80年代、ロックスターはレコードだけじゃなくCMでもスターだった。デヴィッド・ボウイとティナ・ターナーがペプシを売り、ジェネシスやエリック・クラプトンがビールを”夜の魔法”に変える――いま振り返ると、豪華すぎるのにどこか妙で、最高に時代の匂いがする映像ばかりだ。
本記事では、そんな「80年代ロックスターCM」の傑作(と珍作)を掘り起こしながら、なぜ当時これほどまでにアーティストが広告へ雪崩れ込んだのか、その空気感までまとめて振り返る。

【動画】いま見ると笑える、でも最高:80年代スターCM

この”CM時代”に真っ向から噛みついたのがニール・ヤングだった。1988年の「This Notes for You」で彼は、〈ペプシのためには歌わない/コークのためにも歌わない〉と書き、スターたちが代表曲の歌詞まで変えて清涼飲料やビールを売る風潮に反旗を翻した。曲は大ヒットし、MTVビデオ・ミュージック・アワードでも評価される一方で、同業者の神経を逆撫でする。実際、ペプシCMに出演したグレン・フライは「ロックの良心ヅラするな」と痛烈に反論し、論争は”広告とロック”の価値観をめぐる口喧嘩へと発展した。

そして何より面白いのは、当時は一瞬で消えていったはずのこれらのCMが、YouTubeの時代になって再び甦ってしまったことだ。警告しておくと、いくつかは本当に、本当に奇妙だ――ただし、最近ウィリー・ネルソンがカナダグース(高級アウターブランド)の顔になってる件ほどではない、たぶん。

Genesis(ジェネシス)

いま見ると“最高に80年代”なロックスターCM10本 米

Photo by MICHAEL OCHS ARCHIVES/GETTY IMAGES

商品: Michelob(ミケロブ)

設定:舞台は、ニューヨークの3番街にあるヴァラエティ・フォトプレイズ・シアター近くの、流行のバー。店内は『アメリカン・サイコ』みたいなヤッピーでぎゅうぎゅうだ。ジュークボックスではすでに「Tonight Tonight Tonight」が爆音で流れているのに、ある女性が「どのジェネシスをかけよう?」と悩んでいる。場面は時折、まさにその曲を演奏するジェネシスの姿にフラッシュバックする。誰かがミケロブを開ける。
女性がカメラに向かって誘惑的に微笑む。コカインは映らないが、空気のどこにでもありそうだ。みなさん、これ以上80年代な光景はない。

痛々しさ度: ほぼなし。これは歌詞改変なしのスタジオ版「Tonight Tonight Tonight」だし、フィル・コリンズは登場人物と絡まず、本人がミケロブを飲むこともない。ツアーのスポンサー契約の一環でもあった。今回は許そう。

David Bowie & Tina Turner(デヴィッド・ボウイ&ティナ・ターナー)

いま見ると“最高に80年代”なロックスターCM10本 米

Photo by DAVE HOGAN/GETTY IMAGES

商品: Pepsi(ペプシ)

設定:デヴィッド・ボウイが、ポニーテールの冴えない科学者として登場し、”理想の女性”を自作しようとする。ペプシを数口飲み、モデルの写真を機械に読み込ませ、うっかりソフトドリンクをこぼしてショートさせた瞬間、チャンバーから現れるのがティナ・ターナーだ。彼女の爆発的な登場によって、ボウイは一転、洗練されたプレイボーイに変貌。二人はボウイの83年のヒット曲「Modern Love」の替え歌をデュエットする。歌詞は本来の「gets me to the church on time(時間通りに教会へ行かせる)」ではなく、「now I know the choice is mine(選ぶのは僕だとわかった)」になっている。


痛々しさ度: 軽め。『Weird Science』の筋書きを堂々パクるのはどうかと思うし、ボウイがペプシのスローガンを歌うのは妙だ。でもこの二人は史上最高にクールな存在だ。たいていのことは許せる。(そして、この”改造版”「Modern Love」ですら、87年当時のボウイが作っていた実際の音楽よりはマシだった。)

Glenn Frey(グレン・フライ)

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Photo by PATRICK FORD/REDFERNS

商品: Holiday Spa(ホリデイ・スパ)

設定:壮大な物語はない。イーグルスの創設メンバーが、うなり声を上げるほどのガチトレーニングをしながら、ホリデイ・スパ・ヘルスクラブの素晴らしさを語るだけだ。「俺がジムに来るのは理由がひとつ――働くためだ」と彼は言う。「だから”ワークアウト”って呼ぶ。体型維持が仕事なら、ここは自分のオフィスだ。オフィスにいるなら、仕事を片付けろ」

痛々しさ度: 高め。撮影当時フライの身体は素晴らしいが、編集が『ベスト・キッド』の特訓シーンみたいだ。
しかも予算が足りなかったのか、彼の曲の使用許諾すら取っていないらしい。惜しい。「The Heat Is On」を流していれば完璧だったのに。

Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)

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Photo by STEVE ALLEN/LIAISON/GETTY

商品: Pepsi(ペプシ)

設定:1984年、マイケル・ジャクソン熱が頂点に達していた頃。若い少年たち――中には後の『The Fresh Prince of Bel-Air』スター、アルフォンソ・リベイロもいる――が路上でMJの真似をして踊っていると、偶然ジャクソンと兄弟たちに出会ってしまう。憧れの対象を前に固まる少年たちは、やがて英雄たちと一緒に、振付ばっちりのダンス・ルーティンへ巻き込まれていく。マイケルは「Billie Jean」を替え歌で歌う。「君たちはまったく新しい世代、昼のあいだずっと踊ってる」「走りながら魔法をつかもうとしてる」「君たちはまったく新しい世代、自分のやってることを愛してる」「ペプシを動きに乗せて/選ぶのは君さ、ヘイ!」

痛々しさ度: 事情を考えると高い。これは、撮影中の大事故でマイケルが頭皮に深刻な火傷を負った現場のCMだからだ。とはいえそのことを頭から追い出せば(映像には一切見えない)、普通にかなりクール。しかもリベイロが『Fresh Prince』で”カールトン”を踊ったり、『Dancing With the Stars』の司会をしたりする遥か前に、キレキレの動きを披露している。

Cinderella(シンデレラ)

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商品: Pats Chili Dogs(パットのチリドッグ)

設定:シンデレラが売れる前、ブルースロック/ヘアメタル系バンドだった彼らは、放送の機会が欲しすぎて、地元の24時間営業ホットドッグ屋台のCMを撮ることに同意した。
報酬は無料の食事、そして店主がMTVに広告枠を買ってくれるという約束。さらに彼らは妙に耳に残るジングルまで書いた。「パットのドッグ!/コックは疲れ知らず!/パットのドッグ!/蒸気はいつでも全開さ!」YouTubeがなければ、とっくに忘れ去られていただろう。

痛々しさ度: 低い。チリドッグが嫌いな人なんている?

古代の眠りから目覚めたホイットニー・ヒューストン

Nils Lofgren(ニルス・ロフグレン)

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商品: Jhoon Rhee Taekwondo(ジュン・リー・テコンドー)

設定:いじめっ子ども、覚悟しろ。ジュン・リー・テコンドーの生徒たちは護身術を極めている。ちょっかいを出せば蹴り倒されるぞ――そんなメッセージを叩き込むために、Eストリート・バンドのギタリスト、ニルス・ロフグレンが(70年代に通っていた縁で)ジングルを録音した。80年代のワシントンD.C.で育った人なら、脳に焼きついて離れないあの曲だ。

痛々しさ度: 低い。低予算のローカルCMには独特の魅力がある。それに曲があまりに良いので、ブルース・スプリングスティーンは次にEストリート・バンドとツアーを回るとき、セットリストに入れるべきだ。

Madonna(マドンナ)

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Photo by LARRY BUSACCA/WIREIMAGE/GETTY

商品: Pepsi(ペプシ)

設定:マドンナが子ども時代のホームビデオを観ているうちに、なぜか自分自身を過去へ転送し、子どもの自分を現在へ連れてくる。
初回放送は、誰もが初めて「Like a Prayer」を耳にする瞬間でもあり、大規模キャンペーンの号砲として作られていた。だが実際の「Like a Prayer」MVがMTVで流れ、燃える十字架の映像を見た人々が騒ぎ出すと、ペプシは圧力を受けてCMを引っ込めることになる。

痛々しさ度: 中くらい。タイムトラベルの仕掛けがいまひとつ機能していないし、実際の「Like a Prayer」MVのほうが比べものにならないほど魅力的だ。

Eric Clapton(エリック・クラプトン)

いま見ると“最高に80年代”なロックスターCM10本 米

Photo by MICHAEL PUTLAND/GETTY IMAGES

商品: Michelob(ミケロブ)

設定:ニューヨークのロンスター・カフェは閑散とし、店じまいの準備をしている。そこにギターを抱えた謎の男がふらりと入ってくる。正体はエリック・クラプトン。別の大きな会場でライブを終え、その足で立ち寄ったのだという。彼はわずかな客たちに、J.J.ケイルの「After Midnight」を新しいアレンジで披露し、渋いブルース・リックを決め、若い女性の視線をさらい、平凡な夜を魔法の「ミケロブ・ナイト」に変えてしまう。

痛々しさ度: 当初はかなり低かった。だがニール・ヤングが「This Notes for You」のMV冒頭で、これをショットごとに完璧にパロディ化してから、全体が急に”かっこよく見えなくなった”。

Robert Palmer(ロバート・パーマー)

いま見ると“最高に80年代”なロックスターCM10本 米

Photo by FRANS SCHELLEKENS/REDFERNS/GETTY

商品: Pepsi(ペプシ)

設定:ロバート・パーマーが「Simply Irresistible(抗えない)」と思ったのは女性ではなく、ペプシの缶だった――という単純明快なアイデアの1989年CM。
88年の大ヒット「Simply Irresistible」を替え歌にし、彼の”『Addicted to Love』モデル”たちがペプシ缶を開ける。

痛々しさ度: 低い。ロバート・パーマーは別にザック・デ・ラ・ロッチャみたいな反骨の人ではない。ペプシを売っていても誰も驚かなかったし、この曲はそもそもジングル化されるために作られたみたいなものだ。

Whitney Houston(ホイットニー・ヒューストン)

いま見ると“最高に80年代”なロックスターCM10本 米

Photo by GRAHAM WILTSHIRE/GETTY IMAGES

商品: Diet Coke(ダイエットコーク)

設定:舞台は、レコード店とテレビスタジオとダンスパーティが混ざったような謎の空間。DJがうっかりレコード針をダイエットコークの缶に落としてしまい、古代の眠りからホイットニー・ヒューストンを目覚めさせる。彼女は壁から出現し、多くの人がいまだに覚えている「Diet Coke」の歌を歌い上げ、そしておそらく再び眠りにつく。

痛々しさ度: ほとんどなし。このCMが捉えているのは、歌唱力が頂点にある時期のホイットニーだ。ダイエットコークの歌ですら天上へ押し上げてしまう女性なのである。

from Rolling Stone US

Genesis(ジェネシス)

David Bowie & Tina Turner(デヴィッド・ボウイ&ティナ・ターナー)

Glenn Frey(グレン・フライ)

Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)

Cinderella(シンデレラ)

Nils Lofgren(ニルス・ロフグレン)

Madonna(マドンナ)

Eric Clapton(エリック・クラプトン)

Robert Palmer(ロバート・パーマー)

Whitney Houston(ホイットニー・ヒューストン)

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