前にいたのは60代のイギリス人で、名前を叫んでくれたが聞き取れなかったので、ここではテリーと呼ぼう。初めてオアシスを観たとき、彼はまだ妻と出会ったばかりで、子どもたちは想像の中にしか存在していなかったという。現在の彼は、その妻と、娘──トライステート地区の女子サッカーリーグ、ナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグのゴッサムFCで働いている──と肩を並べ、ハイネケンとブリットポップ、そして自らが入り込んだタイムマシンに酔いしれていた。「たぶんね」とテリーは涙ぐみながら言った。「今夜は、人生で最高の夜かもしれない」。
この公演の演出から伝わってくるのは──意図的なはずだが、爆音とラストの花火以外は驚くほど控えめ──オアシスのコンサートが自分たちの在り方をよく理解しているということだ。つまり、それは「懐古の集団的実践」でありながら、かつての栄光にすがるような悲しい影はない。魅力は、兄弟が再び一緒にいること──そして自分自身もそこにいて、彼らと一緒に歌を吠えられることにある。ノエルは「6万、7万人のオアシス・ファンと一緒にこの曲を歌うのがどんな感じか知りたいだろ? これからわかるぞ」と言いながら「Dont Look Back in Anger」を紹介した。
ショーの前半をほぼ無口で過ごし、ポーズを決める役を弟に任せていたノエルも、心から感情を揺さぶられているように見えた。「他の誰にも、こんなファンはいない」と彼は言った。「誰にもね」。
もちろん、コンサートで観客が一緒に歌うのは珍しいことではない。特にスタジアムでは。だが、この夜の合唱には、不思議なまでの無邪気さが際立っていた。マンチェスター出身のこの二人──とりわけリアム──は、ほとんど常に無関心さ、意に介さない姿勢で語られてきた存在だ。とはいえ、カインとアベルのような兄弟げんかを収め、チケットを『フレンズ』の1話を観るより短い時間で100万枚も売り、無数のカスタム・グッズをデザインする──そんなことを気まぐれでやるはずがない。駐車場に40ドルを払うのも、ニュージャージーまで車を走らせるのも気まぐれではない。「やりたいから」そうするのだ。そしてもう、「無関心を装う時期はとっくに過ぎ去っている」からだ。
1996年のオアシスは、ロックスターになりたいというあからさまな欲望があるからこそ「反逆的」だった。2025年のオアシスは、その欲望自体が少しばかばかしいことを理解しつつ、それを求めた時代を決して否定しないからこそ「反逆的」だ。5万人もの観客が「Cigarettes and Alcohol」を──叫ぶように、叫ぶように──合唱し、数人が歌詞をスマホで検索しているとき、もはや「無関心を装う」ことはできない。シニシズムは皮肉に浸った人間や、ネットに魂を囚われた人間のものだ。このツアーが「体験必須」とされる理由はシンプルだ。スタジアムで数時間、肺が裂けるほど「Supersonic」やほかのヒット曲を叫びながら歌っているとき、2025年という現実に閉じ込められていないことに深く安堵し、過去へと帰れるのだと実感できるからだ。
アリーナにはニュージャージーのヴァイブスがある! アリーナにはオアシスのヴァイブスがある!
From Rolling Stone US.

『オアシス|ネブワース1996:DAY2 Sunday 11th August』
【劇場用4Kデジタルリマスター版】
2025年9月12日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー
鑑賞料金:一般2,300円/学生・障がい者1,800円(税込)
上映時間:約112分
制作年:2021年
配給:カルチャヴィル
協力:ソニー・ミュージックレーベルズ
© Big Brother Recordings Ltd
公式ホームページ:https://www.culture-ville.jp/oasisknebworth0811

『Complete Studio Album Collection』 <8CD/14LP>
全スタジオ・アルバム7作に”裏ベスト”を追加した8作品を網羅した完全生産限定のボックスセット
購入:https://bio.to/Oasis_csacRS

『モーニング・グローリー:30周年記念デラックス・エディション』
2025年10月3日リリース
新たなアンプラグド・バージョン5曲を収録
①限定2CD/②3LP/③デジタルの3形態で登場
詳細:https://www.sonymusic.co.jp/artist/Oasis/info/575184

ベストアルバム
『Time Flies...1994-2009』(2CD限定仕様リマスター盤)
発売中
購入:https://sonymusicjapan.lnk.to/Oasistf9409AW

オアシス来日記念公式サイト
https://oasislive25.jp
日本唯一の公式オンラインストア
「Oasis Live 25 JAPAN Official Online Store」
https://items-store.jp/oasis2025
渋谷・MIYASHITA PARKにて、来日記念ポップアップショップ開催決定!
※詳細な開催日程・内容は、公式サイトおよび公式Xにて随時発表予定