ここ日本でも2度のサマーソニックへの出演をはじめ、キャリア初期から来日を重ね存在感を示してきた韓国のロック・バンド、SE SO NEON。デビューから8年、待望の初のフル・アルバム『NOW』を8月に発表した。
バンドはファン・ソユンの1人体制となるなど転機を経て、11月14日(金)には東京・恵比寿The Garden Hallで来日公演を控える。

他人や社会からの視線に揺らがずに「自分」を表現し続けることほど難しいことはないだろう。それは強靭な心を持った、成功したミュージシャンでも同じだ。『NOW』はそこに向き合い、時間をかけて完成させた作品だ。だからこそ、不安や恐れを正直に晒しながらも、「いま」を肯定しようとする軽やか且つ力強いエネルギーが感じられ、潔く、説得力がある。

2017年にシングル「A Long Dream」でスリーピース・バンドとしてデビュー。メロウなグルーヴと華やかなロック・サウンドを兼ね備えた同年のEP『Summer Plumage』ですぐに注目を浴びた。中心メンバーのファン・ソユン(以下、ソユン)はジャンルを超えたコラボレーションや数々のブランドのモデル起用など、韓国ではアイコン的存在に。坂本龍一、ジョン・ケイル……国外の巨匠たちもSE SO NEONに賛辞を送ったり、ステージ上でコラボレーションをした。彼女たちの成功は、大衆に広く認知されているロック・バンドの数が決して多くない韓国において異例のスピードだった。

ソユンは前作のEP『Nonadaptation』(2020年)を「慣れた環境を離れ、韓国社会の一員として本格的に役割を担い始め、他者や社会の視線を直接受け止めて悩むなかで生じた”摩擦”が、創作の原動力を担った作品」と語る。成功とそれに伴うジレンマを感じていたソユンは、So!YoON!名義のソロ活動をこなしつつも、安定したファンベースを持つ韓国を離れ、米国、ヨーロッパを行き来し、韓国に戻ってもソウルではなくいくつもの地方都市で長期に渡って過ごした。
結果、SE SO NEONはソユンの一人体制で活動していくこととなり、活動拠点もロサンゼルスへ移すこととなったが、そうして完成したアルバム『NOW』からはこの間の悩みや内省を経ての、確かな自信がうかがえる。

ソユンの歌とメロディが中心にあるシンガーソングライター的な曲が多いが、軽やかなグルーヴが心地いい「Remember」や「New Romantic」、SE SO NEONらしい強力なロックナンバーの「NOW」「3 Revolution」などもある。サウンドの多様性からも、人生の複雑さや不安感まで正直に扱った歌詞からも、その時々のリアルな自分を表現しようとしたことが感じられる。なかでも親交のあった坂本龍一との別れにインスピレーションを受け、「いまの自分を忘れるな」と繰り返し歌う「Remember!」は、「どこに居ても変わらない自分を探していた」という制作期間中のソユンを象徴する曲だろう。迷いが起きても、気持ちが弱くなっても、自分はどんな人間なのか、何を表現すればいいのかは見つけられる。『NOW』を聴いた上で、彼女と交わした対話からは、そんな充実感さえも感じられた。日本公演は長い北米とヨーロッパのツアーを終えた後に控えており、新作の曲たちも完成度の高いパフォーマンスが期待できるだろう。ここからは9月初め、北米ツアーを控えた前日、ロサンゼルスの自宅から答えてくれたインタビューを届ける。

「NOW」 MV

定住よりも「変化」を求めて

—ロサンゼルスでの生活には慣れましたか?

ソユン:うまく適応して暮らしています。ただ、今年はイギリスでも1カ月過ごしましたし、アメリカにだけいるわけではなく、いろいろな国を回っているので、「どこかに定住すること」がそれほど重要ではないと感じています。アメリカに拠点を移す前も、韓国で1年間ほぼノマドのように生活していましたが、その過程で、どこか一つの場所にずっと留まったとしてもそれが必ずしも「定着」を意味するわけではないし、逆にあちこち移動して一つの場所に留まらなくても、私にとっての「定着」は可能なんだと気づきました。

—各地を転々としながら暮らすのが当たり前になっているのですね。
そんないま、ソユンさんにとって「家」はどんな場所になっていますか?

ソユン:一般的に「家」は、どこかに物理的に腰を落ち着け、その場所で暮らしを築くことだと考えられていますよね。でも私は人によって家の定義が違うと思うんです。たとえばペットがいる人にとっては、どこにいようとそのペットと一緒にいられる場所が「家」になるし、自分の生活圏からほとんど出ないような人もいますよね。だからこそ、自分にとっての「家」とは何かを探ることが、人生においてとても大事な課題だと考えるようになりました。いまは私はどこにいても同じ自分でいられると思うし、だからできるだけ多くの場所で多くの経験を重ねることが、私の人生に役立つのだと思っています。

—ロサンゼルスに拠点を移すという決断は、ミュージシャン、ファン・ソユンとしての挑戦でしたか。それとも個人として新しい環境で自分を見つめ直したいという思いがより大きかったのでしょうか?

ソユン:SE SO NEONの音楽はいつも私の人生を投影しているものなので、ミュージシャンとして、個人として、と分けて考えてはいません。どちらが大きいかということはなく、総合的な決断でした。人間って常に今の自分に必要なものを把握して、それを実践していく旅をしているんだと思うんです。私がアメリカに来たこともその一つです。

人生における「問い」から曲が生まれる

—いくつかのインタビューで『NOW』の制作を始める前は音楽活動について悩みを抱えていたとお話しされていましたが、そこからアルバムの完成までどのように心境が変化していったのでしょうか?

ソユン:デビューしてすぐに注目をされるようになって、もともと私は自立心の強い性格だったにも関わらず、どうしても他者の視線を通して自分を見る時間が増えてしまい、「私の音楽は今の時代にも必要とされているのか」、「私自身が適応できないこの社会で何を伝えられるだろうか」と悩むようになりました。そこで、音楽を作るプロセスを楽しもう、環境がもたらす影響にも期待してみようと思い、ニューヨークに向かいました。
そこで楽しく深く没頭して制作しているうちに、音楽を作るプロセスの大切さを改めて実感しました。結果として、他者の反応を気にして作るのではなく、「いまこの瞬間の自分」に最も必要な音楽が何かを考えて作ることに集中できるようになりました。

—パーソナルなテーマの楽曲が多い『NOW』を、So!YoON!ではなくSE SO NEONの作品として発表したかった理由を説明してもらえますか?

ソユン:今作の収録曲の中にSo!YoON!としてのリリースを考慮して作った曲はありません。SE SO NEONとSo!YoON!とでは制作のアプローチが違うんです。SE SO NEONは私の人生においてどんな話を残しておきたいかという「問い」から曲が生まれてきます。だから作品のタイムラインは私の人生と地続きになっているし、その時々で私に起きていること、表現したいことを自然と形にするようにしています。一方でSo!YoON!は私がある種の「監督」として臨むプロジェクトです。脚本を書いてそれを映像化するように、たくさんの人とコラボレーションをして、キャラクターを作っていきます。だから、『NOW』は最初からソロではなく、SE SO NEONとして出したい作品でした。

SE SO NEONが語る現在地──韓国を離れた「いま」の自分、坂本龍一やKIRINJIからの学び


—『NOW』ではアメリカのソングライターやプロデューサーたちとも多くの曲で共作していますよね。特にジョン・ネレンやルドウィグ・パーシックはSo!YoON!の『Episode1 : Love』からコラボレーションが続いていますが、彼らと長く一緒に共作できている理由は何でしょう?

ソユン:彼らは『Episode1 : Love』の制作を通して「音楽を作る過程ってこんなに楽しいんだ」と気づかせてくれた人たちです。今回『NOW』の制作でまたニューヨークを訪れたのも、その都市が好きだからというより、当時の「楽しかったプロセス」に戻りたかったからなんです。
私にとっては、制作の過程で自然に自分を表現できることが何より大事だったので、信頼できて、一緒に楽しめる友人たちの力が必要でした。

—その彼らと共作した「Remember!」や「New Romantic」「Small Heart」は、バンド・サウンドの軽快なグルーヴがとても印象的で、歌とメロディが主導するほかの曲と対照的にも感じました。どのような制作プロセスだったのか教えてもらえますか?

ソユン:実は『NOW』の収録曲のソングライティングは、ほぼ韓国で終えていました。「Small Heart」は高校生の時に書いていた曲ですし、「New Romantic」は前作『Nonadaptation』の制作時期に歌詞もメロディも完成させています。昔作っていた曲を、海外で別の言語を使う人たちと編曲するという時間が私には刺激的な体験でした。そして、制作方式も韓国とは違いました。韓国では明確な意図を持ってサウンドを作り込み、音を積み重ねていくような方式で作ることが多かったですが、アメリカではむしろ実験的なことをした上で、思い切って余白を作りながら、その曲の一番自然な「味」を出そうと努力しました。ボーカルもできるだけそぎ落としつつ、誠実さが伝わるよう心がけました。

—音への向き合い方がアメリカと韓国では違うと感じましたか?

ソユン:メロディの作り方やアレンジの仕方はたしかに違います。それが何なのかをまだ明確に言語化はできていませんが、今回韓国の外で制作をしてみて、韓国の音楽には力強い固有のカラーがあると実感しました。

「New Romantic」今年6月、韓国・Asian Pop Festivalでのパフォーマンス映像

坂本龍一やKIRINJIからの学び

—「Remember!」についてお聞きします。親交のあった坂本龍一の逝去からインスピレーションを受けたそうですが、「いまの自分を忘れるな」というフレーズはアルバム全体を貫くテーマにも読めました。
この曲への思いや、その重要性について話してもらえますか?

ソユン:この曲は聴き手にどう聴こえるかと、私が作った動機が少し別のところにあります。歌詞が分からなくても、聴いていると思わず笑みがこぼれるような、気分が良くなる曲を作りたかったんです。それは決して「易しい」とか「大衆的」という意味ではなく、曲の中に明るいエネルギーが宿っていることが大事でした。この曲を作ったきっかけは「自分を信じ、その信じる気持ちを失わないようにしよう」という誓いです。たとえいつか私が弱くなって自分を嫌いになってしまっても、その気持ちを忘れないようにするために書いたんです。だから、聴くたびに胸が高鳴るような、喜びが込み上げる曲にしたかったです。

以前も共演したKIRINJIの名前が「Remember!」のソングライティングでクレジットされていますが、具体的にはどんな部分でサポートしてもらったのでしょうか?

ソユン:堀込高樹さんが持っているかっこいい魅力からたくさんのことを学びましたが、特にコードの選び方やアレンジでどうすればより洗練され、面白く展開できるかについて、参考になりました。実際にいただいたアイデアを「Remember!」のブリッジ部分で反映しました。

「Remember!」MV

—アルバムの終盤に「Jayu」「Kidd」「3 Revolution」とエネルギッシュで、ポジティブなムードも感じられる曲を収録しましたね。数年前にリリースしていた曲やライブでは披露していた曲たちですが、今のソユンさんを表現していると捉えていいでしょうか?

ソユン:『NOW』に入れたのは、どれも時間が経っても色褪せない「問い」を持つ曲たちだからです。「Jayu」は歌詞の中では答えを見つけたように見えるかもしれませんが、私はこれまで一度も「自由とは何か」について確かな答えを見つけたことがないんです。だからこの曲は数十年前でも数十年後でも意味があると信じています。
「Kidd」も同じで、20歳の時に書いた曲ですが、いまもその時と同じ力強さを持っていると思うんです。『NOW』に入っている曲は、どれも数十年後にも私が同じ「問い」を持ち、それを表現しているだろうという自信があります。たとえこのアルバムが今すぐ大きな注目を浴びなくても、この3~4年の間私が最大限に力を入れて作った作品なので、時間が経っても力強さを持っていると思います。

「Jayu」 MV

—「Kidd」を今回新たに録音されましたが、編曲面において今作のテーマに合わせようという意図だったのでしょうか?

ソユン:今回のアルバムは「飾らずに、今の私を最も自然に表現できること」が重要でした。 シングル・バージョンより自然体で、今作の基準に合う編曲をしたかったので、録り直しました。

—あるインタビューで最近はクラシックやニューエイジをよく聴くと話されていましたよね。これらのジャンルはボーカルが無いし、アーティストのキャラクターが前面に出にくい音楽だとも考えられます。パーソナルなテーマが多い今作を作る過程でこうした音楽を聴いていた理由がありますか?

ソユン:最近もボーカルのない音楽をよく聴きます。特にクラシック音楽は普通、他の人が作曲した音楽を演奏することが多いと思いますが、そういう制約がある中でも、演奏のタッチとニュアンスでどれだけ自分を表現するかが重要だと思います。私はロサンゼルスでアルバムを完成させた時も、聴衆が歌詞を聞き取れなくても、歌詞を歌う時に盛り込むすべてのエネルギーと魂は確実に伝わると信じていたし、私自身もその感覚を感じたかったんです。それでクラシックのように楽器だけで表現する音楽や、シンプルだけど聴き手がその中にある何かを発見していくような音楽を意図的に聞きました。

SE SO NEONが語る現在地──韓国を離れた「いま」の自分、坂本龍一やKIRINJIからの学び


—韓国のミュージシャンではSE SO NEONの元メンバー、パク・ヒョンジンさん、Silica Gelのキム・ハンジュさん、エレクトロニカ・ミュージシャンのキム・ドオンさんなど、継続してコラボしているミュージシャンの名が目を引きます。そうした仲間と相性が良い理由は何でしょう?

ソユン:So!YoON!ではジャンルがはっきりした方たちと一緒にやる面白さもありますが、SE SO NEONはあくまでバンド・ミュージックが土台にあるので、バンド・サウンドをどれだけ理解しながら一緒に作れるかがポイントですね。そうでないと、その上に何かを重ねることができないと思うんです。

—ソユンさんはこれまでも、ジョン・ケイルとステージで共演したり細野晴臣や韓国のフォーク・バンド、市人と村長(시인과 촌장)のカバーをしたり、世代を超えたミュージシャンとのコラボレーションが多いですよね。こうした機会はソユンさんにどんな学びをもたらしましたか?

ソユン:ありがたいことに、長く活動されてきた方々からお声がけいただく機会が多いんです。長い時間創作を続け、人と交わり、音楽を自己表現の手段としてきたということをお見せしてくださるだけでも、深く尊敬できます。そのアーティストを深く知らなかったとしても、コラボレーションの過程では必ず学びがあります。だからこそ、機会があれば積極的に挑戦させてもらい、多くのことを吸収しようとしています。

細野晴臣のカバーアルバム『HOSONO HOUSE COVERS』(2024年)に提供した「パーティー」

—この後には11月の日本公演を含め、長いツアーが控えていますね。今のお気持ちはいかがでしょうか?

ソユン:新作を携えてのツアーは本当に久しぶりです。体制としては一人になりましたが、”バンド”としては以前より進化した部分をしっかりお見せできるはずです。何より、いつも通り全力で臨みたいと思っています。

「3Revolution」今年6月、韓国・Asian Pop Festivalでのパフォーマンス映像

SE SO NEONが語る現在地──韓国を離れた「いま」の自分、坂本龍一やKIRINJIからの学び

SE SO NEON来日公演
2025年11月14日(金)東京・恵比寿 THE GARDEN HALL
OPEN 18:00 / START 19:00
料金:前売り¥8,800(1D代別途)
公演詳細:https://www.livenation.co.jp/se-so-neon-tickets-adp1599718

SE SO NEONが語る現在地──韓国を離れた「いま」の自分、坂本龍一やKIRINJIからの学び

SE SO NEON
『NOW』
再生・購入:https://asteri.lnk.to/SESONEON_NOW
編集部おすすめ