Tohjiの傑作ミックステープ『t-mix』への参加などをきっかけに、日本でも知られるようになったMechatok。
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—こんにちは。いきなりですが、プロレスはお好きなんですか? ザック・セイバーJr.やKENTAの入場曲を手がけていますよね。
Mechatok:ああ、よく知ってるね(笑)。どちらかというと、一緒に曲を手がけた友達のkamixloが大ファンで、彼がプロレスのこととかを色々と教えてくれたんだ。それで段々と好きになっていったって感じ。
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–そういう繋がりだったんですね(笑)。音楽を始めたきっかけや、アーティストとしてのキャリアについて教えてください。
Mechatok:音楽を始めたのは、5歳の頃にクラシックギターを始めたことがきっかけで、18歳くらいまではクラシックギタリストになるために練習を続けていたんだ。でも13歳の頃にGarageBandで少しふざけたような曲を作ってみて、それをSoundCloudにアップしたら、色んな人から反応がもらえた。
それまでは、バンドを中心に音楽を聴いていたから、あまりエレクトロニック・ミュージックを聴いていなかったんだけど、徐々に聞く音楽もバンド音楽から電子音楽へ移行していった。当時はジャスティスをはじめとするエレクトロクラッシュのジャンルが流行っていたかな。でも、特定のジャンルを聞いていったっていうよりも、自分の曲をアップロードしてオンラインで色んな人とつながることで、よりアンダーグラウンドで不思議な電子音楽に出会うことができて、世界が広がっていったっていう感じ。
–とあるインタビューで、ダフト・パンクの『Discovery』をキャリアの出発点として重要なアルバムに挙げているのを見ました。
Mechatok:そうだね。あのアルバムは子供の頃にラジオから流れてきて知ったんだ。『Discovery』は、当時ラジオで普通に流れていたようなアルバムだったから、広く色々な人に聴かれていた音楽だと思う。でも、実際にCDを買ってじっくり聴いてみるととても面白いアルバムで、静かなクラシック音楽みたいな曲から、同じ言葉を繰り返すだけの曲もあって、電子音楽がポップにも、不気味な音にも、アンビエントにもなれるっていう色々な可能性のあり方を示している。自分にとってはあれが本当の意味での入り口だったと思う。
–アーティストとして、クラシックギターからエレクトロニック・ミュージックへと移行する上で他に重要だったと感じる影響やきっかけはありますか?
Mechatok:ゴリラズの影響も大きかったかな。彼らはバンドのようでいて、じつは一人がほぼすべてを手掛けているっていうのが面白かった。
あと、当時のSoundCloudのシーンはとても活発で、曲をアップしたらすぐに誰かから反応があった。自分自身にとっては、特定のアーティストやアルバム以上に、SoundCloudの活発なコミュニティの存在が、エレクトロニック・ミュージックを続けていく上で大きなきっかけになったと思う。音楽をもっと作りたい、もっとシェアしたいと思うようになったし、実際に会ったことがなくてもオンライン上での仲間たちみたいなものができていった。彼らが支えになってくれていた感じかな。
BladeeとEcco2k参加の「Expression On Your Face」
–BladeeやEcco2kといったその後のコラボレーターとなるDrain GangのメンバーともSoundCloudで出会ったんですか?
Mechatok:完全にそうとは言えないけど、まあそんな感じかな。SoundCloudで別の友達と出会って、その友達に会いにロンドンを訪れた時にBladeeやEcco2kと出会ったんだ。 あれは、2015年だったと思う。だいぶ昔のことだよ。だから、SoundCloudで出会ったかどうかってことで言えば、間接的にはそうだと言えると思う。
–あなたが当時拠点にしていたベルリンや、Drain Gangが活動していたストックホルムではなく、ロンドンだったんですね。
Mechatok:ベルリンで会うこともあったよ。当時はみんなが小さなDJイベントをやっていたから、色々な場所で会う機会があった。でも、ロンドンとベルリンがメインの都市だったね。
Bladee、Ecco2kとMechatok
「完全さ」と「不完全さ」の衝突
–今はロンドンが拠点なんですよね?
Mechatok:そうだね。今はツアーとかもあるから、同じ場所にずっといるってよりはいろんな場所を移動している感じではあるけど、拠点って意味ではロンドンかな。
–今回、ロンドンのレーベルである〈Young〉 からアルバムをリリースしたのは、なぜでしょう?
Mechatok:正直に言うと、〈Young〉からは1年半か2年くらい前から連絡を貰っていたんだ。彼らのことを良いと思ったのは、とても大きくてポップミュージックでも存在感のあるレーベルだけど、同時に挑戦的で実験的な音楽にも取り組んでいるってこと。彼らは、必ずしもチャートを意識した音楽でなくても受け入れてくれるし、映像やビジュアルについても積極的にサポートしてくれる。アンダーグラウンドとメインストリームのちょうど間にあるようなレーベルだと思っていたから、自分にぴったりだと思った。
–今回のアルバムはキャリアで初めてのフルアルバムですよね。今がアルバムを出すために良いタイミングだと感じた理由は何でしたか?
Mechatok:本当は3年前にアルバムを出したかったんだよね。でもコロナの後、ツアーに出ることが多くなってなかなか落ち着いて時間を作ることができなかった。
カナダのレゲトン・シンガー、Isabella Lovestoryが参加した「She's A Director」
–なるほど。アルバムにおける美学について教えてくれますか? ご自身の音楽を「ポップミュージック」と表現していますが、今回のアルバムについても同じことが言えると思いますか?
Mechatok:このアルバムについてはパラレルワールドの「ラジオポップ」とか、ビデオゲームの中のラジオで流れているような音楽だと説明してる。アルバムにおいて大事にしたのは、技術的な「失敗」や「不完全さ」をあえて作品に組み込むこと。例えば、壊れたCDプレイヤーで音楽を聞いた時の音が途切れてしまうような感覚とか、そういうものを曲の一部にしたりすることだね。
この美学はアルバムのジャケットでも表現していて、ジャケットには、太い黒い線で描かれたグラフィックの下に、鉛筆で書かれた下書きが透けて見えるようになっている。サウンドに関しても、”下書き状態”のようなボーカルや、ちょっと間違ったサンプル、粗さも組み込みながら、とてもクリーンでクリスタルのように澄んだシンセの音も共存させている。完璧な線と下書きな線で表現したような「完全さ」と「不完全さ」のぶつかり合いこそが、この作品において最も重要な要素であり、自分が表現したかったことなんだ。
『Wide Awake』ジャケット写真
–とても面白いです。「完全さ」と「不完全さ」の衝突という美学に関して、何かインスピレーションはありましたか?
Mechatok:この美学のインスピレーションはオンラインにいる時の感覚から来ている。例えば、ソーシャルメディアのフィードをスクロールすると、すごくリッチでグロッシーなビデオや派手な広告ばかりが目に入る。
–そのような美学をアルバムとして表現するにあたり、これまでのシングルやEPといったプロジェクトと比較して、制作プロセスに違いはありましたか?
Mechatok:EPの場合、基本的には1つのコンセプト、つまり1つのアイデアや1つのサウンドを4つくらいのバリエーションに展開して作ることが多い。でも今回のアルバムの場合は、1~2年かけて色々な都市でレコーディングしたものを集めて構成したんだ。だから、アルバムにはインディーロックっぽい曲もあれば、ダブステップ風のベースがある曲もあって、アルバムの制作は、ジャンル的にかなり違う曲同士をつなぐ「赤い糸」を探すような作業でもあった。俺にとって今回のアルバムを作るのは、短編映画ではなく長編映画を作るような感覚だったかな。EPが「一つの場所を探検する」ものだとすれば、アルバムは「いろんな場所を旅する」もの。重要だったのはその旅をどうやって一つの流れとして成立させるかだった。
Tohjiとの絆、f5veとのコラボ、日本とK-POPへの関心
–このアルバムの「旅」には、f5veやTohjiといった日本人アーティストも参加しています。彼らとのコラボレーションの経緯は何でしたか?
Mechatok:Tohjiとの出会いは、今から4年ほど前に、Tohji からミックステープ『t-mix』 のプロデュースを手伝ってほしいと言ってくれたことがきっかけ。
海外からコラボしたいって言ってくる人は、だいたいビートを送ってほしいとかそういう形になるのに、Tohjiは違った。実際に俺の家に来て一緒に作りたいと言ってくれたんだ。そうやって、同じ時間と場所を共有して制作をするのは特別なことだし、それが今に至るまでの特別な関係性の始まりだったと思う。その後、Tohjiには俺のロンドンのパーティーにも来てもらって、そこでパフォーマンスしてもらったんだけど、それからは本当に仲良くなって、一緒にどんどん音楽を作るようになった。だから今回のアルバムに参加してもらうのは自然な流れだったよ。彼は本当にクールなアーティストだね。
「200 (feat. Tohji)」
Mechatokが参加したTohji「ULTRA RARE」(『t-mix』 収録)
–国境をこえてオーガニックにコラボレーションが始まって、今も関係性が続いているのは、本当にすごいことですよね。
Mechatok:そうだね。f5veに関しては、まず俺は昔からPerfumeや中田ヤスタカの大ファンで、2000年代のJ-POPのガールズグループの時代がとても好きだったんだ。当時のJ-POPのシーンには、フレンチシーンとの共鳴があったように感じていて、それが面白いと思うんだよね。だってフレンチ・ハウスと日本の音楽ってすごく遠くにあるように見えるけど、それがまるでパラレルワールドのように並行して存在してるってすごくない? 今はK-POPが人気だけど、f5veが出てきたときに「あ、これは新しい時代のJ-POPグループだ」と思った。だから彼女たちと制作をするのは、自分が好きなあの時代へのオマージュとしてクラシックなJ-POPのような曲を作りつつ、実験的な要素も入れたいと考えていたよ。
制作を通じて感じたのは、彼女らがとてもインディペンデントな精神を持っていて、自分たちのクリエイティブにも深く関与しながら、活動しているグループってこと。アイドルグループはレーベルに強くコントロールされることが多いけど、f5veはもっと自由で、それがとてもクールだと思った。
–東京では、Tohji主催のパーティ〈U-ha〉を含め、何度もパフォーマンスしていますよね。日本の音楽シーンやクラブカルチャーについての印象はどうですか?
Mechatok:日本では東京でしかプレイしたことがないんだ。他の都市でもいつかやってみたいけどね。東京は自分にとって深いつながりがある都市で、初めてアジアツアーをした2015年に訪れた時からたくさんの友達ができた。その中には、Kiriという友達がいて、彼はいろんなプロジェクトをやっているとても才能のある人なんだけど、彼が毎年のように東京に呼んでくれるようになったんだ。最初に東京に行った時は18歳くらいだったけど、それから10年近く毎年のように東京に行っている。とても特別なことだよ。
東京に来ていつも感じるのは、オーディエンスが本当に音楽に対して情熱を持っているってこと。〈U-ha〉は規模の大きいイベントだけど、オーディエンスのみんなが本当に音楽を聴きに来ている感じがする。ロンドンやベルリンだと、多くの人は音楽ではなく、パーティーを楽しむために来ていて、そこでDJやアーティストはクールなものだと思われているかもしれないけど、音楽がフォーカスされることはそこまでない。東京では、アーティストに対するリスペクトを本当に感じるし、次にどんな曲がかかるのかをみんなが真剣に聞いている。自分にとってはその感覚がとても新鮮だったし、俺は4時間ずっとテクノをかけるようなタイプのDJではないから、東京でプレイするのはいつも本当に楽しいよ。
TohjiとMechatok
–影響を受けた日本のカルチャーはありますか?
Mechatok:難しいな.....影響を受けたものが多すぎて(笑)周りの友達はみんなアニメが好きだけど、俺はアニメとかよりも他の要素から影響を受けることが多かった。例えば、Hanayo(花代)というアーティストからはとても影響を受けた。彼女は、ヴァネッサ・パラディの「Joe le taxi」をカバーしていたりもするんだけど、本当に素晴らしいよ。2000年に出した『Gift』というアルバムは、パフォーマンスアートと音楽の間のような作品で最高だね。
–Hanayoさんのことはどうやって知ったんですか?
Mechatok:ベルリンの友達から教えてもらったんだけど、実は、その友達のお父さんが昔Hanayoと付き合っていたんだ。というか、その友達のお母さんがHanayoだったんだよ(笑)。それを知ったときは「マジか、クレイジーだな」って思った(笑)。
–すごい(笑)。
Mechatok:2000年代初期の日本のストリートウェアにもかなりハマってた。さっき話した友達のKiriがその時代の伝説的な人たちについていろいろ教えてくれたんだ。特にBAPEのオリジナルグラフィックが大好きで、彼らは今では超メインストリームだけど、子供の頃は雑誌に載っている彼らの広告を見るだけで本当にかっこよく感じたよ。あ、そうだ、ちょっと待って(背後に物を取りに行く)この雑誌、知ってる?
–お!『アイデア』 ですね!
Mechatok:そう! 俺はこれまでもグラフィックデザインの勉強もしてきたから、『アイデア』 の古い号を読むといつもすごく刺激をもらえるんだ。アートワークを作るときにはよく参考にしているよ。
–デスクの真後ろに雑誌が置かれているのを見て、普段から読まれているのが伝わってきました(笑)。今、ポップカルチャーにおいて注目しているものは何ですか? Instagramのストーリーで、BLACKPINKのコンサートの動画を上げているのを見ましたが。
Mechatok:ああ、行ったよ(笑)。個人的に、K-POPは80年代のポップミュージックの雰囲気に近い感じがするんだよね。あの時代はマイケル・ジャクソンのアルバムに莫大なお金が投じられていたし、ミュージックビデオもまるで映画のように作られていた。でも、今のポップミュージックでは、もうそういうことはあまりやらなくなっているよね。今はストリーミングが中心だから、フルのミュージックビデオよりも、InstagramやTikTokで30秒だけ観るためのショート動画の方が重要だと考えられている。
でもK-POPだけは、まだ80年代のポップミュージックの巨大なスケール感で動いているような気がしていて、フィジカルも大量に売っている。今の時代でも「ポップミュージックの黄金時代」が続いているようなノスタルジアを感じられて面白いんだ。K-POPに関しては、曲そのものをすごく好きになることもあるけど、同時にスペクタクルとして楽しんでいる面もある。どちらにせよ魅力的なカルチャーだと思うよ。
–その視点はあまりなかったです。
Mechatok:今のアメリカのポップミュージックには正直そこまで惹かれないんだよね。どこか無難で、クレイジーで突き抜けたものがないというか。ソーシャルメディアの影響もあると思うけど、よりビジネス的になって、投下した予算をどう回収するかとかそういう話の方が前面に出てきてしまう。だから、無茶な予算をかけられなかったり、より手堅くヒットを作る方向性に行かざるを得なかったりと、そういう感じになっている。別に誰かを悪く言いたいわけじゃないんだけどK-POPと比べると、あまり刺激的じゃないように感じてしまうんだよね。もちろんK-POPの業界にもいろいろ問題があるけど、それでも「とんでもないことが起きている」という感覚がある。
–なるほど。とても面白いです。今回のアルバムを「パラレルワールドのポップミュージック」と表現されていたように、ポップミュージックと実験的な要素の両方を模索しているあなたがこれからどんな音楽を作っていくのかがますます楽しみになりました。
Mechatok:ありがとう! 良い音楽を届けられるようにがんばるよ。
Mechatok
『Wide Awake』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15143


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