【写真を見る】
ー夏をテーマにしたEPということですが、今年の夏はどのように過ごしていますか?
去年よりかは行けてないんですけど、島に行って海に行って、洞窟に潜ってなどしていました。でも体を壊すことも多くて、扁桃腺が腫れたり風邪を引いたり、ぎっくり背中になったり……。8月も2週間くらいは寝てました。
ー去年もJJJさんとの『Radiant』やEP『Secure』のリリースが相次ぎました。そして、今年に入ってから毎週のようにDaichiさんがフィーチャリングで参加している楽曲がリリースされている。すごい作品量だなと思って。
今年のPOP YOURSくらいまでは、ライブやフェスにたくさん出ていたんです。それが一旦終わって、また自分の制作期間に入ろうと思ったら、客演の仕事もたくさん来たので(そのタイミングで)バーっと。その流れで、客演のライブにも出て。今は、ツアーに向けて準備をしているところです。
ーフジロックにも出演されていましたよね。
今回は2日間で合計4ステージ出ました。ジェイムス・ブレイクとリトル・シムズも観れたし、DJタイムも楽しみましたね。朝5時くらいまで外で踊ってたら、空が明るくなってきて。「昔ってこうだったんだなー」って勝手に原始の時代に戻ったような気持ちになりました。。新しい村とかできたら、みんなでそこにモノとか持っていって、みんなで「仲良くしよう」って朝を迎えてキャンプファイヤーして「ほな!」って帰っていくんやろな~みたいな。その後、ちゃんと体調崩しましたけど(笑)。
ーそうした間も、常に制作モードがONになっている状態ですか?
いや、この2、3週間くらい、曲を書かない時間があって。それはすごく久しぶりだし不思議でした。さっきも言った通り身体も不調だったので、気持ちもケガに引っ張られてダウンしちゃって。(曲を)書こうとしても「書いてもな……」みたいな。
ースランプの時はどう対処していますか?
少し前に、『The Artist Way(日本語訳タイトル:ずっとやりたかったことを、やりなさい。)』という本を読んだんですよ。この本はDoechiiも読んでいる本で、アーティストでいるためのハウツー本というか、一章ごとにタスクが与えられるんです。「毎日、日記を書きなさい」とか。その中で、「自分のクリエイティヴィティは子供だと思って接しなさい」と書いてあって。要するに「甘やかす時間が必要」ってことなんですけど、この数日、甘やかしていたんですよね。Uberでてりやきマックバーガーを頼んだり、夜な夜な、ビールを飲みに行くためだけに遠出して映画館で映画を観たりして……と。そうしたら二日前くらいに曲が書けたので、本で言っていることも一理あるかな、と思いました。
ーフィーチャリング仕事のリリース量もかなり多いですよね。毎週のように、Daichiさんが参加している楽曲が発表されているように思います。この取材の数日前にも勢喜遊 & Yohji Igarashiの新曲「tombo feat.Daichi Yamamoto」が発表になりましたし。
色々タイミングが被ったんですよね。(客演に関して)「今、タイミング的に無理だな」ってやつは断っているし、何もしていない時はずっと天井を見ているんですけど、面白そうだったらやりますし、自分が元気な時は「今ならイケるな~」って受けちゃうんですよね。それで、タイミングが被っていく。
ーそうなんですか。デビュー以降、今が一番忙しいのでは?
どうなんだろう? そんな気持ちもないですけどね。なんだったら、アーティスト活動を始めた時はバイトしながらやってたので、その時の方が今よりも忙しかったと思います。バイトを辞めたのは2020年とかなんですけど、今でも一日中はずっと(制作が)できないんですよ。だから、余った時間の使い方っていうのを、この2~3年はずっと模索しています。

Photo by Ryosuke Hoshina
自分の恋愛に(アーティスト性が)繋がりすぎてる
ー新作EP『Box of Summer』について聞かせてください。最初から「夏の作品にしよう」と目掛けて作っていたものですか?
前に作って「出すタイミングがないな」と思っていた曲も収録したEPなので、結構昔の曲もありますね。昨年末にリリースした『Secure』というEPの制作中に色々と作っていたものもあって、『Secure』のスピンオフ的な感じもあります。「夏っぽい曲が出来てるな?」と思ったので、「夏EPにしよう」と。
ーDaichiさんのリリックは写実的な描写と内省的・情感的な描写がいい具合に混ざっているのがいいなと思っていて。そういう意味では、なんだか夏の絵日記を読んでいるような気持ちにもなりました。「Rain」などは特にそれが顕著かな、と。
「Rain」は子供っぽくていいなって(笑)。プロデューサーのGachaMedzさんが「夏のビート集」というのを送ってくれて、そこから選びました。Gachaさんは、冬になると「冬のビート集」っていうのも送ってくれるんです。
ー「Salty Dog」はバーを舞台に女性との駆け引きが展開される。今回のEPの中で一番古いものですね。
2023年か2022年に書いた曲です。
ー「100%」はダブ調の曲で、イントロでは〈忘れられない恋愛したことある奴ら〉と呼び掛けている。『Secure』も恋愛のトーンが色濃い作品でしたけど、「100%」では恋が終わったことを明示していて、どんなストーリーを経た曲なんだろうと勝手に想像力が掻き立てられました。
NGONGさんと「夏っぽい曲を作りたいっすね」と去年くらいから話していて。彼とは会ったことないんですけど、何曲かやりとりして作っている中でこれが一番スッと書けた曲です。これも『Secure』を作っている時にできた曲なんですけどね。恋が終わって、「次、行きまっか!」みたいなテンションもありつつ。じめっぽくなるのではなく、もうちょっとレゲエのビートで鼓舞してくれる、というような、そういうところを強調したくて「忘れられない恋愛したことあるやついるかー!」ってイントロを入れたんです。
ーDaichiさんが書く恋愛系のリリックはどれもツボなんです。『Secure』に収録されていた「夜中の爪 ft. Elle Teresa」の、もうどうにもならない感じとか。ご自身の日常生活と恋愛状況、そしてアーティスト性は、どう結びついていますか。
繋がっちゃってますね。
ー「100%」では〈簡単な男ではない〉と歌っている。恋愛には慎重なタイプですか?
いや、全然。すぐ好きになります(笑)。
ー最後に収録されている「Summertime Freestyle25」は最近録ったものですか?
一番最後に録って、リリースするギリギリににRECしたんです。
ーRama Panteraさんという方がフィーチャーされていて、今作では唯一の客演ラッパーですよね。
SNSで彼のことを知ったんですけど、まず名前がキャッチーだなと思って。「誰なんだろう?」と聴いてみたらヤバかったんですけど、Spotifyのページを見たら、月間リスナー数が120人とか、それくらいだったんです。「いやいや、おかしいでしょ」って。インスタのフォロワー数も少なくて、スキルと数字が一致していないなと思って自分からDMしました。
ーそうだったんですか。相手からは詐欺だと思われたんじゃないですか。
言ってましたね。「詐欺だと思いました」って。ヴァースを書いて送ったら、すぐ返ってきたんですよ。せっかくだからってことで、顔合わせがてら本録りをスタジオでやってみよう、ということになり、次の週にエンジニアのSHIMIさんのスタジオで一緒にRECしました。
ー「こいつ、いいな」と思う若手ラッパーの特徴やポイントはありますか?
Ramaさんに関して言えば、ラップのポケットやリズムが完璧だったので。彼のラップには、聴いたことがあるような部分もあるけど、新しい部分もある感じがして。それと、あとから気づいたんですけど、リリースペースがめちゃくちゃ早い。「書く子だな」と。そういう人とやるとヴァイブスが上がります。「Summertime Freestyle25」もバチバチで良かったですね。
ーこの曲、Daichiさんのヴァースには色んな人の名前が出てきます。SkaaiさんやA&Rのマサトさん、沖縄でKojoeさんと会ったエピソードなども。
ここ最近、色々あったなと思って。周りの人への感謝というか、そういうものを大事にしたいなという気持ちがあったんです。この曲、本当はもっと名前の羅列が続いていたんですよ。でも「終わりがねえな」って思って、ちょっと短くしました。これから始まるツアーの名前も「Tidy Up Tour」と言って、”整理整頓”という意味を込めたんです。自分の周りのことや記憶、作品も整理整頓しようみたいな感覚で。なので、この曲は次のツアーのテーマにも引っかかっている曲でもあります。

Photo by Ryosuke Hoshina
「思い出を整理整頓しつつ、それをアルバム・サイズに作り替える」
ーツアーに向けて、今後の新作の予定などは決まっていますか?
アルバムを出します。もう出来上がっていて、ツアー前に出せたらなと思っています。『Secure』ももともとアルバムにしようとしていたんですけど、作業が追いつかない分もあったんですよ。でも、その作業が今年に入ってからどどどーっと続いたんです。なので、「思い出を整理整頓しつつ、それをアルバム・サイズに作り替えよう」と。ゲスト・ラッパーもいつもより多いです。Benjazzy、MFSとか、初めて組む人もいます。今まで、客演のアーティストはすごく絞っていた感じもあるんですけど、今回はそこに対して制限を緩めようと思って。ただ、自分が興味がある人とやりたいな、と。Benjazzyは無茶苦茶ラップが上手いので、ただただ(彼のラップを)聞きたかったので声を掛けました。MFSは、自分とQuinimuneさんが一緒にロンドンに行った時に作った曲なんですけど、MFSから「ロンドンに行くんですけど」と連絡をもらったことがあって。その時に、自分からおすすめの場所を教えたりしつつ「帰ってきたらこの曲にヴァースを入れてください」と(MFSに)お願いして。「(ロンドンでの)思い出を書いてくれないですか?」と頼んだんです。そしたら、書いてくれて、曲にしました。めちゃくちゃいい曲に仕上がったと思います。
ーそうだったのですか。今年に入ってからのDaichiさんのステージを見ていると、コーラスや楽器の中に溶け込んでいるというか、ミュージシャンたちと一緒にステージの上に波を作って、それを乗りこなしている感じがあるなと思ったんです。
昔より、ライブしやすくなったと思います。楽曲を再現するというところから、ライブを楽しむという点にシフトしたら、ライブして楽しい時間が増えたなあ、と。たとえば、バンドのライブに客演で出た時、ライブ中にちょっとしたミスやズレがあると、逆にテンションが上がるんです。そういうことを経験して、いい意味で諦めがついたのかもしれない。「完璧にやろう」というより、あまり良くない言い方かもしれないけど、ネガティブな意味ではなく「どうでもいいや」くらいのスタンスになってるかもしれないです。
ー特に今回の『Box Of Summer』は、肩の力が抜けているような感じもありますよね。昨年リリースした『Radiant』では、どちらかというと張り詰めている感じもあったように思います。
自分も、そんな気がしていました。ずっと抜けててもつまんないし、”張り詰め”から”抜け”に行ったり来たりしている感じはします。でも、その幅がだんだん小さくなっていっている気がする。
ーDaichiさんは日頃から多くの書籍や映像作品に触れているイメージがあるのですが、最近インスパイアされた作品はありますか?
ずっと読んでいる『プリンス録音術』という本があるんですけど、やる気がない時はそれを読むとすごくやる気が出ます。彼がどういう機材を使っていたのか、ということが書いてあるんですけど、プリンスは結局、働きまくって作りまくって、みんながそれに着いて行っていたんですよね。全然寝ていなくて、八時間リハーサルをして曲を作って…と。こういう人がいるんだから俺も(そこまで)行こうかな、みたいな気分になりますね。自分が好きなアーティストはみんなプリンスが好きなんですけど、これまで自分はあんまりプリンスにハマっていなくて。それがきっかけで読んでみたんですけど、これを読んでからプリンスのアルバムを聴くと「おお~!」と感じることが多くて。去年の夏くらいから、プリンスをすごい聴いています。そうだ、トウシキ海岸に行くときにカフェがあって、そこでプリンスの曲が流れていたんですよ。
ーまさに「TOSHIKI KAIGAN」ですね。
店主が明らかにプリンス好きな感じの人で、そこに『プリンス録音術』があって、ちょっと読んでみたら「おもろい」と。それで、自分でも買ったんです。
ーもともと京都を拠点にしていましたが、今は基本的に東京にいる感じですか?
はい。制作スタジオみたいな場所を東京に作って、そこに住んでいるので。それ以外は京都か、他の場所にいます。めっちゃ頻繁ではないですけど、タイミングが合えば京都に戻っています。
ー場所によって湧き出てくるムードやリリックは違いますか?
全然違うんですよね。東京にも拠点を構えてから一年くらい経って、「あ、違うわ」って分かってきました。やっぱり、出てくる単語とかテーマが違ってきますね。東京にいると、自分と東京の人並みとか、そういう対比が多くなるんです。〈働いている人が駅に向かう流れと反対に歩く自分〉とか。そういうリリックを書く人は多いと思うんですけど、自分でも「はいはい、こういうことか」と分かるようになりましたね。それと、東京にいると東京が明るいということにあまり気が付かない。でも、東京から京都に向かうとき、特に夜、到着するような新幹線だと、めちゃくちゃ街が暗く感じてびっくりするんです。だから、明かりの話とか、そういう言葉も多くなるなあって思いますね。この間、お盆に京都に帰ったんです。慣れない環境に、結構色々と疲れてたんですけど、実家で寝て、「夜道、暗いな~」とか思いながら帰って、起きた時に蝉と鳥の鳴き声がブワーって聞こえて。「求めていたものはこれだ!」って思いました。「ここ(京都)にいたら別の曲になっていたんだな」と思うこともありますし、「どこに住むかでできる曲も変わるんだな」と思いました。
ーやっぱり、ありのままの生活がそのままリリックに反映されている。
誇張したりちょっと変えたり部分はありますけど、そうした生活がインスピレーションになることが多いです。そうじゃない曲も書きたいなと思うんですけど、なかなか、今のスタイルに慣れてしまっているのか、書けないんですよね。

『Box Of Summer』
Daichi Yamamoto
Andless
配信中:https://linkco.re/RqMcabRa
Track List:
M1. Rain
M2. 100%
M3. Toshiki Kaigan
M4. Salty Dog
M5. Summertime Freestyle25 Feat. Rama Pantera
M1. Rain
Prod. Gacha Medz
Chorus Mika Arisaka, Bobby Bellwood
Written by Daichi Yamamoto
Additional Guitar Usami
M2. 100%
prod.NGONG
Written by Daichi Yamamoto
M3. Toshiki Kaigan
Prod. grooveman Spot
Additional Guitar Kashif
Written by Daichi Yamamoto
M4. Salty Dog
Prod. QUNIMUNE
Written by Daichi Yamamoto
M5. Summertime Freestyle25 Feat. Rama Pantera
Prod. QUNIMUNE
Written by Daichi Yamamoto / Rama Pantera
Mixed by SHIMI from BUZZER BEATS at NEW WORLD STUDIO,Shibuya
Mastered by Stuart Hawkes
Daichi Yamamoto - "Tidy Up Tour 2025"
全公演共通URL :
https://eplus.jp/daichiyamamoto/
2025年9月26日(金)※追加開催
会場:名古屋 CLUB QUATTRO
時間:OPEN 18:00 / START 19:00
価格:オールスタンディング前売り5,500円(税込・D別)
問い合わせ:Andless live@andless.net
2025年9月28日(日)※SOLD OUT!
会場:大阪 なんばHatch
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
価格:オールスタンディング前売り6,000円(税込・D別)
問い合わせ:キョードーインフォメーション(0570-200-888)
2025年10月10日(金)※追加開催
会場:台湾 THE WALL
時間:OPEN 19:00 / START 20:00
価格:オールスタンディング前売り1,200TWD(D別)
問い合わせ:浪漫的工作 romantictaiwan55@gmail.com
2025年10月24日(金)※追加開催
会場:福岡 DRUM LOGOS
時間:OPEN 18:00 / START 19:00
価格:オールスタンディング前売り5,500円(税込・D別)
問い合わせ:lit info@lit2021.jp
2025年10月25日(土)※追加開催
会場:広島 CLUB QUATTRO
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
価格:オールスタンディング前売り5,500円(税込・D別)
問い合わせ:Andless live@andless.net
2025年11月2日(日)※追加開催
会場:盛岡 CLUB CHANGE WAVE
時間:OPEN 17:15 / START 18:00
価格:オールスタンディング前売り5,500円(税込・D別)
問い合わせ:Andless live@andless.net
2025年11月24日(祝・月)※SOLD OUT!
会場:東京 Zepp Haneda
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
価格:オールスタンディング前売り6,000円(税込・D別)
問い合わせ:Andless live@andless.net
2025年12月12日(金)※追加開催
会場:札幌 cube garden
時間:OPEN 18:15 / START 19:00
価格:オールスタンディング前売り5,500円(税込・D別)
問い合わせ:Andless live@andless.net
2025年12月14日(日)※追加開催
会場:ロームシアター京都 サウスホール
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
価格:全席指定 6,000円(税込)
問い合わせ:キョードーインフォメーション(0570-200-888)