「物静かな女の子は強い」
TWICEのチェヨンは一見すると、デビューソロアルバム『LIL FANTASY vol.1』を、10月に控えたグループの結成10周年記念に合わせてリリースしたように思える。しかし、ラッパー/シンガー/ソングライターである彼女は、それは偶然の一致にすぎなかったと語る。実際には、この作品はファンに届ける準備が整うまでに数年を費やしてきたのだ。
「本格的に制作に取りかかったのは1年くらい前なんです」とチェヨンはZoomでの韓国語インタビューでRolling Stoneに語る。「でも全体的には2~3年かかりました。最初の2年は、”このアルバムで何をやりたいんだろう? どんな音楽を作りたいんだろう?”と考え続ける時間でした。自分のアイデアをまとめることに時間をかけて、ようやく形にできたんです。正直、まだ自分がソロアルバムを作ったと実感できていないんですよ!」
カジュアルでありながら上質な印象を与えるキャップスリーブのTシャツに身を包み、堂々と語るチェヨン。ソウルにあるJYPエンターテインメント本社の会議室で、全9曲を収録したアルバムについて一語一語を噛みしめるように説明する。いや、実際は10曲だ。CD盤には隠しトラックが追加されているからだ。TWICEの中でも最も多作なソングライターの一人であるチェヨンは、作詞・作曲・アレンジを手がけ、『LIL FANTASY vol.1』にしっかりと自身の色を刻んでいる。
TWICEの9人のうち、ソロアルバムを発表した4人目のメンバーであるチェヨン。ワールドツアーで各地のコンサートをソールドアウトさせてきた彼女にとって、デビュー作に時間をかけるのは当然のことだった。しかもグループには数々の”初めて”がある。デビュー曲「Like Ooh-Ahh」は、K-POPのデビュー曲として初めてYouTubeで1億回再生を突破。アメリカではMLBとNFLのスタジアムで初めてヘッドライナーを務めた女性K-POPグループとなった。さらにこの夏、シカゴのロラパルーザではK-POPガールグループとして初めてメインステージに立ったばかりだ。7月にリリースされた4枚目のフルアルバム『This is For』は、ビルボード200で7作連続トップ10入りを果たしている。
チェヨンは、TWICEが持つ多彩な才能を”自由さ”と表現する。グループのアルバムとソロ作をわずか2カ月の間に発表することは、決して簡単にできることではない。しかし彼女は”やりすぎ”や”誰かが目立ちすぎる”といった懸念はなかったと言う。メンバーの誰かの成功は全員の勝利である──それは以前からグループが口にしてきたことだ。彼女にとって、競争相手は自分自身以外にいない。
物憂げな雰囲気を帯びながらも甘やかに歌う「BF」について、チェヨンは幼い頃の友人と会う機会がほとんどないことを明かす。
「基本的にインドア派で内向的なので、自分から”遊ぼう”って誘うことがあまりないんです。だから連絡を取らないことを寂しく思った友達もいたみたいで、少しずつ離れていってしまったんですね。気づいたら友達はどんどん少なくなって、その代わりに集めているぬいぐるみが増えていって(笑)。”もしかして、いま本当の友達はこの子たちなのかな?”なんて自問したりして。それでこの曲ができました。友達があまり多くないので」
「でも、声の大きな友達が8人いるじゃないですか?」と指摘されると、彼女は笑ってうなずき、「そうですね、メンバーは私の友達です!」と答える。そして付け加える。「ただ、誰もが時々感じる孤独を表現したかったんです」
「AVOCADO」と「DOWNPOUR」では、ジャンルの垣根を越えて活動する日本拠点の兄弟ユニットGliiicoとコラボレーションしている。彼らの独特の雰囲気にチェヨンは惹かれたという。
「オフのときに日本に行ってGliiicoに会ったんです」と彼女は語る。「最初に会ったとき、心の中で”なんか似てるな。
「それって内向的な人っぽくない行動なのでは?」と指摘されると、チェヨンは微笑みながら、内気な女の子たちに捧げた力強いナンバー「GIRL」を引き合いに出す。「私は心の中で100%思ってるんです。物静かな女の子は、自分の考えや思いを持っている分、とても強い存在だって。私は声に出して言うより、人の話を聞いている方が心地いいんです。同じように感じている子や、似たような価値観を持っている子が世の中にはきっといる。そんな子たちが共感できるような曲を書きたかったんです」
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』参加について
2025年は、チェヨンにとって”コンフォートゾーン”を飛び出す年にもなった。TWICEのジヒョ、ジョンヨンとともに、Netflixの大ヒット映画『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』のサウンドトラックに収録された「Takedown」をレコーディングしたのだ。映画の最後では、トリオが本人役として登場し、この曲を披露。アニメーション作品の中で、唯一実写で出演するアーティストとなった。
「この企画に参加したのは”大ヒットする”ってわかっていたからじゃなく、単純に楽しそうだったからなんです」とチェヨンは語る。「私自身アニメが大好きなので、どんなふうに仕上がるのかすごく気になっていました。サントラ自体、私たちのスタイルとはまったく違うものだったので、新しいチャレンジができるいい機会になりました」
それはTWICEのプロモーションのためだけではなく、K-POPそのものを広めるためでもあった。「ほんとうに感謝しているし、今でも驚きの気持ちでいっぱいです」とチェヨンは言う。「映画の楽曲がビルボードのチャートで上位になったって記事を読むたびに、この機会をいただけたことがありがたくて。『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』がこんな国際的な大ヒットになるなんて、想像もしていませんでした」
さらに、映画の中で彼女が共感した場面もあったという。「コンサートのとき、ステージに出るまでにすごく長い待ち時間があるんです。リハーサルがあったり、いろんな準備をしなきゃいけなくて。その間、すごくお腹が空いちゃうんですよ。だから本番直前にちょっと食べることもあって、映画の中でルミやミラ、ゾーイがやっていたことは、すごくリアルに感じました」
『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』が韓国の音楽に馴染みのなかった観客にK-POPを紹介したように、チェヨンにとって最も大きな褒め言葉のひとつは、「TWICEをきっかけにK-POPを聴き始めた」と言われることだ。
「そういう言葉を聞くたびに、本当にありがたい気持ちになります」と彼女は語る。「もっと頑張りたいなって思うんです」
『LIL FANTASY vol.1』に込めた成長の物語
世界中のスタジアムをソールドアウトさせてきたチェヨンだが、新曲をファンに披露するときは今でも緊張することがあるという。
「初めて歌った『My Guitar』は、私にとって初めてのソロ曲で、しかもダンスナンバーじゃないので、どう表現するかに慣れる必要があったんです」と彼女は言う。「ただステージに座ってギターを弾きながら歌うだけの曲だから、観客の雰囲気をすごくダイレクトに感じました。歌いながらお客さんの顔をひとりひとりはっきり見ていたのを覚えています。全部を受け止められて、緊張よりもただその瞬間が大好きでした。私の曲は全部に意味を持たせたいと思っています。だって、どんな人に影響を与えるかわからないから」
『LIL FANTASY vol.1』の魅力のひとつは、チェヨンが今日の自分になるまでに経験した芸術的・感情的な成長を一枚にまとめている点にある。「BAND-AID」では、寂しさから本来連絡すべきではない人に電話やメッセージをしてしまう心情を描き、それでも後悔せず手を差し伸べる自分を肯定する。「RIBBONS」では、苦しみを乗り越えるまでにかかった時間を音楽に昇華し、彼女のお気に入りのひとつになったという。CD限定の「Lonely doll Waltz」は、オルゴールのような優しいピアノで幕を閉じる。そして「Shoot (Firecracker)」では、ついに実現したソロキャリアを祝福する。一方で「Shadow Puppets」──社会の中で知られた顔を隠さなければならない心情を歌ったこの曲だけは、レコーディング中に涙を流した。
「自分の中で、アイドルとしての自分と、ひとりの人間としての自分をはっきり分けて考えてはいないんです」とチェヨンは語る。「もちろん私は責任感が強い人間ですし、TWICEのメンバーとしての責任も大きく感じています。でも同時に、日常の私と芸能人としての私を切り分けることはしていなくて。だからインタビューでも音楽でも、TWICEの一員として自分の声をちゃんと届けようとしています。もし私が本当の色を出せば、”これが私なんだ”って気づいてもらえるかもしれない。時間はかかると思いますけど、それが私の願いなんです」
From Rolling Stone US.