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高揚感がフロアに充満するなかオンタイムで始まったSuchmosのライブ。お馴染みのSEが鳴り響くと同時にフロアから上がった歓声と驚きの声が、この夜の特別さを物語っていた。そう、Suchmosが、WWW Xというライブハウスに帰ってきた──。
彼らがトップバッターを務めるという意外性が、観客の期待値を一気に押し上げる。メンバーが持ち場につき、KCEEによるあのスクラッチ音が響いた瞬間、誰もが「YMM」だと気づく。YONCEの声でざわめくフロア。そして響くクラビネットのリフ──すべてが完璧な導入だった。

Photo by Daiki Miura
冒頭から新ベーシスト山本連のプレイをフィーチャーした「YMM」では、彼らが培い、成熟させ、そして真新しいモードでバンドサウンドと向き合う、現在進行系のSuchmosを早速浮き彫りにする。ジャズコードを多用したTAIHEIのエレクトリックピアノやTAIKINGのギターコードワークを基盤に、90年代以降のUSネオソウルやR&Bを参照したグルーヴが、フレッシュに躍動する。
続く「Alright」では途中でジャジーにスウィングさせたり、Suchmosというバンドの「しなやかで堅牢な骨」を同時に示す。「DUMBO」では山本連のベースラインとOKのソリッドなドラミングを主軸にオーディエンスを熱狂させる。
一転して、メロウな「Get Lady」では柔らかいTAIHEIのエレクトリックピアノを骨格に、スモーキーなYONCEの声がとろけながら広がっていく。ネオソウル感の強いこの楽曲では、気だるさと色気、豪胆さが共存するYONCEの多面的なボーカリゼーションを十二分に堪能する。
「渋谷WWW15周年、呼んでくださって、とても光栄です」とYONCE。
「今日はLEXくんという若い気鋭のラッパーとツーマンライブというすごい貴重な機会だと思うんで」と続け、この場をセッティングした関係者への感謝を述べる。
そして「3億年ぶりに演る曲」として披露された「Miree」では、終盤で「STAY TUNE」をマッシュアップする演出も見せた。
新曲「Eye to eye」を、今度は「3億年ぶりにつくった新曲」とYONCEが紹介。タイトかつミニマルなファンクネスが、Suchmosの新しい風を感じさせる。
「こっから死にかけるかもしれないんで、がんばってください」とYONCEが前置きして始まった後半戦。
新曲「to you」からステージとフロアを繋げる熱量がグッと高まっていく。ブルースとロックとスピードファンクが今のモードで三位一体になったようなサウンドの中、〈家でクソして寝ろ!〉と連呼されるリリックが聴こえてくる。メンバー全員がどこまでも享楽的に、そしてフリーキーな様相でプレイする姿が印象的だった。

Photo by Daiki Miura
「GAGA」では音源よりもテンポを上げた、大胆な変化を施したライブアレンジを披露。ダンスミュージックとしての側面が強く押し出され、YONCEが歌いながら手を挙げるオーディエンスと演奏するメンバーをスマホで撮影する。サイケデリックな音像の中で各パートの音が暴れていき、スペイシーで、カオティックで、クールな人力ダンスミュージック像がWWW Xを包み、揺らした。
ラストの「VOLT-AGE」も同様にサイケデリックなライブアレンジが施され、フロアの地面と宇宙がつながるような感覚さえ覚える。ステージが気高き血の色のような赤に染まる中、生楽器、生音、生声が強固な一塊となった2025年のSuchmosサウンドを威風堂々と提示する姿は痛快でもあった。
あまりに濃厚な余韻を残して、6人メンバーはステージを去っていった。
等身大の自己表現をステージで体現したLEX
後半を飾ったLEXのライブもオンタイムでスタート。1曲目「GOLD」のビートが鳴り響くと、フロアから大歓声が上がる。
この「GOLD」に象徴される富や成功への憧憬と、それに伴う不安や孤独の二面性。これこそがLEXという表現者の核心部分だろう。彼の楽曲に通底する「夢」「家族」「仲間」への想いが、過剰な虚勢ではなく等身大の自己表現としてWWW Xに響く。
続く「今日くらいはいい子でいようよ」では、メロディックなトラップ/エモラップ然としたビートに、切なくメロウなコード感が全体を包み込む。
「XOXO」での重低音を効かせたイーブンキックがフロアを激しく揺らすダンスミュージック、「主人公」での自分の人生は自分が主役、と掲げる力強いメッセージ。トラップを基盤にしながらも、ミニマルで力強いアレンジで余白を活かし、言葉がより響くように構成された楽曲群は、現代日本のラップシーンにおけるLEXの独自性を明確に示した。
MCでLEXは語る。「俺もダブダブ(WWW/WWW X)ではいっぱい遊ばせてもらったり、10代のころからお世話になってます。またここでこうやってライブができて楽しい。今日の俺は歌いたい気分だから。自分が誰なのか考えたときに出た答えがいろいろあるんですけど、みなさんもそうであると願いたいです」
その言葉通り、「This is me」では、歌うたいとしてのLEXが前面に出た。メロディックなフロウとオートチューンを活かしたエモーショナルな響きが楽曲全体を貫き、余白を活かした構成で彼の声が中心に据えられる。リスナーが直接メッセージを受け取れるような楽曲設計は、ラッパーとしてだけではない、表現者としてのLEXの成熟を感じさせた。

Photo by Daiki Miura
キャリアを代表する大名曲であり、もはやエバーグリーンな歌として存在している「大金持ちのあなたと貧乏な私」では、ピンスポットに照らされて歌うLEX。「この曲、知ってる人は一緒に歌ってください」という呼びかけに応えるオーディエンスの歌声が会場を包む。
アカペラから始まりレゲエフィーリングを見せる「Sexy!」、トロピカルでチルな「Ocean」と続き、「会場に俺のお母さんきてるんだよね。俺のお母さん、誕生日なんだ」というMCを挟んで披露された未発表曲「ALONE」では、どこか民謡的な歌の大きさを感じさせる趣があった。「尊い孤独」を静かに見つめるような、現在のLEXを映し出す楽曲だった。
「この世界に国が無かったら」での牧歌的なメロディ、「力をくれ」でフロアに降りて練り歩く、それこそある種の民族儀式のような光景。その何もかもが、いまこの瞬間を生きている者の音楽表現としてそこにあった。

Photo by Daiki Miura
そして、これもまたLEXのフラッグシップ的な楽曲である「なんでも言っちゃって」を経て、最後の「Stay」では浮遊感に富んだビートのなかで、LEXというラッパーのリリシズムがゆっくりと、深く、会場に染み込んでいった。
SuchmosとLEX、それぞれ50分ずつの濃密なライブを通じて見えてきたのは、WWW/WWW Xという渋谷のど真ん中にある音楽の遊び場が15年間にわたって育んできたカルチャーの刺激と豊かさだ。さまざまなジャンルがクロスオーバーする地場として機能してきたこのライブハウスで、異なる世代、異なる表現形態のアーティストが交わることの意義。
Suchmosが2010年代に提示したネオソウルやアシッドジャズ、サイケデリックなロックやブルースを生々しく昇華したグルーヴ。LEXが2020年代に更新し続けるメロディックラップとリリシズムの地平。両者に共通するのは、単純なジャンル分けを超えた音楽性への探求心と、等身大の表現を通じて同時代を生きるリスナーと深く結びつく姿勢だ。
音楽シーンの細分化が進む中で、ジャンルを超えて響き合う何かがある。
この夜、WWW XでSuchmosとLEXは、それぞれの世代を代表するアーティストとして、音楽がジャンルを超えて人の心を打つ力を持つことを証明してみせた。15年という歳月が育んだカルチャーの成熟と、これからの音楽シーンへの可能性を同時に感じさせる、掛け値なしに記念碑的な一夜となった。

Photo by Daiki Miura
WWW 15th Anniversary 「Suchmos×LEX」
主催/制作 : WWW
Streaming Director : Kento Yamada
Streaming Support : Levi's® Japan
”WWW 15th Anniversary Series”
詳細 : https://www-shibuya.jp/feature/019231.php
Suchmos
Official HP:https://www.suchmos.com/
Official X(Twitter) :https://x.com/suchmoz
Official Instagram:https://www.instagram.com/scm_japan/?hl=ja
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LEX
InfoInstagram https://www.instagram.com/lex_zx_lex_0/
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SoundCloud https://soundcloud.com/lex3_zzz_0
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