音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。
本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japan新連載。記念すべき新創刊号のゲストは、孤高のギタリスト、INORANだ。

Coffee & Cigarettes 02 | INORAN

ソロやユニットに限らず、愛器のジャズマスターとともに音楽活動を精力的に行う孤高のギタリスト、INORAN。12月にはLUNA SEAの一員として4年ぶりの新譜『LUV』を発表。そんな彼の音楽へのこだわりにフォーカスしてみた。

今回のLUNA SEAのアルバムの僕のこだわり、裏テーマは5人全員の曲がアルバムに収録されていることだったんです。「Ride the Beat, Ride the Dream」は真ちゃん(真矢の愛称)と一緒に作った曲。ライブでやると新しい扉が開く気がする。

LUNA SEAのギタリスト、INORAN。正直ミュージシャンとは思えないほどの丹精なルックス。実際、黄色い声援もあまた浴びてきた。だが、この男の魅力は当然ルックスだけではない。

 
音楽へのこだわりと姿勢がすごい。この場合の”すごい”は、ストイックという意味ではない。どこまでも肩の力が抜けてフラットなのだ。フラットなんて書いてしまうと、それはいかにもイージーな感じがしてしまうが、日本ロック界の頂点にいるLUNA SEAをやりながら、INORANは、ソロ、MuddyApesなどいくつもの形態で音楽活動をしている。肩の力が入って当然、むしろ肩の力を入れずに生き馬の目を抜く音楽業界をサヴァイヴするのは至難の業といえる。

INORANにとって実家ともいえるLUNA SEAのニュー・アルバム『LUV』が12月20日に発売になったが、ここでもINORANはフラットだ。バンドとしては4年ぶりの作品で、今の音楽業界における4年はかつての10年には余裕で匹敵する。音楽を聴く環境は変わり、チャートを賑わしている面子も随分と違う。その変化に対応するのにベテラン・バンドが若手にはできないないコンセプトを立てて作品に臨むことがあっても不思議ではない。

だが、INORANは今作『LUV』の制作をこう振り返った。「LUNA SEAはメンバー全員が曲を作るから、皆でこういうアルバムを作ろうというのはなくて、それぞれ曲を持ち寄ったら、こういう作品になったという感じかなぁ。いろんなところに降った雨が一カ所に集まって、湧き水とし出てくる。
その味は実際に飲んでみないと分からない。今は湧き上がってきた『LUV』を味わっているところかな」。では、どんな味なのか聞いてみると「最高ですね」と破格の笑顔で答えくれた。

ちなみに、アルバムは全12曲で、そのうちの3曲をINORANが作曲。そのなかではLUNA SEAとして異色のインストダンスチューン「Ride the  Beat, Ride the Dream」の存在が一際目立つ。この曲、INORANとドラムの真矢との合作で、しかも真矢のボイスがフィーチャーされている。「今回のアルバムの僕のこだわり、裏テーマは5人全員の曲がアルバムに収録されていることだったんです。

”Ride the Beat ~”は真ちゃん(真矢の愛称)と一緒に作ったのと、真ちゃんの声を入れたくて。これをライブでやると、何か新しい扉が開く気がしていて」と。

話を聞いていて、ふとINORANがかつての取材で言って言葉を思い出した。「木を見て森も見る」。アーティストというのはとかく「木を見て森を見ず」の人が多い。
というのも、そんなところまでこだわるの!という、こだわりがモノづくりを作品に昇華させる。INORANは、もちろん木もみるが、常にメンバーやバンド、アルバム全体を気にする。つまり森もしっかりと見れている稀有な存在なのだ。実際に今回のアルバムのギタープレイに関してもこんなふうに語ってくれた。「決していい加減という意味ではなく、一つ一つのギタープレイへのこだわりはないです。それより、楽しみながら演奏することを大事にしていて。そういうプレイがみんなを幸せにすると思うから」。だからと言って、INORANのギタープレイにこだわりがないという認識は違う。

ギター好きの人に聞けばわかるが、”INORAN以前・以降”という言葉がある。LUNA SEAはご存知の通り、SUGIZOとINORANのツインギターだ。SUGIZOがいわゆるリードギターの立ち位置に対してINORANはサイドギターを担当している。ギターの華はやはりリードギターで、サイドギターがスポットライトを浴びることはなかった。
ところが、INORANのLUNA SEAにおけるギタープレイがサイドギターの歴史を変えた。「I for you」などの曲に代表されるINORANの正確無比なクリアトーンのアルペジオ(通称INOぺジオ)は、LUNA SEAサウンドの要で、このサウンド、プレイに憧れたギターキッズたちがたくさん生まれた。

実はこのクリアトーンのアルペジオの奏法については何度か取材で聞いたことがあったが、INORAN自身から明確な発言を聞いたことがなかった。が、今回INORANが口を開いた。「例えば、他のバンドの誰かが弾くアルペジオを”これINORANぽくない?”って言われることがあるんですが、似てると思ったことは一切ないですね」と珍しく強い口調で言い切った。INORAN曰く、音には弾く人の性格などあらゆるものが含まれるという。例えば、INORAN自身の弱い部分がピッキングの弱さに表れていて、それが音に反映される。だから、仮にINORANのギター・スタッフが、同じ音色に設定して同じギターで弾いたとしても、INORANと同じ音は出せないと言い切る。さらに今回、INORANはアルペジオの技術的な解説もしてくれた。

「スーパースローで僕のアルペジオを再生すると、すごく変な弾き方をしてるんですよ。ピックのしなりとかも独特だし、独特のタイミングでピックを弾かないとあの音は出ないんです。だから、僕の弾き方をそのままマネしても再現できないと思いますね。


それは自信とかそういうことじゃなくて」と前置きして、大好きなタバコを例にこんなふうにまとめてくれた。

「だから仕草に近いんだと思う。例えば、タバコを吸う仕草。松田優作さんの喫煙姿ってかっこいいでしょ。同じ服を着て、同じ髪型にして、同じタバコを吸っても、優作さんと同じにはならない。タバコを吸うスピード、呼吸、持つ角度……それは本人しかできないことで、たとえ優作さんの子どもでも同じにはならないと思う」

それにしても、INORAN自身はリードギターを弾きたいという衝動に駆られることはないのだろうか? いくらサイドギターの美学があるとしてもだ。INORANにそんな素朴な疑問をぶつけてみた。「サイドギターは僕の性格に合っていたんです」とさらりと答えてくれた。

LUNA SEA、INORANが考える「脇役の美学」とは

Photo = Kentaro Kambe

LUNA SEAにはSUGIZOというX JAPANのメンバーに抜擢されたほどの強烈なギタリストがいる。この2人のコンビネーションこそがLUNA SEAの武器なのだが、いい意味でも悪い意味でも2人は比較されてきた。若き日のINORANは音楽雑誌のインタビューで、ギタリストとしてSUGIZOからの影響を公言してきたし、ある種のコンプレックスも吐露してきた。「実は今でもSUGIZOに対するコンプレックスはあります。
僕なんかがギター専門誌に出るのは恐縮しちゃうぐらいで。でも、PCを速く打てるからと言ってそれでPCを全部使いこなせているわけじゃなくて。PCを打つのがゆっくりでも、PCをちゃんと使いこなせてる人もいる。僕はそんな感じかも。それと、役者でも主役を張らない脇役っていますよね。そういう脇役の美学が好きなのかもしれない。でも、脇役だからと言ってサブじゃないんでね」と、不躾な質問にも笑顔で答えてくれる。

脇役の美学……ならばINORANのサイドギターの美学とはどんなものなんだろうか? 「支える気持ち、かな。自分が今この場にいられるのはそういうのがあるから。それはバンドの話だけじゃなくて。この世の中、生きて行くにはいろんな人に支えてもらっているという気持ちを持つことが大事。だけど、自分も支えている。そういう姿勢は大事にしてますね」と教えてくれた

そしてINORANの木を見て森も見るギタープレイはLUNA SEAのライブでもいかんなく発揮されている。以前、ドラムの真矢に取材した際に、こんな話をしてくれた。ライブで演奏が激しくなり、ボルテージが上がると、どこのパートを演奏しているのか分からなくなることがあるという。そんなとき真矢はイヤモニのINORANのパートのボリュームを上げるそうだ。そうすると正確無比なINORANギターが今の演奏地点を教えてくれる。まるで、道なき森の中を歩くための地図のように。INORAN本人にこの話を告げた。「確かに、情熱と冷静の両方を意識して演奏をしていると思いますね。そんなふうに演奏できているとしたら、それはメンバーのおかげでもあるけど」とここでもINORANの眼差しはメンバーみんなを見ている。

ただ、こんな話を付け加えてくれた。「昔は冷静なだけだったんです。でも、LUNA SEAが2000年に終幕(活動停止)して、そのあと2010年にREBOOT(活動再開)として海外を回ったとき、それまで行ったこともない場所なのに、僕らの音楽を聴いてくれていた人が大勢いたのと、自分のソロ活動も2011年にリリースしたアルバム『Teardrop』からロックにシフトしていくなかで、ロックはずっといつも自分の近くにあったことに気づいて。ロックの持つ熱というか、もっと自分も出していこうと思えたんです。僕はEDMのDJでもないし、アスリートでもない。ロックを奏でているんだからって」

その冷静さと情熱の切り替えのスイッチに一役かっているのがタバコのようだ。実際、アルバムのレコーディングでも気持ちや頭の切り替えにタバコは必需品だったという。そして最後にこんなエピソードを教えてくれた。「スタジオの喫煙所が屋外にあるんですよ。タバコを吸うときに外の空気とか天気とか気温が分かるんです。今、冬が近づいてるんだとか、今日は天気がいいなぁとかさ。一服しながら上を見る……。それに喫煙スペースって気を張らず人間とコミュニケーションができる場所だったり時間だったりするよね。そういうことの大事さが分かるようになったなぁ。そんなことを考えながらいつも上向いてタバコを吸ってたよ」と。

木を見て森も見て空も見る。少し出来過ぎな感じだが、そんなことがさらりとできてしまうほどINORANの音楽人生は今充実している。

LUNA SEA、INORANが考える「脇役の美学」とは

『LUV』
LUNA SEA
ユニバーサルミュージック
発売中

INORAN
1970年生まれ。1989年に現メンバーでLUNASEA を結成。1997年よりソロ活動も開始。他にもMuddyApes、Tourbillon などで活動する。LUNA SEAの最新アルバム『LUV』を引っさげ、2018年1月27日より全国ホールツアー「 LUNA SEA LUVTOUR 2018」が始まり、全国9カ所18公演を行う。
http://inoran.org/
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