レディオヘッド(Radiohead)が7年ぶりにツアーを再始動、11月4日(火)にマドリードのMovistar Arenaでヨーロッパ/UKツアーの幕を開けた。久々に集結したメンバー5人は、あらゆる困難を乗り越えて魔法のような夜を届けた。


ほんの3か月前まで、2025年にレディオヘッドのコンサートを見ることは──いや、今後再び見ること自体──不可能に思えた。バンドが2018年8月に『A Moon Shaped Pool』ツアーを終えて以来、メンバーはそれぞれのソロ活動に忙しくしていた。その”忙しさ”ときたら尋常ではない。

トム・ヨークとジョニー・グリーンウッドは、ザ・スマイルとして3枚のアルバムをリリース。ジョニーはポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』を含む複数の映画音楽を手がけた。トムはプロデューサーのマーク・プリチャードとの共演作を、フィル・セルウェイ、エド・オブライエンもそれぞれソロアルバムを発表。コリン・グリーンウッドは見事なレディオヘッド写真集を出版している。この5人が同じステージに立つのは、実に7年ぶりのことだった。もう二度と実現しないのでは、と誰もが思っていた。

昨年、バンド再結成の噂が流れたとき、トムはすぐに否定した。「そんな話は聞いたこともないし、正直どうでもいいね。悪気はないし、気にかけてくれてありがとう」。
それでも私たちはずっと彼らのことを想っていた。だからこそ、マドリードのMovistar Arenaで2025年のヨーロッパツアー初日、照明が落ち、バンドが登場した瞬間はまるで奇跡のように感じられた。彼らのキャリア史上最も長い休止のあとだけに、その瞬間は待った甲斐があった。

オープニングを飾ったのは「Let Down」。この『OK Computer』の名曲でセットを始めるのは、2017年のマンチェスター公演以来2度目のことだ。ちなみにこの曲はリリースから実に28年を経て、TikTokのおかげで最近再びHot 100チャート入りを果たした。若者たちも私たちと同じく、ヒステリックで役立たず(hysterical and useless)なのだ。

復活ライブで示した「新時代の幕開け」

すぐに、レディオヘッドが新たな時代の幕開けを告げていることが感じられた。その理由はいくつかある。まず、ドラマー/パーカッショニストのクリス・ヴァタラロ(Chris Vatalaro)が新たに加わっていたこと。彼はフィル・セルウェイのコラボレーターであり、これまでイモージェン・ヒープ、アノーニ&ザ・ジョンソンズ、ジャーヴィス・コッカーなどと共演してきた人物だ。どうやら、これまでレディオヘッドのライブでドラムを担当していたポーティスヘッドのクライヴ・ディーマーの後任のようだ。


しかし今夜、最も注目すべきは、レディオヘッドが初めて「円形ステージ」でパフォーマンスを行ったということだ。最初の数曲では、彼らは半透明のビデオカーテンの向こうに姿を隠しており、『The King of Limbs』収録の「Bloom」を演奏するころに、その幕が部分的に上がり始めた。

その後、ビデオスクリーンはパネル状に分かれ、上下に動きながらステージの大部分を常に覆っていた。視界が遮られ、バンドの姿が見えづらい瞬間もあったが、トムは常にポジションを変え、アリーナのどの観客にも自分の姿が見えるように配慮していた。ただし「ポジションを変える」といっても、それはつまり、あの愛すべき”トム流ダンス”のことだ。「Ful Stop」でシンセを抱えながら踊る姿も、「The Gloaming」における、見えない水をかき分けるような腕の動き、スニーカーのまま全身を震わせる熱狂的で無邪気な様子──どれも久しぶりに目にする歓喜の光景だった。さあ、魔法の時間が始まる(It is now the witching hour)。心の準備はできているか?

「The Gloaming」は、この夜披露された『Hail to the Thief』収録曲のうちの1曲に過ぎない。バンドは同作からなんと6曲も演奏した。中でも「Sit Down. Stand Up.」は2004年以来初の披露(あの〈the raindrops〉を取り戻す時がついに来た)。「A Wolf at the Door」はこれまで断続的にしか演奏されてこなかったが、トムは資本主義社会への風刺的スポークンワード──〈investments and dealers!(投資とディーラー)〉を完璧に再現。彼らがこの特別なショーに向けて、どれだけ入念にリハーサルを重ねてきたかをまざまざと見せつけた。


2003年のこのアルバムに焦点を当てたのは驚きではない。というのも、レディオヘッドはつい最近、ライブ音源集『Hail to the Thief (Live Recordings 2003–2009)』をリリースしたばかりだからだ。この作品にはトム自身が驚いたほどの熱量を感じさせる演奏が詰まっている。彼はリリース当時こう語っていた。「自分たちの演奏に宿るエネルギーに本当に驚いた。ほとんど別のバンドのようで、それが僕に前へ進む道を示してくれた」(この発言について、弊誌ライターのロブ・シェフィールドはこう評している。「トム・ヨークが突然『レディオヘッドというバンドがかつて存在していて、しかも彼らは本当に音楽がうまかった』ということを思い出したのは、なんと喜ばしいニュースだ」)

「Weird Fishes/Arpeggi」は、どんなレディオヘッドのライブでも常にハイライトだろう。なぜなら、この曲ではエド・オブライエンがあの魂のこもったコーラスを聴かせてくれるからだ。彼はしばしば過小評価されがちだが、この曲のような瞬間にふと目を向けると、彼が心の底から歌い上げ、まさに魔法を放っていることがわかる。『In Rainbows』収録曲で、もうひとつ胸が熱くなる場面があった。「Bodysnatchers」の演奏中、グリーンウッド兄弟が向かい合ってプレイし、コリンが満面の笑みを浮かべていた瞬間だ。そう、彼らは帰ってきたのだ。
最高の形で。

感動のアンコール、再始動ツアーの意義

トムはライブ中、観客に語りかけるタイプではない。ブルース・スプリングスティーンのように、幼少期の思い出を話したりすることはない。だが、この夜、アンコールで大歓声の中バンドが再登場すると、トムはアコースティックギターを抱えながら、短く二言だけ口にした。「まあ、いいか(Fair enough)」

そして彼はそのまま「Fake Plastic Trees」へと飛び込んだ。この夜唯一の『The Bends』収録曲であり、観客の大合唱とスマホのライトに包まれたその瞬間は、まるで別世界のようだった。この時点でスクリーンは完全に上がり、ステージの全貌がようやく見えるようになっていた。

『Amnesiac』からはわずかに「You and Whose Army」だけが演奏されたが、その一曲が圧巻だった。トムのマイクにはカメラが取り付けられ、彼のドラマティックな眉の動きや手振りが映し出される──彼の表現力のすべてが凝縮された演奏だった。

アンコールでは、「There There」のスリリングな演奏を皮切りに、『OK Computer』時代の名曲が次々と披露された。「Subterranean Homesick Alien」から「Paranoid Android」、そして定番の締め曲「Karma Police」まで──まさに”レディオヘッド・アンセム”の連続だ。その合間に挟まれた『Kid A』の名曲「How to Disappear Completely」は、息を呑むほど美しく、切なく響き渡った。
まるで観客全員に向けて、「僕たちは確かにここにいる、そしてこれは本当に起きている(this is really happening)」と静かに伝えるようだった。

今回のツアーは、レディオヘッドにとって新作アルバムのない初のツアーであり、2019年にロックの殿堂入りを果たして以来、初のライブ活動でもある(その授賞式にはエド・オブライエンとフィル・セルウェイの2人だけが出席した)。この再始動には、いくつもの障壁があった。メンバーが抱えていた悲しみ、メンタルヘルスの問題、そしてイスラエル・ハマス紛争をめぐるバンド内の緊張──それらすべてが、彼らの復活を阻みかけた。

そう考えると、トムがアンコールで放った「まあ、いいか」という一言には、もはやレディオヘッドが堂々と”クラシック・ロックの領域”に足を踏み入れたことを、どこか達観したように認める意味も込められていたのかもしれない。報道によれば、トムは全65曲にも及ぶリハーサル用セットリストをメンバーに配り、今回のツアーでは毎公演でセットリストを変える方針だという。これはかつて、過去の名曲を遠ざけてきた彼らにとって大きな転換だ。

もちろん、「昔の曲をやるなんて金目当てでは?」と考える人もいるかもしれない。だが、ここ7年間の活動を見れば分かる通り、彼らは金のためにライブをする必要などない。このステージは、ファンのためのものだったのだ。

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From Rolling Stone US.

当日のフルライブ映像

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【セットリスト】
Let Down
2 + 2 = 5
Sit Down. Stand Up. (Snakes & Ladders.)
Bloom
Lucky
Ful Stop
The Gloaming. (Softly Open our Mouths in the Cold.)
Myxomatosis. (Judge, Jury & Executioner.)
No Surprises
Videotape
Weird Fishes/Arpeggi
Everything in Its Right Place
15 Step
The National Anthem
Daydreaming
A Wolf at the Door
Bodysnatchers
Idioteque
〈アンコール〉
Fake Plastic Trees
Subterranean Homesick Alien
Paranoid Android
How to Disappear Completely
You and Whose Army?
There, There. (The Boney King of Nowhere.)
Karma Police

レディオヘッド「奇跡の再始動ライブ」現地レポ 5人が示したバンドの新時代

レディオヘッド
『Hail To The Thief (Live Recordings 2003-2009)』
発売中
Tシャツ付きセットも販売
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