全米チャート首位を獲得した2024年の傑作アルバム『CHROMAKOPIA』を引っ提げ、北米、ヨーロッパ、そしてアジア圏を廻る大規模ツアーを開催中のタイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)。ここ日本では前回のツアーより8年ぶりの公演となり、フロントアクトを務めたParis Texasとともに有明アリーナに集った大勢のファンたちを沸かせた。
この8年の間に、『IGOR』、『Call Me If You Get Lost』と2作続けてグラミー賞にて最優秀ラップ・アルバム部門にも輝いている。アーティストとして幾分にも成長を遂げたタイラーによる熱狂的な一夜、二日間にわたって開催された東京公演の初日の様子をレポートする。

タイラー・ザ・クリエイターがアルバム『CHROMAKOPIA』とともに作り出した架空のキャラクターであるSt.Chroma。そのモデルと言われているのが、子供向けの小説「The Phantom Tollbooth(邦題:マイロのふしぎな冒険)」に出てくる”Chroma The Great(クロマ・ザ・グレート) ”というキャラクターだ。クロマは色彩を音として操る指揮者であり、彼とその音色がなければ、世界に色彩は存在しない。彼が指揮棒を振ると、その身振りに合わせて空の色が夕焼けから闇の夜へと変化する。今回、8年ぶりの来日公演を果たしたSt.Chromaことタイラー・ザ・クリエイターのパフォーマンスも、まさにクロマ・ザ・グレートの魔法のようなステージであった。綿密に計算された照明と色彩は、まるでタイラーの感情を代弁するかのよう。作品、そしてツアーのテーマカラーである黄緑を基調としながら、時に赤く、時に紫色に空間を彩り、観客の心を操っていく。非常に高度なステージ演出であった。

今年の2月にアメリカから始まった「Chromakopia: The World Tour」は、実に96公演に及ぶ一大ツアーだ。東京を含むアジア・オセアニア地域でのライブはツアーの終盤にあたり、その間(つい先月)には、ツアーの最中に新作アルバム『DONT TAP THE GLASS』をリリースしたことでも話題になった。
このアルバムが発表されるまで、本ツアーのオープニング曲は「St.Chroma」が常だったのだが、『DONT TAP THE GLASS』がリリースされてからは、アッパーでダンサブルな「Big Poe」が本編の幕開けを告げるナンバーに。東京公演の初日も例外ではなく、フロントアクトのParis Texasがガンガンに温めたステージの上、炎とともに「トーキョー、盛り上がれ!」とシャウトしながらタイラーが登場した。

オーディエンスの叫びのような歓声に迎え入れられつつ「Sugar On My Tongue」へ。肩を震わせながらアッパーなパフォーマンスを終えると、「St.Chroma」のイントロが流れる。客席からはアルバムのタイトル名を連呼するチャントが生まれ、照明は黄緑色に変わる。強弱をつけながら光る照明は、そのままタイラーと観客の感情レベルを上げていくようでもあった。迫力のサウンドも相まって、タイラーのラップには剥き出しの感情が宿る。

#タイラー・ザ・クリエイター
CHROMAKOPIAツアー来日公演
RECAP①

”Big Poe”/ ”Sugar On My Tongue”

最新アルバム『DONT TAP THE GLASS』収録曲で公演を幕開け
会場の熱はいきなり最高潮に

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「Rah Tah Tah」の後、声を震わせながら〈Im Paranoid〉と歌う。「もしよかったら、みんなもこんな風に一緒に歌ってほしい」と呼びかけて「Darling, I」へと移り、バウンシーなマーチングバンドのアレンジが華やかな「Sticky」へ。その後、ガラッと雰囲気の異なる流麗なピアノのイントロが流れる。ステージの上に座りながら、”マスクを外して本当の自分を見つけよう”というメッセージが込められた「Take Your Mask Off」へ。内省的なリリックが胸を打ち、スクリーンに映し出されたタイラーは、文字通り汗を垂らしながらマイクと、そして観客と向き合いながら感情的にラップする。
その後、スクリーンにはオープニングと同じ〈DONT TAP THE GLASS〉の文字が映し出され、「Stop Playing With Me」へ。ちなみに他会場でのセットリストを見ると「Take Your Mask Off」の次に「Stop Playing With Me」へと移る構成は珍しく、この日の東京公演が初めてだったのではと思う。

一度、照明は暗転。タイラーが「アリガトウ」と切り出し、「もっとみんなが見えるように、客席を明るくしてくれ」と呼びかける。『DONT TAP THE GLASS』と『CHROMAKOPIA』の2作をテーマにした狂乱のパートを脱し、今度は生身のタイラーが客席に呼びかけるように「EARFQUAKE」(こちらはほぼオーディエンスの合唱のみで締められた!)、「ARE WE STILL FRIENDS?」と続く。フランク・オーシャンのフックが響き渡る「She」、はち切れんばかりのビートが鳴り響く「Tamale」と、過去の作品からメドレー的に歌い、ハンズアップを呼びかけつつ「IFHY」へ。〈I fucking hate you, but I love you〉の大合唱の後に、長めのイントロを経て「Lumberjack」「DOGTHOOTH」「WUSYANAME」「SORRY NOT SORRY」へとクライマックスに向けて怒涛の攻勢を仕掛けていく。フラッシュ照明と一緒に盛り上げる「Who Dat Boy」も圧巻の迫力だ。

ピアノの伴奏が流れ、ピンスポットに照らされたタイラーが歌うのは再び『CHROMAKOPIA』からとなる「Like Him」だ。〈僕は幽霊を追いかけているみたい。僕、彼に似ているかな?〉と歌うこの曲は、実父の不在を歌ったプライベートな曲でもある。キラキラした火花のカーテンに照らされながら渾身のリリックをラップするタイラーは、この上なくソウルフルであった。


#タイラー・ザ・クリエイター
CHROMAKOPIAツアー来日公演
振り返り④

”EARFQUAKE”

”笑いの間を分かっている”と話題のMCで紹介したのは、2日間とも最も大きな合唱が起こった『IGOR』収録のこの大名曲!

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タイラーから日本へのメッセージ

いよいよ終盤。照明が明るくなり、タイラーが改めて口を開いた。「俺はカリフォルニアのロサンゼルスから来た。俺も、Paris Texasも、日本の東京で何日もライブができることをとても感謝している。みんなが俺たちを愛してくれている証拠。日本はとても美しい国で、人々も素晴らしい。豊かなカルチャーがあって、人と人の優しさもあって、俺たちの国もこうだったら、と思う。みんなにはそのことを誇りに思って欲しい。俺は、君たちのことを本当に誇りに思うよ。君たちは……ファッキン・オーサム・シット!アリガトーーーーーー!ゴッド・ブレス・ユー、マザーファッカー! あと数曲でライブを終える前に、それぞれ一人ずつのマザーファッカーたちに感謝したい!!」と熱いスピーチを終え、会場はさらに大きな歓声に包まれた。

タイラーのエネルギーに対して、120%のパワーで応えるオーディエンス。再び照明が落とされ、「SEE YOU AGAIN」をパフォーム。
センチメンタルなメロディとタイラーのラップにどっぷりと浸るように、この日一番の感動と興奮が会場を包み込む。そのまま間髪入れずにアグレッシブな「NEW MAGIC WAND」ヘと移り、最後の最後まで最高潮のエネルギーを炸裂させたまま、ステージが終了した。個人的には多くの会場でクライマックスを彩った「I Hope You Find Your Way Home」での大団円を楽しみにしていたのだが、時間の都合もあったのか、この日は演らず。またの機会のお楽しみに、ということか。

ラップの魔術師、タイラーによる光とビートのイリュージョン。マイク一本を握り締め、極限のラップ・パフォーマンスで我々オーディエンスを魅了しきった楽曲を通して喜怒哀楽の感情も溢れ出し、どこまでも人間臭く、オーディエンスたちは改めて彼の魅力の虜になったはずだ。ちなみにタイラーは前半のMCでも2011年に初来日したことに触れており、節々に彼が抱く日本への愛情を感じたステージでもあった。思えば、前回、前々回の来日公演の会場は恵比寿のリキッドルーム。8年の時を経て、会場の規模は約10倍になり、ファンベースも広がった。あなたの音楽がなければ、この生活は色彩を失っていただろう。私たちこそ、あなたのことを誇りに思う!

#タイラー・ザ・クリエイター
CHROMAKOPIAツアー来日公演
振り返り⑦

”See You Again”

名曲揃いのタイラーの楽曲の中でも根強い人気のこの曲も大合唱に…!
タイラー日本に来てくれてありがとう

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タイラー・ザ・クリエイター来日公演を総括 東京の大観衆と高め合う極限のラップ・パフォーマンス
画像

タイラー・ザ・クリエイター来日公演 公式ライブセットリスト
https://tylerthecreatorjp.bio.to/CHROMAKOPIA_TOKYOSETLISTTW

タイラー・ザ・クリエイター来日公演を総括 東京の大観衆と高め合う極限のラップ・パフォーマンス

最新アルバム『Dont Tap The Glass』
再生・購入:https://tylerthecreatorjp.lnk.to/DTTG
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