鉄風東京の3枚目のミニアルバム『Space/Range』。”空間と射程”という2つのワードをタイトルとして冠した今作に収められた楽曲たちには、大黒崚吾(Vo・G)の歌を今まで以上に遠くへ届けようとする4人の熱烈な気概が滲んでいるように思う。
また、オルタナティブロックバンドとしての軸はそのままに、様々なエッセンスを自由に取り入れた彼らのバンドサウンドからは、あらゆるジャンルの差異を越境しながら、新しい鉄風東京サウンドを確立せんとする意志を感じる。バンドにとっての代表曲を現体制で再録した「21km(Re:rec)」も、昨今のライブの熱量をダイレクトに凝縮した仕上がりになっていて胸が熱くなる。渾身の新作について、大黒(Vo)、muku(B)、Sougo(G)、颯(Dr)の4人に聞いた。

ーいきなり核心めいたことから聞いてしまうのですが、今作の『Space/Range』というタイトルはどのように決まったのでしょうか?

大黒:楽曲が揃った時に、今作の楽曲同士にどういう繋がりがあるのかを考えて。今作の中で自分がおのずと歌いたいことが、居場所というものと、自分たちの音楽をどこまで届けるのかっていうことで、わりとありがちではあるかもしれないんですけど、今は自分の中でそれを深掘りたいんだなと思って。シンプルに2つの単語を並べたタイトルにしているんですけど、今回は、聴いてくれる人に自由に受け取ってもらいたくて。どのような空間がそこに広がっていて、その人に届くまでどういう道のりだったり、長さがあったりしたのか、っていうのを想像してもらいたくて、このタイトルにしました。

ー歌の響き方、サウンドの広がり方から、今まで以上に遠くへ、未だ見ぬところへ飛び立とうとするバンドの意志が伝わってきました。それぞれの曲の歌詞にも、まさしくそういうニュアンスが通底していると思います。

大黒:歌詞でいうと、「悲しみを集めて」だと〈あの子が生きてる国まで〉と歌っていて。この曲は、1人モデルになった子がいて、その子が外国に行っちゃった時に思ったことを書いた歌なんですけど。「In YOURS」だったら〈君の匂いがする街へ〉。
「I keep making the same mistake」だったら、空間に通じる部分で〈灰になり星に還ろうとも〉というように、人生や生命に対してのスケール感っていうものを歌ってて。「FLY」は、もうそのまま〈遠くへ そう遠くへ〉。「さみだれ」の〈近づくほどに遠くて 遠ざかるほどに近くで〉も、まさにそうで。「揺れる髪はレッド」は、東京にいる人がモデルになった曲なんですけど、僕たちは仙台のバンドなので、東京という街も、一つの届ける場所であり、空間で。ミニアルバムのタイトルを決める時に、今挙げたようなキーワードがおのずと出てきて、そうした点と点を繋いだ時に、この『Space/Range』っていうタイトルが浮かびました。

ー昔聞いたことがある話で面白いなと思ったのが、空間の対義語って、時間らしいんですよ。今お話ししてくれたように、今回のミニアルバムには、”空間と射程”をモチーフにした曲が収録されていますが、同時に、それぞれの曲の中に時間の流れのようなものを感じて、とても奥行きが深い作品だと感じました。

大黒:自分が書く歌詞は、全部想像っていうのはあんまりなくて、何かに当てはめたりするんですけど、その時のことを思い出したりとか、その時どんなことを思ってたっけとか、どんなこと話したっけみたいなことを考えたりしながら歌詞を書いてるので、おのずと歌詞の中に時間の流れのようなものが入ってるのかなっていう。意識しては全然なかったんですけど。やはり、時間っていうものは、空間と同時に存在するものではあるので。空間が上下左右への広がりであるのと同じように、時間は、過去を顧みるとか、未来への希望とかっていうように、過去と未来への広がりを帯びていて。時間に関して言うと、僕が書く歌詞は、わりと、こうできなかったっていうことをずっと繰り返す歌詞が多いんですけど。


ーそれこそ、「I keep making the same mistake」で歌われている間違いもそうですよね。

大黒:そうですね。間違いは咎められたりするものですけど、人生1度しかないんだよって言葉をいっぱい聞く中で、その中でそういう失敗ができるっていうのは、それはそれですごい美しいなと僕は思ってこの曲を書いて。で、それも時間的にもいつかは終わりが来るっていう。そこで、『Space/Range』の空間の部分でもあるんですけど、消えても、音楽は自分たちの肉体よりずっと残るものだと思うので、時間すらも超越してるなって、おのずと今思いましたね。時間っていうものも、もちろん自分の中に存在していて、どの曲を書く時も同じように、潜在的に頭の中で考えてたと思います。

ー大黒さんが書いた今作の曲の歌詞について、皆さんはどのように受け止めましたか?

Sougo:たぶんリアルに体験したことをそのまま歌詞にしてるので、〈君〉とか、そういう誰かに対しての歌詞とかはそのまま引き継ぎつつ、一方、今までの歌詞は抽象的な表現が多いなって思ってたんですけど、今回は、意外と具体的な表現もあって。それこそ「I keep making the same mistake」のポエトリーリーディングの部分とかは、そのままの大黒の素っ裸な感じで届けてるのかなとも思うし。大黒の内省的な部分がけっこう露骨に出てる楽曲が、今回のミニアルバムには自分的には1番多いんじゃないかって。「悲しみを集めて」とかは、けっこう大黒のナーバスな部分が前面に出てるんですけど、でもアップテンポな感じが鉄風らしさにもなってて。変容してる、変化の中間地点にいるのかなっていう感じでしたね。

颯:加入する前までは一人の鉄風東京のファンとしてこれまでの曲を聴き続けていたんですけど、俺の中での大黒崚吾が書く鉄風東京の音楽ってのは、どういう路線にそれようとも、ずっと大黒なんですよね。
「悲しみを集めて」とかも、わりと鉄風東京によくあるコード進行だったり、サウンド感で、ただ、そうなんだけど、見てる景色は、ちょっと俯瞰的になったのか、広がったのか分かんないけど、スケールみたいなのは徐々にでかくなってる気がします。彼の歌詞って、言い方はあれですけど、病んでるみたいな歌詞がわりとすごい印象に残ってたんですけど、それを飛び越えて、いろんなところに目線が行くようになったっていうのは、今の体制になってから表れ始めてる変化なのかなっていう気持ちです。

ー今作には、「21km(Re:rec)」も収録されていますが、どのようなきっかけで、今このタイミングでこの曲を再録するに至ったのでしょうか?

大黒:齊藤さん(スタッフ)じゃないですか?

スタッフ:元々6曲入りの予定でリリースを組んでたんですけど、どうしても、今のライブで演奏しているバージョンの「21km」を入れたくて。僕がスタッフとしてついてからまだ1年ぐらいなんですけど、彼らのライブを観れば観るほど、あの楽曲の持ってるパワーをすごい感じて。今のライブでは、昔の音源とテンポ感がぜんぜん違いますし、導入部分もドラムから入ったりしていて、そういう部分も含めて、やっぱり今の「21km」もすごい好きなんで、それをそのまま再録したいんだよねってメンバーに伝えたら、快く引き受けてくれました。

大黒:いいタイミングで、そういったことを伝えてくれる人がチームにいてよかったです。この曲だけ、歌は別なんですけど、せーのでみんなで録ってて。メンバーが変わって離れてく人も多かったんですけど、一方で、新しい鉄風東京が好きだって言ってくれる人も多くて。今の鉄風東京はこれなんだっていうのを、前からやってる楽曲で、今の4人でやることによって表現できたので、そういった意味でも、今作に「21km」の再録を入れるっていうのは、自分たちにとってもけっこうキーでした。

ー偶然か必然か、この曲のタイトルも、まさに距離を表すものですよね。

大黒:そうですね。この「21km」っていうタイトルの裏話なんすけど、中3の時に、告白しようと思ってた女の子がいて、両思いだったんですけど、ただ、僕は頭が悪くて、その子はすごく頭が良かったです。
で、もし告白して成功しちゃって、その後、その子が「彼氏が頭悪い」って言われたらどうしよう、みたいなこと考えて、それで告白できないまま高校に進学して。そん時、その子と俺の偏差値の差が21あったんすよ。

全員:(笑)

大黒:それで「21km」。

ーじゃあ、実際の距離というよりも。

大黒:おつむの足りなさ。なんで「21km」なんだろうっていう問いは、聴いてくれているみんなが考えていたりするのかなとも思うんですけど、ありがたいことに5、6年やってきて誰も聞いてくれないでいた(笑)。

muku:この曲、もとの音源から歌詞が変わってるところがあって。落ちサビの〈気づけば僕は今〉の後の〈1人だった〉が、今回のバージョンでは〈ここにいた〉になっていて。やっと、1人じゃなくなったんだ、よかったねって思いながら(笑)。これまでも、ライブでは〈ここにいた〉って歌ってたんですよね。

大黒:俺がライブ楽しくない時は〈1人だった〉。

全員:(笑)

大黒:最近はずっと〈ここにいた〉ですけど(笑)。
元々の音源では〈1人だった〉って歌ってるんですけど、実は、その裏に小さく〈ここにいた〉っていう声を入れてたんですよね。それが今ちゃんと逆転して、こうなったっていうのがあったので。今回のリレックでも、実は〈ここにいた〉の裏に小さく〈1人だった〉という声を残してるんですよね。最近、詩とか読むようになったんですけど、「芸術は、不安な人の心を軽くさせて、健やかな人の心を不安にさせるべきだ」みたいなことを誰かが言ってて、そういうのに通じるというか。「俺は1人だ」みたいな内省的な言葉によって、それを乗り越える人も中にはきっといるだろうから、〈1人だった〉という声もリリックに残しときたくて。まあ、偏差値の差なんですけどね(笑)。

颯:21ってそうとうだよな?

大黒:いやいやいや、その子ほんとに頭いいのよ?

muku:たぶん俺だったら30ぐらいの差。

全員:(笑)

ー颯さんは、加入前から鉄風東京のファンだったとおっしゃっていましたが、今回の「21km」の再録にはどういう想いを持って臨みましたか?

颯:これ、ぜんぜん人に言ったことないんですけど、加入する前からずっと、鉄風東京のドラムになる妄想をしてたんです。

全員:(笑)

颯:俺だったらこう叩くなーって学校で考えたりしてたんですよ、高校生の時から友達だから。で、何回かサポートしだして、同じ景色を一緒に見る中で、元々は前のドラムのコピーをしようと思って、ずっと同じようなプレイングをしてたんですけど、いつからか、自分を出していいんだって思い始めて。で、わりと大黒の反応もよくて。こういうふうに我を出していいんだって思えたのが、今思い返すとこの曲からだったかなって。
好き勝手やらせてもらって、それを許してくれるメンバーに感謝だし。この曲と一緒に育ってきたんだなって改めて思いながら再録しました。

ー最後に、今作の手応えを踏まえて、今後チャレンジしていきたいことや目指したいことを教えてください。

大黒:前のアルバムもそうですけど、このアルバムも、例えば、「I keep making the same mistake」っていう重ための楽曲と、それとは対の「さみだれ」っていう楽曲が、1枚のCDに入ってるのがわりと珍しいことだと思ってて。先人たちがやってきたように、いろんなものの融合によっていろんなカルチャーができてきたと思うので、僕も、ギターロックとかそういうものに憧れてバンドを始めて、今ハードコアとかメタルとか、そういうのメンバーの影響で聴くようになってったので、そういった意味で、いろんなことを試していろんなことを届けたいと思ってるような楽曲たちを積み重ねていくことによって、いつか、今よりももっと大きく融合して、新しい鉄風東京になれるんじゃないかなっていうのはずっと考えてるので。今作もそうですし、今後も、日本語詞の美しさだったり、楽曲の重たさだったり、アルペジオの綺麗さだったり、そういうもの全部まとめて、今よりもいっそう進化した鉄風東京になれたらなと思ってます。

muku:今の話に通じるんですけど、ジャンルに囚われなくていいのかなって。4人それぞれに好きな音楽があって、1つのジャンルを4人でやろうってよりは、4人でいろんなジャンルをやってみて、それをベースにしていろんなところで戦って、で、それをバンって1枚にして。ジャンル分けはしなくていいというか、しないほうが面白いんじゃないかなって思っています。これはやりたくないけどこれはやりたい、とかじゃなくて、全部やってみて面白いように俺らで作っていくのがいいのかなっていうのはすごい思ってます。

Sougo:これからもっとたくさん音楽のことを勉強して、自分たちがやってることにもっと説得力をつけて、ジャンルの架け橋になるというか、聴いてくれる人にとって、いろんな音楽を知る入り口のようなバンドになれるのが一番素敵なんじゃないかなって思います。僕自身、こういうジャンルがいつからあって、それはどういうカルチャーから生まれていて、どういう人たちが始めて、っていうように、歴史を調べながらディグるのがすごい好きで。鉄風東京を聴いてくれる人にも、自分なりでぜんぜんいいので、いろいろなジャンルの音楽をディグっていってほしいなっていうか。背景を知ったら、もっと音楽を楽しめるんじゃないかなって思います。そういうきっかけに、鉄風東京がなれたら素敵だなと思います。

<リリース情報>

鉄風東京
3rd Mini Album『Space / Range』
NBDL-0116
定価:¥1,800-(税込)
「Space/Range」各種配信サイト https://teppu.lnk.to/Space_Range
=収録曲=
1. 悲しみを集めて
2. In YOURS
3. I keep making the same mistake ※テレビ朝日系「ワールドプロレスリング」10月・11月度ファイティングミュージック
4. FLY
5. さみだれ
6. 21km (Re:rec)
7. 揺れる髪はレッド

<ライブ情報>

鉄風東京 presents. Your Space / My Range Tour 2025-2026

2025年11月7日(金)【宮城】LIVE HOUSE enn 2nd
OPEN 18:00 / START 18:30
出演者:鉄風東京 / ハク。 / Apes

2025年11月23日(日・祝)【石川】金沢GOLD CREEK
OPEN 17:30 / START 18:00
出演者:鉄風東京 / redmarker / PAIL OUT

2025年11月29日(土)【北海道】札幌 近松
OPEN 18:00 / START 18:30
出演者:鉄風東京 / Tattletale / でかくてまるい。

2025年12月5日(金)【福岡】Queblick
OPEN 18:30 / 19:00
出演者:鉄風東京 / Launcher No.8 / Good Grief

2026年1月24日(土)【広島】ALMIGHTY
OPEN 18:00 / START 18:30
出演者:鉄風東京 / redmarker / See You Smile / Cloudy

2026年1月25日(日)【岡山】ペパーランド
OPEN 17:30 / START 18:00
出演者:鉄風東京 / redmarker / See You Smile / Cloudy / UNMASK aLIVE

<FINAL SERIES>
2026年2月21日(土)【愛知】Live House R.A.D ※対バンあり
OPEN 18:00 / START 18:30
出演者:鉄風東京 / andmore...

2026年2月22日(日)【大阪】心斎橋 BRONZE ※対バンあり
OPRN 17:30 / START 18:00
出演者:鉄風東京 / andmore...

2026年2月28日(土)【東京】下北沢SHELTER ※対バンあり
OPEN 18:00 / START 18:30
出演者:鉄風東京 / andmore...

チケット:前売り ¥3,500-(D別)
チケット一般発売 受付期間:10/25(土) 10:00~
受付URL:https://w.pia.jp/t/teppu-tokyo-tour25-26/
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